2005年06月19日

銭湯で

銭湯が好きだ。
広々とした洗い場で全身をごしごし洗い、
頭上に固定した、水圧の強いシャワーでさっぱりと洗い流す。
ゆったりした浴槽の、熱い湯に体を沈めると、この世は天国という気分になる。
3年前に小さな風呂付の部屋に引っ越して以来、銭湯には行っていないが、
あの解放感が懐かしい。

10年くらい前のことだっただろうか。
脱衣場にいたわたしのわきを、40歳くらいの女性が通り抜け、
浴室に入って行った。
その少しあとから、2歳になるかならないかの男の子が、
タオルを入れた洗面器を抱えてトコトコと浴室に入った。
わたしもそのあとに続いた。

男の子は洗い場の入り口で黙々と洗面器に水をため、
タオルを浸して遊びだした。
蛇口を押して水を出すだけでも、この子の力では大仕事だ。
わたしは隣で体を洗いながら、その様子を見ていた。

すると洗い場の奥から、先ほどの女性が短く呼んだ。「ゴンタ、来な!」
(ゴンタではなかったかもしれないが、覚えていないのでゴンタとしておく。)
その人は、自分の体を洗い終えたので、
次は息子を洗ってやろうというのだろう。
今どきの母親にありがちな、甘く優しい呼び方ではなく、
昔の子沢山の母親のような、ぶっきらぼうで、てきぱきした呼び方だった。

男の子は「お!」と言って立ち上がり、洗面器の縁に両手をかけた。
だが、あふれるほどに水をためた洗面器は、重くて持ち上がらない。

男の子は母親の方を見、洗面器を見た。
そして一瞬、考えるような表情をしたかと思うと、
うんしょと洗面器をひっくり返してタオルごと水を床にぶちまけ、
空になった洗面器にタオルをもどし、
それを抱えてトコトコと母親のところに走って行った。

自分で考える力は、こういう自立した親子関係の中で育つんだなあ、
と感心した。

katatumurisnail at 11:20|PermalinkComments(1)TrackBack(0)clip!