Kaisha Rogo


以下は日本の映画料金(カルテル価格)の変遷である。

1957年 130円
1959年 200円
1965年 250円
1970年 550円
1975年 1000円
1980年 1400円
1995年 1800円
2011年 1500円

問題は、映画産業が斜陽となってきた1970年からの急激な値上げだろう。観客数減少分を料金値上げでまかなってきた映画界の無能、無策ぶりは見てのとおりである。

【6割以上が入場料1000円組という現実】

先般シネマコンプレックス(複合映画館)最大手のTOHO(東宝)シネマズが映画料金の値下げを発表した。来春までに現行の1800円(18歳以上)を300円安い1500円にし、18歳未満については1000円になるという。

「映画が安く観られるようになる!」

大手メディアを中心に一斉に伝えられたのは記憶に新しいはずである。映画最大手の東宝の興行部門が初の本格的な値下げを試みるということで、メディアはかなり大きく、しかも好意的に取り上げた。日本の映画料金の変遷にきわめて大きな違和感を覚えていた筆者も、今回の値下げ発表を評価した一人だ。

だが、すぐに冷水を浴びせられた。なんだか東宝が映画ファンのためにいいことをしたような報道がなされているけれど、実際は逆であったのだ。

60歳からのシニア割引(1000円)を65歳からに変更。レディースデイなどの割引をやめる、といった事実上の値上げについて、なぜか新聞はじめ大手メディアははっきりとは伝えていない。おそらく東宝ににらまれたら困るメディア側が自主規制していると思われる。

より正確に述べると、シニア割引の変更は業界紙では報道されていた。さらに、もっとも利用の多いレディースデイ割引、夫婦50割引については、変更されるかもしれないといった含みをもたせた表現がなされていた。

わたしが映画関係者に取材したところ、おおかたは「レディースデイ割引、夫婦50割引はやめるのではないか」と予測していた。東宝をよく知る業界関係者は、「競争状況に応じて、割引をやめる劇場とやめない劇場を設定するのではないでしょうか」とも語っていた。

それにしてもなぜ東宝は、事実上は値上げをしようとしているのに、メディアに「値下げ発表」をさせるような姑息な手段に出なければならなかったのか。

ここ数年間、映画業界の過当競争により、入場料単価が下がり続け、下げ止まっていないことにほかならない。
「2004年は一人当たり平均1200円でしたが、昨年は1100円を割り込んでいます。様々な割引を使って1000円で映画を見る人の割合が6割以上にもなっているのです」(映画関係者)

興行側の劇場経営者に聞くと、苦しい実情が透けて見えてくる。

「建前料金の1800円で映画を見てくれる人は全体の1割程度しかありません。東宝さんが発表されたように1500円均一になれば、入場者全体の2割程度の人には値下げになりますが、8割の人には値上げになってしまいます」

こんな顧客をだますような価格設定をしている業界は、旅行と映画だけではないのではないか。

しかし、東宝ともあろう会社がそんなせこい了見のみで今回の発表がなされたのではないと見る向きもある。掘り下げた取材を続けて、再度報告しようと思う。

ノンフィクション作家 加藤鉱

後記 最近大手紙から、TOHOシネマズでは値下げ対象劇場での各割引廃止を決め、集客に与える影響を分析する旨の発表がなされている。