かつらぎ俳句ブログ

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やさしい俳句講座    令和二年夏

        
端居して濁世なかなかおもしろや 

        阿波野青畝句集『春の鳶』より

 室内の暑さを避け縁側などで一息をつく夕方。けがれた世の中の出来事を距離を置いて冷静に見ると、いかにも面白く見えてきて、体も心も涼しくなる。それで師はいつも温顔で居られたのだ。
端居心は世渡りの術、つまりストレス解消となると教えて下さる句。


出合ふとき毛虫はいつも急ぎ足

        森田峠句集『朴の木山荘』より

 この句は「出合ふとき」が大切。道を横切る毛虫は毛を逆立てて全身波打たせ必死に進む。
それは人を刺し、葉を食い尽くす嫌な毛虫のイメージを打ち消す。
生きる命の必死さを見守り感動される師の写生眼と愛情深さを学ばされる。


山男愛想も見せず岩魚焼く
  
          森田純一郎句集『祖国』より

渓流釣りでは岩魚の釣りたてを焼いて食べるのが最高の楽しみだと言う。
「おいしいですよ」とか「水が良いのでね」とか何も言わず、ひたすら焼いて居て、いかにも山男らしく涼し気である。一句から岩魚を焼く香ばしい匂と「娘さんよく聞けよ」の歌が聞こえて来そう。

  鑑賞・ 田島 もり (かつらぎ特別同人)

ちよとひねり楮一気に剝ぎにけり  古谷多賀子
            「かつらぎ」5月号より

この句の眼目は「ちよとひねり」
常套句と言えないこともないのだが
同じ場面を見ても私には
この表現は浮かばなかったと思う。
確かにちょっとひねってから
一気に楮を剝いでいる。
熟達した技量や労働の厳しさを
的確に表現している。
私もいつか使ってみたいと思うほど
魅力的な表現だが
この俳句を越えることはできないだろう。


 鑑賞・ 阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

 SEIHO and TOHGE HAIKU in English (271)

金串は山女魚の六腑貫けり

kanagushi wa yamame no roppu tsuranukeri

a spit goes through
six entrails –
cherry salmon

              阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


左右より化粧直され祭稚児

sayu yori kesho naosare matsurichigo

child in festival
is refreshed by makeup
from both sides

   
    森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:“山女魚cherry salmon”はピンクがかった魚体に黒い斑点が並び、cherryの名がつくほど清楚できれいな魚。その魚の“六腑six entrails”を”貫くgo through”と言い切られた凄さに驚く。 
  
 峠 句: 祭の休憩時に山車の上で、“祭稚児child in festival” が”化粧直しrefresh makeup”されているのを見たことがある。熱演の子供は汗びっしょり。休憩時間が短いので二人がかり。子どものくすぐったそうな顔が可愛らしかった。

       訳と解説・篠原かつら (かつらぎ同人)
             (tr. Katsura Shinohara)

ウイルスのどうのこうのと春寒し   森田純一郎
        「かつらぎ」4月号より

テレビを付けると新型コロナウイルス感染症のニュースを
見ない日がないくらいに今では
世界中に蔓延してしまったウイルスだけれど
主宰がこの句を発表されたころは
未だ今ほどに蔓延はしていなかった。
表現の仕方にも今ほどの危機感はなく
どことなく他所事と言う余裕がうかがえる。
私も「新型コロナウイルス感染症」と言う長い病名を
どう詠み込んだら良いのか迷っていたころだったので
「ウイルス」の一言に、なるほどと感心したのを覚えている。


 鑑賞 ・ 阪野雅晴 (かつらぎ特別同人)

 SEIHO and TOHGE HAIKU in English (270)


これこそは弊衣破帽の葱坊主

korekoso wa heiihabou no negibouzu


this is what
torn cap and tottered clothes,
Welsh onion flower

                   阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


安宿とあなどるなかれ桜鯛

yasuyado to anadoru nakare sakuradai


don’t look down
as a cheep inn –
cherry bass

   
    森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:“破帽 torn cap”と ”弊衣 tottered clothes”、“葱坊主Welsh onion flower”にぴったりの表現。英語では破帽・弊衣と逆になっている。葱は地中海原産のリーキをさし、ウエールズの国旗の赤、白、緑の緑色はリーキを指す。

峠句: “安宿cheep inn”と”あなどるlook down”のはいけません。吟行で志摩の宿に泊まり、夕食の“桜鯛cherry bass”の立派だったこと、翌朝の粗入りの味噌汁の美味しかったこと、今でも忘れません。               
                       訳と解説 ・ 篠原かつら
                      (tr. Katsura Shinohara)

   

デジタルのひと瞬きに年移る   平田冬か
        「かつらぎ」3月号より

デジタルと広辞苑を引けばデジタルオーディオ・デジタルカメラ等
さまざまな製品の名前が出て来るが、デジタルを俳句に詠み込んだ句は
そんなにはないと思う。
この句は言うまでもなくデジタル時計の事を言っている。
アナログ時計とどう違うのかと言われると困ってしまうが
特徴的なのは秒針の動きではないだろうか。
一秒一秒ごとに時を正確に刻むあの一瞬の瞬きに作者は年が移るのを実感した。
ただ単に昨日から今日に時が移るのではなく
その一瞬の瞬きにすべてのものが新しい時を迎えたと実感したのだ。
私たちが新年を迎える本当の意味は
過ぎゆく一瞬の時の大切さを改めて実感する為にあるのだと
この俳句は訴えている。


  阪野雅晴 (かつらぎ特別同人)

    SEIHO and TOHGE HAIKU in English (269)


流し雛日本の国の磯を去らぬ

nagashibina nihon no kuni no iso o saranu


floating hina dolls
wouldn’t leave
from Japanese stony shore

              阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


ぶらんこの三つあれば母真ん中に

buranko no mitsu areba haha mannaka ni


three swings are swinging
mother is swinging,
on the middle one
   
      森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:“流し雛floating hina doll” が”日本の国の磯Japanese stony shore” を去らずいる。
     去りたくないと言う雛の気持と哀れさを”wouldn’t leaveと”stony shore”で。『日
本の美しい山を懐かしく思うために、去るまいと波間にもがくのであろうか。』青畝 
  
 峠 句: 可愛らしくほほえましい光景。峠先生ご一家に違いない。句には“ぶらんこswing”が”揺れているswing(動詞)“かどうかは表現されていないが、揺れているとして“真ん中middle”のぶらんこにお母様も揺れて頂いた。

           訳と解説 ・ 篠原かつら (かつらぎ同人)
                      (tr. Katsura Shinohara)

                                     


                                

やさしい俳句講座  
            令和二年春

同じ枡より福の豆鬼の豆 
        阿波野青畝句集『西湖』より

 立春の前日「鬼は外福は内」と言いながら、同じ枡から豆を撒いている。どうして同じ枡からなのだろうと不思議に思う子供のような純心な青畝に驚く。長い冬から春へと移る明るい喜びに満ちた季節感に、心の弾みの表れた楽しい句。

たゞ崖をなすを水仙郷と呼ぶ
         森田峠句集『四阿』より

 一面に崖まで水仙が咲いているそれを水仙郷と呼んでいることよ。水仙郷と言う言葉でふと桃源郷の景を思い浮かべさせる。目前の写生句ながら、読者にもう一つの景を連想させる。峠師の句にはこのような深みのある余韻のある句が多い。

湾処へと一直線に雲雀落つ
         森田純一郎句集『祖国』より

淀川の芦や芒の茂った湾処へ一直線に落ちる雲雀を生き生きと詠みとめている。湾処と言うのは人工的に積んだ石に土砂がたまり、自然の入江のようになり、鳥天国魚天国の場所で、近くに蕪村句碑もある、自然に守られ伸び伸び春を謳歌している雲雀の喜びが伝わってくる。


   鑑賞・解説  田島 もり (かつらぎ特別同人)

万歩計見せ合つてゐる敬老日    堀真一路
          「かつらぎ」 2月号より

スマホが普及して万歩計が日常の物になってしまった。
マスコミが1日1万歩歩いた方が良いとか歩き過ぎだとか
囃し立てるから余計である。
敬老日に集まった老人とは言えないほど
若くて元気な人が万歩計を見せ合っている。
何とも微笑ましい平和な日本である。
因みにこんな批判的なことを書いている私は
スマホも万歩計も持たない頑固爺です。


  解説・ 阪野雅晴 (かつらぎ特別同人)

SEIHO and TOHGE HAIKU in English (268)


恋猫とはやなりにけり鈴に泥

koineko to haya narinikeri suzu ni doro


mud on bell ―
cat has been already
in love

                   阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


梅林の中にゐてたヾ一枝描く

bairin no naka ni ite tada isshi kaku


being in ume garden
a man is drawing
only one spray
   
    森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:猫の夫、猫の妻、丹下左膳など青畝先生には“猫の恋 cat in love”に面白い句がたくさんある。猫の恋を”鈴に泥mud on bell”と具現された。“はやなりにけりhas been already” は現在完了形。

 峠 句:“たヾ一枝only one spray”を”描いてdraw” いるのは、峠先生ご自身かどうか、句からは分からないが、『自句自解』に「スケッチ最中を覗いてみると・・」。描き手は男性?女性?一般的に人という意味で manとした。                  

           訳と解説 ・篠原かつら (かつらぎ同人)
                (tr. Katsura Shinohara)

     

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