かつらぎ俳句ブログ

俳句結社かつらぎ交流ブログ

やさしい俳句講座  令和六年春

磔像の全身春の光あり
昭和二十八年  阿波野青畝 句集『紅葉の賀』より

この句のポイントは「あり」です。この表現により、それまでは無かったということを思わされ、キリストの復活と、生命の躍動し始める春のイメージの重なり合いが強く感じられます。「磔像の全身」という描写も、爛漫の春の象徴として機能しており見事です。

家島を梅の瑞枝のさまたげず
昭和五十八年  森田 峠 句集『逆瀬川』より

 「家島」の人口は二千人で、姫路港から三十分ほどの船旅で着きます。柔らかな「梅の瑞枝」に相応しい「さまたげず」のひらがな表記に、「家」という字が想起させるあたたかさが響き合い、春の訪れに安らかさを感じていることがひしひしと伝わってきます。

新社員しつかり受話器握りしむ
平成五年    森田 純一郎 句集『マンハッタン』より

「握りしむ」の「しむ」は「締める」を文語に直し、ひらがな表記したものです。「しつかり」の表現からは、立派に勤める「新社員」の姿に加え、そんな部下の細かな様子まで見ている上司の姿も想像でき、あたたかな職場風景を見事に描き出しています。

 鑑賞・ 宮崎こうや

パンのみに生くるにあらず文化の日  楠 治子
           かつらぎ2月号より

日本人は食べる為のみに生きているのではない。
伝統的な文化を継承するためにも生きているのだ。
まるでスローガンのような観念的な言葉の羅列である。
これが写生を標榜するかつらぎの俳句なのか
と問われれば素直に頷くことが出来ない。
しかし、私はこの俳句を句評に取り上げている
主宰を評価したい。
こんな俳句もあっても良いのではないか
こんな俳句を作れる作者の個性を大事にしたい。
そんな主宰の願いが聞こえてきそうな気がする。

鑑賞・ 阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

SEIHO,TOHGE,and JUNICHIRO HAIKU in English


しろしろと畠の中の梅一木
shiroshiro to hatake no naka no ume hitoki


amidst of farmland
stands lone plum tree as spring begins
bloomed in white, white and white

阿波野 青畝
        Seiho Awano



石と亀ともに動かず冴返る
ishi to kame tomo ni ugokazu saekaeru

rock and turtle
both stay moveless for day long
keen coldness reign back in early spring

  森田  峠
Tohge Morita

純一郎
小休止小休止して囀れる
shokyushi shokyushi shite saezureru

short pause here
short pause there, again and again
birds keep chirping in spring

         森田  純一郎
Junichiro Morita

青畝句:「梅」は従来 plumと表記されるものの、正確には Japanese apricotが近いとのことです。ここはあえて日本語で ume とさせていただきました。

(青畝句:amidst - の中に、  峠句:keen- 鋭い。 Reign- 君臨する。

  純一郎句: pause - (少し)休む。Chirp - 高い声で/楽しそうに、喋る。)

 訳と鑑賞・ 田畑 秀樹 
  (tr. Hideki Tabata )

キムラヤの餡パン供へ子規祀る  古谷多賀子
           かつらぎ1月号より

私は校正の時にキムラヤの餡パンを知らないと言って驚かれた。
私は物を知らない人間である。しかし、それを恥ずかしいと思った事はない。
芭蕉の「俳諧は三尺の童にさせよ」と言う言葉を持ち出すまでもなく
物を知らなくても俳句は出来る。
この俳句はキムラヤの餡パンを知らなくても充分鑑賞できる。
子規に供えるほどの餡パンだから子規の好物だったことは安易に想像できる。
(知っていた方が深く鑑賞できる事は言うまでもない。)

鑑賞・ 阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

SEIHO,TOHGE,JUNICHIRO HAIKU in English(315)

かりそめに住みなす飾かゝりけり
karisome ni suminasu kazari kakarikeri

ornaments for new year’s wish
hanging on the walls in and out
for this interim home as well

阿波野青畝
(Seiho Awano)

万歳の冠初めからゆるむ
manzai no kanmuri hajime kara yurumu

new year entertainers call on
wishing smiles and happiness prevail for long
with crowns loose-tied to start

森田峠
Tohge Morita

お降りに道清められ天主堂
osagari ni michi kiyomerare tenshudo

holy drizzle in new year’s day
roads purified wet and silent, leading to
the cathedral

森田純一郎
Junichiro Morita

新年の季語は特にわが国古来の風習・感覚に多く根差しておりますので、英訳は若干説明を加え、
元句の言葉からやや膨らませた格好になりました。
(青畝句:ornaments-飾りもの、interim-当座の
峠句:prevail-広く行き渡る、for long-久しく
純一郎句:drizzle-細かく降る雨、purify-清らかにする)      

訳・ 田畑秀樹
(tr. Hideki Tabata )

秋園の果てまでベンチ並びけり  宮崎こうや
           かつらぎ12月号より

何でもない俳句なのだが
都会的な若々しい俳句だと思う。
何度も読んでいると様々な景色が広がってくる。
ロマンチストの私は
ベンチで語らうカップルの姿も見えて来る
枯葉が舞っているかもしれない。
若い作者の頭には
どんなイメージが広がっていたのだろうか。
覗いて見たい誘惑にかられる。


 鑑賞 ・ 阪野雅晴 (かつらぎ特別同人)

SEIHO and TOHGE in English

聖しこの夜冬の星座は神のもの

Kiyoshi kono yoru huyu no seiza wa kami no mono

holly night ....
winter constellation
belongs to the God

    阿波野青畝
   (Seiho Awao)

屑籠も伴侶の一つ冬籠

Kuzukago mo hanryo no hitotsu huyugomori

wastebasket ......
one of my companions
winter confinement

    森田 峠
   (Tohge Morita)

青畝句:敬虔なクリスチャンであらせられた青畝先生ならではの句。「冬の星座 winter
    constellation」の清らかな美しさを「神のもの belong to the God」と表現されている。

峠 句:書斎に籠られている作句、選句その他書類の整理などに屑籠は必需品。
    それを伴侶と譬えられたところに、先生のユーモアとセンスが感じられる。
    「屑籠 wastebasket 」「伴侶 companion」「冬籠 winter confinement」

              翻訳・鑑賞・ 篠原かつら (かつらぎ同人)
             (tr.and appreciate Sakano Masaharu )



やさしい俳句講座  令和五年冬・令和六年新年


元日の鶴大股にすすみけり
昭和六十一年  阿波野青畝 句集『西湖』より

 単に『鶴』と言えば冬の季語になります。それを『元日の』とされており、新年にめでたいものを見て、句にしても、普通は平凡な作になってしまうのですが、優美な『鶴』が『大股』に『すす』んでいるというユーモラスな発見が、この句を新しくしています。

句読点全くあらず懸想文
平成二十二年  森田 峠 句集『森田峠全句集』より

本来『懸想文』とはラブレターのことですが、俳句では、昔は正月に京の町中で売り歩かれた、今は節分に須賀神社で得られる縁起物のお札を意味します。『全くあらず』という力強い表現からは、見慣れない雅文と真剣に向き合う人の姿が浮かび、どこかユーモラスです。

スケーター今白鳥のごとく舞ふ
平成十八年   森田 純一郎 句集 『祖国』より

一読して、チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」を連想しますが、より水に近い氷上を『舞ふ』『スケーター』の方が、『白鳥』と例えられるのによりふさわしいです。前掲の青畝句然り、平凡な発想のすぐそばに、俳句の新しみは眠っています。


 鑑賞・ 宮崎 こうや

揚花火消えて在所の闇深し  池之内 愛 
           かつらぎ11月号より

何も珍しいことは言っていない。
揚花火と闇の取り合わせも既にある。
この俳句の魅力は「在所」の一言に尽きる。
今ではもう使われることも少なくなってしまった
どこか懐かしいこの言葉で
漆黒の闇を想像することが出来る。
俳句の使命はこのような
使われなくなってしまった言葉を残す事にもある。

 鑑賞・ 阪野雅晴(かつらぎ特別同人)

SEIHO and TOHGE HAIKU in English

金の箔み空を散らすいてふかな

kin no haku misora wo chirasu ityo kana

scattering the sky
gold foils
of ginkgo

   阿波野 青畝
( Seiho Awano )


去り難し翁の墓のしぐるゝに

sarigatashi okina no haka no shigururuni

hard to leave from
Basho's grave
though late autumn shower

    森田 峠
( Tohge Morita )


青畝:真っ青な空に銀杏の葉が散り舞っている。陽の光に輝く銀杏の葉を
   金箔と捉えられ、空を「散らす scatter 」と表現された。
   印象鮮明な秋の景色。「金箔 gold foil 」「公孫樹 ginkgo 」

峠句:芭蕉墓に詣でていると、時雨れてきた。しかしまだ詣で続けていたい。
   一筋に芭蕉の道を受け継いでこられた峠先生ならではの句。
   「・・・難し hard to・・・」「時雨れる shower in late autumn 」
   時雨忌:旧暦10月12日

訳と解説・ 篠原 かつら (かつらぎ同人)
   ( tr. Katsura Shinohara )





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