かつらぎ俳句ブログ

俳句結社かつらぎ交流ブログ

光りつつ春の氷の薄らぎぬ   西岡たか代

            「かつらぎ」6月号より

「薄氷」と言う季語は歳時記によると
「春先、薄々と張る氷を言う。」と解説している。
作者は意識していないがこの俳句は
季語の説明をしているだけである。
にもかかわらず俳句として成立している
と言う意味でこの俳句は
革新的な俳句だと私は言いたい。


 鑑賞・ 阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

SEIHO and TOHGE HAIKU in English (308)  


忠義な鵜十何年か飼はれけり

cyugi na u junannen ka kawarekeri

more than ten years
devoted cormorants
have been kept

阿波野青畝
                   
        (Sieho Awano)

鵜匠住む砦のごとく薪を積み

usho sumu toride no gotoku maki o tsumi

piling up wood
like fold
a cormorant fisherman lives

森田 峠
         (Tohge Morita)
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青畝句:”鵜匠 cormorant fisherman”の鳥屋には、10羽以上の“鵜 cormorant”が飼われている。
岐阜長良川の鵜飼いに使われる鵜は、茨木県の海岸で捕獲され、鵜匠は 我が子のように
丁寧に育てる。鵜は死ぬまで鵜匠家に”飼われるbe kept”。“忠義なdevoted”

峠句: シーズンオフの鵜匠の大切な仕事の一つに薪割がある。篝火用に毎晩使う“薪wood”を, 大量に用意し、薪が軒に届くほど“積み上げてあるpile up”。
その情景はまさに“砦fold”のごとく。暗い長良川の上手から六つの篝火が現れる情景は幻想的である。                                             

          訳と解説・篠原かつら
         (tr. Katsura Shinohara)

やさしい俳句講座  令和五年 夏 


黒金魚ファッションショーが来るごとし
平成2年   阿波野青畝 句集『宇宙』より

金魚の鰭のひらひらした感じや、時折くるっと身を翻す様子は、言われてみればまさにファッションショーのモデルさんのようです。また『来るごとし』という表現からは、そんな華やかな催しを強く想起させられたことが読み取れ、感動の程が伝わってきます。

やまもゝの下はやまもゝばかり落ち
平成15年  森田峠 句集 『四阿』より

落下し周囲に散乱している『やまもゝ』は、そのまま流れゆく時間を示し、自然の摂理を具体的に象徴しています。『やまもゝ』と二度繰り返す反復的な韻律に、『落ち』と句を連用形で結び、余韻を生む技法も、移ろう自然の表現としてぴったりです。

一斉に回り出しさう山法師
平成26年 森田純一郎 句集 『旅懐』より

山法師とは先の尖った白い花びらを四枚咲かせる植物で、風車によく似ています。『一斉に回り出しさう』という、感じたままが率直に表されている措辞からは、生命力に溢れる瑞々しい山法師がはっきりと想像でき、気持ちが良いです。

   鑑賞・ 宮崎こうや

春愁や言の葉の刺まだ抜けず  清水洋子
           かつらぎ5月号より

一般的に春愁と言う季語に対して
原因になるようなことを述べたり
観念的な作者の心情を述べるのは
タブーとされているのだが
この俳句にはそんな基本的なセオリーを飛び越えて
読者の胸に飛び込んで来る強さがある。
それは「刺」と言う一語であり
誰にでも具体的に理解できる心情である。
長年の経験によって培われた
作句力によるものだとも言える。

 鑑賞・ 阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

SEIHO and TOHGE HAIKU in English

狼藉といふべかりけり夕牡丹

Rozeki to iubekarikeri yu botan


appearance
of peonies in evening
must be called confusion

阿波野 青畝
         ( Seiho Awano )

座禅石踊子草の囲みけり

Zazenseki odorikoso no kakomikeri

surrounding
stone for meditation
white dead-nettles

         森田 峠
        ( Tohge Morita )

青畝句: 昼間は華やかに咲いていた牡丹が、夕方には散ってしまい、辺り
     一面に花びらが散り広がっている。 ” 狼藉 confusion ” の一語で、
     花びらの無残に散り広がる様子と、華やかで立派な牡丹だったの
     にとの哀惜の念が感じられる。

峠 句: 踊子草は「人が笠をつけて踊るように見えるので、命名された」と
     歳時記。動いてはいけない座禅石との対比が面白い。 英語は
     ” white dead-nettle 枯れたイラクサ ”、 英語に比べて、和名は
     なんと可愛らしく風情があるのでしょう。

      訳と解説 ・ 篠原 かつら
     ( tr. Katsura Shinohara )

風が攫ひしか蕎麦刈もうをらず   景山 みどり

           「かつらぎ」4月号より

いきなりこの句が飛び込んできた。些か破調の違和感が残る。
多分作者は定型にならないものかと
あれこれ指を折られた事だろうと想像する。
良く考えてみると「蕎麦刈」は正確には蕎麦刈の人なのだ。
人が省略された上にいきなり「もうをらず」と続く。
この違和感が風が攫ひしかと言う表現と相俟って
読者を不思議な感覚にさせる。
破調であり散文調であるこの句が破綻せずに成功しているのは
さっきまでそこにいた人が居なくなったと言う
誰もが経験した事のある実感を呼び覚ますからである。
作者の年齢を見て驚いた。こんな大胆な発想の句が作れるのは
如何に充実した生活をされているかと言う証である。

   鑑賞・阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

SEIHO and TOHGE HAIKU in English

芽柳に焦都やはらぎそめむとす

meyanagi ni syoto yawaragi somentosu

willow buds
burnt city is beginning
mildly

         阿波野 青畝
        (Seiho Awano)

厩出しか否か一頭遊ぶのみ

mayadashi ka inaka itto asobunomi

grazing or not
only one horse
is playng

         森田 峠
        (Tohge Morita)

 青畝句:昭和20年の大空襲で大阪は " 焦都 burnt city " と化した。
     青畝邸は土蔵を残して焼失。焦土に " 柳の芽 willow buds ” を見つけた。
     「我が心情はやわらかく、そしてはずみだすようにかるくなった」
     『自選自解』。 " やはらぐ begin mildly " 。

 峠 句:広い牧場に馬が一頭だけ遊んでいる。他の馬たちは見当たらない。
     丁度 " 厩出し grazing " の時に来合わせたのだろうか。牧場で楽しそうに
     遊んでいる馬の様子に、峠先生はさぞ喜ばれたことだろう。

       訳と鑑賞 ・ 篠原 かつら (かつらぎ同人)
        (tr ・Katsura Shinohara )


高張の文字黒々と神去出祭  吉浦 増
          
「かつらぎ」3月号より

日本で一番プライドの高い国民はと問えば、
即出雲人と言う答えが返って来そうである。
何故ならば神が集う土地だからである。
それが高張の文字黒々と言う表現に現れていると私は思う。
主宰と同じく神去出祭(からさでさい)と言う行事を見たことがない。
是非見てみたいとは思うがそれ程簡単には見れないものと想像する。
「禁忌」が多くあり、おろそかには出来ないのである。


 鑑賞: 阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

SEIHO and TOHGE  HAIKU in English

畑打つや土よろこんでくだけけり

hata utsu ya tsuchi yorokonde kudake keri

plowing field
soil is crushed
joyfully

   阿波野青畝
  ( Seiho Awano )

かりそめの木道らしく座禅草

karisome no mokudo rashiku zazenso

looks ike
temporary boardwalk
skunk cabbages

   森田 峠
  ( Tohge Morita )

青畝句: 冬の間、固まっていた”土 soil" が”畑打ち plow field "をされて
    ”くだける crush "。それだけの情景を、土の気持ちになって、”喜んで
    joyfully" と詠まれたので、俄然生き生きとしてきた。

峠 句:水芭蕉や座禅草は湿原に群生。時期になると回遊して見られるように、
   ” 木道 board walk " が ”かりそめに temporary "作られる。
    水芭蕉は ” skunk cabbage  スカンクのキャベツ”。腐ると臭いそうだが、
    それにしても可哀そうな名付け。

  訳と鑑賞 : 篠原 かつら (かつらぎ同人)
   ( tr. Katsura Shinohara )



天が吊るやうな大橋秋澄めり  木村由希子
          
「かつらぎ」2月号より

作者は何も難しいことは言っていない。
平凡なことを言っているのだが
視点がユニークで魅力的である。
最初この句を見た時
何と大胆な比喩なんだろうと思ったのだが
実際に明石大橋の下に立って見上げてみると
天が吊ると言う比喩が現実味を帯びて来ると
同時に秋の澄んだ青空が見えてくることに
気付いた。


 鑑賞・ 阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

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