かつらぎ俳句ブログ

俳句結社かつらぎ交流ブログ

勝ち越してビール逆転されビール  木村由希子
           かつらぎ10月号より

今までに何度も経験している事なのに
何故こんな風に俳句にできなかったのだろう
という思いにとらわれる。
作者は何度も試行錯誤を繰り返した後に
たどり着いた俳句であることは安易に想像できる。
ビール干すとは言わずビールで止めて
ビールを飲んでいることを想像させている。
ビールをリズムよく繰り返すことによって
臨場感のある表現にしたてている。

 鑑賞・ 阪野雅晴(かつらぎ特別同人)

SEIHO,TOHGE,and JUNICHIRO HAIKU in English

阿波野青畝
Seiho Awano

夜業人に調帯たわたわたわたわす
yagyou-bito ni beruto(belt) tawatawa tawatawa su

till late at night
working on factory machine
with belts swayin’ swayin’ swaying

森田峠
Tohge Morita

まっすぐに物の落ちけり松手入
massugu ni mono no ochikeri matsu teire

straight down
it fell to the ground -
trimming pine tree

森田純一郎
Junichiro Morita

女神像指す空高く鳥渡る
megami-zou sasu sora takaku tori wataru

statue of liberty
points top of the sky
birds traveling high


全般に日本語のオノマトペは単純には英語にしづらく、説明的な表現にせざるを得ないことが多いですが、十八音のうち八音を占める畳語を投じた青畝句の試みに、かなり無理筋ですがちょっとトライしてみました。

青畝句:factory machine=工場の機械。swayin’(swaying/sway)=揺れる。
峠句:trim=剪定する。pine tree=松の木。
純一郎句:statue of liberty=自由の女神像。point=指差す。)

訳と解説・ 田畑 秀樹(かつらぎ同人)
  (tr. Hideki Tabata )

図書館の一階にカフェ緑さす  宮崎こうや
           かつらぎ9月号より

娘から図書館の2階で待つというメールが入った。
図書館でなんか話が出来るわけないのに
と思いつつ向かった。
意外なことに図書館の2階はカフェになっていた。
なつかしい♪学生時代♪を持ち出すまでもなく
「緑さす」の季語がピツタリだ。
作者の他の句のリュック・社員証の句材の見つけ方にも
若者らしい新しさがあって好ましい。

 鑑賞・ 阪野雅晴(かつらぎ特別同人)

SEIHO,TOHGE,and JUNICHIRO HAIKU in English(323)

阿波野青畝 Seiho Awano

朝夕がどかとよろしき残暑かな
asayuu ga doka to yoroshiki zansho kana

awfully good
in morn and eve
amid lingering summer heat


森田峠 Tohge Morita

鱒泳ぐ初秋風の水の皺
masu oyogu hatsu-akikaze no mizu no shiwa

as trouts swim in
autumn-ushering wind
carve wrinkles on water


森田純一郎

摩天楼低き満月挟みけり
matenrou hikuki mangetsu hasami keri

sky scrapers
hold full moon low
among their wombs


青畝師の「『どかと』という俗語を思いついた」(自選自解)との言葉を頼みに、英文も若干柔らかくしてみましたが、作からはや約80年、温暖化は「よろしき」朝夕を過去のものにしつつあります。

(青畝句:awfully =すごく。morn(ing) and eve(ning)=朝夕。linger=長く残る。峠句:usher=先導する。carve=刻む。wrinkle=皺。純一郎句:among=…の中に。womb=子宮。)

   訳と解説・ 田畑 秀樹 (かつらぎ同人)
  ( tr. Hideki Tabata )

やさしい俳句講座 令和六年秋

赤い羽根つけらるる待つ息とめて
昭和二十九年  阿波野 青畝 句集『紅葉の賀』より

「息とめて」という具体的な描写により、「赤い羽根」が胸に挿されるまでの緊張がよく分かり、そしてそんな作者の姿はどこかおかしくて楽しいです。また、「とめて」というひらがな表記の連用止めからも、作者の穏やかな心の内がよく伝わってきます。

生家には諭吉が母の砧槌
昭和四十三年  森田 峠 句集『避暑散歩』より

「砧槌」とは布を打って皺を伸ばしたり、つやを出したりなどするための道具です。そして、「諭吉」の「母」は逸話があるほど思いやりに満ちた人物だったそうで、その「砧槌」となれば、愛情を具象化したものとして捉えられ、固有名詞がよく働いています。

根釣岩大敷網に遠からず
平成二十七年  森田 純一郎 句集『旅懐』より

「根釣」とは岩礁の底にいる魚を狙う釣りのことです。それがより効率的に魚が得られる罠の「大敷網」の近くで行われている光景からは、青畝句とは異なる皮肉めいたユーモアが感じられます。「遠からず」の一捻りある表現も、そのおかしさを増しています。

  鑑賞・ 宮崎こうや

美しき夕陽も見ずに牡蠣割女   大久保佐貴玖

           かつらぎ8月号より

牡蠣割女の句は今まで何回も詠まれている。
夕陽と取り合わせた句もあるだろうと推測する。
さらに「美しき」と言う説明語を持って来ている。
俳句に於て説明はタブーである。
しかし敢えて説明語を持って来ているには
それなりの理由がある。
作者は牡蠣割女の労働の厳しさを表現するために
夕陽の美しさを説明している。
読後には夕陽と牡蠣割女の手元だけが残る。

 鑑賞・阪野雅晴 (かつらぎ特別同人)

青畝・峠・純一郎俳句の英訳 322 

阿波野青畝
Seiho Awano

大空に長き能登ありお花畑
ozora ni nagaki Noto ari ohanabata

in heavenly sky
spans grand Noto-
blooming highland


森田峠
Tohge Morita

一夫妻手をにぎりあひ御来光
ichi fusai te wo nigiriai goraikou

husband and wife
hold hands tight to await
summit sunrise

森田純一郎
Junichiro Morita

水中に河馬片蔭に犀眠る
suichu ni kaba katakage ni sai nemuru

hippo underwater
rhino in summer shade
cozy nap period

元旦、大阪に住む小松市郊外出身の母のもとで話している折に受けた強い揺れ。長きが故に依然として救援の難しさも悩ましい能登ですが、一日も早い完全復興への願いも込めてgrandと冠しました。

(青畝句:span=広がる。grand=雄大な。bloom=咲き誇る。峠句:await=待つ。summit=山頂。純一郎句:hippo(potamus)=河馬。rhino(ceros)=犀。cozy=心地よい。nap=うたた寝)

  訳・ 田畑 秀樹
 ( tr. Hideki Tabata )

逃水を追ふかに夫は召されけり  足立恵
           かつらぎ7月号より

どんなに仲の良い夫婦であっても
一度や二度くらいは所詮は他人なんだから
と思った事はあるのではないだろうか。
いや、そう思っているからこそ
仲良くいられるのかもしれない。
私はそんなつもりで作ったんじゃないんです。
と言う作者の声が聞こえてきそうだが
私には「逃水」と言う季語に託した
作者の深い思いを感じる。
長年の夫婦生活を重ねたからこそ
授かった俳句だと言える。


 鑑賞・ 阪野 雅晴(かつらぎ特別同人)

SEIHO,TOHGE and JUNICHIRO HAIKU in English



満面に汗して報ひもとめざる

manmen ni ase shite mukui motomezaru

sweats in whole face
working so hard
not for any reward

       阿波野 青畝
Seiho Awano


地の窪に地の窪に小屋昆布干す

chi no kubo ni chi no kubo ni koya konbu hosu

pit after pit ashore
stand barn after barn
drying up konbu weeds

       森田  峠
       Tohge Morita


すぐ乾くマンハッタンの夕立かな

sugu kawaku Manhattan no yudachi kana

afternoon showers -
town dries up right away
in Manhattan

      森田 純一郎
      Junichiro Morita

「コスパ」や「タイパ」など、使う資金や時間の効率重視の考え方が盛んですが、むしろその手法によって、青畝句のような無償の共助の行動に、より多くの人々が参画・実践しやすくなるようになればとも思います。

(青畝句:sweat=汗。whole=全体の。reward=報酬。峠句:pit=窪み。..after..=..を/が次々に。ashore=海辺に。barn=小屋。純一郎句:shower=にわか雨。right away=すぐに。)

      訳と鑑賞 ・ 田畑 秀樹
       ( tr. Hideki Tabata )

雪洞に灯ともしひとりひな祭  若松歌子
           かつらぎ6月号より

童謡の「うれしいひな祭」は賑やかで楽しそうだけど
それも子供が小さいうちだけの事であって
ほとんどの家庭ではこの句のように
独りで淋しくひな祭りをしている人の方が
多いのではないだろうか。
「ひ」の頭韻が私には寂しく聞こえる。
因みに我が家のお雛様は
娘が結婚した時に見たきりで
今はどうされているのか私は知らない。

 鑑賞・ 阪野 雅晴 (かつらぎ特別同人)

このページのトップヘ