かつらぎ俳句ブログ

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 SEIHO and TOHGE HAIKU in English (255)

隙間風十二神将みな怒る

sukimakaze juni shinsyo mina ikaru


against draft
Twelve Heavenly Generals
are all red-hot with anger

               阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


たヾ一戸たヾ一槽や紙を漉く

tada ikko tada isso ya kami o suku


only one hut
only one tub –
he’s making Japanese paper
   
      森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:“十二神将Twelve Heavenly Generals “と”隙間風draft”との取合せが面白い。神将の威嚇が今は隙間風に向かっている。無敵の神将も隙間風には弱いのだろうか。真っ赤になって怒っている形相を”red-hot with anger” 。

 峠 句 自註「兵庫県の杉原で一軒だけで漉いている。漉槽も一つしかなく、心細く思われた。」“たゞ一戸 たヾ一槽“とリズム良く表現されている。このリズムを大切に”only one hut only one tub”とした。和紙はJapanese paper。

      訳・篠原かつら (かつらぎ同人)
        (tr. Katsura Shinohara)

                                      


                                                                                                                     
                          

間髪を入れずして年改まる
 
     阿波野青畝『除夜』より

「年改まる」は年の始め新年の季語の一つである。「間髪を入れず」は「間に髪の毛一本を入れる隙もない」ことを意味し、「即座に」の意味となる。昨年から今年には髪の毛一本も入れる隙なく、まさに即座に「年改まる」のである。身の回りをよく見れば、かくのごときユーモアに溢れる句を拾うことができる。


教会と枯木ペン画のごときかな

     森田 峠『逆瀬川』より

冬になって葉を落とし尽くした木を枯木と言う。教会を背景に枯木が枝を広げると直線ばかりで描かれたペン画のように見え、色のない枯木と教会はまさに冬ざれの景である。作者は「白川女で知られる北白川にあるキリスト教会であった。ビュッフェの線画にあるような鋭い縦線の多い風景であった。」と記している。


何故に水仙崖にばかり咲く

     森田純一郎『かつらぎ』       平成三十年四月号近詠より

水仙はヒガンバナ科の多年草で海岸近くに群生する。作者は海蝕崖に群れ咲いている水仙の美しさと健気さに惹かれる。その感動を「何故に」「崖にばかり」という主観の強いこれまでに使われたことの無い言葉で表現し、近づきがたい危険な崖の水仙に賛辞を送っているのである。


鑑賞: 安藤 悠木 (かつらぎ同人)

 SEIHO and TOHGE HAIKU in English (254)

かづら橋冬将軍に隙だらけ

kazurabashi huyusyogun ni suki darake


wind’s passing freely
through vine bridge—
Jack Frost has come

                    阿波野青畝
                   (Seiho Awano)



たけなはの大学祭に銀杏散る

takenawa no daigakusai ni icho chiru


at the height
of campus festival
ginkgo leaves are falling

   
    森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:”かづら橋vine bridge”は自在に風が通り抜けて
”隙だらけpass freely”。”冬将軍Jack Frost”のfrostは霜。
イギリスにはJack の出てくるライムや物語が多く、
「坂東太郎= 利根川」の太郎のような使い方や一般名詞としても使われる。

 峠 句:“大学祭campus festival”が最高に盛り上がって、
まさに”たけなはat the height of”。
そこに“銀杏の葉ginkgo leaf”が盛大に散って更に祭りを盛り上げている。
学生時代の懐かしい思い出が蘇る句。                                                                                                        
                       訳と鑑賞・篠原かつら
                      (tr. Katsura Shinohara)
                                     

青畝・峠俳句の英訳 (253)
SEIHO and TOHGE HAIKU in English

内宮は畏れ多くて紅葉せず

naigu wa osore okute momiji sezu



awe-inspiring
the Inner Shrine
no tinged leaves

      阿波野青畝
      Seiho Awano


ポンペイの残りの轍身にぞ入む

Ponpei no nokori no wadachi mini zo shimu


ruts
left in the roads of Pompei -
touching

森田 峠
       Tohge Morita


青畝句:“内宮InnerShrine”は伊勢神宮の外宮に対して内宮のこと。
内宮には“紅葉するtingedeaves”樹はないことを
“恐れ多くて awe-inspiring”と受け止められた。
青畝先生の鋭い見方に改め て感服した。

峠句 :火山の噴火で埋没したポンペイ。神殿、大浴場、芸術品など
数多 発掘された。中でも縦横に走る道路に残る多数の“轍rut”の跡は、
人々の活発な生活ぶりが伺われて印象深かった思い出が私にも ある。
峠先生は其れを“身に入む touching”と表現された。



訳・篠 原 か つ ら   (tr. Katsura Shinohara)

水澄みて九つの弥陀現れ給ふ

mizu sumi te kokonotsu no Mida are tamau


clear water –
nine images of Amitabha
appearing

                     阿波野青畝
                   (Seiho Awano)



湖へ水は韋駄天芋水車

mizuumi e mizu wa Idaten imozuisya


toward the lake
water runs as swift as Idaten —
water wheel for taros

   
       森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:京都浄瑠璃寺の“阿弥陀仏Amitabha”。庭の中央に池があり、反対側から本堂を見ると”九体仏nine images”を水面に映して見ることが出来る。あたかも“澄んだ水clear water”から“現れ給ふappearing”かのように。

 峠 句:“芋taro”の皮をむくための”水車water wheel”が川に仕掛けられている。“湖lake”
に向かって水は勢いよく流れている。その勢いを“韋駄天as swift as Idaten”と表現
     された。芋の皮はあっという間にむけたことだろう。 


訳と解説・ 篠原 かつら (かつらぎ同人)
(tr. Katsura Shinohara )                                                                                                         
                                            

月の山大国主命かな
   阿波野青畝『紅葉の賀』より

単に「月」といえば、さやかな秋の月を指す。澄みきった秋の夜は月の美しさも格別である。「月の山」は大和地方の三輪山で美しい円錐形の山である。三輪山は大神神社のご神体とし大物主命が祭られている。大物主命は大国主命のことだとも言われている。作者は、月に煌煌と照らされている山を拝して、この月の山こそ大国主命と確信したことと思う。


鳥渡る島長ければ島に沿ひ
    森田 峠『四阿』より

秋になると、雁・鴨・鶫・鶸・あとり等の候鳥が群れをなしてシベリア方面から渡って来る。安全を期して群れを成し、島があれば島の上空渡ることが多い。特に島が長ければ長い島に沿って渡る鳥の群は印象深いものである。渡り鳥はわが国で冬を過ごし、翌年春、北方に帰る。「鳥帰る」は春の季語となる。


摩天楼映し出す天高きかな
森田純一郎『マンハッタン』より       

摩天楼はニューヨークのスカイスクレーパーの訳語で天を摩する(擦る)ほどの高楼を意味する。秋は大気が澄み、晴れ渡った空が高く感じられる。ニューヨークのマンハッタンで空を見上げると摩天楼が背比べをして空を覆う。よく見れば更にその先に果てしなく空が続く。「摩天楼」と季語の「天高し」が相対してスケールの大きな風景が感じられる。


鑑賞: 安藤 悠木 (かつらぎ同人)

住吉にすみなす空は花火かな

Sumiyoshi ni suminasu sora wa hanabi kana


spending my time
in Sumiyoshi,
fireworks in the sky

               阿波野青畝
                   (Seiho Awano)



雲海のひとにぎりなる小諸町

unkai no hitonigiri naru Komoromachi


Komoro
is a patch of land
through the sea of clouds
     
     森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:「住吉に妻と仮寓していた」と自註。ス、シ、ソとサ行音が
多用されているので、S音をなるべく使うようにしたが、
青畝先生のような滑らかな調べを作るのは難しい。
“すみなすspend my time” ”花火fireworks”

 峠 句 「雲海の隙間に小諸町が見えた」と自註。
前日は高峰高原で句作をされている。
高原から“雲海sea of clouds”を通して見た小諸を、
”ひとにぎりの土地a patch of land”と捉えられたのだろう。
小諸は藤村や虚子ゆかりの地。

    
  訳と鑑賞 ・ 篠原 かつら  (かつらぎ同人)

( tr. Katsura Shinohara  )
                                    


ガンジーの広場をめざす跣かな

Ganji no hiroba o mezasu hadashi kana


heading straight for
the Gandhi Square –
barefooted

                    阿波野青畝
                   (Seiho Awano)



駒草や競ふかにみな前のめり

komakusa ya kisou kani mina maenomeri


leaning forward,
each dicentra
might be racing

   
     森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:カルカッタの“ガンジー広場the Gandhi Square”。
ガンジーが凶弾に倒れた地。そこを目指して”跣barefooted”の
人々が向かっている。ガンジーへの思いを胸に、まっしぐらに
向かっている様子を“head straight for” に。

 峠 句:“駒草dicentra”は花を横から見ると馬の顔に見える
のでこの名がついた、と歳時記。
     ”前のめりlean forward”の表現で駒草が競い合って
いる様子。“競ふかに”の“かに”
が難しかった。”might be racing”
                            

   訳と鑑賞・ 篠原かつら (かつらぎ同人)
  (tr. Katsura Shinohara )                                                                                                          
                                             

さかのぼる卯波を見よや最上川
   阿波野青畝『旅塵を払ふ』より

卯波は陰暦四月(卯月)の波浪をいう。天候が一時的に崩れ、立ち騒ぐ海の白波が最上川をさかのぼる光景である。最上川といえば、人口に膾炙された芭蕉の「五月雨をあつめてはやし最上川」が浮かぶ。作者は最上川を舟下りして河口の酒田まで行き、再び汽車に乗り最上川を車窓より見る旅をした。酒田の最上川を見下ろす九木原公園にはこの句の碑が立つ。


鉾どこにとゞまりゐるや雨の京
    森田 峠『避暑散歩』より

祇園祭は京都東山の八坂神社の祭礼で、関連する鉾、山鉾も夏の季語となる。鉾は鉾柱を立てた山車のことで山は人形などが乗った山車。山鉾巡行は一月続く祇園祭の中で見物人が最もにぎあう。
この巡行は四条河原町、河原町御池、新町御池のルートで進む。巡行を待つ間に雨が降って来て、雨の鉾巡行を思いやる作者の気持ちが伝わる。


夏の蝶郡上一揆の碑を去らず
森田純一郎『かつらぎ』       平成二十九年十月号より

蝶は春の季語で、他の季節に現れる蝶はそれぞれの季節を記す。
郡上藩の藩制に反対し、四年半続いた宝暦一揆の幕府からの沙汰は厳しい。獄門四人、死罪十人、獄死十八人であった。作者は碑の前に立ち尽くして犠牲者を悼む。折りも折り夏の蝶が碑の回りを飛んで去らない。夏の蝶は一揆の犠牲者の縁者か魂であろうか。


鑑賞・ 安藤悠木 (かつらぎ同人)

一閃の雷火のなかに青胡桃

issen no raika no naka ni aokurumi


a flash of lightning,
green walnut
appears clearly


                    阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


郭公やわが青春に堀辰雄

kakko ya waga seisyun ni Hori Tatsuo


cuckoo –
the books by Tatsuo Hori were my favorites
in my youth   

                     森田 峠
                  (Tohge Morita)



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 青畝句:”一閃の雷火a flash of lightning” の中に
      “浮かび出たappear clearly” “青胡桃 green walnut”。
      簡潔で印象鮮明な句なので英訳も簡潔を試みた。
      「刹那を捉えた青畝の力量の句である」と佐久間慧子氏。

 峠 句 自註「堀辰雄の作品が好きで、若いころ読みふけった
      ものである」。
      若き日の峠先生の一面を垣間見させて頂いたようで
      嬉しくなった。
      「わが青春に堀辰雄」は“青春時代の愛読書
       favorite books in my youth” とさせていただいた。
      cuckooと堀辰雄、代表作『風立ちぬ』の世界。

                                   

  訳と解説 ・ 篠原かつら(かつらぎ同人)
 (tr.Katsura Shinohara)
 

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