かつらぎ俳句ブログ

俳句結社かつらぎ交流ブログ

月の山大国主命かな
   阿波野青畝『紅葉の賀』より

単に「月」といえば、さやかな秋の月を指す。澄みきった秋の夜は月の美しさも格別である。「月の山」は大和地方の三輪山で美しい円錐形の山である。三輪山は大神神社のご神体とし大物主命が祭られている。大物主命は大国主命のことだとも言われている。作者は、月に煌煌と照らされている山を拝して、この月の山こそ大国主命と確信したことと思う。


鳥渡る島長ければ島に沿ひ
    森田 峠『四阿』より

秋になると、雁・鴨・鶫・鶸・あとり等の候鳥が群れをなしてシベリア方面から渡って来る。安全を期して群れを成し、島があれば島の上空渡ることが多い。特に島が長ければ長い島に沿って渡る鳥の群は印象深いものである。渡り鳥はわが国で冬を過ごし、翌年春、北方に帰る。「鳥帰る」は春の季語となる。


摩天楼映し出す天高きかな
森田純一郎『マンハッタン』より       

摩天楼はニューヨークのスカイスクレーパーの訳語で天を摩する(擦る)ほどの高楼を意味する。秋は大気が澄み、晴れ渡った空が高く感じられる。ニューヨークのマンハッタンで空を見上げると摩天楼が背比べをして空を覆う。よく見れば更にその先に果てしなく空が続く。「摩天楼」と季語の「天高し」が相対してスケールの大きな風景が感じられる。


鑑賞: 安藤 悠木 (かつらぎ同人)

住吉にすみなす空は花火かな

Sumiyoshi ni suminasu sora wa hanabi kana


spending my time
in Sumiyoshi,
fireworks in the sky

               阿波野青畝
                   (Seiho Awano)



雲海のひとにぎりなる小諸町

unkai no hitonigiri naru Komoromachi


Komoro
is a patch of land
through the sea of clouds
     
     森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:「住吉に妻と仮寓していた」と自註。ス、シ、ソとサ行音が
多用されているので、S音をなるべく使うようにしたが、
青畝先生のような滑らかな調べを作るのは難しい。
“すみなすspend my time” ”花火fireworks”

 峠 句 「雲海の隙間に小諸町が見えた」と自註。
前日は高峰高原で句作をされている。
高原から“雲海sea of clouds”を通して見た小諸を、
”ひとにぎりの土地a patch of land”と捉えられたのだろう。
小諸は藤村や虚子ゆかりの地。

    
  訳と鑑賞 ・ 篠原 かつら  (かつらぎ同人)

( tr. Katsura Shinohara  )
                                    


ガンジーの広場をめざす跣かな

Ganji no hiroba o mezasu hadashi kana


heading straight for
the Gandhi Square –
barefooted

                    阿波野青畝
                   (Seiho Awano)



駒草や競ふかにみな前のめり

komakusa ya kisou kani mina maenomeri


leaning forward,
each dicentra
might be racing

   
     森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:カルカッタの“ガンジー広場the Gandhi Square”。
ガンジーが凶弾に倒れた地。そこを目指して”跣barefooted”の
人々が向かっている。ガンジーへの思いを胸に、まっしぐらに
向かっている様子を“head straight for” に。

 峠 句:“駒草dicentra”は花を横から見ると馬の顔に見える
のでこの名がついた、と歳時記。
     ”前のめりlean forward”の表現で駒草が競い合って
いる様子。“競ふかに”の“かに”
が難しかった。”might be racing”
                            

   訳と鑑賞・ 篠原かつら (かつらぎ同人)
  (tr. Katsura Shinohara )                                                                                                          
                                             

さかのぼる卯波を見よや最上川
   阿波野青畝『旅塵を払ふ』より

卯波は陰暦四月(卯月)の波浪をいう。天候が一時的に崩れ、立ち騒ぐ海の白波が最上川をさかのぼる光景である。最上川といえば、人口に膾炙された芭蕉の「五月雨をあつめてはやし最上川」が浮かぶ。作者は最上川を舟下りして河口の酒田まで行き、再び汽車に乗り最上川を車窓より見る旅をした。酒田の最上川を見下ろす九木原公園にはこの句の碑が立つ。


鉾どこにとゞまりゐるや雨の京
    森田 峠『避暑散歩』より

祇園祭は京都東山の八坂神社の祭礼で、関連する鉾、山鉾も夏の季語となる。鉾は鉾柱を立てた山車のことで山は人形などが乗った山車。山鉾巡行は一月続く祇園祭の中で見物人が最もにぎあう。
この巡行は四条河原町、河原町御池、新町御池のルートで進む。巡行を待つ間に雨が降って来て、雨の鉾巡行を思いやる作者の気持ちが伝わる。


夏の蝶郡上一揆の碑を去らず
森田純一郎『かつらぎ』       平成二十九年十月号より

蝶は春の季語で、他の季節に現れる蝶はそれぞれの季節を記す。
郡上藩の藩制に反対し、四年半続いた宝暦一揆の幕府からの沙汰は厳しい。獄門四人、死罪十人、獄死十八人であった。作者は碑の前に立ち尽くして犠牲者を悼む。折りも折り夏の蝶が碑の回りを飛んで去らない。夏の蝶は一揆の犠牲者の縁者か魂であろうか。


鑑賞・ 安藤悠木 (かつらぎ同人)

一閃の雷火のなかに青胡桃

issen no raika no naka ni aokurumi


a flash of lightning,
green walnut
appears clearly


                    阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


郭公やわが青春に堀辰雄

kakko ya waga seisyun ni Hori Tatsuo


cuckoo –
the books by Tatsuo Hori were my favorites
in my youth   

                     森田 峠
                  (Tohge Morita)



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 青畝句:”一閃の雷火a flash of lightning” の中に
      “浮かび出たappear clearly” “青胡桃 green walnut”。
      簡潔で印象鮮明な句なので英訳も簡潔を試みた。
      「刹那を捉えた青畝の力量の句である」と佐久間慧子氏。

 峠 句 自註「堀辰雄の作品が好きで、若いころ読みふけった
      ものである」。
      若き日の峠先生の一面を垣間見させて頂いたようで
      嬉しくなった。
      「わが青春に堀辰雄」は“青春時代の愛読書
       favorite books in my youth” とさせていただいた。
      cuckooと堀辰雄、代表作『風立ちぬ』の世界。

                                   

  訳と解説 ・ 篠原かつら(かつらぎ同人)
 (tr.Katsura Shinohara)
 

一の蜂二の蜂替る牡丹かな

ichi no hachi ni no hachi kawaru botan kana


switching
from the first to the second,
bees are getting into a peony

                   阿波野青畝
                   (Seiho Awano)



草笛やまさかと思ふ牛寄り来

kusabue ya masaka to omou ushi yoriku


blowing reed pipe
cows are coming near—
it can’t be

   
    森田 峠
                  (Tohge Morita)


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 青畝句:”一の蜂the first bee”が潜り込んでいた“牡丹peony”
から飛び出すと、待ち構えていたように狷鵑遼the second bee”
が素早く”入れ替わるswitch”。
この牡丹はきっと蜂の好む蜜をたっぷり湛えているのだろう。

 峠 句:“草笛reed pipe”を誰が“吹いているblow”のか、
句からは分からない。”まさかit can’t be”とも思いながら、
峠先生と設定させて頂いた。ご自身で吹いていらっしゃると
考えると尚楽しい。


       訳と解説・篠原かつら (かつらぎ同人)
       (tr. Katsura Shinohara)


                              

    SEIHO and TOHGE HAIKU in English (247)

色卵ルオー好みに塗りたくる
irotamago Ruoh gonomi ni nuritakuru


panting heavily
in the taste of Rouault ,
Easter egg

               阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


着なれたる背広が我の花衣
kinaretaru sebiro ga ware no hanagoromo


daily jacket
is my costume –
cherry blossom viewing

       森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:“色卵Easter egg” とルオーとの取合せに驚く。
ルオーの絵は濃く太い線でくっきり輪郭を描き、はっきりした
色使いの絵が多い。
”塗りたくるpaint heavily”の表現で余すところなく塗られた
派手な色合いの卵と想像できる。

 峠 句:“着なれたる背広daily jacket” が
”花見cherry blossom viewing” の時の“衣costume”とは
如何にも峠先生らしい。
そういえば吟行でも吟旅でもいつも同じような背広を着ておいでだった。

                                   

訳・解説  篠原かつら (かつらぎ同人)
(tr. Katsura Shinohara)
 

                                               

金髪のごとく美し木の芽伸ぶ

kinpatsu no gotoku utsukushi konome nobu


so beautiful
like golden hair,
leaf buds are growing

                    阿波野青畝
                   (Seiho Awano)


どれもみな美し過ぎる種袋

doremo mina utsukushi sugiru tanebukuro


too much beauty
each and every picture –
seed bags

   
    森田 峠
                  (Tohge Morita)

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 青畝句:“木の芽leaf bud” が伸びてきて春の光を浴びきらきら
輝いている。その様子を”金髪golden hair”に例えられた。
一斉に芽吹いた木の芽の美しさが一層際立って見える。

 峠 句:“種袋seed bag”には確かに”どれもこれもeach and every”
きれいな草や花の写真が載っている。
”美しすぎるtoo much beauty” と思いながらも期待を込めてつい買ってしまう。


    訳と鑑賞: 篠原かつら (かつらぎ同人)
    (tr. Katsura Shinohara )

                              
                                                                                            

                                            

南都いまなむかんなむかん余寒なり
   阿波野青畝『あなたこなた』より

春の南都奈良の風物詩は東大寺の修二会である。二月堂の十一面観音に罪障を懺悔して僧たちは「南無観自在菩薩」と唱えて歩む。次第に足早となり、「南無観」の連呼に達する。「南(なん)」「なむ」「なむ」「かん」「かん」「寒(かん)」と句全体の韻によって、足早の連呼と寒さの残る二月堂の雰囲気が見事に描写されている。



花散るまゝ子のいふまゝに母歩む
    森田 峠『避暑散歩』より

「花」は平安時代以降桜の花をさす。満開の花の散り敷く中、稚き子を追って歩く母親の風景は見ていて心が和む。昨今育児疲れの母の話を耳にする度にこの句に救われる。上五が字余りであるが、中七の「まゝ」と韻を踏んで句にリズムが生まれ、落花と子の歩みと子を追う母の動的な動きが目に見えるようである。



触れ太鼓大阪に春来たりけり
森田純一郎『かつらぎ』       平成二十六年五月号近詠より

作者によればこの触れ太鼓は大阪春場所の太鼓である。丹田に響く太鼓の音が大空に次々と響いていくことを耳にして、厳しい冬の寒さから開放された作者の喜びが伝わる。下五の切字「けり」が、触れ太鼓の音に春が来たことの喜びを強く余韻を響かせて締めくくりをしている。


鑑賞: 安藤 悠木 (かつらぎ同人)

恋猫の丹下左膳よ哭く勿れ

koineko no Tange Sazen yo nakunakare

don’t cry cat in love
scarred on one eye—
Tange Sazen

Tange Sazen : hero of the novel and movie, sword cut on one eye


     阿波野青畝
          (Seiho Awano)



雪しろに開拓村の橋たわむ

yukishiro ni kaitaku mura no hashi tawamu

being bent
by melting water—
bridge in reclaimed village
   
森田 峠
           (Tohge Morita)

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 青畝句:“恋猫cat in love” が”鳴きわめいている。
片目に疵を受けて“scarred on one eye”いるのだろう。
猫は可哀そうだが「丹下左膳」の一語で噴きだしたくなるユーモアがある。
若い人の中には丹下左膳を知らない人もいるかもしれない。

 峠 句:“雪しろmelting water”によって橋が”たわむbeing bent” 。
“開拓村reclaimed village” の雪の深さと厳しい冬の情景を
橋に焦点を絞って表現された。

           訳と解説・ 篠原かつら (かつらぎ同人)
          (tr. Katsura Shinohara)
                                  

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