かつらぎ俳句ブログ

俳句結社かつらぎ交流ブログ

炎々と大山開く夜なりけり
    阿波野青畝『不勝簪』より

山開きでは、山の神霊に祝詞をあげて、一夏の登山の始まることを告げ、無事を祈る。掲句は大山の山開きの句で、山開きの神事を終えた社殿からゴールのある博労座をめざし二千の人々が松明を手に持ち参道を練り歩く。炎に包まれた大山の夜の荘厳で神聖な山開きが瞼に浮かぶ。


緑陰を出づる黄の騎手赤の騎手
    森田 峠『避暑散歩』より

緑陰は青々と茂った樹木の陰。競馬場では出走前に馬の状態を観客に見せるパドックがある。掲句はその情景であろうか。赤と黄の色彩の鮮やかさ、更に緑陰との明暗のコントラストが素晴らしい。そして「緑陰を出づる」から、競技場での騎手達の躍動感が想像される。


今一度月下美人に寄りて辞す
   森田純一郎『マンハッタン』より

月下美人はサボテン科の多年草。夏の夜八時頃、蕾がふくらみ始め、深夜に大輪の香りのよい純白の花を開き、数時間で萎む。知人の家でその一部始終を見た作者。今、暇乞いをしたら、この花を再び見ることは無い。月下美人の儚い命に寄せる哀惜の念が句から漂う。


鑑賞・ 安藤悠木 (かつらぎ同人)

炎々と大山開く夜なりけり

enen to Daisen hiraku yo narikeri

torch after torch -
the eve
of Mt.Daisen's opening

阿波野青畝
Seiho Awano


木曾馬の遊びて夏至となりにけり

kisouma no asobi te geshi to narinikeri

on the ranch
Kiso horses are playing -
the summer solstice has come

森田 峠
Tohge Morita


青畝句: 大山山開きの前夜祭。2000本の松明が
山上の神社から降りてくる。
炎の河となり " 炎々と torch after torch " 流れ下るさまの
荘厳な情景。それを活写された堂々たる句。
参道にこの句碑が立っている。

峠句: 開田高原の木曾馬牧場。御嶽山の広大な裾野の
牧場で馬たちが走り回ったり、のんびり草を食んだりしている。
" 夏至 summer solstice " の一語で高原の明るく清澄な
空気が伝わる。

訳と解説・ 篠原かつら (かつらぎ同人)
(tr. Katsura Shinohara )

文字摺の階を下りゆく雫かな

mojizuri no hashi o oriyuku shizuku kana

drops of lady's-tresses
are sliding down the stairs
step by step

阿波野青畝
Seiho Awano


話好き和尚出てくる牡丹かな

hanashi zuki osyo dete kuru botan kana

peonies in bloom -
a talkative priest
coming out

森田 峠
Tohge Morita



青畝句:文字摺は捩花のこと。
英語で " lady's-tresses 女性の編んだ髪 " 。 
文字摺も lady's-tresses も趣のある命名。
らせん状にねじれた穂を " 階 stairs " と見立てて
そこを " 雫 drop " が " 一段ずつ step by step ”
下りてゆくと表現された。

峠句:目に浮かぶような情景。来客の姿を見て
いそいそと出ておいでになった " 話好き和尚さん
talkative priest " 。 
咲き揃っている " 牡丹 peonies in bloom " を見ながら
の牡丹談義はまだまだ続きそう。

訳・解説 篠原かつら
tr. Katsura Shinohara

散る花の三三五五と組みて舞ふ

chiru hana no sansangogo to kumi te mau


falling cherry blossoms
are dancing
by twos and threes

阿波野青畝
Seiho Awano



紐つけてある定期券入学す

himo tsukete aru teikiken nyugakusu

starting
elementary school -
ticket holder with string

森田 峠
Tohge Morita


青畝句:いそいそと楽しそうに花弁が舞い散っている様子。
三三五五の英語は " by twos and threes 二二三三 "。
日本では古来奇数は「陽」、偶数は「陰」と見做されてきた。
国によって数に対する感覚に違いがあるようで興味深い。

峠句:この句から " 小学校 elementary school " に
入学したと分かる。紐をつけた " 定期券入れticket holder ”
を下げて得意そうな新入生の様子が目に浮かぶ。
" 定期券 season ticket " の season は省いた。


訳と解説・ 篠原かつら
(tr. Katsura Shinohara )

白魚のまことしやかに魂ふるふ 
      
      昭和38年作 阿波野青畝 句集『甲子園』より 

白魚は煮ると白くなるが、生きているときは半透明で眼だけが黒く目立つ。体長七、八センチで、早春、産卵のため川に上る。上品で淡白な味が好まれる。四手網や刺し網に跳ねる白魚「まるで魂がふるえているかにみえた」と、作者の自註にある。小さなはかない命の懸命な躍動感が出ている。


風船を持つ児軽々抱かれけり
      
      昭和61年作 森田 峠  句集『雪紋』より

抱いている児が実際軽いわけではない。が、ふわふわ上がる風船を見ていると、風船を持っている児まで軽げな錯覚を覚える。
理屈ではない。見ていた時のこれが実感。実感を大事に表現した結果、いかにも風船らしい季語の生きた句となった。難解な言葉や複雑な内容ではない峠俳句らしい作品。
 

受難節聖水指に冷たかり 
      
      平成22年作 森田純一郎 『かつらぎ』近詠より

 キリストが十字架にかけられ、復活するまでの二週間をカトリックでは受難節という。その間、信徒はイエスの受難の苦しみを偲ぶ。教会の入口には信徒が十字を切る指を浄めるため、聖水盤が置かれている。受難節であれば殊に指には冷たく感じられよう。ちなみに作者はクリスチャンである。


鑑賞 ・ 中島 葵(かつらぎ特別同人)

たんぽぽは良寛のため毬となる

tanpopo wa Ryohkan no tame mari to naru


dandelion
chages into a ball
for Ryohkan

Ryohkan:Zen monk in Edo period who liked ball bouncing with children

阿波野青畝
Seiho Awano


ついばみをつゞけて孕み雀かな

tsuibami o tsuzukete harami suzume kana

keeping on
pecking something -
pregnant sparrow

森田 峠
Tohge Morita



青畝句:" たんぽぽ dandelion " の絮毛を良寛の
" 毬 ball " と見做された発想が楽しい。
青畝先生も良寛さんと同じように童心をお持ちなのだ。
ちなみに白い毬のようになったタンポポの綿毛を
" dandelion clock タンポポ坊主 "と言う。

峠句: 如何にも峠先生らしい句。これはと思う対象を
身動きせずじっと見つめておられたお姿が目に浮かぶ。
せっせと" 啄む peck " 様子から
" 孕み雀 pregnant sprrow " と観察された。

訳・解説   篠原かつら
( tr. Katsura Shinohara )




針供養針の新陳代謝かな

harikuyo hari no shinchintaisya kana

memorial service
for used needles -
metabolism of needles

阿波野青畝
Seiho Awano


エアメールなども散らばり磯竈

eameru nadomo chiraari isokamado

beach stove for woman divers,
airmails and others
scatter around

森田 峠
Tohge Morita


青畝句:まさに " 使い古した針 used needls" のための
" 供養 memorial service " は " 新陳代謝 metabolism "
以外の何物でもない。納得。余りにも直截な表現なので
反っておかしい。

峠句:" 磯竈 beach stove " と " エアメール airmail " の
取合せが新鮮。" 海女さん woman diver " の女性らしい
面が出ていて何か楽しい(悲しい?)
物語があるかもと想像が掻き立てられる。

訳と解説・ 篠原かつら
(tr. Katsura Shinohara )

無より有出でくる空の牡丹雪

mu yori yu idekuru sora no botanyuki

something comes
from nothing -
large snow flakes

阿波野青畝
Seiho Awano


恋心姫もぢもぢす初芝居

koigokoro hime mojimoji su hatsushibai

captive love
fidgets princess ,
the New Year's play

森田 峠
Tohge Morita

青畝句:" Nothing comes from nothing . 
無からは何も生まれない"は、
紀元前5世紀のギリシャの哲学者の言葉。
この諺に依られたかどうかは分からぬが、
" 無 nothing " を "有 something " に転換して
" 牡丹雪 large snow flake " とされた発想にびっくり。

峠句: " 恋の虜 captive love " になった姫が
" もじもじする fidget " 様子は可愛らしく、
" 初芝居 the New Year's play " らしいほんのり感がある。
人形浄瑠璃とも思える雰囲気。
人形芝居はpuppet show となる。


訳・解説  篠原かつら
(tr. Katsura Shinohara )

太き尻ざぶんと鴨の降りにけり   阿波野青畝
        昭和42年作  句集『旅塵を払ふ』より 
 池や海が氷に閉ざされるシベリアなどから晩秋に渡って来て、日本で過ごし春に帰っていく鴨。鴨にも様々な種類がある。太い尻ならば真鴨であろう。首の美しい緑を輝かせながら、優雅に旋回を繰り返し、挙句無造作に「ざぶん」と着水。滑稽味とともに、真鴨の重量感が出ている。
 
お決まりのこのビアホール年忘    森田 峠
        平成19年作  句集『朴木山荘』より
「ビアホール」とくれば夏と思う。
ところが「年忘」だった。このビアホールの名は「大使館」。かって関西での句会の後「大使館へ行く」と聞いたとき、筆者はびっくりした。この意外性がこの作品そのものである。ケレンのない素直な面白さがある。「お決まりの」で納得がいく。

 烏帽子気にしつつ御慶や福娘   森田純一郎 
       平成28年作   『かつらぎ』近詠より
 正月十日の戎祭は、福の神である恵比寿祭りで、商人等で賑わう。若く美しい福娘
が笹に縁起物を吊るした福笹を渡してくれる。千早に金色の烏帽子を被り、慣れない烏帽子が傾がないよう気にしながら、参詣客に御慶(新年の挨拶)をしてくれる。
ほほえましく、新春らしい雰囲気が漂う。


解説・中島 葵 

歳の瀬の灯ぺちやくちやの六区かな

toshi no se no hi pechakucha no Rokku kana

twittering and chattering
lights on the Rokku in Asakusa ー
end of the year

阿波野青畝
Seiho Awano


羊飼ぞろぞろしつゝ聖夜劇

hitsujikai zorozoro shitsutsu seiyageki

shepherds
troop off to the stage ー
kid's holy play

森田 峠
Tohge Morita


青畝句: 六区は浅草寺近くの繁華街。以前は映画館が並んでいたが
現在は歩道にまで椅子がはみ出ているような飲み屋等で賑わっている。
" 歳の瀬 end of the year " の六区の灯はまさに " ペチャクチャ
twittering and chattering " 。 夜中まで賑やかだろう。

峠句:幼稚園のクリスマス会で " 羊飼い shepherds " や星の子たちが
" ぞろぞろ troop off " 、中にはあくびをしている子もいて
とても可愛かった覚えがある。 " 子供の聖夜劇 kid's holy play "
とさせていただいた。

訳・解説 篠原かつら
tr. Katsura Shinohara

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