January 24, 2012
NHK大河ドラマ50年 特別展『平清盛』
いまだ見たことがない国宝「平家納経」がやってくるというので、雨予報の土曜日、江戸東京博物館へ出かけた。
前日には東京・横浜が初雪を記録し、この日もその余波でむちゃくちゃ寒かった。両国駅に着いた頃、ちょっとの間だけ、雨は雪に変わったりした。会場には10分前の9:20に着いた。江戸東京博物館はロビーが広くて、早く着いてもゆったりと待てるのはいいところだ。
まだ朝早いせいか、はたまたこの寒さと悪天のせいか、それとも王子駅付近の火災で京浜東北線が止まっているせいか、なんだかわからないがとにかく空いていた。
それでも会場入口周辺は例によって人が多かったので、とにかく奥へと突き進んだ。なにしろ、この展覧会では、平家納経にしか興味がないのだ。
- 平家納経 清盛願文
- No.103。他の巻の見返し絵とちょっと趣きが違うと思ったら、これは俵屋宗達の修復によるものなんだとか。結構な違和感を覚えるけど、料紙はやっぱりきれいだ。
- 平家納経 法華経信解品第四
- No.106。見返し絵は蓮の花。見返しは全体に銀で、本文部分の料紙が金がかっている。美しい。
- 平家納経 法華経法師功徳品第十九
- No.112。展示品の上に拡大写真があるのだが、それでようやく見返し絵に仏が描かれているのがわかった。金がふんだんに使われていて豪華だ。
- 平家納経 法華経陀羅尼品第二十六
- No.115。発装金具のこまっかい細工が凄い。本紙部分にも金ででっかく朝日だか夕日だかが描いてある。今回出品されている3巻の中では一番素晴らしいと思った。
- 古神宝類 檜扇
- No.140。うっすい檜の皮でできた扇。すげーなあと思って単眼鏡でしげしげと見ていたら、小さい人物にもちゃんと目が描いてあるのがわかった。梅かなんかのような花のニュアンスがリアルだ。
そのへんに置いてあった図録を見たら、どうやらこの扇は何種類かあるらしく、巡回展の他の会場では他のが出品されそうな感じだった。 - 法華経(久能寺経)(鉄舟寺蔵)
- No.169。平家納経と同様・同時代の装飾経で、こちらは鳥羽院を中心とした宮廷の人々によるもの。金泥の草が、何とも言えない優美さだった。意外な良品に出会えて嬉しかった。
他の展示物はほとんど見ないで、平家納経だけを見て過ごした。1時間くらいするとだんだん混んできたので退散することにした。
江戸東京博物館は何度か来ているが、ここはいつも東京見物の団体客が多くて、フツーの美術展とはまったく雰囲気が違う。うるさいし、タバコ臭かったり酒臭かったりするし、なにしろ団体客は美術になんか関心ないのだ。そんなわけではっきり言って鑑賞環境は悪い。さらに今回はそれに加えて、歴史解説らしきイメージ映像が会場でエンドレスで流れていて、しかもそれが寄りによって平家納経コーナーだったので、もう最悪。カナル型イヤホンを耳の奥の方に突っ込んで音楽を聴き、それらの騒音をなんとか掻き消した。iPodからランダムで再生されたのはコルトレーンのバラードで、優しいサックスの響きが平家納経によくマッチした。
「平氏ニュース」とかなんとかいう、新聞体の解説なんかあったりするところからして、やはり美術品の展示館というよりはエンタメ系博物館のような施設なんだろう。まあそう思えば納得できなくもないんだけど、でもなにもこれほどの佳品をそんなへんてこなところで見せなくたっていいのに、とかいう気もしたのだった。だって、こんなんじゃ、落ち着いてじっくり味わえないじゃない。
気に入った陀羅尼品は絵葉書になかった。檜扇のはあったが恐ろしくセンスのない写真だった(扇子だけに)。しかたないので願文と法師功徳品の絵葉書を買って会場を出た。
腹が減ったので、最上階の7階にある桜茶寮という店に入って早めの昼食をとった。平清盛展とタイアップの広島産牡蠣めしはなかなかだったが、その前に飲んだごぼうビールがとてもよかった。ごぼうの香りがする不思議なビールは、飲むとその成分のせいかほんのりと甘みを感じる。

いい気分になって博物館を出て、新宿で買い物をしてから帰った。(江戸東京博物館・2012年1月21日観覧)
December 01, 2011
茶人 畠山即翁の美の世界
茶碗のような焼物には前から興味はあったのだが、BSアニメ『へうげもの』を見始めてから茶道具全般に興味がわいてきた。畠山記念館に、関連番組の『へうげもの名品名席』で紹介された楽茶碗「早船」が出ているので、散歩がてら、見に行ってきた。
畠山記念館は、荏原製作所の創業者である畠山即翁が生前蒐集した日本美術を展示している。年に4回展示替えをしているようだ。この日は秋季展の期間だった。題して「茶人 畠山即翁の美の世界」。
最寄り駅は都営地下鉄の高輪台だが、五反田駅から歩いて行った。駅前の広い坂は相生坂といい、この下を地下鉄が通っている。歩きやすかったが、元々は急峻な坂道だったそうな。高輪台駅から先はちょっと道が分かりにくかったが、ある程度目星をつけておけば、あとは電信柱に付いている案内が頼りになるだろう。
入館はスリッパ履き替えなので、脱ぎにくい靴を履いていくとほんのちょっと面倒かもしれない。
- 赤楽茶碗 銘「早船」
- 実物は、『名品名席』で見るより美しい。思っていたより小ぶりだった。なんと言っても山にかかる稲妻がよい。この補修の跡があるとないとでは大違いだろう。この茶碗を蒲生氏郷と細川忠興が争って求めたという話だが、その時代にはこの稲妻はあっただろうか。
利休直筆の添え書きも展示されていた。「古織」の字も見える。『名品名席』では氏郷と忠興の争いで、織部は関係なさそうな感じだったが・・・ 帰宅後、ネットの海をさまよってみると、興味深い論文があった。宮本武蔵に関する研究だが、添え書きの画像があるうえ、書き下し文に現代語訳まである。これを見ると、『名品名席』の解説は言葉足らずであることがわかる。まあ、放送時間も短いし、しょうがないとは思うけど。 - 伊賀花入 銘「からたち」
- 重文。パンフレットの表にあしらわれるなど、美術館の一推しアイテム。この花入は加賀では有名なものだったらしく、即翁に買われると加賀を離れることになるので批判を浴びたとか。それを即翁が金沢出身だからO.K.という強引な理由で決着。いざ移送という日も、金沢駅に見送りの人が詰め掛け、上野では畠山家の人が正装で「お出迎え」したとか。とかくエピソードには欠かない。
- 古瀬戸肩衝茶入 銘「円乗坊」
- 本能寺の変をくぐり抜けた名器とな。なんとも言えない美しい形だ。
記念館を出てから品川方面へ散歩。『タモリのTOKYO坂道美学入門』で知った高輪消防署二本榎分署が見えてきた。

レトロでいい。しげしげと眺めていると、入口の張り紙の下の方に「見学希望者は受付に・・・」の文字が。えっ、中を見せてくれるの。恐る恐る入るとすぐ受付があった。受付氏はすでに我々を察知していたらしく、「見学ですよね」と向こうから声をかけてもらえた。
内部見学は署員の案内つき。現役の公署でもあるし、へたなところに入られたり、怪我でもされたりするとマズイのだろう。しかも記念絵ハガキ付きである。それでももちろん、タダなのだ。
2階の踊り場を眺めてから3階へ。階段の手すりのシックながらも冷徹な印象の素材は、赤大理石とコンクリを混ぜ合わせたもので、それをピカピカに磨き出したものとのこと。円筒型の3階はかつての講堂で、現在はささやかな資料室となっており、古い消防用具などが置いてあった。それからバルコニーに出て望楼を見上げた。いい雰囲気だ。完成した頃は周囲に高い建物はなく、東京湾まで見渡せたとか。

最後は駐車場に降りて、消防署のイメージのあのすべり棒を見たり、停めてある消防車両を見たり。東京消防庁にも9台しかないというキッチン車両は中も見せてもらえた。なかなかない、よい体験だった。
桂坂を下りたあと、特に行くあてもないので、今度は高輪プリンスまでまた坂を登って旧宮家の邸宅だった貴賓館を眺めてからラウンジでケーキを食べたりしてのんびりしたあと、品川駅へ。途中ウィング高輪に秋田県のアンテナショップがあったので寄ってみると、「アンテナショップスイーツNo.1決定戦 ASS-1グランプリ」で1位をとったという「まち子姉さんのごま餅」なるものがあったので買って帰った。

(畠山記念館・2011年11月26日観覧)
November 27, 2011
横浜プチ散歩
休暇をとって買い物ついでに横浜みなとみらい地区を散歩。横浜税関の資料展示室と、海上保安庁の工作船展示館を見学した。
これらは国の業務の広報施設で、事業仕分けで打ちきられた丸の内のJAXA情報センターなどと同種のものといえる。もちろん、どちらも無料で見学できる。

まずは横浜税関資料展示室へ。
「クイーンのひろば」と名づけられたスペースに、麻薬や拳銃などの密輸防止と、模造品の輸入差止めに関する資料が展示されている。
密輸入の手口は大掛かりなものがいくつか紹介されていた。中古ボートの船底からは拳銃が見つかったり、バドワイザーの缶の中からは麻薬が見つかったり。缶ビールなんかは、乾燥大麻が軽いため、重量調整の重りまで入っていたという。

模造品は押収物が展示されていて、映画DVDだとか、大きなものとしてはバイクがあった。どれも中国からのものばかり。

実物と偽者を並べたコーナーでは、答えが別にカードになっていてクイズ形式。ルイ・ヴィトンは答えを知ってもどっちがどっちか見分けがつかなかったが、ハンティング・ワールドは一発で分かった。

2つめは海上保安資料館横浜館。税関からも近い。赤レンガ倉庫のすぐ海側にでっかく「工作船展示館」とあるのですぐ分かる。
2001年に起きた、九州南西海域工作船事件の工作船の展示室で、以前から見てみたいと思っていたのだ。

館内に入ると錆びついた船がいきなりそびえていて、ちょっとした感動というか、衝撃を受けた。許可のない写真撮影は禁止とあったので、受付の係員氏に恐る恐る申し出ると、自由に撮って構わないとの回答。聞いてみてよかった。

船体の弾痕などを見ながら後ろにまわる。横腹には宮崎の船と偽装するための木片や、工作員が所持していた金日成バッジなどが展示されていた。
船尾にまわると、またまた衝撃が。工作船は、後半部がミニ工作船の格納庫になっているのだ。そのミニ工作船も展示されていた。さらに水中スクーターなるものまであり、まるでマトリョーシカのようだ。潜水具を着た工作員がこの水中スクーターに乗って外国に侵入しようとしていたようだ。

対空機関銃も生々しい。この銃で、海上保安官が負傷させられた。命がけで日本を守る人たちがいるのだ。尖閣諸島事件もあったことだし、多くの国民にもっと知られるべき施設だと思った。
ところで今回、この2施設に行ったのは、平日じゃないと開いてないと思ったからだったのだが、帰宅してから調べたら、どちらも休日にも開いているみたいだった・・・
(2011年11月25日)
November 07, 2011
法然と親鸞 ゆかりの名宝

早来迎が来るというので早割チケットを購入しておいた。早来迎は11月13日までの展示なので、いなくなってしまう前に見に行った。
早来迎の入れ替わりは山越阿弥陀だが、これは以前見たことがある。早来迎じたいも京博でたまに展示されることがあるらしいが、自分は未見だ。
開場10分前の9:20頃に会場に着いた。列は100人程度で大したことはなかった。e-チケットもちゃんと印刷してきたので、バーコード読み取りもスムーズだった。
それでも第1会場の入口は列ができていた。展示リストを見ると第4章に早来迎があるらしいので、第2会場から入ることにした。こちらは人がほとんどいなかった。この日は順番どおりにまわる人ばかりだったようだ。うっしゃ、ラッキー。
- 阿弥陀三尊坐像(浄光明寺)
- No.149。脇侍の顔がよい。本尊には土紋装飾が施されている。土紋装飾とは、花などの模様を型抜きした粘土を貼り付けた装飾法で、鎌倉独特なんだとか。仏像好きを自認していた自分だったが、初めて知ったのだった。まったく修行が足りぬ。
- 当麻曼荼羅縁起(光明寺)
- No.144。中将姫の物語。前期展示は前半部分だ。蓮の糸を染める場面までなのだが、巻物は以外に短かった。
- 本願寺本三十六人家集(素性集)(西本願寺)
- No.186。字や料紙が美しいのはもちろんだが、保存の良さにも驚いた。写真集なんかを見ると、素性集の料紙がどうも一番地味っぽい気がした。一番きらびやかなのは重之集だろうか。
- 阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)(知恩院)
- No.157。これはよい。展示がちょっと暗めなので、明るいレンズの単眼鏡でのぞくと素晴らしかった。阿弥陀如来の截金風の模様も素晴らしいが、自分が感心したのは周囲の菩薩だ。ほっそい糸にビーズが連なっているアクセサリーといい、透明感のある羽衣といい、得も言われぬ美しさだ。
余談だが、自分は「早来迎」という愛称(?)を、まだ死んでいないうちから早く迎えに来るからそう言うのかと思っていたのだが、解説板によると、左上から右下へと流れるような構図が生み出すスピード感が由来だというようなことが書いてあった。
で、第2会場を出て、第1会場からまわりなおした。第1会場の方は典籍や絵が中心。
- 観無量寿経註(西本願寺)
- No.29。修行中の親鸞のおっそろしく細かい書き込み。
- 西方指南抄(専修寺)
- No.36。84歳の親鸞のおっそろしくクセのある字で書かれた、法然の言行録である。
結局第1会場は流し見して、ふたたび第2会場へ。じっくり見てから平成館を出た。東博の特別展にしては空いていて、気持ちよく鑑賞できた。早来迎の絵ハガキを買おうと思ったが、印刷があんまりにもあんまりだったので止めた。図録はそもそも買う気がなかったので、今回はお土産なしという結果になった。
あとは法隆寺館、本館とまわった。法隆寺館は大好きなお面の部屋は閉まっていたが、聖徳太子絵伝が出ていた。これは随分久しぶりな気がする。本館には、毎週観ているBSアニメ『へうげもの』の主人公・古田織部の作品などがあった。茶杓はテレビのまんまだし、無礼極まりない(らしい)手紙なんかは、あの番組のあの古織様のイメージにぴったりだと思った。長次郎の茶碗なんかも面白い。どうもあの番組(と、合わせて放送される『へうげもの名品名席』)を見始めてから、自分は茶道具の見方が変わった気がする。
裏の庭園の公開時期だったが、もちろん紅葉はまだまだで、鳥もカラスとカルガモしかいなくて特に収穫なし。
最近は昼食は博物館内で済ませることが多かったので、今回はちょっと考えて、上野名物の豚カツを食べに行くことにした。御三家のうち博物館に一番近い双葉は行列ができていたので、次に蓬莱屋に行ったら入れた。いやに黒い衣のカツを見たときは、これ失敗作だろ、と一瞬思ったが、ちゃんと柔らかくて旨かった。衣もサクサクだった。不思議だ。生ビールを2杯飲んだら気持ちよくなった。

(東京国立博物館・2011年11月5日観覧)
September 05, 2011
空海と密教美術展

西洋美術のピカソや印象派と同様に、空海関連の展覧会は食傷気味だ。企画を知ったとき「また空海かよ」と思った。しかし「国宝・重要文化財98.9%」を謳っているので、しかたなく早割チケットを購入しておいた。夏は山登りをするのでなかなか観に行けなかったが、9月に入ってようやく時間ができた。
正直言ってまったく期待していなくて、東寺の仏像を間近に見られるという一点だけが興味の元だった。なわけで、いつもは美術系のブログなどで情報収集してから出かけるのだが、今回はまったくそんなこともせず、PDFの作品目録も事前にダウンロードしたのだが、あまりの見難さに読みもせず。
電車の時間も調べずにテキトーに出かけたら上野駅に着いたのは9時半を少し過ぎたころだった。台風接近の最中という影響もあるのか、電車は結構すいていた。
電車もそうだが、博物館もさほど混んでいなかった。平成館の入場口も人は少なかった。今回はペアチケットの紙はファインモードで印刷してきたので、バーコード読み取りもスムーズだった。
どうやら聾瞽指帰やら風信帖やらが出ているらしいが、典籍は今更感がたっぷりで、優先順位は低い。第一会場の終わりの方に仏像があるっぽかったので、とりあえずそちらから入ってみた。
- 女神坐像(東寺)
- No.50。神像にはあんまり興味がないのだが、その最古の遺例と言われると、印象も違ってくる。女神は2体あって、手の形とかが微妙に違う。今回はそのうち1体が出展されている。過去にも1体見たことがあるのだが、果たしてどっちがどっちだったやら。
- 薬師如来坐像(獅子窟寺)
- No.88。今回見たなかで一番感銘を受けた。こんなにいい仏像があったなんて。今まで完全ノーチェックだった。
正面から見ると違和感を感じるのは、おそらく下から見上げるように造られているからだろうと思った。そこで、少しかがんで見てみると、実に慈悲深いいい顔になった。また、向かって斜め左から見ると、おっそろしく切れ長の眼が引き立って美しかった。唇から頬にかけては観心寺の如意輪観音と似ているというが、一緒に見た相棒は、吉本新喜劇の烏川耕一の唇に似ていると言っていた。
とにかく、この像を見たとき、この展覧会を見にきてよかったと思った。帰宅してから早速図鑑類を見てみたが、本物のあの雰囲気は感じられなかった。そういえば、お土産コーナーの絵はがきも、あの素晴らしさは微塵もなかった。きっと、カメラの前ではオーラを消し去る術を身につけているのだろう。 - 法界虚空蔵菩薩・蓮華虚空蔵菩薩坐像(観智院)
- No.94,95。唐から将来したもの、らしい。他に居並ぶ像と顔がまったく違う不思議な雰囲気の像だ。
- 降三世明王立像(東寺)
- No.61。明王よりも踏みつけられているシヴァ神とその妻に目がいった。シヴァの方は、明王の持った錫杖で頭をカッコンされている。
- 増長天立像(東寺)
- No.66。これまた踏みつけられている邪鬼に目がいった。2体の邪鬼のうち、向かって右のやつは後ろ向きなので、このような360度から見回せる機会がないと見ることができない。で、この後ろ向きのやつの顔がもうとんでもなくブサイクなのだった。
- 帝釈天騎象像(東寺)
- No.64。東博内の看板にも使われている。すげースカしているが、憎いほどのイケメン像だ。胸板が異様に厚いだけの梵天よりは、現代風でよっぽどいい男だと思うのだがどうだろう。
象の耳がおもしろい。きっと、象なんて見たこともない人が、絵とかを参考にして作ったからだろう。それでもそこそこのずっしり感があるのは、表現力があるからなのだろうか? - 兜跋毘沙門天立像(東寺)
- No.24。東寺の像の中でも好きなもののひとつだ。関根勤に似ていると思っている。服装の模様がかなり変わっている。これまた唐からの将来品らしい。
帰り際に第1章の部屋にも入ったが、人が多くてやはり典籍類はよく見られなかった。聾瞽指帰が1巻まるまる全部を展示してあったのには驚いた。
仏像の展示は、へんな立体曼荼羅がどうとかよりも、ライティングがよかったと思った。陰影もあまりくどくなく、双眼鏡で見ると立体感がいや増す。
法隆寺館のオークラで早めのランチを食べて、法隆寺館・本館をのんびり見てまわった。
法隆寺館のお面の部屋は開いていた。本館は2階の貴賓室が特別に開いていて、中を見ることができた。相変わらず刀のコレクションが良かった。ちょっと意外だったのは、数年前オークションで巨額で落札されて有名になった運慶作の大日如来像が展示してあったこと。どうやら東博に寄託されているようだ。
(東京国立博物館・2011年9月3日観覧)
July 01, 2011
放浪の天才画家 山下清展
BS日テレの『ぶらぶら美術・博物館』で興味を持ってしまった展覧会。山下清展は2005年3月に観ているのだが、そのときは会場がデパートの催事場で、美術展という環境ではなかった。今度はちゃんとした美術館だ。
千葉県立美術館に行くのは初めてだ。東京駅からひっさしぶりに京葉線に乗る。ディズニーランドと同じ路線なので大混雑を覚悟したが、まあそんなことはなくて、ちゃんと東京駅から座ることができた。それでもやはり舞浜駅で大半の人が降りてしまい、美術館最寄り駅の千葉みなとで降りる人はあまり多くはなかった。
駅前に出ても、歩いている人も少なくて、ほどよくローカル感が漂う。美術館への道中には警察署や国交省の建物なんかがあるのだが、その割には官庁街という雰囲気でもない。美術館みたいな施設って、(特に公立の場合は)人の集まるとこに作るもんだと思うのだが、ここはちょっと違和感があった。
とにかく、家から電車を乗り継いで、2時間近くかかって美術館に到着したのは9時半だった。
入口から中を覗くと、天井の高い展示室の中には意外にも大勢の観客がいた。
- 長岡の花火
- No.83。これを見ると右端がちょっと空いているのがいつも気になるのだが、間違いなく代表作だ。
- スイスの町
- No.87。遠くのアルプスの山並みが美しい。ちぎり絵なのに、ちゃんと尾根と谷がわかるのが地味に凄い。
- ロンドンのタワーブリッジ
- No.89。船の乗客に注目せよ、と案内板に書いてあったので見てみると、なんとまあ実に細かい仕事だ。たまたま単眼鏡を持っていたので拡大して見てみると、意外にも味わいがなくなるのが不思議だ。
以前観たときは橋の上の金網の立体感が凄かった記憶があるのだが、この日はさほど凄くは感じなかった。その後に修復を経たからなのだろうか? - ベニスのゴンドラ風景
- No.102。水彩。街燈が近景に大きく描かれる、『富嶽三十六景』とか『江戸名所百景』みたいな浮世絵的構図。
- ベニスのサンマルコ寺院
- No.101。水彩。なぜか今展で一番のお気に入り。構図が美しい。人間を描くのは下手くそなのが、らしくていい。これにも街燈が中心に描かれているが、こういうものが好きだったのだろうか。
ヨーロッパ旅行での作品は水彩画が多いが、これらはいずれもペンで輪郭や点を描いたあと、水絵の具で彩色しているもの(本来なら作品リストにも「ペン・水彩」とか表記すべきところだろう)。水彩ということもあろうが、色の濃淡は絵の具のグラデーションではなくて、ペンの点描で表現されている。これが独特の味わいがあってイイ。 - 群鶏
- No.160。有名な伊藤若冲の模写。この油彩が実に素晴らしい。油絵具は乾くのに時間がかかって塗り重ねられないため清は嫌ったという話だが、実にもったいないと思った。この作品を見たら、たいていの人は清が「東洋のゴッホ」と言われることに納得してしまうだろう。わたし自分は、ゴッホなんかよりずっといいと思うのだけど。
- 東海道五十三次
- No.104〜158。展示されていたのは、ペン画を元にした版画だった。どれも構図が美しく、それは離れたところから見るとよく分かる。(人間以外は)描写もピカイチで、風景の切り取り方も面白い。
また、それぞれの町に関する清のコメントが面白い。「○○は△△なんだな」という、あの独特の口調のコメントをずっと読んでいると、思わず伝染りそうになってしまう。
何しろ家から遠いので、そんだけ遠出して面白くなかったらガッカリ度が高いという心配があったのだが、そんなのはまったくの杞憂で、なかなか味わい深い展覧会だった。ボイスなんちゃらがないので人が滞留しないし、展示室も広く開放的で気分がいい。というわけで、最初は30分くらいで見終えるつもりだったのが、結局2時間かかってしまった。
客層は、子供連れとお年寄りが多いような気がした。中学生以下と65歳以上が無料だからだろうか。そのせいか会場はざわざわした感じはあったが、自分には許容範囲だった。
会場から出ようという頃にはかなりの人出になっていた。図録は迷ったけど、買わなかった。やっぱり貼絵は 3D がいいと思ったからだ。そのかわり、ペン画作品を中心に絵はがきを7枚買った。会期末に近いせいか、チラシがなかったのは残念だった。
千葉みなとの一帯にはあまり興味をひく食事処はなかったので、新宿まで行ってから昼食をとり、帰った。
(千葉県立美術館・2011年6月26日観覧)
June 13, 2011
パウル・クレー | おわらないアトリエ
クレー単体の展覧会を観るのは、1993年 Bunkamura の「パウル・クレーの芸術」以来だ。このときは、時系列展示のオーソドックスな回顧展だったと記憶している。死の直前の作品のいくつかが、特に印象に残っている。図録と絵はがきを買って、今でも時折見返している。
今回の展覧会はちょっと趣向が変わっていて、クレーの作品製作過程にスポットをあてているんだとか。前売券もきっちり買って開催を待ちわびていた。
この日は晴れたら山登り・雨だったらクレー展と決めていたが、週間予報は7日前からブレることなく雨を予告。当日、予報はぴたりと的中して朝から本降りの雨だったので、予定どおり竹橋へ出かけた。
国立近代美術館に入るのは、よくよく考えてみたら20年ぶりのような気がする。そのときはルドン展だった。
主催が日経新聞で宣伝もあまり目立たないし、そのうえ雨降りなので、どうせそんなに混んでいないだろうと適当な時間に家を出たら、竹橋に着いたのは10時半近くになっていた。
駅の出口でなんか胡散臭いおっさんが立ってタバコを吸っていたので、迷惑ジジイどっか行けと思って睨んだら、にこやかに「ほら、これ、放射能測定器」とか言って傍らを指差すので見てみると、三脚にビデオカメラみたいなのが設置してあった。そこで、つい、思わず、うっかり、口がすべって、「タバコの方が危ないんじゃないの」とか言ってしまった。するとジジイは烈火のごとく怒り出して「そうじゃないんだよ!!」などと怒鳴りだした。ヤベー。こういう連中と関わり合いになると大変なので、慌てて逃げた。後ろでまだ「危なくなんかねーよ!!」「バッカじゃねーの!!」とか叫んでいるのが聞こえた。信号を渡ってから振り返るとジジイはタバコを道路脇の排水口に捨てていた。
のっけからヘンなものを見て気が重くなったが、美術館に入り、相棒がトイレに行っている間に入口付近にある革のイスに腰かけたら、座り心地がとってもよくて、気分が晴れた。東博の法隆寺宝物館にあるのと同じイスだ。マリオ・ベリーニという人のキャブ・チェアというものらしい。
会場内はまあまあの混み具合だった。
- 花ひらいて(1934,199)
- No.022-R。チケットにあしらわれている作品。また、公式サイトのトップも飾っているところからして、展覧会の一番のウリの作品ということだろう。カラフルでリズミカルで、いかにもクレー的なコンポジション。1993年展ではこの前作の『花ひらく木』(1925,119)だけが出品されていた(今回は両方出ている)。1934,199 は、1925,119 よりも色調が明るくて好感度抜群。いったいどうして、こんなジグソーパズルみたいな絵が心に響くのか不思議でしょうがない。
1925,119 を横にして拡大するとこの 1934,199 になり、それは時間を経ているから4次元的な表現だとかなんとか解説があったが、そういう解釈とかはコジツケくさくてなんか好きになれない。 - プロセス1 | 写して/塗って/写して || 油彩転写の作品
- 本展の目玉である、クレーの作品製作過程を検証したコーナー。これは感心した。クレーは、黒い油絵の具を塗った紙を、裏返してカーボン紙のように使って、素描を転写していくというテクを使っているという。実際にその素描と、転写した色付きの作品が並んでいるのでよくわかり、面白い。
反面、後のプロセス2と3は、どうかなあと思った。作品を切って分割することで儲かるからやったんじゃないかと思ってしまうのだ。まあ、どこで切っても作品としてなりたってしまうところが凄いのかなとも思う。 - 襲われた場所(1922,109)
- No.163。横の縞々や矢印を見て、ジャン・ミシェル・フォロンを思い出してしまい、フォロンはさぞかしクレーから影響を受けたのだろうなあと思ったが、帰宅してフォロンの画集を見てみると全然違ってた。フォロンの方がずっとポップだ。テレ東系『美の巨人たち』の7月2日O.A.分はこの作品がテーマになるらしいのでちょっと楽しみだ。
余談だが、この絵の邦題は1993年展では『当惑する場所』となっていた。しかし、原題の『Betroffener Ort』を翻訳サイトで訳してみても、「襲う」も「当惑」も出てこなかった。 - 山のカーニバル(1924,114)
- No.166。これ、水彩だっていうことだけど、線がもの凄く細かい。毛の筆じゃないように思えるけど、どうやって描いたんだろうか。
- 嘆き悲しんで(1934,8)
- No.177。1993年展で見て印象の強かった作品。微妙なグラデーションが美しい。明らかに人の顔なんだけど、これって具象なんだろうか、抽象なんだろうか。
ちなみに、この作品も1993年展は邦題が違っていて、『喪に服して』というものだった。
なんだかんだ言って、結局印象に残った作品は最後の「"特別クラス"の作品たち」のものが多かった。また、コンポジションをいくつか見ていて、3年前に観たエミリー・ウングワレーを思い出した。もちろん、クレーとエミリーとはなんの関連性もない。不思議なものだ。
総じておもしろい展覧会だったが、通常の展覧会とちょっと違って気になった点がある。それは、
- 作品の観覧順序がひっじょうにわかりにくい
- 会場内にはイスが一切ない
公式サイトの東京展会場風景にはデザイナーさんのイラストやメモなんかがある。たしかに、行ったり戻ったり自由なところはクレーの作品のイメージと似ているかもしれない。自分はどちらかというと、作品さえ見られれば順番なんかどうでもいいよ、というタイプだから、このコンセプトには賛成できる。けれど、現実にはそんなこと言ってられなくて、自分が今どこにいるのかとか、全作品をちゃんと見終えたのかとか、そんな程度のことが分からなくなってしまう。たとえば壁の色をプロセスごとに統一したりすれば、もうちょっと迷子が減るんじゃないかと思うが、まあそんなことも考えたうえでのこの仕様なんだろう。
絵はがきを10枚ほど買って会場を出た。その後は2階のレストラン「アクア」に入った。自分は鶏肉チーズ焼き、相棒はベトナム風サラダを注文。スパークリングワインと白ワインをグラスで飲んだ。美術館のレストランにしてはなかなかだったが、ちょっと塩が薄かったり、野菜が水っぽいような気がした。どちらかというと薄味が好みな自分がこう思ったのだから、普通の人には物足りない味なのではないだろうか。
レストランを出るとちょうど雨があがったところだったので、皇居東御苑をぶらつくことにした。タイサンボクの花の香りを楽しみつつ、天守台から二の丸・三の丸と歩き、最後に大手門近くの切込みはぎ石垣の美しい模様を見たとたん、クレーのコンポジションを思い出した。

(国立近代美術館・2011年6月11日観覧)
June 01, 2011
写楽展
相棒は大の写楽ファン、自分は第1期だけが好きなまあまあの写楽ファン。写楽の確認されている145作品のうち、ほぼすべての140作品が揃うということで、早割ペアチケットを購入して楽しみにしていた展覧会。当初4月初旬から開催の予定だったのが震災の影響で延期になった。
展覧会のチケットをインターネットで買ったのは初めてだった。クリッククリックであっさり購入完了。あとは紙に印刷して当日持っていく、というシステムらしい。こんなんでホントに大丈夫なのかなあと不安に思ってしまう。引き換えにチケットが届くとかなら違和感はないのだが、自分で印刷して持っていくとか、昭和な自分には展開が未来的すぎてわけがわからない。
9時20分くらいに着くと、ちょうど門が開いて入場が始まったところだった。印刷して持ってきたA4のチケットを門番氏におそるおそる見せると通してもらえた。しかしまだ建物には入れず、庭に行列を作る。恐れていたほどの混雑はなく、薬師寺とか北斎に比べると楽勝ムードだったが、これは会期中盤だからなのか、それとも主催に大新聞がからんでいないからなのか。さすがにもうあの自粛ムードではないだろう。
よく晴れていて、遮るもののない庭では初夏の日差しが暑かった。
入館が始まり、いよいよ自分たちの番がやってきた。インターネットチケットは普通のチケットとは別の専用ゲートに行く。バーコードでナンバーを読み取り・確認して、晴れて入場となるのだが・・・予想通り、自分たちのはバーコード読み取りができず。印刷品質をエコノミーにしたせいかもしれない。受付のおねえさんが2度、3度と機械をかざしているうちに、隣の紙チケットゲートからはどんどん人々が入ってゆく。結局、バーコードの下に打ってある数字を打ち込んで確認がとれ、ようやく入場できた。
おねえさん曰く「よくあることですよ」
って、そんな・・・
なお、印刷してきた紙はここで没収されて、半券と交換された。半券の下部には会期変更の黄色いシールが貼ってあった。
公式サイトの「混雑状況」のページに会場の見取り図があったので、事前に見たいところはチェック済み。最初の方は写楽以外の作品ばかりなので後回しにして、いきなり第4コーナー「版の比較」から見た。これは、同じ作品を並べてみて、保存状態などの違いを比べてみようという企画だ。まだここまで到達している人は少なくて、会場はがらがら。
「二代目嵐龍三の金かし石部の金吉」は、着物の模様がはっきりと違うのがよく分かる。
「谷村虎蔵の鷲塚八平次」も、着物の色がまったく違う。また、月代の色が残っているものとそうでないものがあり、それだけでもまったく雰囲気が違う。
「三代目瀬川菊之丞の田辺文蔵女房おしづ」は、個人蔵のものの美しさが際立っていた。色合いはもちろん、色の塗られていない部分がとてもきれい。紙が焼けていない感じで、まるで復刻版のようだ。よほど保存状態がよいのに違いない。
上記は保存状態の違いだが、「初代尾上松助の松下造酒之進」は、家紋が違う。尾上松助の家紋は扇の中に○で囲った松の字というデザインなのだが、一方はその○が塗りつぶされていて●になっており、もう一方はちゃんと○に松だ。どうやら前者は、彫師の彫り忘れなんじゃないかということらしい。後から彫り直したというのだ。それでも、よぅく見てみると、塗りつぶされた中に松の字がうっすらと見えるのがわかる。
こんなようなことが分かるのも、現物ならではだと思うのだ。
第5コーナーからは「写楽の全貌」ということで、写楽の全作品を年代順に並べたもの。
やはり第1期が白眉。自分にはあとはイマイチだった。よく言われることだが、2期以降、どうしてこうも変わってしまったのだろうと思ってしまう。
第6コーナーが「写楽の残影」で、写楽に影響を受けたと思しき浮世絵師の作品。展示数自体は少ない。
歌舞伎堂艶鏡とか歌川国政とか、聞いたことない絵師の作品は、確かに写楽っぽいけど、どうにも下手くそでしかたない。クレヨンしんちゃんとかみたいに、絵が破綻している。同じように描いてもちゃんとしている写楽がいかに凄かったか、ということか。
そこ行くと、豊国はさすがだ。「四代目市川団蔵の毛谷村六助」なんかは、ぎょろ目とぶっとい線の迫力が素晴らしい。自分は豊国という絵師が結構好きだから、贔屓目に見てしまうのかもしれないが。
もう1回「写楽の全貌」をまわってから、第1・第2コーナーに行ったときには、もうこちらは大混雑で見る気が起きなかった。よくよく見たら、歌麻呂の有名な「三美人」とか「ぽっぺんの女」とか「山姥と金太郎」とかがあったが、もう写楽でお腹いっぱいだった。
お土産は奮発して、第1期全28枚絵はがきセットと、「谷村虎蔵の鷲塚八平次」の扇子と、大谷鬼次の目などがデザインされた風呂敷と、付箋と、図録を買った。図録の巻頭言には、震災のお悔やみと、会期延長のお詫びが載っていた。よく間に合わせたもんだと思った。

9時半に入場して、平成館を出たのは12時ちょっと前。さすがに疲れた。とりあえず昼食に東洋館の精養軒に行ってみたら、いつの間にかオークラのレストランに変わってた。初めて東博に来たのは高校時代だから、かれこれ四半世紀も前になるが、その頃すでにここは精養軒で、名物のハヤシライスは結構好きだった。一抹の寂しさを覚えつつも注文した写楽展限定煮込みハンバーグセットはなかなか美味だった。煮込みと言えばデミグラが定番だが、これはトマトがかなり効いているのが面白い。
ところで、会場のどこを見回しても写楽展のちらしが見当たらず、もしかして会期が変更になって撤収してしまったのかと思ったら、このレストランでようやく発見できた。ひょっとしたら、会期半ばを過ぎて、すでに貴重品となっているのだろうか。
食事後は、本館の「写楽に挑戦!」とかいうコーナーで多色刷りを体験。これがなかなか難しい。

さらに法隆寺宝物館の季節限定のお面の部屋を満喫。ここのひっそりとした雰囲気は最高に素晴らしい。
博物館を出てから、御徒町で買い物などをして帰った。
(東京国立博物館・2011年5月21日観覧)