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弁護士川井信之のビジネス・ロー(企業法務)・ノート

東京・銀座の弁護士が、会社法・ガバナンスなど、企業法務に関する話題を中心に情報発信するブログです。

2011年10月

31 10月

10月も今日で終わり/ハロウィーン

 今日(10月31日)で10月も終わりですね。今年もあと2ヶ月ですか・・・早いものです。
 さて、誰も待っていないでしょうが(笑)、毎月月末恒例の、今月のカレンダー画像です。

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 今月は結構ちゃんとしたカメラ(といってもキヤノンのG-10ですが)で撮影してみました。
 ニューヨーク、タイムズ・スクエアの景色ですね。
 そういえば、昨日、10月としては記録的な雪がニューヨーク・マンハッタンに降ったというニュースが日本のテレビでも放送されていました。

* * *

 さて、そろそろ来年のカレンダー(事務所用+一部の自宅用)を準備しよう、とのことで(早いものです・・・)、週末、丸善の丸の内店に行って、カレンダーを購入してきました。丸善では、既にカレンダー・フェアが開催されており、そこそこの人出でした。

 事務所の会議室の来年用のカレンダーは、こちらです。↓

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 そうです。今年のカレンダーと同じシリーズで、またニューヨークです。。。ワンパターン過ぎたか(笑)。
 でもこのシリーズ、輸入品ですが、輸入物にしては珍しくデザインセンスが良く、個人的にはとっても気にいっているもので・・・。


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 ↑ これはおまけ画像ですが、自宅用に買ったカレンダーです。

 左のものは、わかりづらいですが、モネのカレンダーです(2ヶ月1ページもの)。自宅の玄関近くの廊下に貼るカレンダーは、ここ何年も、東山魁夷かモネのどちらかに決まっているのですが、来年のカレンダーは、お店で中味を比較した結果、2年連続で、モネに決定しました。それ以前は、東山魁夷を3年連続くらいで使っていたかな。

 右のものは、木村透という写真家の方のカレンダーです(1ヶ月1ページもの)。自宅の某部屋に毎年貼っています。この方のカレンダーは、もう使い始めて4年目くらいでしょうか。モノクロながら、センスのある海外の風景が楽しめます。この方のカレンダーは、毎年特定の国の景色をとりあげており、今年はスイス、去年は確かクロアチアだったと記憶しています。

* * *

 さて、今日(10月31日)はハロウィーンだったので、事務所でも少しハロウィーンぽくしよう、と考え、ハロウィーンのデザインの入ったケーキを買いました。

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 ↑ 銀座「マキシム・ド・パリ」でケーキを買いました。


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 ↑ 左が「ポディロン・モンブラン」、右が「とろりかぼちゃプリン」というそうです。両方ともハロウィーン限定販売とのこと。


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 ↑ 私はモンブランを食べましたが、しっかりした味で、美味しかったです。さすがマキシム・ド・パリ。味は安定しています。

* * *

 なんか、スイーツ女子みたいなブログ記事になってきましたので(笑)、本日はこのへんで・・・。今日は写真ばっかりですね。。。
 明日は、通常の法律記事を書かせて頂く予定です。
30 10月

大王製紙の特別調査委員会報告書を読んで/その他

 さて、しつこく告知させて頂いております(すみません・・・)、私主催の法律セミナー「会社法改正の最新動向~実務家から見たポイント」(講師:川井信之)(開催日:2011年11月24日(木)18:45~20:15)ですが、おかげさまで、募集開始後約10日で、合計30名のお申し込みを頂き、当初予定していた定員30名に到達いたしました! 申込み頂いた皆様、本当にありがとうございます。感謝感激です。

 なお、会場は実は、席の構造上、あと約10名くらいは十分入場可能となっておりますので、申込の募集を引き続き承っております。皆様、何卒お気軽にご参加お申込み下さい。
 (↓ セミナー開催の詳細に関するブログ記事)
 
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/4707816.html

(というか、あと10名くらい入場できるんだったら、「定員30名程度」って書くのではなく、最初から「定員40名」って書いて募集すれば良かったのでは、という突っ込みがあるかもしれません。。。しかし、果たして何名の方々からお申し込みがあるか全く予想できない状況でしたので、仮に「定員40名」って書いて応募した後で、申込者数が一桁とかだったら相当寂しいかも、と思い、当初の定員を敢えて少なめにさせて頂いた次第です(笑)。すみません、単にちょっと自信がなかっただけです。。。)

* * *

 もう一つすみません、こちらもお知らせになりますが、第一法規株式会社様が発行されている「会社法務 A2Z」という月刊の法律雑誌に、オリンパスの例の内部通報に関連する配転命令事件の東京高裁判決についての解説記事を書く機会を頂きまして、先週末、脱稿いたしました。来月末に発売の号(12月号)に掲載される予定とのことです。

 それほど斬新な事を書いた訳ではないのですが(そこまでの能力はありませんので・・・)、できる限りわかりやすく丁寧に、判例の概説と実務上のポイントをまとめさせて頂いたつもりですので、もし機会がありましたら、ご覧頂けますと大変幸いです。

* * *

 さて、既に多数の報道がなされておりご存じの方々も多いかと思いますが、大王製紙の件、先週の金曜日である28日に、特別調査委員会の調査報告書(10月27日付)と、それを受け手の社内処分等を記載したプレスリリースが発表され、同日、記者会見も開かれておりました。
 調査報告書やプレスリリースは、会社のHPにアップされております。

 そこで私、この日曜日に、調査報告書を読んでみました。

 調査報告書には、事実の経緯、問題となった本件貸付についての実態やその際の社内手続の履行の有無、返済状況、会社関係者の対応や、本件貸付が行われた原因や、本件が早期に発見・防止されなかった理由、本件貸付に関するコンプライアンス上の問題点や改善策について、比較的詳細な分析と説明が展開されております。

 報告書からは、特別調査委員会のメンバーの皆様が、選任された9月16日から10月27日までという比較的短い期間内に、できうる限りの労力で本件の調査を行い、同書をまとめられたことが窺え、そのご努力には率直に経緯を表したいな、と思いました(私ごときが偉そうに言うことではないですが・・・)。
 
 この報告書を読んで、目についたこと、思ったこと等を羅列してみますと・・・。

・元会長は、本件貸付の使途については、報道されているような「カジノのため」という使途は認めておらず、「FX取引や株式投資にかなり使った」と述べるだけで、それ以上の具体的な説明をせず、その後予定されていたヒアリングにも出席せず、FX取引等についての裏付け資料を提出していないそうです。そして報告書は、使途に関しては、「遺憾ながら現在まで使途を明らかにするに至っていない。」と締めくくっています(同報告書7頁)。
 これは、もともと調査に強制力を有しない外部調査委員会の構造的な限界なのだろうな、と思いますので、やむを得ないところですが・・・。

・本件貸付については、今回の問題が発覚した今年9月より以前に、大王製紙の複数の取締役が、本件貸付の事実を知っていたそうです(特に、経理担当の取締役は、昨年の7月から承知していたそうです)。また、同社の監査法人も、昨年7月の時点で本件貸付の事実を知っていたものの、具体的な使途を詳細に確認することはしなかったとのことです。そして、これらの役員等は、みな、本件貸付について、他の取締役に問題点として情報を共有化させることをしなかったということのようです。
 こうなってきますと、本件は、少なからぬ役員が事実を今回の問題発覚前に把握していながら、社内で適切に処理することが(今回報道が大きくなるまで)できなかった、ということなのだと思います。本件は、きちんとガバナンスが働いていれば、もっと早期に会社の問題として把握し、適切に処理できたかもしれないところ、それが残念ながらできなかった、その結果マスコミで大きく報道され企業イメージを損ねるという悪い結果をもたらしてしまった、ということなんだろう、と思います。

・今回の報告書は、子会社の株主構成や会社の沿革等から、創業者の意向が絶対的で、創業者には「絶対的に服従するという企業風土が根付いており、それが本件発生の基盤となった。」という点に、本件の問題の原因があるとしています。(同報告書18頁ほか)
 本件のような、創業者やオーナー自身の一部が不適切な行為をした場合、そのような行為を二度と起こさないようにするにはどうしたらよいか、という問題は、コンプライアンスの中でも最も難しい問題ではないかと思います。何しろ、社内で一番監視・監督する力のある人間が不適切な行為をした訳で、そのような者の行為を適切に監視・監督することは事実上非常に難しいであろうことは容易に想像できるからです。こうした場合の再発防止策について、報告書にも具体策がいくつか記載はされておりますが、それらの具体策で本当に効果的な防止策となっているのかは個人的にはやや懐疑的でして(もちろん、現実的に取り得るベストの策を志向したのであろうことはわかるのですが)、実際上、なかなか効果的な手段というものはないのかもしれない、とも思っているところでして、この点は、本件に限らず、更なる議論の深化が必要なのではないか、と思いました。

・本件のように、子会社から貸付をする際に必要な社内手続(子会社取締役会の承認など)を経ていなかった場合、子会社の役員は、役員として損害賠償責任を負うことにもなりうる、と思われます。
 これとの関連で、もし現在法制化が検討されている多重代表訴訟制度(親会社の株主が、子会社の役員に対して代表訴訟を提起しうる制度)が既に導入されていたならば、本件のような事態を結果的に防ぐことができたであろうか・・・と考えていくと、非常に興味深いものがあるように思いました。

 以上、ほとんど感想程度の内容で恐縮ですが、報告書を読んで思ったことをいくつか書かせて頂きました。
27 10月

会社法上の「内部統制システム構築義務」について思うこと

 私主催の法律セミナー「会社法改正の最新動向~実務家から見たポイント」(講師:川井信之)(開催日:2011年11月24日(木)18:45~20:15)(参加費:1000円)ですが、引き続き申込を募集しております。残席はまだいくらかございますので、何卒お気軽にご参加お申込み下さい。
 (↓ セミナー開催の詳細に関するブログ記事)
 
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/4707816.html

 (しつこくて本当にすみません、毎度の告知です・・・。募集開始約1週間で、参加申込者が25名になりました!なんとも嬉しい限りです。)

* * *

 さて、本日は、忘れた頃にやってくる、中村直人先生の近著「判例に見る会社法の内部統制の水準」(商事法務)を拝読して思ったこと、第2弾の記事です。
 第1弾をいつやったか実は忘れてしまいましたが・・・(笑)、2週間くらい前だったかな。

1.
 内部統制システム構築義務に関して、取締役等にその義務違反があったか否かという点が争点となる裁判例というものが、まだ数はさほどでもないものの、近時いくつも見られるようになっており、それらの判例の内容は、上記の中村先生の書籍の中でも紹介されているところです。
 日本の裁判例の中で、内部統制システム構築義務について言及した嚆矢となった判例は、(超有名ですが)大和銀行株主代表訴訟事件一審判決(大阪地裁平成12年9月20日判決)であり、近時の有名な判例としては、日本システム技術事件判決(最高裁平成21年7月9日判決)があります。
(なお、日本システム技術事件は、会社の代表者の不法行為責任(会社法350条)の有無が問題となった事案です)

2.
 内部統制システム構築義務というのは、具体的には会社法上のどのような義務から導かれるかについては、中村先生は上記の書籍では、善管注意義務から導かれるものである、と結論付けておられます(同書49~50頁)。

 他方、例えば、日本システム技術事件の判例評釈において、高島志郎弁護士(同事件の訴訟代理人をされています)は、次のように説明しています(「日本システム技術事件最高裁判決の検討」旬刊商事法務1876号31頁)。
 「内部統制システムは、取締役の監視義務を具体化するものであり、業務の遂行状況をすべて直接に監視できないほどの規模の株式会社において、内部統制システムを構築し、これを機能させることによって監視義務を果たしたものと認める機能を有する(その意味で、取締役の監視義務の履行方法の手段であって、取締役に新たな義務を課すものではないと考えられる)。」
 すなわち、高島先生は、内部統制システム構築義務というものを、取締役の監視義務の一環と捉えるお考えに立っておられます。

 他方、中村先生は、取締役の監視義務と捉える説に対しては、必ずしもそれに収まるものではないとして反対しており(前掲書48頁)、結論として、上述のとおり、善管注意義務から導かれるという説を採る訳です。

3.
 ただ私がここで言いたかったことは、上記の点について善管注意義務説と監視義務説のどちらに立つか、ということを詰めて議論したい訳ではなく、内部統制システム構築義務というものが、善管注意義務とか監視義務といった、従来から存在する義務概念にその根拠を持つ規定であるということです。

 しかしながら、(ここは私の印象なので、誤っている可能性もありますが)近時、企業不祥事等で役員の責任が問題になったりする場合には(訴訟外であれ訴訟の場合であれ)、善管注意義務違反・監視義務違反という議論よりも、むしろ内部統制システム構築義務違反というものがメインになって議論されたり争われたりする場合が出てきている(増えてきている?)、と思われます。
 
 さて、このように善管注意義務違反または監視義務違反の中核的問題として内部統制システム構築義務違反が争われる場合に、理論上注意しなければならないのではないか、と個人的に考えていることが2つあります。

 1つは、「内部統制システム構築義務」とはいっても、役員の義務としては、「構築」義務だけ果たせばいい訳ではなくて、一旦「構築」したシステムが適切に「運用」され「機能」しているか(また一旦「構築した」システムが時代に合わない等になった場合には、改めて「再構築」しているか)まで含まれるはずだ、ということです。いかにきちんとした適切なシステムが「構築」されたとしても、それらが実際に社内でシステムどおりに「運用」されていなかったり「機能」していなかったりされなければ意味がなく、そうした点についても役員は義務を負うと考えるべきと思われるからです。
 したがって、ワーディングとして、内部統制システム「構築」義務、という言葉が現在メジャー化しているため、同義務の内容について「構築」だけすればいいかのように誤解されかねないのは、実は個人的にはよろしくないように思っておりまして、内部統制システム「構築・運用」義務、みたいな言い方をするのが適切ではないかなあ、と思っております。
 また、内部統制システム構築義務が争点となった裁判例上も、ワーディングに引っ張られているかどうかはわかりませんが、内部統制システムがいかに「構築」されているか否か、というシステムの内容の吟味に判断の重点が置かれている場合が多く、そのシステムが適切に「運用」「機能」しているかについて、余り明確に判断されていない場合も見受けられるように思っています(もっとも、個々の判決を見ると、「実質的には」システムの運用面も踏まえて判断しているのが通常であるようにも思えますが)。

 2つ目ですが、内部統制システムに関しては、内部統制システムが「構築」され、適切に「運用」されているだけでは役員の義務が履行されたと言うにはまだ不十分で、さらに、役員がそうした内部統制システムが、適切に「構築」「運用」されているかを適宜チェックしている、と言えて初めて、役員として、内部統制システムに関して役員は義務を果たしたといえるのではないか、と思っています。それは役員の監視義務から導かれるか、または取締役としての一般的な業務監督の職務から導かれるかはどちらでもいいのですが、取締役会で決定して構築した内部統制システムが、事実として適切に「運用」さえされていれば、取締役として義務を果たしたというのはやはり適切ではなく、システムの内容はもちろんのこと、その「運用」が適切か否かも、取締役が(どのような程度でやるかはもちろん別途検討が必要ですが)適宜、監視監督することが必要と考えるのが妥当なのではないか、と考えております。

 法律文献等で内部統制システム構築義務が論じられる場合、上記の2つの点がどうも明確に意識して説明されていないケースがあるようにも個人的には感じております(論者の方々は、それらを一応意識はした上で論じているものとも思われますが)。
 しかしこれら2点については、もう少し明確に言及した上で議論をすることが、内部統制システム構築義務の議論を今後更に深化させていく上で必要ではないかなあ、と考えております。

4.
 以上、上記の私の考えは深く考え抜いたものではなく、異論も多々考え得るとは思いますが、問題提起の趣旨でまとめさせて頂きました。

* * *

 皆様、今週も一週間大変お疲れ様でした。良い週末をお過ごし下さい。
26 10月

社外取締役選任の義務化に関する法制審会社法制部会の現在の提案について

 私主催の法律セミナー「会社法改正の最新動向~実務家から見たポイント」(講師:川井信之)(開催日:2011年11月24日(木)18:45~20:15)ですが、引き続き申込を募集しております。残席はまだございますので(定数30名/残席10名)、何卒お気軽にご参加お申込み下さい。
 (↓ セミナー開催の詳細に関するブログ記事)
 
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/4707816.html

 (すみません、毎度の告知です。本ブログをいつもご覧の皆様はスルー下さい・・・)

* * *

 さて、昨日の内田貴先生の近著「民法改正」に関する記事は、かなりのご反響を頂きまして、ありがとうございます。実務家の方々からは私のコメントに概ねご賛同頂ける意見が多く、この点は自分の実務家としての感覚は他の方々と比べておかしくはないのだということは認識でき、その点ではホッとした(?)次第です。
 もっとも、私としましては、学生の方々や法律関係者以外の一般の方々が、内田先生の御著書を読まれてどのように思われているかが、実は結構知りたいところではあります。

* * *

 本日のテーマは、「社外取締役選任義務化」に関する現在の法制審会社法制部会の提案内容についてです。
 先月(9月28日)に会社法制部会は第13回会議が行われ、その会議では、中間試案の取りまとめに向けた議論がスタートしています。その会議の議事録はまだ公表されていませんが、会議用資料として、「部会資料14」(資料のタイトルは「会社法制の見直しに関する中間試案のたたき台」(1)」)が、法務省のサイトで既に公開されています。
 (↓ 法務省のサイトの該当ページです)
 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900089.html

 その「部会資料14」で、社外取締役選任に関しどのような提案がなされているかと言いますと、以下のような内容になっています。

(部会資料14の1頁目)
「1 監査役会設置会社における社外取締役の選任の義務付け

【A案】 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)において、1人以上の社外取締役の選任を義務付けるものとする。
(注) 社外取締役の選任を義務付ける会社を、例えば、金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならないものに限定するかどうかについては、なお検討する。

【B案】 監査役会設置会社における社外取締役の選任の義務付けは、しないものとする。」

 私自身は特にA案、B案のどちらにすべきかについて固まった意見がある訳ではないのですが、仮にA案に立つとした場合には、どういう要件にすべきなのかを考えてみました。

 A案の文言((注)も含めて)を見る限り、社外取締役選任を義務付ける会社を全ての株式会社を対象とする訳ではなく(余りにも小規模の株式会社に社外取締役選任を義務付けるのは明らかに非現実的ですから、これはある意味当たり前ですが)、対象となる会社の範囲に一定の絞りを掛けようとしていることが窺われます。
 ですのでA案を仮に採った場合の問題は、どの範囲の会社を対象とするのが適切・相当か(どのような要件で切り分けるか)、という具体的要件の立て方にあると言えます。
 
 この点は、A案を見る限り、「公開会社かつ大会社」とか、「金商法上の有価証券報告書提出会社」といった基準を持ち出していますが、これらは、いずれも会社法上既に用語・概念として存在する基準ですね。
 しかし、個人的な感覚では、「公開会社かつ大会社」ではなんとなく広すぎるような気がするのですよね。あと、「有報提出会社」っていう基準は、基準としてそもそも適切なのか、やや疑問を感じます。ご承知のとおり、「有価証券報告書提出会社」って、上場会社とはイコールではなく、上場していない会社でも「有価証券報告書提出会社」である場合があることに鑑みると、ここで基準として使うには適切ではないのではないかな、と思っています。

 結局、私の頭の中には、やはり基準として「上場企業」または「上場企業のなかでも一定の規模以上のもの(例:東証一部、など)」という形で、「上場企業」というものを一定のメルクマールに入れた方が、個人的にはいいんじゃないかなあ、と思うのです。したがって、この考え方に従えば、会社法の条文に「上場企業」の定義を盛り込むことが必要になってきます。
 しかし、何故だかわからないのですが、会社法の条文に「上場企業」の定義を盛り込む、という発想は、余り想定されていないようです(というより、私の邪推かもしれませんが、そういう発想は、そもそも問題外(ありえない)と思われているフシすらあるように思えています)。でも、逆に、会社法の条文に「上場企業」に該当する定義の文言を盛り込むことが何故いけないのか、理論的に不可能な理由はないはずですから、この点は検討自体は前向きにしてもらってもいいのではないかなあ、という気がしています。

 と、ここまで書いておきながら何ですが、まあただ、社外取締役選任の義務化の対象となる会社を「上場企業」というメルクマールを使って決定することが本当に適切かは、別途考える必要があるようにも思います。
 といいますのも、非上場でも上場企業(のうちの特に大企業)並みに大規模な会社も世の中には見られますし、何より最近ではMBOが盛んになっていて、上場企業と同規模の会社で非上場という会社の数もそれなりに増えてきている印象を受けますから、このように考えますと、「上場企業」かどうかで社外取締役選任の義務化の対象となる会社か否かを分けるのは、適切ではない、という考え方もありうるように思われるからです。
 このように考えますと、上場企業かどうかというところでは見ず、ただし「大会社」かどうかでは少し広すぎる気もするので、「監査役会設置会社(公開会社で、かつ、資本金20億円以上または負債800億円以上)」(注:あくまで数値は仮に置いたものです)みたいな要件とすることもありなのではないかなあ、とも思っております。資本金や負債額の具体的な数値を会社法に書いてしまう事に抵抗があるということならば、いつもの必殺技で、施行規則に落としてもいいですし(こんな書き方したら怒られそう・・・)。
(なお、ここで「公開会社」という要件を残すと、MBOで非上場になった会社はこの要件を満たさない可能性がありますから、結局こうした会社は、社外取締役選任義務のある会社の対象からは外れることになってしまうかもしれないのですが・・・)

 以上、考えがユラユラしてしまいましたが、法制審の資料を見て、思ったことをつらつらと書き連ねてみました。  
23 10月

森・濱田松本法律事務所、シンガポールオフィスを開設

 先週の木曜日(10月20日)の夜に告知を開始させて頂きました、私が主催させて頂く法律セミナー「会社法改正の最新動向」(開催日:11月24日(木))ですが、おかげさまで10月23日(日)夜9時の時点で、15名の方々から既にお申し込みを頂いております。いや、うれしいですね。早速お申込み頂いた方、誠にありがとうございます!
 お申し込み頂いた方々には全員に返信メールを送信させて頂きましたので、未着の方が万一いらっしゃいましたらご連絡下さい。
 また、まだ席には余裕がございますので、引き続きお申込をお待ちしております。どうぞよろしくお願いいたします。

 (10月20日のセミナー告知記事はこちらです↓)
 
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/4707816.html

* * *

 さて、既に先週の金曜日(10月21日)の日経新聞朝刊にも掲載されており、ご存じの方も多いかと思いますが、日本の大手法律事務所の1つであります森・濱田松本法律事務所が、来年2月に、いわゆる国内4大法律事務所としてははじめて、シンガポールに現地事務所を開設するとのことです。すでに、同事務所のHPにも、このニュースが掲載されていますね。

 日経新聞によると、パートナーが2名、アソシエイトが1名駐在し(同事務所のHPには、パートナー2名の名前も記載されております)、シンガポールやベトナム、インドネシアといったアジア地域への日本企業の投資、M&Aなどの企業法務需要に対応する、とのことです。

 現在、日本企業が国内でのビジネスを縮小させ、海外にいろいろと打ってでようという動きが非常に加速している中で、日本の国内系企業法務事務所も、クライアントである国内企業のそうした動きに併せて海外の案件を積極的に取っていこう、その中でも特に成長性の見込める地域であるアジアに進出していこう、という動きが出るのはごく自然なことだと思います。(また、我々弁護士のうち企業法務を専門とする人々の業界でも、国内経済が全体的に収縮し、今後は企業法務の分野で顕著な成長を見込める分野が国内にはなかなか見当たらないので、海外、特にアジアの成長市場における法律関連分野というものが、数少ない、将来成長が見込めるかもしれない分野として、皆注目している訳なのです。)
 ですので私などからみたら逆に、シンガポールに大手事務所が今まで拠点を作らなかったのが不思議なくらいで、今回のニュースを見て、ようやくか、といった感想を持ったくらいです。

 シンガポールならば東南アジアのハブ的な都市として戦略的に利用することも可能でしょうから(東南アジアの他の国に拠点を設けると、原則としてその国の案件に特化してしまい、カントリーリスクというものが生じるおそれはないとは言えませんが、シンガポールは、相対的にそういうリスクは低そうに思います)、今後も、大手事務所の中のいくつかは、この動きに追随する可能性は十分あるのではないかなあ、と思いますね。何の根拠もない推測ですが、名前に「に」がつく大手事務所は絶対追随する気が・・・(笑)。

 また、1人ならともかく2人のパートナーを駐在させるところに、森・濱田松本法律事務所の本気度(すぐに撤退したりしませんよ、という本気度)を感じるとともに、2人駐在させても採算的にペイできる同事務所の自信のほどが覗えるなあ(それだけ顧客層からみて見込みが立っているのかもしれません。最初はそんなに簡単ではないようにも思いますが)、とも思ったりしました。

 あと、今回の件で、シンガポールに駐在することとなるメンバー、特にパートナーの先生方の覚悟というものも、相当なものがあるのだろうなあ、と思っております。

 法律事務所というのはどんなに大手でも、お客様から仕事の依頼を受ける場合には、事務所そのものに依頼が来ることはまずなく、事務所の誰かの弁護士にバイネームで依頼がくるのが通常です(その意味で、法律事務所は未だ組織というより、仕事を取ってくる弁護士個人の集合体、という側面を色濃く残しています)。したがって、今回駐在することになるお二人のパートナーの先生も、日本では個人的に指名を受けて仕事をしていたクライアントというのがいらっしゃるものと思います。
 それが、今回の件で自分がシンガポールに行き、東南アジア関係の案件に特化してやっていくことになりますと、日本で今まで懇意にしていたクライアントとの関係は基本的になくなる可能性が高い訳で(そのクライアントが東南アジア関係の仕事を依頼したい場合にはともかく、それ以外の今までお願いしていたような国内案件をその先生方に依頼することはなくなってしまうでしょう)、ご本人達も相当な覚悟で今回の駐在を決断されたのだろうなあ、と思います。

 日本の弁護士は基本的に転勤とか配置換えといった会社員の方々のような異動はなく、したがって今回シンガポールに駐在される先生方も、これから5年、10年とかけてその分野でしっかりと専門性を高めてやっていこう、という気構えでやられていこうとされていると思われ、本当に、ご家族等のご理解もいるでしょうし、個々の人間としても大変な決断だろうなあ、と思います。
(こういうことを書くと、そんなの世の中では当たり前だよ、通常の会社員の方々は皆こういった転勤・海外駐在を経験しているんだよ、と怒られそうですが・・・)
 
 以上、本件は、今年の企業法務界でエポック・メーキングな事件の一つと言えるのではないかと個人的には思いましたので(まあ開設は来年2月だそうですが・・・)、取り上げさせて頂きました。
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弁護士業27年目の東京の弁護士です。

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川井 信之
TEL: 03-6226-4133(代表)
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1998年弁護士登録。2004年ニューヨーク州弁護士登録。柏木総合法律事務所、日比谷パーク法律事務所(以上、アソシエイト)、弁護士法人曾我・瓜生・糸賀法律事務所(現 瓜生・糸賀法律事務所)(パートナー)を経て、2011年、川井総合法律事務所を開設。第一東京弁護士会所属。

週刊東洋経済2022年11月5日号のコンサル・弁護士・税理士特集の「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」で、「M&A・会社法」部門の3位にランクイン。

専門分野:①企業法務全般(会社法・コーポレートガバナンス・コンプライアンス・労働法・その他民商事全般)、②訴訟・裁判・交渉・紛争解決、③国際取引(英文契約)など。

※法律相談等のご依頼、講演・執筆のご依頼等は、上記のメールアドレスにご連絡下さい。

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