法律雑誌「ビジネス法務」8月号に、長島・大野・常松法律事務所の弁護士の先生の執筆による「第三者委員会ガイドライン 弾力的運用の薦め」という論稿(塩崎彰久「第三者委員会ガイドライン 弾力的運用の薦め」ビジネス法務2011年8月号104ページ)が掲載されており、タイトルに惹かれて読んでみました。

 「第三者委員会ガイドライン」とは、弁護士および法務担当の方なら既にご存じかと思いますが、日本弁護士連合会が昨年の7月に公表した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、「日弁連ガイドライン」といいます)のことです。

 近年、企業が不祥事を起こした際、その原因究明・対応策構築等について、内部者が行うのではなく、第三者を中心とするメンバーが第三者委員会を組織して行う例が増えています。

 日弁連ガイドラインは、こうした第三者委員会の組成・活動等についてのルールを整理してまとめたものであり、日弁連ガイドラインの公表以降、不祥事があった企業において第三者委員会が立ち上げられる場合、このガイドラインに準拠するとプレスリリース等で明示する場合が非常に目立ってきている印象を受けております。

 また、東京証券取引所が昨年8月に公表した「上場管理業務について-虚偽記載審査の解説」においても、有価証券報告書等の虚偽記載の事例において、第三者委員会が設置される場合には、この日弁連のガイドラインを参照することと記載されており、東証の担当者も、日弁連ガイドラインに準拠することが「強く望まれる」と述べています(新島早織「東証自主規制法人における虚偽記載審査の概要」旬刊商事法務1910号31ページ)。

 さらに、証券取引等監視委員会等の当局も、企業に対し、第三者委員会を設置するのであれば日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会とするように明示的に求めている、という取り扱いがなされているようです。

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 ただ、この日弁連ガイドラインの具体的内容については、実務家の間ではいろいろと議論がなされている部分もあります。冒頭で引用した論稿でも、企業不祥事への対応業務に携わった弁護士である筆者が、ガイドラインの内容のいくつかについて疑義または反論を展開しておりました。

 また、西村あさひ法律事務所の先生方も、日弁連ガイドラインに関する論稿の中で、ガイドライン中のいくつかの規定について疑義を呈して(または弾力的運用の必要性を示して)おられます(木目田裕=上島正道「企業等不祥事における第三者委員会」旬刊商事法務1918号18ページ)。

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 もっとも、私が本記事で書きたかったことは、日弁連ガイドラインの個々の内容の是非という実質論ではなく、ガイドラインの成立・維持における手続論のことです。

 私の理解では、日弁連ガイドラインは、特に弁護士会内で広く意見を聞いたり、あるいは広く世間に意見を聞いたりするということはなく完成し、公表されたものと記憶しています。

 まあ、日弁連ガイドラインは、同ガイドライン自身が明確に述べるように、「第三者委員会があまねく遵守すべき規範を定めたものではなく、あくまでも現時点のベスト・プラクティスを取りまとめたもの」というのが制定時の趣旨ですので、世間等に広く事前に意見を聞く、という手続をするまでもないと考えていた(あるいは、そういう手続の必要性自体、議論の俎上にそもそも乗らなかった)、ということかとも思います。

 しかし、日弁連ガイドラインは、その公表後、東証や当局がその遵守を要請するなど、第三者委員会を設置する際におけるデファクト・スタンダードとなるまでにその重みを増しており、企業としても、第三者委員会を設置する際には、このガイドラインに則ることが事実上要請され(これに則らない場合には、そうすることについての相当しっかりした理論構築をする必要があるように思います)、及びこのガイドラインの細かい文言全てを遵守することが事実上求められているように思います。
 すなわち、日弁連ガイドラインは、現在東証のルールに近いレベルでの強い規範性を持つに至っているように思うわけです(ここで、「ソフトロー」という概念を持ち出したくはないのですが)。

(ですので、上記で引用した論稿でもガイドラインの弾力的運用が薦められておりますが、弾力的運用をそもそもしていいのか、どの程度までしていいのか、というところがガイドラインに書いていない以上、ガイドラインを弾力的に運用した後で事後的にガイドラインの重大な逸脱・違反と評価され、東証や当局から何らかの不利益な処理をされてしまうというリスクを考えると、やはり保守的に、ガイドラインの文言に形式的にそのまま従う、ということにならざるを得ない場合が多いのではないかと思う訳です。
 したがって、第三者委員会がガイドラインについて弾力的運用をするには、個々の条項について、弾力的に運用してよいこと、また、どこまで弾力的に運用してよいかの内容、をガイドライン自体に具体的に明記しないと、実際上は難しいのではないか、という気がしております。)

 このように、日弁連ガイドラインが強い効力を事実上持ってしまっている以上、ガイドラインの個々のルールの内容についても、それが適正なものであるかについて、より慎重に、かつ広範囲の人の目を通して精査する必要があるのではないか、つまり、多くの弁護士、企業関係者等に広く意見を聞いた上で、修正すべきところがもしあるとしたら修正する、という方法が必要なのではないか、今までそういう手続を経ていないのであれば、今からそういう手続を行ってもよいのではないか、と考えております。

 具体的には、日弁連ガイドラインについて、法令制定の際に行われる、パブリック・コメントのような手続を一度行うことを検討しては如何でしょうか、ということですね(東証がルールを設ける・改訂する際にもパブコメ類似のことは行うことがよくありますし)。

 日弁連ガイドラインは、不祥事対応について豊富な経験を有する先生方が議論を重ねて作り上げられた極めて完成度の高いものであることは私も重々承知しておりますが、それらの先生方でも実際に経験した事案の数についてはどうしても限界がありますし、世の中には第三者委員会の委員として関与した弁護士またはその他の専門家方々は、ガイドラインの構築に携わった先生方よりも数としてはずっと沢山いらっしゃるはずですから、そういった方々から意見を受ける機会を設けることは必要ではないかなあ、と思います。
 また、第三者委員会を設置する主体(かつユーザー、またはユーザー予備軍)である企業側からの意見を広く求めることも、非常に意義のあることではないかと思っております。

 こういう作業を行い、より広範囲の人からの様々な意見に揉まれることで、更により良いガイドラインが作られていくのではないかと思っているのですが、いかがでしょうか。