さて、ご承知の方も多いかと思いますが、今年の通常国会で、不正競争防止法の改正案が成立し、既に公布されており、同改正法は、来る本年12月1日から施行ということになっております。

 この不正競争防止法の改正については、本ブログでは6月の始めにごくごく簡単に紹介させて頂いただけで、その後完全にほったらかしにしてしまっておりました(すみません・・・)。

 (↓ 本ブログの本年6月6日付「不正競争防止法の改正、特許法の改正」と題する記事)
 
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/3491426.html

 今回の不正競争防止法の改正のポイントは大きく分けて2つあり、それは、
① 営業秘密を保護するための刑事訴訟手続の整備に関する改正
② 技術的制限手段に関する規律の強化に関する改正
になります。

 このうち、①については、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪を刑事裁判で審理する際、公開法廷ですと審理の過程で営業秘密が一般に公になってしまうおそれがあることから、刑事訴訟の過程において一定の範囲で営業秘密の内容が公にならないような規定を設ける改正になります。
 これは刑事裁判の実務上は重要な規定だと思いますが、一般の方々にとってはややマイナーな手続法に関する改正内容ですので、ここでは詳細な説明は割愛いたします。

* * *

 本日取り上げて説明させて頂くのは、上記の②(技術的制限手段に関する規律の強化に関する改正)です。

1.
 まず、ここでいう「技術的制限手段」とは何のことかと言いますと、これは、不正競争防止法2条7項に規定があり、以下のように定義付けられています。

「この法律において、『技術的制限手段』とは、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。」

 長すぎてわかりにくいかもしれませんが、非常にザックリといえば、技術的制限手段とは、音楽や、映像や、ゲームなどのコンテンツの視聴や実行が不正に行われないように、それらの視聴や実行を電磁的方法によって制限する手段(例:アクセスコントロールなど)のことを言います。 

2.
 そして、この「技術的制限手段」については、今回の改正以前の(現行の)不正競争防止法では、以下の行為が「不正競争」に該当する、と規定されていました(不正競争防止法2条1項10号・11号)。(以下、現行法の条文です)

(現行の10号)
「営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に映像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為」

(現行の11号)
「他人が特定の者以外の者に映像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為」

 上記の10号と11号の違いは以下のとおりです。
・10号・・・媒体あるいは機器の購入者や所持者の全ての者に対して音楽・映像等の視聴等を制限するために技術的制限手段を用いる場合(例:映画のDVDに組み込まれている録画制限機能)についての不正行為
・11号・・・契約の相手方や契約により特定された者以外の者に対してコンテンツの視聴等を制限するために技術的制限手段を用いる場合(例:ケーブルテレビジョン放送におけるペイパービューサービスのように、契約者以外の者によってはスクランブルを解除できないように施されている暗号)についての不正行為

 上記規定はどのような行為を「不正競争」としているかと言いますと、上記11号で挙げたペイパービューサービスの例を使うと、上記のような技術的制限手段の効果を妨げる(「技術的制限手段を回避する」という言い方がされることもあります)スクランブル解除装置を販売する、などの行為がこれにあたる事になります。

3.
 さて、改正前の上記規定では、技術的制限手段を回避する機能を有する装置等の範囲は、「技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する」装置またはプログラムである、とされていました。
 上記の規定は平成11年の不正競争防止法改正で新設されたものですが、このような「のみ」という要件が加えられていた立法趣旨は、もし「のみ」の要件がないと、技術的制限手段の回避機能以外の機能も同時に持ち合わせている装置やプログラムも規制対象となることになり、そうなりますと、別の目的で製造され提供されている装置やプログラムが偶然に(非意図的に)回避機能を有している場合にも「不正競争」に該当しうることになってしまうため、技術・製品開発に過度の負担となり(設計開発にあたり、機器や装置が全ての技術的制限手段を回避しないことを確認しないといけないことになるため)事業活動を抑制することとなってしまい好ましくない、ということによるものでした。

 しかしながら、実際には、「回避機能」と「回避機能以外の機能」の双方が含まれている装置ではあるものの、「回避機能以外の機能」というのはお飾りのようなものに過ぎず、専ら回避機能がメインで用いられている装置というものが世の中に存在しており、そうした装置が、「のみ」要件に該当しないが故に、不正競争防止法の規制を免れるというのは適切ではないのではないか、という問題点が指摘され、その結果、今回の改正で、この「のみ」の語が条文から削除されることになったのです。

(改正後の10号)
「営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に映像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)

(改正後の11号)
「他人が特定の者以外の者に映像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)


 ただし、「回避機能」と「回避機能以外の機能」を併有する装置の全てが上記規定の規制対象になる訳ではなく、そうした装置のうち、技術的制限手段を回避する用途に供するために提供していた場合にのみ、規制の対象になります。上記10号・11号の各末尾の括弧書きは、そういう趣旨です。つまり、装置を提供する「目的」に照らして規制にあたるか否かを判断する、ということになるものと思われます。

4.
(1)また、技術的制限手段に関する不正競争該当性を定めた上述の同法2条1項10号・11号は、装置の「製造」行為は規制の対象外とされています。しかし、今回の改正では、上記の条文のとおり、回避「装置の部品一式であって容易に組み立てることができるもの」(組立キット)の提供行為についても、規制の対象に加えられることになりました。これにより、製造行為の前段階の行為を一部規制の対象に加えることとなり、製造行為が規制の対象外であることによる「規制のすり抜け」を防ぐことが一定程度可能になるものと思われます。

(2)さらに、同法2条1項10号・11号に該当する行為については、今まで刑事罰の規定はありませんでしたが、今回の改正で、初めて刑事罰が導入されました(不正競争防止法21条2項4号、22条1項)。
 
* * *

 以上が、今回の不正競争防止法の改正のうち、②技術的制限手段に関する規律の強化に関する改正についての内容でした。ご参考になれば幸いです。

 なお、上記記事の作成にあたり、以下の文献を参考にしました。
・中原裕彦「不正競争防止法の一部を改正する法律の概要」ジュリスト1432号4頁
・奥邨弘司「不正競争防止法改正の意義と課題-技術的制限手段の保護について」ジュリスト1432号12頁
・経済産業省知的財産政策室編「逐条解説 不正競争防止法」(平成21年改正版)(有斐閣)