少し前ですが、法律雑誌NBLの新春号(1月1日号)に、新春座談会として「『コンプライアンス改革』の課題と処方箋」という対談が掲載されておりました。
 座談会の出席者は、弁護士の國廣正先生、山田秀雄先生、増田英次先生、そして山口利昭先生(司会)の4名でして、いずれもコンプライアンスの世界では有名な先生方です。

 この対談、かなり長いものでしたが(読むのが結構大変でした(笑))、さすがはコンプライアンスの世界に精通されている4先生方の対談だけあって、豊富な経験に裏打ちされた深みのある御発言の連発であり、大変面白く、また参考になるものでした。特に、下世話な読み方かもしれませんが、「あ、この言い回し、将来どこかのコンプライアンスのセミナーで使える!」といった、「使える」キーフレーズが満載でしたね。
 ただ個人的には、山口利昭先生が今回の対談では基本的に司会役に徹しているように窺え、山口先生御自身のコメントや御発言が対談中に比較的少なかったのが残念なところでした。

 さて、そんな座談会だったのですが、この対談全体を読んで思ったことを、(実は少し辛口コメントになるのですが・・・)以下簡単に書かせて頂くことにいたします。

 この対談の中で、企業不祥事を防ぐには(またはコンプライアンスを浸透させるには)何が大事なのか、という問題に対して、仕組みや制度を変える(例えば社外取締役を義務化するとか)だけでは駄目で、社長などのトップの意識や、従業員のマインドを変えることが大事なのだとか、仕組みを実質的に機能させることが大事なのだ、ということが、各先生の御発言の中で繰り返し強調されております。

 このこと自体は私はその通りだと思っており、この点に異論を挟むつもりは全くございません。

 ただ、コンプライアンスに関する文献等を読んでいつも思うのですが、ほとんどの文献で上記の点は随分昔から、繰り返し強調されてきているんですよね。
 しかし、こういういわば「コンプライアンス総論」レベルでのポイントは何度も繰り返し指摘されているにもかかわらず、「じゃあ、具体的にそういう意識付けをトップや従業員にするにはどうしたらいいのか」という具体策については、余り書かれることがないように思っております。
 そういう点については大体、「トップ等の意識の変革が重要である。そのために社内で議論しなければならない」みたいな内容で文章が終わってしまっている訳です。
 
 しかしながら、コンプライアンスについては、それなりの規模の企業であれば総論レベル(トップの意識が大事だ、という話)は、既に十分御認識されているのだと思います。ですので、企業の方々が一番知りたいのはおそらく、その抽象論を「どういう具体策で実現するか」という具体的方法論だと思うんですよね。
 ただそれに関しては、弁護士サイドから提供するアイデアというものは今まで必ずしも豊富ではなかったのではないか・・・と思っております。
 これについては、そういう具体策というものは個々の会社の状況ごとに違うのだから、個々の会社で検討するのがベストなのだ、という考えもありうるのかもしれませんが、それぞれが自らの経験を踏まえて、具体策について知恵やアイデアを出し合う、ということを行ってもいいと思いますし(まあ、弁護士の場合には守秘義務に反しない範囲で行わざるを得ないのですが・・・)、そうすることでコンプライアンスに関する意識付けが日本企業全体で底上げされる、ということになるんじゃないかと思う訳です。

 で、今回の対談でも、そういう「トップ等の意識が大事」という総論トーンで基本的にはまとまっているようにも読めたのですが、その中で、増田先生は、具体策についてヒントとなる内容をおっしゃって頂いているように思いました。

 増田先生は、法令遵守に関しては、表面上の遵守に留まるのではなく、無意識のレベルまで変える(マインドを変える)ことが重要と唱えられており、こうした無意識を変えるためには、「臨場感を上げる」(他人事ではなく、自分のものとして捉える)ことが大事だ、とおっしゃられています。
 そして、臨場感を上げるためには、具体的には、「正しいことをしたらどんな利益があって、自分にどんな満足感があるのかというのを多くのビジネスパーソンが肌でもって体験する」ということが必要だ、と発言されております。(同記事67~68ページ)
 増田先生の御発言は、今までのコンプライアンスに関する弁護士の御発言や論稿等では余り見られなかった視点からのご指摘になっており、新鮮に感じましたが、上記の御発言に、「トップや従業員の意識を変える」ということの具体策を考える際の重要なポイントが含まれているのではないか、と、個人的には思いました。

 以上、私自身、いいアイデアがある訳でもないのにこういうコメントを書くのは大変気が引けるのですが、対談を読んでまず思ったことについて、大変僭越ながら、簡単にまとめさせて頂きました。
 この対談につきましては、他にも気付いた点がいくつかありますので、機会を見て(いつかわかりませんが・・・)、また本ブログで記事にさせて頂こうと思っております。

 それでは、本日はこんなところで・・・。
(明日は、都合によりブログ更新をお休みさせて頂く可能性が50%くらい、あります。)