さて、会社法改正要綱(案)についての連続記事の6回目ですが、今回は、「支配株主の異動等を伴う募集株式の発行等」になります。

1.
 この制度について、要綱案では、大要、以下のようなルールとなりました。

① 公開会社は、募集株式の引受人について、アに掲げる数のイに掲げる数に対する割合が50%を超える場合には、会社法第199条1項4号の払込期日(払込期間を定めた場合には、その期間の初日)の2週間前までに、株主に対し、当該引受人(「特定引受人」)に関する情報として法務省令で定める事項を通知(または公告、もしくは金商法4条1項ないし3項の届出)しなければならない。
ア 次に掲げる額の合計数
 (ア) 当該引受人がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数
 (イ) 当該引受人の子会社等が有する議決権の数
イ 当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数

② 総株主(②の株主総会で議決権を行使できない株主を除く)の議決権の10%(これを下回る割合を定款で規定可能)以上の議決権を有する株主、①の通知・公告等の日から2週間以内に、特定引受人による募集株式の引受に反対する旨を公開会社に通知したときは、当該公開会社は、①の期日の前日までに、株主総会の決議によって、当該特定引受人に対する募集株式の割当て(または当該特定引受人との間の総数引受契約(会社法205条))の承認を受けなければならない。
 ただし、「当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは、この限りでない」。

③ 以下の場合には、①のルールの(したがって、必然的に②も)適用はない。
 ・当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合
 ・株主割当てによる場合

④ ②の株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならないものとする。

(以上、要綱案第1部、第3、1(1)①ないし⑤。上記の文言は、要綱案における文言と必ずしも逐語的に同一ではなく、一部わかりやすく書き替えた箇所がある旨、ご留意下さい。)

 以下、いくつかポイント(または気になる箇所)をコメントいたします。

2.
 まず、この規制は、会社法制部会では元々は第三者割当ての場合のみを念頭に置いていたのですが、パブコメより後の時期になされた部会の会議において、公募の場合も含まれることになり、要綱案でも、第三者割当てと公募の双方の場合を対象とする規律として整理されている点に、注意する必要があるかと思います。
 (したがって、中間試案では、この規律の項目のタイトルは「支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等」とされていたのですが、要綱案では、「支配株主の異動を伴う募集株式の発行等」というタイトルに変更されています。)

 また、公募との関係では、パブコメ後の時期になされた部会の会議で、「公募に際して証券会社が引受人として株式を取得する場合には、この規律の対象外とするべきではないか」という問題提起がなされ、部会の中でも比較的活発な議論が行われました。

 ただ、最終的には、そういった場合を規律の対象外とすることは制度の潜脱を招きかねない等の理由により、公募に際して証券会社が引受人として株式を取得する場合にも、この規律の対象外とはしない、ということになりました。
(この点の詳細は、部会資料21の14頁以下、第19回会議議事録の55頁以下をご覧下さい。また、第21回会議議事録の36~38頁にも、「公募に際して証券会社が引受人として株式を取得する場合にも、この規律の対象外とはしない」という結論を採った場合に生じうる実務上の問題について議論がなされており、参考になります。)

3.
(1)
 上記1①のとおり、公開会社は、①に定める要件を満たす支配株主の異動を伴う募集株式の発行を行う場合には、払込期日(払込期間を定めた場合には、その期間の初日)の2週間前までに、株主に対し、特定引受人に関する情報を通知・公告等しなければなりません。

 そして、上記②のとおり、総株主の議決権の10%以上の議決権を有する株主が、①の通知・公告等の日から2週間以内に、特定引受人による募集株式の引受に反対する旨を公開会社に通知したときは、当該公開会社は、②に記載の但書の場合を除き、①の期日の前日までに株主総会の決議によって、当該特定引受人に対する募集株式の割当て(または当該特定引受人との間の総数引受契約(会社法205条))の承認を受けなければならない、とされています。

 上記における具体的日数は、簡易組織再編において一定の株主が反対した場合に株主総会の決議を経なければならないとの現行法のルール(会社法796条4項)などを参考にしたものと思われます。

(2)
 もっとも、上記の通知・公告をする時期は、要綱案では上述のとおり「払込期日(払込期間を定めた場合には、その期間の初日)の2週間前までに」となっていますが、実際には、もっと前倒しした時期(払込期日から下手をしたら1ヶ月半~2ヶ月前?)に通知・公告をする必要が出てきますよね。

 その理由を、具体的な日を例に挙げて説明しますと、

 例えば、払込期日を9月30日とする、本件の要件に該当する支配株主の異動を伴う募集株式の発行を行う場合に、

→会社による株主への通知または公告を、「払込期日(払込期間を定めた場合には、その期間の初日)の2週間前までに通知・公告等が必要」という要件をギリギリ満たす、9月15日に行ったとします。

→この場合、総株主の議決権の10%以上の議決権を有する株主による、特定引受人による募集株式の引受に反対する旨の公開会社への通知は、9月29日まで行えることになりますので、

→その場合、9月29日に株主総会をして承認を得なければならない訳です。

→そんなこと、事実上無理に決まってますよね。

 ですので、会社からの通知・公告は、仮に10%以上の議決権を有する株主の反対があった場合でも、払込期日の前日までに株主総会決議が終了できるよう、もっと前倒しした時期に行わなければならないことになり、具体的には、総会の準備に要するタイミングを考えると、7月下旬~8月上旬(くらいでしょうか?)には会社からの通知・公告をしておかなければならないことになるのではないか、というふうに思われます。
(また、臨時株主総会の場合には、基準日設定公告も必要になりますね・・・。)

(3)
 以上のように考えると、支配権の異動を伴う募集株式の発行の場合には、株主総会が開催される可能性をあらかじめ見越して保守的に日程を長めにとっておく必要がある結果、現行よりも、処理に長く時間がかかることを覚悟しないといけないことになりそうです。

 そうなってきますと、特に、資金需要の「緊急」性が高い場合における増資等がこの規制に引っかかる場合には、第三者割当てという方法によって短期間に資金調達をすることが難しくなるケースが生じないか、という点が気になるところです。

 もちろん、この点に関して要綱案は、上記1②にありますように、「当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるとき」には、例え10%以上の議決権を有する株主の反対があったとしても、株主総会の承認は必要ではないとされており、緊急の資金需要が高い場合への配慮(すなわち、取締役会の承認だけでこうした募集株主の発行を行える)は、一応なされております。

 しかし、「当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるとき」という規定は、文言だけ見る限りは、かなり厳しい要件であるようにも読めますので、この要件に該当するとして取締役会決議限りで処理してしまうことは通常は躊躇してしまうのではないか・・・。という気がいたします。

(また、少し話はそれますが、そういうケースにおいては、弁護士や第三者委員会などが、本件は「当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるとき」にあたる、という意見書を書く、という立場に立たされることになるのではと思うのですが、そうした意見書が躊躇なく書けるかどうか・・・。まあ、現在の東証のルールでも、一定の第三者割当ての場合には経営者から一定程度独立した者が第三者割当ての必要性・相当性について意見を述べることが要求されてはいますが・・・。)

 したがいまして、本当に資金需要の緊急性が高い第三者割当て増資を行う場合には、上記①の要件に該当しないような「工夫」(潜脱的行為、という意味ではありません)がなされるケースも出てきたりはしないかなあ、というふうに感じているところです。

4.
 ちなみに、上記④は、株式会社の役員選任議案の要件(会社法341条)と同じであり、定款による定足数の撤廃等に制限が掛けられております。まあでも、原則は普通決議で足りることになっています(特別決議は不要)。

5.
 要綱案には、募集新株予約権の割当てに関しても詳細な規律が定められていますが、ここでは省略させて頂きます。

* * *

 それでは、本日はこんなところで・・・。