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1.
 さて、法律雑誌「金融法務事情」の最新号(2013年9月25日号)に、元最高裁判事である田原睦夫弁護士の講演録(タイトルは「最高裁生活を振り返って」)が掲載されていました(同号6頁~36頁)。これは、今年の7月13日に関西金融法務懇談会で行われた講演を元に加筆・修正したものとのことです。

 かなり長い講演録ではありますが、さすが(?)田原先生のお話だけあって、一気に全部読み終えました。いや~、面白かった。
 というか、この講演録、ぶっちゃけ過ぎ、かつ、歯に衣着せない(でも、的を射ている)コメントの連発でしたね。こういう内容の話は、歴代の最高裁判事の中でも田原先生しかできないのでは・・・。とにかく凄いです。
 最高裁判事がどういう仕事をどの程度していて、裁判官、調査官等がどのように関与しているのかということが、非常に詳しく述べられていて、大変参考になりました。

2.
 講演録中、面白い内容は本当に沢山あったのですが、その中のいくつかを以下、紹介させて頂きますと・・・(以下、太字は川井による)

(1)
「それから、私の前後の期の元調査官からは、私が補足意見を書いたりすると、『田原さん、偉いんだね、自分で書いているんだね。』と。かつては、個別意見について、『こういう趣旨で書け』と裁判官が調査官に言うのが、少なくとも20年くらい前までは本当に当り前でしたと。本当に各裁判官が自分で書くようになったのは十数年前頃からですと言われています。今、調査官に書かせている人は誰もいないはずです。ただし、書いた段階で調査官とディスカッションはします。それから、法廷意見は公用語で、それ以外は公用語に縛られないのですが、調査官は公用語集を持ってきて、『公用語に従って書いてください』とか、副詞を漢字で使っていると『やめてください』と言ってきます。あるいは『論理が飛んでいます。』とかね。それはありがたいことですから、それはそれでいいのですけれども、やはりかつての調査官が述べたような時代があったのは、事実として認めざるを得ないだろうと思います。」(15頁)

(川井)これは結構凄いぶっちゃけ話ですね・・・。うーむ・・・。
 ただ、現在の個別意見が裁判官御本人が書かれている、というのは、文章を見てもわかりますね。多数意見とは明らかに文体が違いますし、裁判官ごとにも文体が違うのが、読んでいてわかりますので・・・。

(2)
「(前略)事案によっては事実関係に本当に手を突っ込まざるを得ない事件があります。とくに刑事の場合の無罪か有罪かであったら、これは手を突っ込まざるを得ません。民事の場合は、かつての上告制度だったら手を突っ込まざるを得なかったのでしょうけれど、受理制度ができたおかげで、事案として、落ち着きどころとして、法律上または事実上の論点について受理して判断するまでもないという場合には不受理決定することがままあります。その場合、原審判決が判例雑誌に載っているかどうかというのは結構気にします。やはり、載っていて、それを確定させるのはあまりにひどいという事件では、受理した上で判断を示すことがあります。典型的にはアレンジャーに係る判決(最三小判平24.11.27本誌1963号88頁)、同事件の原審判決を確定させるわけにはいかない。その理屈を最高裁が追認したなんて、ですから理由を差し換えて、というようなことが審議の中で激論になります。それで、受理か否かで分かれることもあります。」(17頁)

(川井)なるほど、シ・ローンのアレンジャーの情報提供義務に関する最高裁判決は、(やはり、と書いたらまずいかもしれませんが)上記のような意識で審議されたものだったのですね。

(3)
「『集民』は、裁判所にいれば当り前の資料なのですが、一般に公開されてはいないのです。(中略)基本的に、法令判断があれば『民集』『刑集』ですし、事例判断の場合であったら『集民』『集刑』になります。さらに私が意見を書いていて、判例雑誌には載っているけれども『集民』には載らないものもあります。(後略)」

(川井)ほおお。「法令判断があれば『民集』『刑集』」に掲載し、「事例判断の場合であったら『集民』『集刑』」に掲載する、という振り分けって、初めて聞きました(私が知らなかっただけかもですが)。そうだったんですね・・・(まあ、「基本的に」とありますので、例外も結構あるのでしょうが)。これは大変参考になりました。

(4)
法廷意見は調査官に叩き台を作成させます。それは間違いありません。評議が割れた上で一定の結論が出て、『これで君、書けるかい』と調査官に言って、どうするのだろうと思っていますけれども、叩き台としてそれなりのものを書いてきますから、やはり能力があるなと思います。侃々諤々の議論をしていて、理屈付けも半分に分かれて、だけど、結論としてはこんなところになるのだろうから、1度調査官に書かせてみて、それから詰めよう、などということを、裁判官5人は平気で言いますが、言われたほうはたまったものではないはずです。(後略)」(19頁)

(川井)やっぱり。私も以前から薄々、最高裁判決の法廷意見って、少なくともファーストドラフトは調査官が起案しているのだろうなと思っていたのですが、やはりそうだったのですね(だって、最高裁判決の法廷意見って、文体がほとんど皆同じですので・・・)。
(もちろん、評議の過程で、裁判官が、調査官の作成した法廷意見の起案に手を入れたり修正したりすることはしていると、田原氏も述べております。)
 しかし、「これで君、書けるかい」と裁判官に言われた調査官のご苦労は、本当にしのばれますね・・・。

(5)
調査官解説には、裁判官は一切関与しません。(中略) 調査官解説を読んでいたら、評議で話題になったような書き振りがしてある。下級審に行きますと、それが金科玉条みたいなことを若い裁判官が言うから、私は憲法週間で各地を回るたびに、違うよと、修正して歩いていました。私たちは調査官解説をほとんど参考にしていないよと。私が補足意見ないし補足的意見を書きたい、あるいは書かざるを得ないという大きな動機がそれです。意見を書けば、調査官解説はそれに制約されますから。(中略)ただ、下級審の裁判官には、調査官解説だけ読んで、判決本文や補足意見を読まずに自らの判決を書いている人がそこそこいます。(中略)やはり、調査官解説はあくまで調査官の個人的意見でしかないし、私など、意見を書いた立場の人が読むと、『ん?』というのがそこそこあるというのが実情です。」(26~27頁)

(川井)我々弁護士も、調査官解説というものを金科玉条のものとして捉える傾向がない訳ではないので、この点は、弁護士も反省しなければならないところがあるでしょうね。
 調査官解説は、当該論点に関する過去の学説・裁判例を理解するには非常に有意義な部分がありますが、当該最高裁判決についての評価などを記載する部分については、あくまで当該調査官の個人的な意見である、という点を意識しなければならないのだろう、と改めて思いました。

3.
 この他にも、非常に参考になる、かつ面白い内容が盛りだくさんの講演録でした。ここまでぶっちゃけ度&歯に衣着せない度が高い元最高裁判事のお話や論稿って、私は寡聞ながら記憶にないですね。それくらい凄い、しかし鋭いご指摘の連続でした。

 少なくとも、裁判官、検察官、弁護士の法曹三者は必読の講演録だと思います。また、企業の法務担当の方々も、裁判実務に関与される、または興味のある方は、是非お読みになることをお薦めいたします。

 それでは、本日はこんなところで・・・。

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