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 さて、本日のブログ記事は、今日ネット上で非常に盛り上がっていた、こちらの話題を。

1.
↓ サンケイビズ(SankeiBiz)のウェブサイトに、「アップルに日本の下請けが一矢 東京地裁中間判決『米国での審理』退ける」とのタイトルの記事が掲載されておりました。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/160216/bsl1602160500002-n1.htm

 記事によりますと、アップルの製品の部品製造下請けをしていた日本企業(島野製作所)が、委託元であるアップルに対し、アップルの不法行為で損害を受けたとして約100億円の賠償を求めた訴訟の中間判決が昨日(2016年2月15日)あり、東京地裁(民事第18部のようです)は、両社の(契約における)管轄合意について、「両社の合意は、合意が成立する法的条件を満たしておらず無効だ」と判断した、とのことです。

 記事自体には、実際の契約書の管轄合意がどのような文言だったのかが完全に明確には書かれてはおらず、また、問題となった契約自体がいつ締結されたのかの記載がないなど、不明確な部分も少なくないのですが、記事からわかる範囲で(また、記事の記載内容を一応信用できるものとして依拠した上で)、本件の判断内容を検証してみたいと思います。

2.
 記事には、以下のような記載がありました(太字は川井による)。

 「(前略)この点について判断した同日の中間判決で、千葉裁判長は、『法理上、裁判管轄の合意は、一定の法律関係に基づいた訴えに関して結ばれたものでない限り無効だ。それは片方の当事者が不測の損害を受けることを防ぐためだ。』と指摘。
 その上で、『両社の合意は「契約内容との関係の有無にかかわらず、あらゆる紛争はカリフォルニア州の裁判所が管轄する」としか限定していない』と述べ、合意は法的要件を満たしておらず無効だとした。」

 上記の記載によりますと、アップルと島野製作所との間の契約書には、

 「契約内容との関係の有無にかかわらず、あらゆる紛争はカリフォルニア州の裁判所が管轄する」

という内容の管轄合意条項があったものと窺われます。
(上記記載が、逐語的に完全に正確なものかどうかはわからないのですが・・・。まあそもそも、契約書は英語でしょうけれども。)

3.
 上記2の青字の引用箇所にありますとおり、裁判所は、「法理上、裁判管轄の合意は、一定の法律関係に基づいた訴えに関して結ばれたものでない限り無効だ」とし、本件合意は、その要件を満たさないため、無効と判断されたようです。

(1) 
 ここで、民事訴訟法の規定を見てみますと、管轄に関し、「一定の法律関係に基づ(いた)」に言及する条文は、同法に2つあります。
 
 1つ目は、民事訴訟法第3条の7。国際裁判管轄に関する規定です(以下、太字及び下線は川井による)。

(管轄権に関する合意)
第3条の7
① 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
② 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
(③~⑥ 略)

 この民事訴訟法第3条の7は、平成23年の民訴法改正(平成23年法律第36号)で新設された条文です。

 平成23年改正民訴法の施行期日は平成24年4月1日でして、同改正法の附則2条2項には、「〔附則〕第1条の規定による改正後の民事訴訟法第3条の7の規定は、この法律の施行前にした特定の国の裁判所に訴えを提起することができる旨の合意については、適用しない。」と規定されています。

 したがいまして、本件のアップルと島野製作所の契約が、平成24年4月1日以後のものであれば、民事訴訟法第3条の7が適用されますので、上記の裁判所の判断も、民事訴訟法第3条の7のことを言っているのだろう、という推測ができることになります。

 ただ、本件の両社の契約がなされたのが、平成24年(2012年)4月1日以前か以後かは、サンケイビズの記事からはわからなかったんですよね。
 同記事によれば、2006年に、島野とアップルの取引が始まったようですので、本件管轄合意を含む契約は、平成24年(2012年)4月1日以前に締結されていた可能性も大いにあると思っています。他方で、両社の契約が例えば1年とか2年の有効期間しかなく、更新や再締結を繰り返していたようなケースであれば、本件の管轄合意を含む契約が締結されたのが、平成24年4月1日以降である可能性もありうるのではないか、と思っております。

(2)
 では、仮に本件の管轄合意に関し、民事訴訟法第3条の7の適用がないとしますと、どうなるでしょうか。

 民訴法には、管轄に関し「一定の法律関係に基づ(いた)」に言及する条文として、他に第11条があります。この第11条は、昔からある条文です。

(管轄の合意)
第11条
① 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
② 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
(③ 略)

 ただ、この第11条の規定というのは、私の理解では、あくまで、国内の裁判管轄の合意に関する規定なのですよね。
 したがって、平成24年(2012年)4月1日以前の日本の民事訴訟法には、国際管轄合意についての「明文の」定めはなかったことになる訳です。

 したがって、上記2で引用した裁判所の「法理上、裁判管轄の合意は、一定の法律関係に基づいた訴えに関して結ばれたものでない限り無効だ」という判断は、本件の管轄合意に関して適用になる「明文の」民訴法の規定はないけれども、(民訴法第11条の趣旨を類推したかどうかはさておき、)「法理」上、一定の法律関係に基づいた訴えに関して結ばれたものでない限り無効、と判断した、と解釈することもできるように、私には読めました。(余り自信はないのですが・・・。)

4.
 次に、今回の判断の実質的な内容の部分を見てみます。

 今回の裁判所の判断は、上記2の青字の引用箇所の文言を見る限り、「契約内容との関係の有無にかかわらず、あらゆる紛争はカリフォルニア州の裁判所が管轄する」という管轄合意の規定内容が、「一定の法律関係に基づいた」紛争に関する管轄合意ではないので、無効だ、と判断したように読めますね。

 このような管轄合意の文言ですと、当該契約(=法律関係)とは全く関係のない両社間の紛争についても、当該管轄合意の効力が及んでしまうように読めてしまいますから、こうした合意に対し、裁判所が「『一定の法律関係に基づいた』紛争に関する管轄合意ではない」と判断するのは、理解できる気がいたしますね。

 その意味で、裁判所の今回の判断は、管轄合意についてのこうした裁判所の判断を見たことがなかっただけに、記事を見たときには少しビックリしましたが、冷静に検証すると、それほど不可思議なことを言っている訳ではない、と評価することも十分可能なように思われました。

5.
 さて、今回の判断が、実務にどのような影響を及ぼしうるか、考えてみました。

 まず、今回の判断は、事例上は国際裁判管轄の管轄合意の話ですが、「一定の法律関係に基づいた」紛争に関する管轄合意か否か、という問題は、民事訴訟法第3条の7のみならず、同法第11条もある以上、国際裁判管轄のみならず、国内裁判管轄についても射程範囲の及びうる判断である、と言えそうな気がいたしますね。(もちろん、本判決そのものからは直接射程範囲は及ばないかもしれませんが、国内裁判管轄に関して同じような訴訟が生じた場合には、今回の判決と同趣旨の判断が下される可能性がある、という意味で、広義の(?)射程範囲内には入ってきうるかと。)

 そういう意味では、本判決の「射程範囲」(広義)は実は広い、と考えられるようにも思われます。

 ただ、私の理解では、少なくとも日本の企業間の契約における管轄合意では、「本契約に関する一切の紛争については、◯◯地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」とか「本契約に関連して生じる一切の紛争については、◯◯地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」のように、「当該契約に関する」紛争、と限定が付されている場合がほとんどだと思いますので、このような限定をしている限り、「一定の法律関係に基づいた」紛争という要件は満たすことになるのではないか、と推測しております。
 ですので、日本の企業間のほとんどの契約の管轄合意については、現状の文言のままでおそらく問題ないのではないか・・・と思っております。
 (また、一方当事者が企業、一方当事者が個人、という場合の契約書でも、契約書に管轄合意の規定がある場合には、企業間の契約の場合と同様、「本契約に関する・・・」といった限定が入っていることがほとんどではないかと思いますね。)

 したがいまして、企業の法務担当者が本件判決から実務上学ぶべきことが仮にあるとすれば、日本国内の当事者間の管轄合意であれ、海外の当事者との契約における国際管轄合意であれ、管轄合意の文言について念のためチェックをした上で、「本契約に関する」などといった限定が付してあれば問題はないですが、そうした限定がなく、例えば本件のように「契約内容との関係の有無にかかわらず、あらゆる紛争」などとなっていた場合には、管轄合意として無効になりうるリスクが生じうることを認識し、可能な範囲で取れるべき対策を取る(具体的に取りうる対策は、既存の契約、これからの契約、契約ひな型など、どれに該当するかによって異なりうるでしょう)ことを検討する、ということになるのではないか、と思われます。

〔以上全体につき、注記(ディスクレーマー)〕
(1) 本ブログ記事は、判決文を確認したものではなく、ネット記事の情報に依拠した上で暫定的なコメントを記載したものですので、その内容につきまして依拠することは現時点ではお控え頂ければと存じます。
(2) また、本ブログ記事は、個別のケースについて法的アドバイスを提供するものではありませんので、個別のケースに関する最終的な適法性については、別途弁護士に御相談等されて御判断下さい(弊職ではこの点について責任は負いかねますので、恐縮ですがご了承下さい)。
(3) 上記の5については、消費者契約の場合、および労働契約の場合の議論は、話が複雑化しますので、(ひとまず)含めていない点に御留意下さい。

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 本件については、やはり何より、判決文を早く読みたいですね。(判決文を読んだ上で、本日のブログ記事の内容に修正すべき箇所があったら、早めに修正したいと思います。)
 それでは、本日はこんなところで・・・。

(2016年2月17日 追記)
 弁護士の中川隆太郎先生がツイートされていたのですが、民事訴訟法第3条の7の「一定の法律関係」については、道垣内正人先生(早稲田大学大学院法務研究科教授)が御著書の中で、以下のような記載をされていたのですね。参考になります。

 「A社・B社間の将来のいかなる紛争についても東京地裁を管轄裁判所として定めるという合意は、『一定の法律関係』に基づく訴えに関するものではない。これに対して、両者間の売買に関する基本契約の中に管轄合意条項を置いている場合には、その基本契約のもとで締結される個々の売買契約に関する訴えは、『一定の法律関係』の要件を満たすことになる。それらの個々の売買契約は、その内容の一部として基本契約を取り込んでいると考えられるからである。(後略)」
(道垣内正人「国際契約実務のための予防法学 準拠法・裁判管轄・仲裁条項」(商事法務、2012)199頁)

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