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 さて本日は、やはり、既にニュース等で非常に話題になっております、このテーマを。

1.
 認知症の高齢者が列車に衝突した事故に関する訴訟について、本日(1日)、最高裁判決が下されました。
 結論は、ご承知のとおり、事故を起こした高齢者の妻、長男のどちらに対しても、民法714条の責任を否定しました。(原審は、妻については責任を肯定、長男については責任を否定し、控訴人、被控訴人とも、上告・上告受理申立てをしていました。)

(控訴審判決については、以前、本ブログでも記事として紹介させて頂きました。
 
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/7278004.html )

2.
 事実関係についての説明は割愛させて頂き、多数意見における、規範・あてはめ部分を紹介させて頂きます。(以下、下線・太字は川井による)

(1)
 まず、多数意見は、事故に遭った認知症の高齢者(以下「A」)の妻(「Y1」)と長男(「Y2」)が法定の監督義務者に該当するか否かについて、以下のように判示しました。

① 「・・・精神上の障害による責任無能力者について監督義務が法定されていたものとしては、平成11年法律第65号による改正前の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律22条1項により精神障害者に対する自傷他害防止監督義務が定められていた保護者や、平成11年法律第149号による改正前の民法858条1項により禁治産者に対する療養看護義務が定められていた後見人が挙げられる。」

  「しかし、保護者の精神障害者に対する自傷他害防止監督義務は、上記平成11年法律第65号により廃止された(なお、保護者制度そのものが平成25年法律第47号により廃止された)。」

  「また、後見人の禁治産者に対する療養看護義務は、上記平成11年法律第149号による改正後の民法858条において成年後見人がその事務を行うに当たっては成年被後見人の心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない旨のいわゆる身上配慮義務に改められた。
  この身上配慮義務は、成年被後見人の権限等に照らすと、成年後見人が契約等の法律行為を行う際に成年被後見人の身上について配慮すべきことを求めるものであって、成年被後見人に対し事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや成年被後見人の行動を監督することを求めるものと解することはできない。」

  「そうすると、(川井注:本件事故のあった)平成19年当時において、保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない。」

② 「民法752条は、夫婦の同居、協力及び扶助の義務について規定しているが、これらは夫婦間において相互に相手方に対して負う義務であって、第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課するものではな」い。しかも、「同居の義務についてはその性質上履行を強制することができないものであり、協力の義務についてはそれ自体抽象的なものである。また、扶助の義務はこれを相手方の生活を自分自身の生活として保障する義務であると解したとしても、そのことから直ちに第三者との関係で相手方を監督する義務を基礎付けることはできない。」
  「そうすると、同条の規定をもって民法714条1項にいう責任無能力者を監督する義務を定めたものということはできず、他に夫婦の一方が相手方の法定の監督義務者であるとする実定法上の根拠は見当たらない。」
  
③ 「したがって、精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条1項にいう『責任無能力者を監督する法定の義務を負う者』に当たるとすることはできないというべきである。」

④ (妻へのあてはめ)
  第1審被告Y1はAの妻であり、本件事故当時「保護者」(平成25年法律第47号による改正前の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律20条参照)でもあったが、「以上説示したところによれば、第1審被告Y1がAを『監督する法定の義務を負う者』に当たるとすることはできない」。

⑤ (長男についての判断)
  「また、第1審被告Y2はAの長男であるが、Aを『監督する法定の義務を負う者』に当たるとする法令上の根拠はないというべきである」。

(2)
 次に、多数意見は、「法定の監督義務者に準ずべき者」という概念について規範定立を行い、その該当性についての判断基準を示しました。

① 「もっとも、法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり、このような者については、法定の監督義務者に準ずべき者として、同条1項が類推適用されると解すべきである(最高裁昭和56年(オ)第1154号同58年2月14日第一小法廷判決・裁判集民事138号217頁参照)。
  その上で、ある者が、精神障害者に対し、このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは、その者自身の生活状況や心身の状況などとともに、精神障害者との親族関係の有無・濃淡、同居の有無その他の日常的な接触の程度、精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情、精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容、これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して、その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである。」

② (妻へのあてはめ)
・第1審被告Y1(Aの妻)は、本件事故当時85歳で左右下肢に麻痺拘縮があり要介護1の認定を受けていて、Aの介護もB(Aの長男の妻)の補助を受けて行っていた。
→「Y1は、Aの第三者に対する加害行為を防止するためにAを監督することが現実的に可能な状況にあったということはできず、その監督義務を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。」
→「したがって、第1審被告Y1は、精神障害者であるAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはできない。」

③ (長男へのあてはめ)
・Y2自身は、A(愛知県)とは離れた場所(横浜市)に居住しており、本件事故まで20年以上もAと同居しておらず、本件事故直前も1ヶ月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎない。
→「Y2は、Aの第三者に対する加害行為を防止するためにAを監督することが可能な状況にあったということはできず、その監督を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。」
→「したがって、第1審被告Y2も、精神障害者であるAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはできない。」

(3)
 以上より、妻Y1、長男Y2のいずれの責任も認めず。
 Y1について責任を認めた原審の判断を破棄、第1審判決を取消し、Y1に対する請求を棄却。また、Y2について責任を否定した原審判断に対する上告を棄却。

3.
 以下、五月雨式ではありますが、コメントをいくつか書かせて頂きます。

(1)
 今回の最高裁判決の多数意見は、以下のようなロジックを辿ったのが特徴的でした。

 ①まず民法714条1項に該当する「法定の監督義務者」に、本件の妻・長男があたるか、を判断。
       ↓
  本件の妻・長男には、法定の監督義務者に該当する法令上の根拠がない。
       ↓
  よって、「法定の監督義務者」への該当性は否定。
       ↓
 ②次に、民法714条1項が直接適用される「法定の監督義務者」に該当しない場合でも、「監督義務を引き受けたと見るべき特段の事情」があり、「法定の監督義務者に準ずべき者」として、同条1項が類推適用できる場合がある、と判示。
       ↓
   どのような場合に「準監督義務者」にあたるかの判断基準(考慮要素)を提示。
       ↓
   (あてはめ)しかし本件では、妻・長男とも、「準監督義務者」にも該当しない、として、類推適用も否定。

(2)
 上記2(1)の①~③で、最高裁が、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律における「保護者」や、民法752条について言及しているのは、原審である控訴審判決が、その2つの規定を根拠に、妻について「法定の監督義務者」である、と判示したため、であると言えるでしょう。
 この点については、控訴審判決の考え方を支持する見解(米村滋人・判例評論677号5頁)もあった一方で、反対する考え方(前田太朗・新・判例解説Watch(法セ増刊)15号86頁、前田陽一・論究ジュリスト16号23頁)もあったところであり、今回の最高裁判決は、こうした争いのあった点について最高裁が判断を示した、という点で意義があったと思います。

(3)
 上記2(2)のように、「監督義務に準ずべき者」という類型を定立し、一定の場合には民法714条1項の類推適用を可能にする、という規範定立が適切だったかどうかについては、私の能力を超えますので、コメントは難しいですね・・・。まあ、どのような規範やルールであっても、一定の場合の例外規定を設ける必要性があるのは理解しているつもりではありますが(本件判決もこの類型が当てはまるのは「特段の事情」がある場合、と判示しております)。
 ただ当然ながら、このような実質的な判断を伴う規範の場合には、射程範囲が不明確になる嫌いがありますので、そういった点が今後、予測可能性を大きく損なうことにできる限りならないようになればいいなあ・・・と思っております。

(4)
 以上、多数意見は、妻・長男とも、そもそも民法714条1項の「監督義務者」「準監督義務者」にそもそも該当しない、という判断を下しました。したがって、今回の最高裁は、「監督義務者」や「準監督義務者」に当たったとして、ではそれらの者が監督義務を怠らなかったかどうか、という点については、(少なくとも多数意見では)何も言っていない、すなわち、規範定立も、あてはめも、どちらも行っていないのですよね。
 
 ただ、本日の判決では(木内裁判官の補足意見の他に)岡部裁判官の意見と大谷裁判官の意見が付されておりまして、両裁判官とも、長男について、「法定の監督義務者に準すべき者」であったとしつつ(その理由は両裁判官で異なりますが)、監督義務の懈怠があったか否かについてあてはめを行い、結論として、長男は監督義務は怠らなかった、と判示しました。
 この両裁判官の「監督義務を怠らなかった」という判示に至る理由の過程を読みますと、両裁判官は、監督義務を怠らなかったか否かについて、従来の民法714条の裁判例の傾向とは異なり(ちょっとここは自信がないのですが)、比較的緩やかに監督義務懈怠の有無を判断しているように読めましたね。このことからすれば、最高裁も、本件のような認知症の患者の場合の監督義務懈怠の有無については、比較的緩やかに認定するのだ、と考えても良いのかもしれません。

(5)
 本件の控訴審判決を読んだ際、率直な直感的感想として、「ちょっとご遺族に酷かもしれないなあ・・・」「認知症の患者のご家族に、民法714条の厳格な責任を負わせるのは酷ではないかなあ。子供の場合の民法714条と同じように考えるのは少し引っかかるなあ」と思っていました。

 本日の最高裁判決の多数意見は、民法714条の監督義務者にあたるか否かというところで比較的絞りをかけるというアプローチを取ったのですが、このアプローチは、民法714条の監督義務者にはあたるけれども監督義務は怠らなかったかどうかで絞りをかける、というアプローチよりは、個人的には上記のモヤモヤした直感を解消するには親和的なアプローチではないかと考えております。本件のようなご家族が「一般的には監督義務者なんだけれども監督義務は怠らなかった」という範疇に入るのだ、と言うより、「民法714条の監督義務者とはそもそも言えない」という方が、やはり常識的にもしっくりくる気がするのですよね。もちろん、ここは様々な異論もあるとは思いますが・・・。

 もっとも、今回の最高裁判決の多数意見のように、「引き受け」があったことによって準監督義務者に該当してしまう、ということになると、介護に積極的だったり中心的だった者であればあるほど民法714条の責任を負いうるリスクが高まることになり、この事は、下手をすると「介護しない方がリスクは少ない」として介護に対する消極姿勢を高めることにもなりかねない危険を有しているようにも思われます。
 この点については、裁判所は、「監督義務を怠らなかった」という要件の判断のところで、比較的緩やかに判断するのであり、通常程度の対応さえしていれば、免責の余地はちゃんとあるのだ、ということを、きちんとアナウンスして(今の段階でそう言い切っていいかどうかは別途検討が必要かもしれませんが、もしそれが可能であるならば)、介護に対する過度の抑止効果がないように気をつける必要があるのかもしれないなあ、とも思いました。

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 それでは、本日はこんなところで・・・。