さて、本日は、改正民法のお話です。

 「民法の一部を改正する法律」では、附則で経過措置が設けられておりまして、定型約款についての経過措置も、附則第33条で規定されています。

 しかし、現時点で世の中に存在する改正民法の書籍には、この定型約款の経過措置に関して突っ込んだ説明をするものが非常に少ないんですよね。もちろん、全くない訳ではないのですが・・・。そもそも、経過措置についての解説をする書籍自体が少ないですし、仮に解説があったとしても、附則の規定内容をそのまま書いたようなものが多いです。

 しかし、定型約款の経過措置については、他の経過措置と異なり、施行前の比較的早い段階から対応への準備を検討する必要がある内容を含んでおり、重要性が高いので、本日は、この経過措置について、自分ができる限りで、少し突っ込んだ解説を試みてみたいと思います。

2.
(1)
 「民法の一部を改正する法律」の附則第33条は、定型約款に関する経過措置を定めた規定であり、規定の内容は以下のとおりです。

(定型約款に関する経過措置)
第33条
1 新法第548条の2から第548条の4までの規定は、施行日前に締結された定型取引(新法第548条の2第1項に規定する定型取引をいう。)に係る契約についても、適用する。ただし、旧法の規定によって生じた効力を妨げない。
2.前項の規定は、同項に規定する契約の当事者の一方(契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者を除く。)により反対の意思表示が書面でされた場合(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合を含む。)には、適用しない。
3.前項に規定する反対の意思の表示は、施行日前にしなければならない。


 そして、「民法の一部を改正する法律」の施行期日は、原則として「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」とされています(附則第1条柱書本文)が、例外的に、「附則第33条第3項の規定」については、施行期日が、「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされています(附則第1条但書2号)。

(2)
 では、附則第33条の1項から3項までの解説です。

(ア)
 まず1項ですが、これは、改正民法における定型約款の規定全て(改正後の民法548条の2から民法548条の4まで)を、施行日前から締結された定型取引に係る契約についても適用する、という規定です。これはすなわち、改正民法施行後の定型約款の規定を、施行前から存在する定型取引に係る契約に遡及適用することを意味します。
 通常、改正法が、改正前から存在する事項に遡及適用することは、原則としてありません。改正民法のその他の改正規定も、遡及適用を認める規定は(確か)基本的にはありません。その意味で、改正民法における定型約款の規定は、遡及適用をするという点で、非常に例外的な取扱いがなされていることになります。

 何故このような措置が取られたかということについては、定型約款の規定のうち、定型約款の変更の規定(改正民法548条の4)を、改正民法施行前に締結された定型取引に関する契約にも適用できるようにする必要があるから、と言われているようです。

(イ)
 次に2項ですが、同項は、「契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者」を除いて、1項の遡及適用を望まない当事者が書面(または電磁的記録)でその旨を意思表示した場合には、そうした当事者の意思を尊重し、施行日前に締結された定型取引に関する契約には、定型約款の規定を遡及的に適用させない、という趣旨の規定です。
 したがって、施行前に締結された定型取引に係る契約については、当事者が何もしなければ、改正民法の定型約款の規定が適用されてしまうのが原則(附則第33条1項)なのですが、当事者の一方が「遡及適用はいやだ!」と書面で意思表示すれば、改正前の民法(すなわち、現行民法)の規定の下で定型取引に係る契約を改正後も引き続き規律することが例外的に可能になる訳です。

 ただし、上述のとおり、このルールは、「契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者」に対しては適用がありません。これは、こういう者は、解除権を行使することによりいつでも当該契約から解放されることができるから、反対の意思表示をさせる必要がない、という趣旨のようです(ここは、今一つ説明に自信がないのですが)。
 ここで「契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者」とはどういう意味なのか、についてですが、「契約…により解除権を現に行使することができる者」(すなわち、約定解除)については、「現に」という文言がある以上、例えば契約書や約款に解除条項があるだけでは駄目で、その解除条項に規定した内容が実際に成就しており、当該条項に基づく解除権を行使することをしようと思えばいつでもできる状態にあることを意味するのではないか、と私は考えております。(ただここは、完全な自信はありません・・・。立案担当者の詳しい解説を待ちたいところです。)

(ウ)
 次に3項ですが、上記の附則第1条但書2号と併せて読むと、当事者の一方による2項の「反対の意思の表示」は、「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」から施行日までの間にしなければならない、というルールになります。
 これは、反対の意思表示をするかどうかについて比較的長い準備期間(最短でも2年くらいはあることになります)を設け、現行法のもとで締結された定型取引に係る契約について、定型約款の規定を遡及適用させるか否かについて十分な準備をさせることを意図したものと考えられます。(また3項には、「反対の意思表示は、改正民法の施行日以後にするのでは間に合いませんよ」という、終期について明確化する趣旨も、当然ながらあります。)

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 本日のブログ記事の内容に関して、もし私の理解に誤りがありましたら、是非ご指摘下さい。
 それでは、本日はこんなところで・・・。