1.
 さて、ご承知の方も結構いらっしゃるかもしれませんが、今般の民法改正に伴い、民法改正の整備法で、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」も改正されております。
 改正後は、法律名そのものも変更になっておりまして、 「電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律」というタイトルの法律となります。

 本日は、この「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」の改正につきまして、法律の規定ぶりは大きく変わりますため、備忘も兼ねて、ブログ記事として紹介させて頂きます。

2.
 最初に、現行の「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」に(以下「本法」といいます)つきまして、簡単に説明させて頂きます。

 本法は、平成13年12月に施行され、大きく2つのこと(以下の(1)(2))について規定した法律です。

(1) 錯誤に関する現行民法95条但書の原則を修正する特則(本法3条)

→現行民法95条但書は、表意者に「重大な過失」があった時には、錯誤無効の主張はできない、と規定するのに対し、本法は、表意者が錯誤無効を主張できない場合の要件(すなわち、現行民法95条但書を適用するための要件)を民法よりも加重するルールを設けている。→その結果、表意者の錯誤が「重大な過失」にあたりにくくなり、表意者が錯誤無効を主張しやすくなる、という効果をもたらすことになる。
  
 この規定の趣旨は、
・パソコン等を利用した電子消費者契約においては、通常の方法の契約よりも、消費者において機器の操作ミス(クリックミス等も含む)をすることが少なくなく、この結果、意図しない契約をしてしまうことがある。

・このような場合には、消費者は、現行民法上の錯誤(具体的には、表示上の錯誤)として契約無効を主張することが可能だが、現行民法では、重過失があった場合には無効主張をすることができないため、事業者側から「消費者には重過失があった」との反論を受け、重過失の有無を巡って紛争が生じてしまう(ひいては、消費者に重過失ありとして、消費者が救済されないケースが少なからず生じてしまう)ことになる。

・そこで、電子契約は一般の消費者が通常の注意を払ってもミスをしやすい特性を有することに鑑み、BtoCの取引では、事業者において一定の確認措置(詳細は割愛させて頂きます)等がなかった場合には、民法95条但書を適用しないことにしたのが、この規定である。
(逆に言うと、BtoCの電子契約(電子消費者契約)では、事業者において一定の確認措置等を講じた場合にのみ、民法95条但書を適用することにしたのが、この規定である。)


(2) 契約の成立時期に関して発信主義を定めた民法526条・527条の規定の特則(本法4条)。

→隔地者間の契約で、承諾の通知が電子的な方法で行われる場合には、民法526条・527条を採用しないと規定することで、契約の成立時期について、到達主義を採用したものである。

(本法4条の趣旨につきましては、本記事をお読みの皆様であれば概ねご承知のことと思いますので、記載を割愛させて頂きます。)

3.
 以上を前提に、では今回、本法がどのように改正されたかといいますと、

(1)
 まず、上記2(1)については、改正民法で錯誤の規定(95条)が大幅に改正されたことに伴い、規定の整理・文言の変更がなされています。
 ただし、実質的な内容に関する改正は、上記2(1)については、ありません。

 具体的には、
① 改正民法では、錯誤の規定に「要素」(要素の錯誤における「要素」)という文言はなくなったので、本法第1条、第3条の規定から「要素」の文言を削除。

② (上記①以外に)本法第3条の規定を、以下のとおり変更。

[現行の本法第3条]
 民法第95条ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであり、かつ、次のいずれかに該当するときは、適用しない。
(以下略。第3条の以下の部分には、改正箇所なし)

[改正後の本法第3条]
 民法第95条第3項の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その意思表示が同条第1項第1号に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであり、かつ、次のいずれかに該当するときは、適用しない。(以下略。第3条の以下の部分には、改正箇所なし)

(川井注)
 上記をパッと見ますと、改正法の文言では、「その意思表示が同条第1項第1号に掲げる錯誤」となっており、錯誤の対象がいわゆる「表示の錯誤」(改正民法第95条第1項第1号)に限られ、「動機の錯誤」(改正民法第95条第1項第2号)は対象外とされていることがわかります。このような限定は、現行の本法では、文言上は見られないものです。
 しかしながら、本法における民法95条但書の特則のルールは、錯誤のうち、表示上の錯誤に限定したものである、というのが立法趣旨でありまして(電子機器の場合にはうっかりクリック等が多いので、それを救済するのが立法趣旨ですので、それは錯誤で言えば表示の錯誤の場合のみに該当する、ということですね)、そう考えますと、今回の改正法の上記規定は、現行のルールを実質的に改正するものではなく、現行の立法趣旨や解釈を条文で明確化したものに過ぎない、ということになるものと思われます。

(2)
 次に、上記2(2)については、隔地者間の契約の成立時期について発信主義を定める現行民法526条1項、527条の規定は、現代ではもはや合理性がないとして、改正民法では規定が削除され、改正民法のもとでは、隔地者間の契約の成立時期についても、原則どおり、到達主義(民法97条)が採用されることとなりました。
 このように、民法改正で発信主義の規定が削除され、到達主義とされた以上、電子契約において発信主義を修正して到達主義を定める本法第4条の規定は最早存在意義がなくなりますので、今回の本法の改正で、本法第4条の規定は削除されました。

[現行の本法第4条]
 民法第526条第1項及び第527条の規定は、隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合については、適用しない。

[改正後]
(削る)


 なお、上記2(2)に関してはその他、以下の改正がなされています。
・第2条第4号の「電子承諾通知」の定義規定が削除された。
・第1条の文言が整備された。

(3)
 参考までに、本法の第1条の現行の文言と、改正後の文言を記載しておきます。

[現行の本法第1条]
 この法律は、消費者が行う電子消費者契約の要素に特定の錯誤があった場合及び隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関し民法(明治29年法律第89号)の特例を定めるものとする。

[改正後の本法第1条]
 この法律は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について特定の錯誤があった場合及び隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関し民法(明治29年法律第89号)の特例を定めるものとする。


4.
 以上のとおり、改正後の本法は、現行の本法が有する2つの規定内容((1)民法95条但書の重過失の規定の特則、(2)民法526条・527条の隔地者間の契約の成立に関する発信主義の特則)のうち、(2)の規定は改正民法と同内容になったため削除され、(1)のルールだけが(改正民法の錯誤の規定の改正に伴い文言が修正された形で)残った、ということになります。

 結局、本法の規定ぶりは大きく変わりましたが、実質的なルールの在り方としては、現行と変わらない、ということになりますね。

 なお、本法の改正の施行期日は、改正民法と同じく、2020年4月1日です。

(※本日のブログ記事のうち、本法の趣旨や解釈につきましては、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律 逐条解説」(経済産業省・商務情報政策局情報経済課、平成13年12月)の解説内容に依拠しております。)

* * * *

 それでは、本日はこんなところで・・・。