さて、判例タイムズの2018年7月号(1448号)188頁と、判例時報2018年7月11日号(2369号)34頁に、 同じ裁判例(大阪地裁民事第10部(調停専門部)平成29年9月29日決定)が掲載されておりました。

1.
 本件の事案で問題となった契約の契約書には、合意管轄の条項として、以下のような文言の規定(「本件条項」)があったそうです。

「この契約に関して疑義又は紛争等が生じたときは、甲乙協議の上、円満に解決します。甲、乙及び連帯保証人は、この契約について訴訟の必要が生じたときは、大阪地方裁判所又は茨木簡易裁判所を管轄裁判所とすることに合意します。」

2.
 そして、この事件の一方当事者が、本件条項における「訴訟」には「調停」も含まれるとして、茨木簡易裁判所に調停を申し立てたところ、相手方当事者は、本件条項はあくまで、訴訟に関する管轄合意であって、調停に関する管轄合意ではないとして、大津簡易裁判所への移送を申し立てた、とのことです。

3.
 以上の事案につき、裁判所は、以下のように判断しました。(下線は川井による)

「民事調停法3条1項は、調停事件については、特別の定めがある場合を除いて、調停事件の相手方の住所等を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄としており、民事訴訟における管轄とは異なり、原則として、当事者が合意で定めない限り調停事件の相手方の住所等を管轄する簡易裁判所が管轄裁判所となる。この趣旨は、主として、合意による紛争解決を目的とする調停事件については、相手方の出頭の便宜に配慮し、調停の円滑な進行に資するところにあると解される。

 そして、本件条項が、その文言上、訴訟についての管轄を定めるものであることは明らかであるところ、上記の趣旨に照らせば、本件条項をもって、訴訟のみならず調停についても管轄合意があったと解釈することは、調停を起こされる側の出頭を困難にし、調停の円滑な進行を阻害することになりかねず、相当でない。本件において、茨木簡易裁判所で調停を行うためには、調停を起こす側(相手方)は、これを起こされる側(抗告人)との間で新たに管轄合意を締結する負担を負うことになるが、合意による紛争解決を図るという調停の目的に沿った合理的な負担といえ、このように解しても特段の不都合はない。

 したがって、本件条項をもって、調停について管轄合意があったと解釈することはできない


 よって、基本事件は、茨木簡易裁判所の管轄に属さず、大津簡易裁判所の管轄に属するものと認められる。」


「なお、相手方は、本件条項を全体として解釈すれば「訴訟」には「この契約に関して・・・紛争が生じた場合」も広く含まれうると主張するが、上記(中略)の説示に照らせば、そのような解釈は相当でないというべきである。
 ちなみに、大阪地方裁判所では、管轄合意書の提出がない調停申立てについては、管轄する簡易裁判所へ移送する運用をしている。」


 なお、本決定は、3人の裁判官による判断であり、確定しています。

4.
 なるほど・・・。
 実務家的には、ちょっと厳しい判断かなあ、という気がしなくもないですが。

 まあでも、このケースは契約書の合意管轄の条項が「この契約について訴訟の必要が生じたときは」となってしまっているので、このような合意管轄の条項の効力が本件のように裁判で争われてしまうと、この条項の文言で調停の管轄合意があったとみるのは、さすがに苦しいかもしれません・・・。「この契約について紛争が生じたときは」という文言であったならば、まだ違ったのかもしれませんが・・・。

 まあでも、契約書の合意管轄の条項で、「この契約について訴訟の必要が生じたときは」という文言って、実は実務上も結構沢山見かける気がしますので、こういう文言の場合には、いざ調停をしようとする場合には、管轄合意の効力が及ばないリスクがある、ということを理解しないといけないのかもしれませんね。

 東京地裁の民事調停部(家事調停ではなく)は、どういう運用をしているのかなあ。時間ができたら、ちょっと調べてみます・・・(たぶん、時間はできない気がします・・・(苦笑))。

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 それでは、本日はこんなところで・・・。

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