さて、本日は、比較的最近の裁判例のご紹介です。

 退職後のストック・オプションの行使が争われた裁判例って、なかなか珍しいのではないかと思いまして(しかし、世の中では、起きておかしくない紛争類型だと思われます)、紹介させて頂く次第です。

1.
 ある会社Y(現在は上場企業)の従業員だったXは、Yに在職中に、Yから新株予約権(ストック・オプション)の割当てを受けました(割当てを受けた当時は、Yは非上場かつ非公開会社)。

 XY間の新株予約権の割当てに関する契約書には、行使条件として、

「その行使の時点で、Yの取締役、監査役、従業員又はYの取締役会が認めたこれに準ずる地位(以下「従業員等の地位」という。)にある限りにおいて、新株予約権を行使することができる。ただし、任期満了による退任又は定年退職その他正当な理由があると取締役会が認めた場合にはこの限りでない」

という定め(「本件行使条件」)がありました。(川井注:よくある行使条件の規定ですね。)

 ところがその後、Xは、Yから退職勧奨を受けます。

 Xが提示した退職勧奨通知書によれば、新株予約権については、「両者合意の上有効とする。」という記載(「本件有効条項」)がされていました。

 そして退職勧奨を受けて約1ヶ月半後に、XはYを退職。

 Yとしては、当初は、Xの退職後であっても、Xによる新株予約権の行使を認めようという考えだったようです。
 このため、当初は、退職直後の取締役会で、Xの退職後も継続的に新株予約権の所有を認める取締役会決議をしようとしていたのですが、どうも、この時点でXとYとの間で意見等が対立していたようで、結局、そうした議案はYの取締役会では上程されませんでした。

 その後、意見の対立が決定的なものになったためか、XはYを提訴(本件訴訟とは別訴です)。

 その後、Yが上場した後に、Xが新株予約権の行使をYに求めたところ、Yがこれを拒否したため、Xは本件訴訟を提起しました。

2.
 本件訴訟は、第一審段階では、Xが、Yに対し、本件新株予約権を行使することができる地位にあることの確認を求めるものでした。

 第一審判決(東京地裁平成27.1.14判決)では、Xの請求を棄却。

 第一審は、本件有効条項によっても、将来Xが本件新株予約権を行使することについてあらかじめ取締役会が承認した、あるいは、本件新株予約権の行使については取締役会の承認を要しないとする明確な合意があるとは認められないから、取締役会の承認決議がない以上、本件行使条件は充足されていない、として、Xの請求を棄却しました。

 Xは、これを受けて控訴。

 控訴審では、第一審での請求を主位的請求とし、予備的請求として、YにおいてXが新株予約権を行使できるよう取締役会に承認決議を求める義務に違反した、などと主張して、Yに対し、債務不履行または不法行為に基づき、損害賠償を求める訴えを追加しました。

3.
 控訴審判決(東京高裁平成28.11.10判決・判例タイムズ1445号(2018年4月号)116頁)は、主位的請求、予備的請求のいずれも棄却しました。

(1)
 まず、主位的請求に関して、Xは、「本件有効条項」は、取締役会の承認決議がなくても、当然に本件新株予約権の行使を可能にするものだと主張した(要するに、「本件有効条項」は、行使条件を変更したものだ、という主張)のに対し、Yは、「本件有効条項」は、本件新株予約権が存在することを確認したにとどまり、その行使の可否はYの取締役会による任意の判断に委ねられる、と反論していました。

 控訴審は、以下のとおり判断し、Xの主張を排斥しました。

 Yの株主総会では、本件新株予約権の内容等及び細目的事項の決定は取締役会に委任する旨の決議がなされ、取締役会の決議事項とされたのであるから、本件行使条件を変更することもこれに該当する。
 したがって、退職勧奨に応じて退職したXについては、例外的に「正当な理由」があるとして新株予約権の行使を認める旨の取締役会決議がなければ本件新株予約権の行使はできないものというべき。

 そして、本件新株予約権については、取締役会の承認決議がない以上、本件行使条件を充足していないから、Xにおいてこれを行使することはできない。

(2)
 次に、予備的請求については、控訴審は、

・本件有効条項は、本来、従業員の地位を喪失するため、新株予約権の行使はできず、消却されるべきところ、退職勧奨に応じて円満に退職する場合には、例外的に「正当な理由」があるものとして取締役会に承認決議案を上程し、承認決議を求める旨の合意である(控訴審による事実認定)。

・したがって、Xが退職勧奨に応じて円満退職した場合には、本件有効条項によって、Xについて「正当な理由」があるものとして取締役会に新株予約権の行使を承認する議案を上程し、承認決議を求める義務を負う。

・しかし、ストック・オプションの発行目的は、企業価値の向上に対する取締役等の意欲を一層向上させることにあるから、退職者に対し例外的に新株予約権の行使を認める「正当な理由」も、企業価値の向上に対する貢献という見地から従業員等と同等に扱うことを正当化する事由がある場合を意味する。
 少なくとも企業価値を毀損するような場合は、「正当な理由」があるとは言えない

・また、「正当な理由」の具備の時期は、退職勧奨に応じた時期までで判断するのではなく、取締役会の承認決議時までに生じた事情を考慮してよい。退職後承認決議がなされるまでの間に、企業価値を毀損するような事態があったと認められる場合には、「正当な理由」がないとして取締役会で承認しないこともできる。

・本件では、(XがYに対し別件訴訟を提起していることなどを根拠に)円満退職とは相容れず、したがって、「正当な理由」はない、とあてはめ。

・よって、Yに債務不履行や不法行為はないと判断。予備的請求についても、Xの請求を棄却。

・なお、控訴審判決は確定しています。

* * * *

 本裁判例は、事例判断の部分が多い裁判例ではありますが、退職後のストック・オプションの行使や「正当な理由」の内容について、裁判所がどのような発想で判断するのかが良く分かる点で、とても参考になる判決ではないか、という気がいたしましたね。

(ちなみに、この判決から言える事って、結局、元従業員の側からすれば、「退職後のストック・オプションの行使を認めてもらえる形で円満退職したとしても、その後も会社とは友好な関係を続け、取締役会で承認してもらえるようにしておかないと、結局行使を認めてもらえないのと同じ結果になりますよ…。」ということになるんでしょうかね…。)

 同種訴訟がもし起きた場合には、読んでおくべき裁判例であろう、と思います。

 それでは、本日はこんなところで…。


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