1.
 さて、皆様ご承知のとおり、新型コロナウイルスの問題は、現在の日本に非常に大きな影響をもたらしておりまして、全く油断できない状況が続いております。
 多数人が集まる屋内でのイベントについても、コロナウイルスの拡散という観点では危険度が高いことは、周知の事実となってきました。

 そんな中、株主総会についても、3月総会に関しては各社様々な形でコロナをできる限り拡散させないような対応が採られており、その一環として、いわゆる「ハイブリット型バーチャル株主総会」が採られた会社も登場するに至っております。

 現時点での上場企業の株主総会への対応は、現行法上の解釈を踏まえ、

・物理的な株主総会は開催せざるを得ない
・しかし、コロナ拡散リスクを考えると、株主が多く集まるのはリスクなので、株主にはできる限り総会に来て欲しくない
・ただ、株主に「来るな」と強制はできないので、来場を「自粛」することを求めるにとどまる

というものだと思います。

2.
 しかしながら、コロナウイルスに関する厳しい現在の状況を踏まえますと、更に踏み込んで、「株主が一切参加しない形での株主総会開催ができないだろうか」という点を、真剣に検討すべき段階にきているものと思います。

 本来的には立法で解決するのが望ましいのですが、仮にそれが難しいのであれば、解釈で解決できないのでしょうか。
 その点を以下、検討してみたいと思います。

3.
 まず、バーチャルオンリー型の株主総会(リアルな株主総会を開催することなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の出席をする株主総会)開催についてですが、これについては、現行法の解釈上、難しいとされています。

 この点についての法務省の見解は、第197回国会の、平成30年11月13日に開催された衆議院法務委員会で、以下のように示されています。(下線は川井による)

(松平浩一委員の質問)
そこで、まずこの現行法の解釈を伺いたいんですが、ハイブリッド型とバーチャルオンリー型の株主総会、これは日本ではできるのかどうか、法律上許容されるのかどうか、これを伺いたいと思います。


(小野瀬厚・法務省民事局長(当時)の答弁)
「お答えいたします。

 まず、委員御指摘のハイブリッド型についてでございますが、取締役が実際に開催する株主総会の場所を決定し、これを株主に通知した上で、その場所に来ていない株主等についても、情報伝達の双方向性及び即時性が確保されるような方式によって株主総会に出席することを認めることは、会社法上許容されるものと解されます。したがいまして、実際に開催されている株主総会に株主がオンラインで参加することを許容すること、いわゆる御指摘のハイブリッド型の株主総会を行うことは、会社法上許容され得るものと解されます。

 これに対しまして、実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容することができるかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております。」

 このように、「会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていること」がメインの理由となって、バーチャルオンリー型の株主総会を開催することは現行法上難しい、ということが、法務省の現在の見解である訳です。

4.
 では、バーチャルオンリー型株主総会ではなく、ハイブリット型バーチャル株主総会(または、リアル株主総会)という方法を取ったうえで、株主に対し「なるべく来ないでくれ」と来場を「自粛」するに留まらず、「来場するな。総会は物理的に開催するけど、出席株主は無しで開催する」と強制することが、会社法上許容されるのでしょうか。
 相撲などのスポーツイベントにおける「無観客試合」ならぬ、「無株主総会」が許されるか、という論点です。

(1)
 まず、こうした措置の必要性については、現在の状況の危険度、株主総会がいわゆる「3密」にあたる可能性が少なくないこと、等から考えて、感染拡大を防ぐという趣旨から、極めて強度な必要性があると考えます。

(2)
 そして、こうした措置が許容されるか(許容性・手段としての相当性)についてですが、

① 株主総会に関して最も重要な株主の権利は、言うまでもなく議決権です。しかし、議決権に関しては、書面または電磁的記録による議決権行使が認められているのであれば、そうした会社の株主にとっては、議決権は確保されていると言えます。
  

② また、株主には、議案等に関して会社の取締役等に質問等をする権利が認められると思いますが、質問をしたい株主にとっては、書面等で事前に質問することは可能です。また、書面ではなく、総会というリアルの場での質問権というものが仮に観念できるとしても、本件における(1)の強度の必要性に鑑みれば(比較考量すれば)、今回に関しては認めないことも容認できる、と言えないでしょうか。

 そもそも、現在の上場企業の株主総会実務においても、総会の場における質問株主数や、個々の株主が質問できる数は限定されている例は多く見られる(したがって、質問したいと思っていたものの、結果的に質問することができなかった株主も相当数存在する場合がある)のであり、このように総会の場での質問も一定程度制限されることが容認されている以上、今回のような事例の場合には、総会の場での質問を行う機会自体を与えない、という措置は、許容される余地は十分にあるように思われます。

5.
 以上より、

① 今回の新型コロナウイルス対応、という理由に限ったうえで(これは大事と思います)、

② 会社の会議室等を開催場所とすることで、リアルな総会は開きつつ、

③ 株主を出席させない、いわば、「無観客試合」ならぬ「無株主」総会とすることは、

④ 書面または電磁的記録による議決権行使を認めている限り(おそらく、上場企業は全てこの条件を満たすのではと思われます。他方、非上場企業で、
書面または電磁的記録による議決権行使を認めていない場合には、「無株主総会」の開催はさすがに難しいかな、という印象です。もっとも、非上場企業で株主数が少ない場合には、株主全員の意見が一致していれば、書面決議で対処することが可能でしょう)、

会社法上も許容される、と考えることは如何でしょうか。

 なお、上記の方法を取りつつ、オンラインでの株主の関与については、

a) ハイブリット参加型バーチャル株主総会と同様にする

b) ハイブリット出席型バーチャル株主総会と同様にする

c) オンラインでは何もしない

いずれも可能ではないか、と思います。

 b)はそもそもオンラインで株主が総会に出席していますので、上記4の論点の前提自体が異なってきますが。

 また、c)も一応可能ではないか、と思うものの、望ましいのはやはり、a)かb)でしょうね。(もう少し詳しく書きますと、c)だと、議案に対して事前に書面等で質問を会社に対してした場合に、その質問に対する会社からの回答や、そもそもその質問に対して総会で回答がなされたか否かについて、確認する機会が株主に得られないことになってしまいますので(まあ、総会終了後に、ネット等で総会での議長等の発言をまとめてアップすれば、そうした問題も解消するかもしれませんが)。)

6.
 以上のとおり、会社法上の解釈論としても、株主に出席をさせない形でリアルの(および、バーチャル型の)総会を開く、ということは、今回のコロナウイルス対応に限っては、許されない訳ではないと考えているのですが、如何でしょうか。

 ただし、これは非常にインパクトのある話ですし、どの法律家も賛成する、とは必ずしも言えないと思いますので、ここはやはり、法務省から、こういうことは許される、というお知らせなり通達を、世の中に発信して頂くことが必要、と考えます。
(株主総会議事録等との関係で考えれば、法務局対応も生じますので、やはり法務省からのお知らせまたは通達は、本件ではマストと思われますね。)

 その場合には、いつまでこういう措置を認めるか、という点も問題になり、そこは非常に悩ましいところではあります。
 「新型コロナウイルスに関する影響が収束するまで、当面の間、」という表現でも、この状況ではやむを得ないかとも思いますが…。
 そこまで漠然とした表現はさすがに難しい、ということであれば、ここはエイヤで割り切って、「少なくとも、今年いっぱいに開催される株主総会に関しては、」と書いてしまってもいいかもしれません。(もし、残念なことに、期間を延長せざるを得ない状況になった場合には、期間終了前のタイミングで期間延長のお知らせ・通達をすることで対処すれば良いか、と思います。)

* * * *

 それでは、本日はこんなところで…。

(注)
 本日のブログ記事は、一弁護士による試論にすぎません。恐れ入りますが、この試論に依拠して行動等を採ったことによって生じた損害等については一切責任を負いかねますので、何卒ご留意下さい。
 具体的な案件に対する対応については、ご依頼されている弁護士にご相談のうえ、ご決定下さい。

(2020年3月30日 追記)
このテーマにつきまして、「追補」のブログ記事をアップいたしました。
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/9594356.html

併せてお読み頂けますと大変幸いです。