年末と年始に家族10人でスキーに行き,遊んで来ました。10人というのは,娘夫婦と2人の孫(7歳,3歳),息子夫婦と2人の孫(7歳と5歳)と私たち夫婦で,もう1人の孫はまだ1歳なので,おばあさんに預けられました。スキー場は岐阜県の明宝スキー場。ここは5キロメートルの初級者用ゲレンデがあるので,子どもたちに練習させるのには最適だと思います。2人の7歳の孫はスクールに入って少し練習したと思ったら,すぐにこの5キロのロングランコースを頂上から下までボーゲンスタイルで滑ってきたのでビックリしました。ジィジとバァバはすっかり嬉しくなって,「すごい,すごい」を連発していました。最終日になると,親の滑走時間確保のためにスクールに預けられた5歳の孫までが1人でゲレンデを滑れるようになったので,ジィジとバァバはまたまた大感激したのでした。

孫たちの急速な進歩に煽られたわけではないのですが,初級者・中級者コースばかりを滑って多少飽きていたこともあって,最大斜度38度という上級者コースに挑戦しました。ゲレンデ入り口に「初級者,中級者の滑走禁止」という大きな看板が出ていたのですが,天気が良くて遠くの山並みも澄んで見えたので気が大きくなり,自分の実力と年をつい忘れて,そちらのコースを滑ってしまったわけです。

はじめはそんな急な斜度でなく,るんるん気分で滑っていったのですが,3分の1くらいまで来たら,断崖絶壁とも言うべきゲレンデが待ち構えておりました。ちょっとのぞいていっぺんに足がすくみました。大人は目線が高いので,傾斜が実際よりも急に感じられるという言葉を思い出し,すわってゲレンデをのぞき直してみました。恐怖心に取り憑かれてしまったからでしょうか,断崖絶壁の感じは少しも変わりません。その上,ゲレンデは深いコブと深々とした新雪で,初・中級者にとっての3悪すなわち“急斜面,コブ,新雪”が3つとも揃っているのでした。

そのうち,男女のカップルが滑ってきて,「こんな急斜面だから必ず迂回路があるわよ」などと悲壮な口調で断定し,脇の方に横滑りしていきました。その後に,リュックを背負っていかにも山スキーをしそうな中年の2人組が滑ってきて,1人はそのまま見事な滑りで下りて行きましたが,片割れは「こりゃ怖いよ。足がすくむ」などと言いながら,同じように横滑りを始めました。

私も眺めていただけでは何も解決しないし,とにかく何としても下までおりなければならないので,後悔先に立たずとはこのことだなどとつぶやきつつ,男女のカップルの近くまで横滑りをしていきました。彼らは,結局,迂回路が見つからなかったので(考えてみれば,迂回路を設けていれば,「初級者,中級者の滑走禁止」の看板を立てることはないのです),急斜面を斜滑降で大きく回りながら滑走していきました。

私もそれを見習い,覚悟を決めて斜滑降で滑り出しました。これはいけるかなと思った瞬間に,コブにスキーがはねられて転倒し,そのまま尻と背中でズルズルと何十メートルも滑り落ちました。ようやく止まって,何もスキーで滑らなくてもこのまま尻と背中で滑り落ちたらいいのではないかとハタと思いつき,恥も外聞も振り捨てて尻スキーを始めました。最初は調子よく滑り,頭は軟らかくしなければダメだよなどと得意気になったとたんに,片方のスキーがコブにぶつかって外れてしまい,体はそこから10数メートルも下まで滑っていってしまったのでした。息を整いながら,急斜面に這いつくばって上の方を見上げ,あのスキー板をどう取りに行こうかと思案していたら,スノーボーダーの若者が手で拾って持ってきてくれました。普段はボーダーたちの滑りやマナーの悪さに苛立って内心舌打ちすることが多く,スキーヤーの天敵くらいに思っていたのですが,このときばかりは嬉しくて,ありがとうをくり返しました。

その辺りの斜度はようやく少し緩やかになっていたので,滑走できるのではないかと思い,スキー板を履こうとしたのですが,踏ん張る足が新雪にブクブクと埋まってしまいどうしても履けません。仕方なく,スキー板をしっかり両手に抱えてまたしばらく尻スキーをしたのでした。幸い途中で連絡通路を見つけることができて,文字通り這う這うの体で下まで下りてきたのでした。

悪戦苦闘のスキーでしたが,下まで下りてしまえばそんなことは忘れて,ゴアテックスのウエアはすごい,あれだけ尻スキーをしても中は少しも濡れてないなどと変なところに感心したりするのでした。