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さん最新作、サクラノ詩が7月15日に体験版を公開しておりましたので、その感想やらを書いていこうと思います。

原画は狗神煌さん、籠目さん、基4さん。
シナリオはすかぢさん、浅生詠さんとなっております。

体験版へは下のバナーからどうぞ。
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それでは、感想を始めていきたいと思います。
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体験版について 

体験版はプロローグから第二章まで収録されています。
2GBと体験版としては異例の長さと言える容量に加え、御桜稟鳥谷真琴氷川里奈の3人の物語をそれぞれ見ていくとすれば、プレイ時間は10時間以上に及ぶと思われます。

物語は主人公である草薙直哉の父、草薙健一郎の葬式から、直哉が夏目家に居候することになった過程、ヒロインとの出会い・再会までが第一章。
第二章は主に美術部の元部長であり行動・思考原理が意味不明な男、明石亘が起こした事件の経緯とその結末を描いています。

第一章から第二章までは時間の経過があり、プロローグ・第一章は春、第二章は夏の季節が舞台となっています。とすれば第三章は秋、第四章は冬…といった感じに、四季を巡っていくのでしょうか。

ヒロインの攻略ですが、少なくとも体験版範囲である第二章まではメインストーリーの合間にヒロインとの物語が挿入されるといった具合で、攻略をしているからといって展開に変化が起こるといったことは特にありません。

一周目は真琴もしくは稟のみ攻略可能であり、基本的に真琴寄りの選択肢を選べば真琴、真琴から距離を置けば稟ルートとなります。分岐は稟・真琴が夏目家に来た際に稟から逃げてしまった雫がどう動くかで分かります。

稟・真琴をクリア後に里奈用の選択肢が出現。真琴と同じく、里奈寄りの選択肢を選んでいきさえすれば問題なく里奈ルートへ突入します。
里奈ルートは開始直後からこの作品のキーとなりそうなストーリーが展開されており、その先を考えさせられる内容となっています。



★ストーリー考察

本感想は考察メインです。ストーリーについては必要最低限を書くに留めていますので、予めご了解していただきますようお願いします。
 本作にリンクしている作品は一切未プレイでの考察です。

■ 草薙健一郎と草薙直哉の関係性
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主人公、草薙直哉。その父親、草薙健一郎。草薙家を巡る関係について。


・ 直哉にとって、健一郎は血が繋がった最後の人間であるということ。

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養子等でない血縁の親子関係であることの証明。そして少なくとも直哉の認識内では、血の繋がった兄妹が生存、存在していないことを示しています。


・ 直哉は健一郎を赤の他人と言い、遺産を受け取らなかった。
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健一郎の遺産は十数億と巨額な金額でしたが、直哉は健一郎とは赤の他人であると言い張り、遺産相続を放棄しています。しかしながら、健一郎との関係を全て断ち切った直哉は『心が平ぺったくなったようだ』と感じており、自身の行動による結果に虚無感を抱いている印象を受けました。

直哉が遺産を受け取らなかった理由として考えられるものとすれば、やはり健一郎にも直哉にも縁がある夏目家が関係してくるのかな、と推測。
単純に考えるならば、夏目家が抱えていた金銭問題を健一郎の遺産によって解決した、といったところでしょうか。実際、夏目家である夏目藍は、健一郎と直哉の『意地っ張り』によって窮地を救われたようです。

また、直哉が遺産放棄したことについて藍は知らないということになっていますが、後の会話から見ても彼女がこのことの詳細について知らされていないというのは考えにくく、やはり口止めされているのが妥当な線でしょう。
何の目的で、どうして知らないことにされているのかは一切不明ですが、口止めをしている人物は健一郎もしくは直哉であると思われます。
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直哉の発言が確かだとすれば、遺産について直哉以外で一番知っている人物は直哉の先輩で美術部元部長、明石亘ということになります。
明石は物語開始前の冬には直哉と組んである『大きな金が動く金稼ぎ』を行っており、その際に遺産のことを知らされた可能性があります。


・『大きな金が動いた金稼ぎ』とは?
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物語開始前、直哉は明石と組んで金稼ぎを行っていました。直哉の発言から、儲けた金額が結構な額に及んでいることが分かります。
直哉が何のためにお金が必要だったかは不明ですが、明石は自身の妹達を救ってくれた、重い病で入院をしている神父に未完成のままの健一郎の遺作を完成させて見せたく、その資金集めの為、協力をしていました。
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また、真琴と直哉の会話から、直哉が冬頃に絵を描き、それを明石は知っていたことが判明しています。直哉は公では6年もの間断筆しており、その決意を揺るがす程にまで切羽詰まっていたのだと思われます。

体験版終盤では、明石と直哉が言い争うシーンで、

【明石】 『てめぇだって、自分の作品を偽って発表してるじゃねぇかよ!』

という発言が飛び出します。ここから、直哉が自分の作品を偽って他人の作品だと発表したことがあるということがほぼ確定された事実となりました。

明石が協力者であり、大金が動き、直哉自身も相当の画力を持っている。
これらの点から考えて、『大きな金が動いた金稼ぎ』の真相とは、『直哉が描いた作品を、健一郎の作品だと偽り売却した』可能性が高いです。


・ 直哉の母親は誰なのか?
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稟ルートにて、雫の写真集を見るイベントより。
直哉の母親が『水菜』という名前であることが判明しています。
その時既に結婚していたかどうかは定かではありませんが、藍が幼少の頃、水菜は健一郎と共に夏目家に住んでいた時期があるとのこと。

直哉が天涯孤独の身であることから、水菜も死亡していると思われます。



■ 御桜稟
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御桜稟について。


・ 直哉と健一郎と
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転校してきた稟は、紆余曲折あった末に美術部に入部することに。その後、直哉は初心者の稟に絵を教えることになるのですが、ここで直哉の意味深な発言に、何故か健一郎の名前が登場します。

【直哉】「稟が俺に絵を教えてくれか・・・・・・」

【直哉】「どうなってるんだよ。草薙健一郎

稟と直哉は幼馴染であり、かつては一緒に遊んだ仲でもありましたが、稟は健一郎とは一切の面識が無いと言っています。しかしながら、健一郎は直哉と稟を引きあわせたようであり、そして彼女について『再び出会うことがあっても、お前が知っているただの穏和な女の子だ』と語っていることから、稟について少なくとも健一郎からの一方的な認識があると考えられます。
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直哉の稟に対する意味深な発言について、真琴が稟を美術部に誘おうとした時にも『圧倒的な才能は場を壊す』と発言していました。このことから、直哉は稟が絵を描くのが初めてではないことを知っており、さも経験者、それも相当の実力を持っていると考えているのでしょう。稟のことを完全に初心者だと思い込んでいる真琴は逆の意味に捉えてしまっているようですが。

結果的には稟の絵は『よく描けている程度』。直哉が懸念していた事態にはならなかった訳ですが、彼はどうしてここまで強く警戒をしていたか。
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一番に考えられることとすれば、『稟が健一郎の弟子であったが、彼女は何らかが原因でその当時の記憶の大半を欠損した』といったところでしょう。

【稟】 「弓張に帰ってきたら、ずっと絵を描いてみたいと思っていました」

【稟】 「でも、私って本当にはじめて油絵の筆握ったのかなぁ」

【直哉】 「俺の知る限り、お前は油絵なんてやってなかったハズだ。   俺が知らないところでは分からんが

稟は絵を描き始めてから、筆の使い方に違和感を覚えたり、自分が初心者ではないんじゃないかといった疑問を直哉にぶつけたりしていました。
直哉においては当初稟の腕を警戒していましたし、稟が絵を描いた段階で『再び出会うことがあっても、お前が知っているただの穏和な女の子だ』という健一郎の言葉を思い出したりもしています。

また、『あいつが認めた唯一の弟子らしい』という直哉の台詞から、直哉が弟子と名乗る人物に出会ったことがないか、もしくはその弟子が絵を描いている姿を直に見たことが無いということを推測することが出来ます。
実際、直哉が稟に見せた絵は『弟子が描いた話しだ』とあくまで伝聞形であり、始終にわたって直哉が話す弟子においての情報は聞いた話のみです。
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伝聞ということは、誰かがそれを直哉に教えた訳であり、健一郎に弟子がいたという事実が公にされていないとすれば、口にしたのは直哉の父である健一郎、もしくは弟子本人ということになります。そして、稟の絵の腕に対する事前評価もあくまで伝聞であると直哉は言っていました。

つまりは、『伝聞である』という共通点があり、健一郎が知っている人物でかつ、直哉が警戒する稟が弟子であるという可能性が高いというわけです。

しかしながら、前述のとおり、稟は健一郎とは面識がないと言っています。直哉は『そうか…無いか…』と考えこむような、落胆しているような反応を見せており、その以前もその後も、『夏目の屋敷に行ったことはあるか?』等、稟の記憶を探るかのような質問を幾度と彼女にぶつけていました。

上記の直哉の行動、雫や健一郎は面識がありそうなのに稟は会ったことがないような反応をすること、絵に対して何か思い入れがありそうだけれども、『記憶に無い』と言うところから考えるに、稟の身に何かが起こった結果、絵に関することを中心に記憶の欠損が発生したと推測することが出来ます。

他の可能性として、健一郎の弟子であった期間、もしくはそれ以前から、
稟が別な人格(意識)を所有していた、又は別の人格(意識)であった
稟と直哉の他に遊んでいたもう一人別な人物がいて、その人物と関わった事柄だけ記憶を消されてしまった
という考え方もあるのではないかと個人的にはそう思えました。


・稟と『幸福な王子』
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稟が直哉に読み聞かせた、オスカー・ワイルドの『幸福な王子』。
稟は、ワイルドの話は複雑な隠喩によってあらゆる罪、禍々しい愛が隠されているから少しだけ脚色していると言いました。
では、稟はどの部分を脚色したのでしょうか。

まず、そもそも『幸福な王子』の原文は、男性同士の繋がりを感じさせる物語構成になっています。王子は男であり、ツバメも同じく男なのです。
稟は王子に対してはという呼び方をする場合もありますが、ツバメに対しては通してツバメと言い続けています。また、『幸福な王子』の序盤に出てくる、ツバメと葦(女性)の恋愛については一切触れられていません。
これは稟がツバメの性別を隠す為に脚色したと考えることも出来ます。

【稟】 『私は小さなツバメさんにも王子にもなれないって事かな…』

【稟】 『すべてを与えた王子、すべてを失った王子。そしてその王子に仕えて命を落とした小さなツバメさん』

【稟】 『この美しい物語には私はいない。けど、なおくんはどうかな?』

稟は、直哉が『幸福な王子』の登場人物に彼のような人物がいることを示唆しています。
直哉が王子もしくはツバメだとすれば、もう一つに該当する人物が直哉の周りにいるはずなのです。仮に稟が『幸福な王子』のツバメ、王子をそのまま例えているとすれば、ツバメも王子も男性ということになります。

王子はツバメに命じ、自らが身につけていた宝石や金箔を剥がし、困っている人々に分け与えました。ツバメは自身の意思を封印し、動けない王子に代わり、彼から輝きが失われる日まで任を全うしました。

現段階で登場した主要男性人物は直哉、健一郎、明石、圭、フリッドマン、若田、トーマスの7人。この中で『幸福な王子』に該当する裕福であり、財産を分け与えられる、事情があり自身が容易に動ける状況に無い人物に限定すると、一番に考えられるのはやはり健一郎でしょう。
実際に健一郎は夏目家、学園等に作品を寄贈しており、死後、彼が残した遺産は直哉によって遺産放棄され、誰かの手に渡ったと思われます。
教会の件もですが、作中において、直哉は健一郎が出来ずに遺していった財産や資産を精算させていこうとする、そういった意思をも感じられます。

このことから、『幸福な王子こそが健一郎で、ツバメが直哉である』といった、一抹の可能性ではありますが、そう考えることも可能となるわけです。


・稟が関係した、直哉が絵を描かなくなった理由
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真琴に絵が描けない理由として、稟が関係しているのかと問われた際、直哉は何も答えることが出来ませんでした。直哉の仕草から考えても、真琴が考える通り稟が何かしらの関係性を持っていると思われます。

一点目に考えられるのは、『稟を事故から救おうとした際に怪我をした』。
直哉のマンションの隣に住んでいた稟の家は、現在更地となっています。
雑草が生え、植木だったものが無造作に残されている、無くなってから全く変わらないという描写から、長年放置され続けてきたのでしょう。
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作中、美術部のデッサンをする際に持たされた木炭を稟は何度も折ってしまうなど、もてあましているように見えた直哉は、その後『木炭はまさに炭そのもの、燃えた後のものを連想させる…』という独白を残しています。

無くなった家、稟の転校、燃えた後のものを連想させる木炭。これらのことは、稟の家が焼失した可能性を考えさせられる材料となっています。
また、直哉が何かしらの怪我を負っていることを示唆している描写として、

その手で空を掴む。

右手は俺の意思通りにちゃんと動いた。

空気をつかむぐらいには、俺の右手は問題ないのだ。

といった直哉の独白に加えて、真琴と圭の直哉に関する話題の中で、

【真琴】 『あの時に、たぶん、草薙が絵を描かなくなった理由を…』

【真琴】 『でも、本当は理由にはすでに気がついていたんだと思う。絵を描いてる人間なら分かるわよね。あいつの不自然な行動』

というように、直哉の行動によって真琴が気がついたことが分かります。
また、過去には病院に入院をした経験もあることが判明しています。

直哉が絵を描かなくなったのは六年前。稟が引っ越ししたのも六年前。稟の家が火災に遭ったとして、直哉が絵を描かなくなった理由が稟に起因しているとすれば、直哉が稟を救い出した際に怪我をしたと考えるのが最も自然だと思われます。

考えられる二点目の理由、可能性の低い考察ではありますが、『直哉が健一郎の代理に絵を描いていたことが露呈するのを恐れた』という推察。
これは、稟が健一郎の弟子であった、もしくは過去の稟に天才的な芸術の才能があって初めて成立する事柄です。
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再び絵を描くことを問われた際、直哉は描かないということを断言していますが、真琴の台詞にあるように、以前は描くことを示唆していたようです。

真琴と直哉が出会ったのは学園時代ですので、直哉は少なくとも一、ニ年前までは絵を描くことを考えていたということが分かります。
それが、稟が入部してからは描くことを完全に放棄する考え方に心変わりしており、真琴がこのことから直哉が絵を描けなくなった理由が稟にあるのではないかと気がついた可能性も十分に考えられるのです。

直哉が健一郎の代理で絵を描いていたと仮定して、稟が弟子である、もしくは天才的な芸術性を持っており、それを失った今現在でも潜在していた場合、直哉が絵を描けば健一郎の絵を間近で見ているだろう彼女が気が付いてしまう可能性もゼロではないでしょう。
直哉が表立って絵を描くことに慎重だった理由も、誰かに気づかれる可能性を恐れた末の行動だったのかもしれません。

現に真琴が気が付いているようなことを考えさせる一文があります。
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【真琴】 『あといろいろな事が分かったわ…特に後期の草薙健一郎の絵がなぜ、あの様な筆さばきで描かれたのか…』

そう言うと、鳥谷は俺の右手をちらりと見る。

真琴の発言とその後の行動から、彼女は後期の健一郎の絵の筆さばきと直哉自身に何かしら関係があると分かったと考えることが出来ます。
とすれば、健一郎が直哉から表現を模倣したか、もしくは直哉が健一郎の代理を務めていたことを知ってしまった可能性もあるのです。
真琴は健一郎の絵を見る機会があり、そして直哉が描いた作品のファンでもあるのですから、互いの絵の特徴を掴むのは造作も無いと思われます。

健一郎が直哉に代理を務めさせた理由として『稟を助けた際に負傷したのは直哉ではなく健一郎だった』、『病に倒れた健一郎は絵を描く事が出来る状態ではなかった』といったことが考えられ、設計等は健一郎が行い、直哉は従うままに絵を描いたといったことも推測することが出来ます。

体験版終盤の明石と直哉が教会に絵を描くシーンは、健一郎の図版と設計図を見て、明石が指示をし、直哉が描いていました。このことから、ひょっとすれば明石はその事実について知っていたか、もしくは事前に知らされていたのではないかと考えてもいます。



■ 夏目圭/鳥谷真琴
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真琴は圭を名前で呼ぶのに対し、直哉のことは『草薙』と名字で呼びます。
これは直哉が高校時代からの関係であるのに対し、圭は真琴と昔からの深い仲であるからだと思われます。しかしながら、圭と直哉は最低でも中学生時代からの友人関係でありながら、直哉と真琴が一切面識がないというのは少し不自然な感じもします。とすれば、真琴と圭は何かしらの事情があり、中々出会えなかったことが考えられます。

【真琴】 『昔はさ…。二人ともガキのくせして陰気なことばかり話してた』

【圭】 『俺は、夏目圭として幸せにやってるよ』

【真琴】 『私はさ、まだいろいろと整理がついてないんだけどね』

【圭】 『俺はいつか二人が仲直りしてくれると思ってる』

圭が言う『仲直り』に該当する人物で最も可能性が濃いのは、絶縁状態にある真琴と真琴の母親である校長です。そして、圭が言及するということは、真琴と校長が絶縁した出来事に圭が無関係でないということでしょう。
『夏目圭として幸せにやっている』という発言に、名前で呼ぶ関係。このことから、『圭と真琴はきょうだいであったが、圭は夏目家に引き取られ、それが引き金で真琴と校長は絶縁した』といった推察が浮かんできます。

真琴と校長が絶縁した理由は、『圭の芸術の才能が枯渇したと考えた校長が、圭を見捨て夏目家に引き取らせたと真琴が思い込んだ』と考えます。
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それを暗示していると推測させれるのが、OPに使用されている、満開の桜が咲いた真琴と、枯れてしまった木に立つ圭の2人の姿です。
真琴は陶芸に絵を描くセンスも直哉に評価されていますが、作中、圭の絵が周りから絶賛される場面を見受けられなかったように思えます。
もしかすると、この2人の立ち位置は、才能を溢れる程に持っている真琴と、ピークを過ぎてしまった圭への対比表現なのではないかと考えました。



■ 夏目雫
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直哉、稟と過去に接点がありながら、稟には一方的に忘れられてしまっている謎の少女、夏目雫について。

雫の本名ですが、下の名前は多くの方が考察されている『』だと思います。雫の『しずく』の『く』は『苦』と死を連想させますし、『草薙葛佳』という芸名も本名が『静』ならば簡単に捩っただけで出てくる、確かに直哉がバリエーションが少ないと思っても無理もない名前になっています。
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雫の正体についてですが、『叶わなかった誰かの過去の想いを継承した、千本桜から生み出された人物』だと思いました。
千本桜から生まれたと考えた理由として、まずは雫初登場の文章から。

桜の旋律。

まるで何かに共鳴して、すべての桜がざわめいてるかの様な---

重なり合う奇妙な音響。

巻き上がる桜から目を逸らすように、俺は片腕で眼前を覆う。

誰・・・だ?


どこかで会った事があるのか・・・。

次に、里奈と優美、直哉の会話で出てきた、千本桜伝説。

【直哉】 『お前らだって千本桜伝承を知っているのだろ?』

【優美】 『人の強い想いと共鳴して花を咲かせるというお話ですよね…』

【直哉】 『ああ、人の強い思いを喰って花を咲かせる化け物だ』

千本桜は、人の想いに共鳴して花を咲かせるといいます。
そして文章の通り、雫が初めて出てきた場面で、直哉は何かが共鳴しているような感覚に陥っており、その直後に雫と『再会』することになります。
その直後、雫は『桜の夢に攫われたように』消失してしまうのです。

この雫の行動は、彼女が通常の人間では無いことを示しているのではないかと考えました。これらのことから踏まえて、雫は千本桜から生み出されたのではないかと個人的には思ったのです。
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OPで雫の足元に流れている文章は、宮沢賢治の『春と修羅・序』です。
一部を文章に起こしてみると、以下のようになります。

わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)

『春と修羅・序』の文章訳を調べてみると、電燈を人間の身体、光を魂と置換え、『わたしという身体が滅んでも、魂は受け継がれていく』という解釈があるようです。
『春と修羅・序』と前述した雫の正体を重ねてみると、彼女が肉体的には消滅し魂だけ受け継いだ状態で千本桜の力で発現したとすれば、外見が生前とは違う姿になっているといった状態であることも十分に考えられます。

つまりは、『雫は、稟と直哉の知人であり、なおかつ死亡した人物の想いを継承していながらも、外見は彼らが知らない別人である』ということです。
とすれば、直哉が雫と初めて出会った時に『誰・・・だ?』といった感じに一瞬彼女だと分からなかったことも、稟が雫のことに気づかないこともこれなら理解が出来るんじゃないかなと思いました。

恐らく、雫は稟に本当の正体を言うつもりは無いのだと考えます。雫の『ちゃんと初対面、出来ると思う』という発言は、過去の稟との思い出を断ち切り、新たなスタートを歩みだそうとする決意の現れだと思います。

直哉についても、『過去の想いが今生きている人に影響を与えるとしたらそれは呪いとしか言い様がない』と千本桜の存在意義を強く否定しています。
直哉の信念から考えて、雫が過去を振り返ず稟との関係を再構築していこうとする姿勢を、彼は内心とても喜んでいるのではないでしょうか。



★雑記

久しぶりに頭を働かせた作品でした。考察をしていて楽しい作品に出会えると本当に嬉しく思えます。
発売がいつになるかは分かりませんが、ゆっくりと待ちたいと思います。