河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週土曜日更新予定。

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【概要】

 JNTO(日本政府観光局)の発表によれば、2017年のインバウンド、訪日外国人は28,691千人で、JNTOが1964年に統計を取り始めて以来、最多の人数となったそうです。

 東京オリンピック決定による認知度の向上、東南アジアへのビザ発給緩和、円安傾向の継続、リピーターの増加といった様々な理由があげられるそうです。

 特に着目すべきはリピーター。
最初は団体旅行で来日するも、2回目以降は個人旅行で訪れる外国人の手によるSNS配信や日本紹介サイト増加の影響も少なくないのでしょうね。

 そして彼らの行動も「モノ」から「コト」へと変わってきており、日本人ですらあまり行ったことのない場所が、彼らの手により紹介されることも少なくありません。

 そんな場所の一つに、岐阜県は飛騨古川市があります。
さしたる観光資源もない田舎町に世界80ヵ国から、毎年数千人を集める人気のツアーがあります。

何気ない里山の日常風景が、なぜ外国人の心をとらえるのか?

 そこには一人の仕掛け人の姿がありました。

【所感】

 本書は、株式会社美ら地球 https://www.chura-boshi.com/ を主宰し、飛騨古川市でSATOYAMA EXPERIENCE というツアー事業などを展開する著者の手による1冊。
 
 大学卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務。退職後は1年半にわたり世界を回ります。
帰国後、日本の田舎に住むことを目し飛騨古川市を訪ねることから、本書は始まります。

 移住を望むも地方の排他性ゆえ、住まいを確保するにも一苦労。
縁あって飛騨古川市の観光アドバイザーに就任、生活基盤を確立しつつも、市長の交代で市政方針が変わるや失職。やむなく自身でツアーを立ち上げ、ツーリズム事業を始めます。

 高山、下呂、白川と周辺の観光名所を訪れる外国人を、直接「ポン引き」営業。ツアー参加者からの口コミで、徐々に認知をされ事業として軌道に乗り始めます。

 事業者としての目線、生活者としての目線。他所から移り住んできた者ゆえ感じる苦労と、様々な気づきを記しつつ、ツーリズムをいかに地域創生の経営資源として活用していくのかの提言をまとめた体裁となっています。

 およそ10年前、今ほどインバウンドが声高々に語られる前から、ツーリズム事業に取り組んできた著者ゆえ、示唆に富んだ提言が多く綴られていますが、ツーリズム事業に限らず地域創生に一番大切なことは「やり続けること」との主張が、一番印象に残るものでした。

 声高々に始まれど、予算や仕組の不足で頓挫していく地域創生事業は少なくないそうです。
持続のために必要なことは、地域の望ましい将来像を得ようとする「意志の総和」だと著者は語ります。
 一人の強烈なリーダーがその総和の大半を持ってもよいが、少しづつでも多くの人の意志を集めること。大きい地域であれば、より大きな総和が必要であり、地域のサイズにあった総和が得られれば、自ずと必要な手法や人材は調達可能なのだそうです。

 もっともこれは地方創生に限らず、あらゆる事業やプロジェクトについても言えることなのでしょうね。思いの強さの総和こそがあらゆることの原動力。改めてそんなことを感じた一冊でした。


                                新潮社 2018年1月20日 発行

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【概要】

  韓国平昌で次月より開催される冬季五輪。みなさまはボブスレーという競技をご存じでしょうか。
2~4人乗りのソリに乗って氷上のコースでタイムを競う、氷上のF1とも言われる競技です。

    2011年。東京は大田区の町工場が集まって、このボブスレー競技に使用するためのソリを製作し五輪出場を目指すプロジェクトが誕生しました。

 いわゆる「下町ボブスレー」 http://bobsleigh.jp/ プロジェクト。ボブスレーの製作を通じ、大田区の町工場がもつ技術力の高さをアピールし、航空宇宙産業など、新しい需要を掘り起こすことを目しスタートをしました。
 
 多くのメディアにも取り上げられ、NHK-BSでドラマ化もされましたので、ご記憶の方も多いのかもしれません。

 残念ながら、前回2014年のソチオリンピックでは、日本チームが使用するソリには採用をされない結果となりました。

 プロジェクト自体も終了してしまったのかと思いきや、次の平昌に向けて再チャレンジが始まっていた・・・・・。

 2013年に同プロジェクトを追った「下町ボブスレー」という書籍が上梓されており、本書はその続編ともいえる位置づけの1冊です。

【所感】

 ソチ五輪での不採用にめげることなく、平昌五輪での採用を目指し再チャレンジを始めるメンバー。
しかし平昌五輪の選考会でも落選。二度の大会にわたる日本チーム不採用。さすがにここまでかと思いきや、彼らが目をつけたのは国外のチームで採用してもらうことでした。
 
 その国はジャマイカ。
25年ほど前、常夏の国から冬季五輪のボブスレー競技出場を果たすまでを描いたコメディ映画「クール・ランニング」 https://youtu.be/f_LMqmcz1Tw をご記憶の方も多いかもしれません。

 本書前半では、平昌五輪不採用までを、後半ではジャマイカチームの正式採用と平昌五輪直前の取組までで構成をされています。

 本書は、大田区の中小企業の「下町ボブスレー」への取組を追ったドキュメントであり、ビジネスノウハウや経営指南を授けてくれるものではありません。

 衰退する地場産業をなんとかしようと、奮闘されている行政機関や地域企業、またそういったプロジェクト自体は珍しいものではないかもしれませんが、なぜ「下町ボブスレー」は継続し、衆目を集めるのでしょうか? 

 大田区の応援、巧みな情報発信、プロジェクトリーダーの手腕 さまざまな要素が考えられますが、全編を読んで感じるのは、結局はプロジェクトに参画するメンバーの思いの強さではないかと考えます。
 二度の不採用にも関わらず、次の目標設定をする。多少でも可能性があると思えば、僅かな伝手を辿ってでもキーマンを探し出す。機会があれば臆せず飛び込んでいく。

   メンバーの大半は企業経営者ですが、本業を抱えながらも飽きなき挑戦するそんな姿勢が、多くの人の賛同を生むのかもしれません。

 現時点では、ジャマイカチームの本選出場は決定しておらず、「下町ボブスレー」が五輪デビューを果たすのかは不明ですが、素晴らしい結果となりますことを祈念して、今週は締めくくりたいと思います。

                                                                                                                                                           朝日新聞出版 2017年12月30日 第1刷

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 あけましておめでとうございます。
当ブログもこの7月で5周年を迎えます。本年もよろしくお付き合い下さいませ。

 さて新年最初は、こんな一冊をご紹介させていただきます。

【概要】

 江副浩正氏と聞いても若い方はピンと来ないかもしれません。
2013年に逝去。経営の一線から退いて30年近くなりますから、仕方がないのかもしれませんね。

 そんな方でも、リクルートホールディングス(リクルート)の名前を知らない方は、まずいないのではないでしょうか。

 2014年東証1部上場。上場わずか3年で売上高は54%増の1兆8399億円(2017年3月)。時価総額は上場時の2.5倍。
ゼクシィ、フロムA、じゃらん、スーモ・・・・・と言った雑誌やサイトのCMでもお馴染みですよね。

 江副浩正氏は、同社の創業者。

 類まれな経営センスから「東大が生んだ戦後最大の起業家」「民間のあばれ馬」とたたえられながらも、昭和末期、政界・官界・経済界へ未公開株が譲渡された、いわゆるリクルート事件により贈収賄罪で起訴。有罪となり、経営の一線から身を引きます。

 本書はそんな江副浩正氏の評伝。
 リクルート事件の印象ゆえ、そのずば抜けた先見性や、優れた経営手腕が正当に評価されてこなかったのではないか?そんな思いから生まれた本書。 
かつて江副氏と共に働いた経験をもつ著者達の、思い溢れる一冊となっています。

【所感】

 全21章。500ページ近い大作ですが、東京駅で転倒し江副氏が亡くなるまでの数日を追った第一章から一気に引きずり込まれます。

 とにかく面白いんです。構成の良さ、著者たちの筆力もさることながら、なにより江副氏自身の魅力によるものが大きいのかもしれません。

 親の情愛に飢え、経済的にも貧しく、取り立てて目立つことのない地味な少年だった江副氏。
誰も期待しないなか、受験者の少ないドイツ語を選択し東大へ合格。

 そこで東京大学学生新聞会のアルバイトを始めたところから、大きく彼の人生が展開をし始めます。
知恵を絞り同新聞の広告営業で絶大な成果を上げた江副氏は、あるヒントを得ます。

 就職の際、誰もが目にしたことのあるリクルートブック(今で言えばリクナビでしょうか?)の前身となる冊子「企業への招待」の発刊がそれでした。
今から50年以上も前に創刊された同誌から、同社の大躍進は始まります。

 個人的に一番好きな章は、第六章「わが師ドラッカー」の章でした。
学生起業ゆえ、既存の価値観に染まっていなかった江副氏がドラッカーとの出会いにより、その経営手腕を確立し、自由闊達で、社員が高いモチベーションを持ち続ける組織風土が生み出される様には、ゾクゾクさせられるような高揚感を味わいました。

 しかしそんな江副氏も、不動産事業への傾倒。気づけば独善的なふるまいが目立ちはじめ、リクルート事件へと転落していきます。

 眩いばかりの成功と、手痛いしっぺ返し。その強烈な対比が、江副氏の人物像をより浮かび上がらせるとともに本書の面白さを揺るぎないものにしています。

 本書につきお伝えしたいことは、まだまだありますが今回はこのあたりで。
新春に是非読んでいただきたい素晴らしい一冊でした。お薦めです。

                            日経BP社 2017年12月25日 初版第1刷
 

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