名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。


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【概要】


 戦後最長の好況期が続いていると言われる現在の日本経済。経済は好不況の波を繰り返し、どちらか一方のみに振れ過ぎることはないというのが、これまでの通説でした。

 しかしながら今後日本は大きな二つの波に飲み込まれようとしています。それは向こう10年~20年でやってくる「AIによる自動化の進展」という波と、向こう70年~100年でやってくる「人口減少」という波。
 この2つの大きな波は、この国の社会や経済の仕組みのみならず、我々の仕事や給料そして生活を大きく変えようとしています。

 これから日本で何が起ころうとしているのか。それを正しく認識し健全な危機意識をもつこと。そしてしかるべき変化に備えること。そんなことを目し本書は記されています。 

【所感】

 6章で構成された本書。1~2章及び5章では、主として人口減少の動向や現状、対策について記され、3~4章及び6章では主としてAIの進展がもたらす変化について記されています。

 やはり日本の最大の懸念事項は人口減少。
 現在の出生率で推移すれば、日本の総人口は、2029年には1億2000万人、2042年には1億1000万人。2053年には1億人を割り、2063年には9000万人まで減少することが想定されています。
 そのインパクトは凄まじく、産業構造や消費構造の変化、社会保障負担の増大、労働人口の減少がもたらす日本の行く末には、暗澹たる気持ちを抱かざるを得ません。

 一方AIの進展も明るい未来ばかりではなく、従来の職業の概念を根本から変えてしまうことで、更なる格差社会を生み社会に不安定さを増大させる懸念が大きく、最近は、負の要素の方が注目されることが多いように思います。
 
 さてそのような背景を踏まえ、著者はこのような提言をしています。
 人口減少、少子化対策に対しては、「子供への諸手当を現金給付から現物給付にかえる」「保育施設の整備」「教育費の負担軽減」「長時間労働是正」「大企業の本社機能を地方へ分散」の5点を挙げ、これらの取組を国や地方公共団体、大企業が真剣に取り組めば、10年程度で出生率を2.0倍にすることは可能だとしています。

 一方AIとの向き合い方に対しては、「AI・ロボット税」の導入で、急激な自動化の促進を抑制すると共に失業者の再教育や産業育成のための財源と時間稼ぎをすること。
 逆に医療や介護の世界では積極的に導入をし、社会保障費の圧縮を図ることを挙げています。

 そしてAI時代に必要なスキルについては、一般的に「人間的資質」「企画発想力や創造力」「対人間関係力」などが挙げられる状況には疑問符を投げかけています。
 AIに負けない人間力を磨くため「他人への共感力」を挙げる識者もありますが、将来的にはカウンセラーなどの役割もAIはこなすようになり、人としての主観をもたないAIの方がかえって適切なアドバイスをするのではないかと著者は記しています。

 また著者は大学進学にも疑問符をなげかけます。今後大量失業が起こるのはホワイトカラーの世界。これまでのように偏差値の高い大学から、大手企業へ入社し高収入を得るという方程式は完全に崩壊をしていく。
 今後は「ホワイトカラー」「ブルーカラー」という分類はなくなり、職業は「クリエーター」と「サーバー(決められた仕事をこなす人)」という区分になり、これまでの就職観や職業観も大きく変えざるを得ないと語ります。

 これから我々に必要なことはAIとの共生であり、そのためには「人間が複雑であり続ける努力をすること」が重要だそうです。

 やや抽象的な表現ですが、「単純で分かり易いスキルやノウハウはすぐAIにとって代わられますよ」という警告と個人的には理解をしました。特に本書では触れられていませんが、最近良く聞くアート志向というのもその背景にはあるのかもしれませんね。
「人間が複雑であり続けるため、自己研鑽と試行錯誤、様々な経験を積むこと」著者はそう結んでいます。

                       東洋経済新報社 2018年11月8日発行

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【概要】


 みなさまは「居酒屋甲子園」http://izako.org/#firstPageという大会をご存知でしょうか。
 「共に学び、共に成長し、共に勝つ」を理念に「居酒屋から日本を元気にする」を目し、2006年から年一度開催されています。
 本年で13回目を数える同大会は、明後日13日 パシフィコ横浜で開催されます。

 大会では、全国の予選を勝ち抜いた5店が壇上で発表。20分間のプレゼン時間で、自店の取組や営業への思いなどを、観客に伝えます。

 本大会は誰でも参加出来るわけではありません。参加料を払い、合計50項目ものチェックポイントがある覆面調査を3回受ける予選を勝ち抜かなければ本選には進めません。

 2006年スタート当時の参加店舗は236店、スポンサー企業は60社。それが昨年の12回大会では、参加店舗数1765店、スポンサー企業は140社。大会当日の観客は5000人を超える一大イベントにまで成長をしています。
 今やその影響は他業界にも及び、介護、旅館、エステ、建設職人、パチンコ、会計事務所 etc でも独自の甲子園が企画運営されています。

 本書は、そんな「居酒屋甲子園」の実態に迫った1冊。長らく飲食業界を見てきた著者ですら、その盛り上がりについて理解出来なかったという「居酒屋甲子園」。
その誕生から現在、未来までを丹念に追っています。

【所感】 

 6章からなる本書。
 居酒屋甲子園誕生までを描いた第1章。大きなターニングポイントとなった第3~4回大会にスポットを当てた第2章。第3代目~6代目の大会理事長ににフォーカスした第3章。大会の優勝者や関係者のその後を追った第4章。他業界への波及を考察した第5章。そして統括をした第6章となります。
 
 居酒屋甲子園のスタートは、名古屋の有力居酒屋グループ「かぶらや」で店長を務めていた大嶋啓介氏。新規店舗を任せされるも結果が出せず、焦る彼を変えたのは、同業者のお店で実施されていた「朝礼」との出会い。整列したスタッフ全員が、掛け声、合い言葉、挨拶を大きな声で唱和しながら、店舗全体の一体感を高めていくその様子に圧倒されます。

 同朝礼を参考に、自店なりのやり方で磨き上げ、外部に一般公開をするまでになりました。
 あえて外部に公開をしたのは、スタッフの意識を、お客様に「見られている」ことから「魅せる」ことに変えるため。「魅せよう」という想いが、本人のふるまいを自主的なことに変えるとの目論見があったそうです。

 また自身が多くの飲食店から学ばせてもらったことから、「自身の店だけでなく外食という業界全体を元気にしたい。」とノウハウを公開することになんの躊躇もなかったそうです。

 いつしか「朝礼日本一の店」と業界内外からの評価を得るようになっていた大嶋氏。ほどなく「牛角」を展開するレインズ・インターナショナルが開催していた「パートナー・フォーラム」を見学したことから、居酒屋甲子園の着想を得ます。 
 徒手空拳、資金や運営ノウハウもなく情熱だけでスタートした居酒屋甲子園ですが、多くの賛同者を引き入れ、やがてしっかりした運営団体へと発展をしていきます。

 なぜ居酒屋甲子園は、ここまで発展し、皆の気持ちをつかみ、他業界にまで展開されるようになったのでしょうか。

 業界団体、勉強会、研修会。どんな業界にも様々な集まりがあり、相応の交流や業界内のコンテストなども開催されています。
 それでも、自社のことしか知らない。自社のやり方しか知らない。せまい自社だけの価値観で自身の仕事の意味づけをしてしまっている。自社のいる業界を蔑む。そんな状況って業界を問わず往々にしてあるのではないでしょうか。その要因は往々にして自身の視野の狭さにあります。

 居酒屋甲子園は、業界日本一を目指すというイベントの体裁をとりつつ、これほど他者(他店)を知り、業界を知るという効果的な仕掛けはないのではないでしょうか。組織を変えるのは人。人に影響を与えるのは人。ましてそれが自社外であれば、より効果は増します。

 そして明確で分かり易い目標を共有する中で培われる一体感や帰属意識の醸成。
その意味や価値に気づき始めた店主や経営者たちの増加が、居酒屋甲子園というイベントをここまで育ててきたのかもしれません。

 もちろん全国の居酒屋の数からみれば、エントリーしている店舗数はしれたものかもしれません。またデフレ志向、人材不足といった業界を取り巻く環境も依然厳しく、そんなイベントに参加する余裕などないというお店が大半というのが実情かと思います。

 それでもこれは一過性のブームではなく、何か一つの新しいムーブメントとなりつつある。家族経営ならまだしも、他者を雇用し、きちんと組織として飲食店を経営される人にとって、決して無視できないない流れであること。そんな思いを強く感じた1冊でした。

 
                    筑摩書房 2018年10月31日 初版第1刷発行


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【概要】


「イノベーション」と聞いて、みなさまはどんな印象を抱かれるでしょうか。

 ①イノベーションとは新事業開発である ②イノベーションとは技術革新である ③日本企業は改革が得意だが、創造は苦手だ ④大企業にはイノベーションを興せない ⑤とんがった個人だけがイノベーションを興せる
  
 実はこれらは全て、誤解であるのだと著者達は説きます。これからの新常識は次の5つ。

 ①本業でこそイノベーションが求められる ②イノベーションは技術でなく価値を生み出す ③日本企業は改善だけでなく創造も得意だ ④大企業でもイノベーションは興せる ⑤組織的な取り組みがイノベーションを興す 

 その理由を明かしつつ、「どうすれば人や組織はイノベーションを興せるようになるのか。」そんなテーマに迫ったのが本書です。

 著者は経済産業省「フロンティア人材研究会」を機に生まれた一般社団法人Japan Innovation Network(JIN) https://ji-network.org/ の代表理事と専務理事を務めるお二人。同組織は主として、大企業、中堅企業のイノベーション加速を促進することを目的としています。
 2013年7月に発足した同組織。本書は活動開始から5年を経て得た知見をまとめた1冊ともいえます。
 

【所感】

 前掲したJINでの活動を通じ、著者達は「我々はイノベーションを興せないのでのはない。どうやってイノベーションを興せばいいのか、その方法を知らないのだ」ということを強く実感したそうです。

 ややもすればイノベーションというのは、一部の天才や変わり者、傍流にある者が興すという印象を抱きIがちですが、それは誤り。
 相応の練習を積めば誰でもイノベーションは興せるものであり、むしろ属人的な活動に依存するのではなく、リーダーを立てプロセス化し、持続的で再現可能な組織活動にしなければならないのだと著者達は警告を鳴らします。

 その意味で、本書はイノベーション活動の入門書的な位置づけとも言えます。

 イノベーション活動とは、新たな価値提供であり、提供価値=構想×実行 という等式で表すことが出来るそうです。
 構想とは事業創造ステージであり ①課題の発見 ②解決策のコンセプト化 ③ビジネスモデル化というプロセスを経ます。一方実行とは事業立ち上げステージであり、①事業プラン策定 ②資金調達 ③実事業立ち上げ ④発展に向けた活動展開 というプロセスを経ていくそうです。

 本書では概ね、この流れに沿って、その背景や前提条件を明かしたのち、「イノベーション・コンパス」や「ビジネスモデル・キャンパス」といったツールを紹介しつつ手順の解説を行っています。

 正直なところ、実企業での具体例が紹介されているわけではありませんので、本書を読み進めてもワクワク感や高揚感などを味わうことは、ほぼありませんし、正直提言の有効性の検証も定かではありません。

 ただイノベーション活動を企業における特異な活動ではなく、日常的に取り組むべき普遍的活動と捉えようとするその意義は高く、事実日本のみならず、ISO(国際標準化機構)でも「イノベーション経営の標準化」についての取組が始まっているそうです。そんな背景もあり改めてイノベーション活動につき考え、実施の構想を練る一助になることは間違いなしの1冊と言えます。


                   日本経済新聞出版社 2018年10月17日 1版1刷


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