名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

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【概要】

 「賃上げこそ最重要課題。」

 先般の参院予算委員会でも、岸田首相のそんな発言がありました。発言は「賃上げにより可処分所得を拡大し、経済成長を実現した上で、果実を多くの方に分配していく。」と続きます。

 多くの企業にとっても、賃上げは、社員の採用率や定着率向上、モチベーション向上のためには不可欠な取り組みであり、折からの物価上昇もあり、社員にとっても切実な希望となっています。

 問題は、その原資の確保にあります。賃上げは人件費を増加させ、会社の利益を減少させます。原材料費や電力費などが高騰する中、販売価格に転嫁出来ず、賃上げどころか、足元の利益確保に苦しんでいる企業、特に中小企業は少なくないのではないでしょうか。

 賃上げ原資確保のため、会社の高収益化を図り、かつ賃上げ(高賃金化)を実現するためのコンセプトや仕組みを明かそうとするのが本書。著者は、高収益企業で知られるキーエンス出身の田尻望さん。
 キーエンス退職後、起業をするも失敗。飲食店に勤務し、糊口をしのぎつつ、経営コンサルタントへ転身。100社を超える支援経験を通じ得た知見が、本書の下地となっています。

【構成】

 全6章で構成されています。第1章~第2章では、賃上げのメカニズムや、高収益化と賃上げの両立方法について言及。第3章以降では、その実現のための個人やチームとしての取り組みや、組織としての構造改革など、個人、組織の両面から解説をし、総括しています。

【所感】

「1人1時間あたりの付加価値生産性」を高めるために何をすべきか。

 本書の結論はこれに尽きます。「付加価値」とは売上高から原材料費や外注費、その他外部からの購入費用を差し引いた金額。いわゆる粗利です。「付加価値生産性」とは「付加価値額÷労働量」であり、なるべく少ない労働量で、高い付加価値を上げることで上昇をしていきます。

 賃金とは経営上のコストであり、賃上げを望む社員とコストを抑え、利益確保を図りたい経営陣では、その利害は一見反します。そこで重要なのは、社員と経営陣が手を取り合い、まずは付加価値を高めることに注力すること。次に経営陣は、そこで得た収益をきちんと社員に還元する仕組みを構築することにあります。
 
 本書では、そもそも社員自身が、自身の賃金の源泉がどこにあるか理解していない点や、高付加価値化や賃上げに対する意識の低い経営者は論外である点を厳しく指摘。
 付加価値の基本となるのは売上であり、これはお客様に提供をしている価値の価格です。売上が増えないということは、自社の商品やサービスは、お客様に価値を提供出来ていないということ。お客様に支持される価値を、いかに効率良く提供出来るか。高賃金化のスタートはそこにあり、そのための仕組みをどう作るかがキーポイントとなります。

 社員やチームは、自らの業務を棚卸しつつ、効率的な業務実施を、組織内で拡大出来ないかを考え、経営陣は、そのための組織体制と適切な人材登用を実施。その上で、労使ともに納得感のある報酬体系構築が重要と説きます。

 具体的な施策については、是非本書をご参照いただきたいと思いますが、その要所は、ずばり「数値化」にあるようです。様々な施策は、具体的にどういう成果を生んできたのか。基準をきちんと設定し、成果との差異を数値で示すこと。それが労使ともに評価や処遇、成果配分の納得感を生み、更なる組織全体のモチベーション向上へ繋がるとのことでした。


                  クロスメディアパブリッシング 2023年12月21日 初版発行

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【概要】

  今や国策であるインバウンド対策。
 コロナウィルス感染症の影響を大きく受けたものの、本年4月には、いわゆる「水際対策」が終了。訪日外国人観光客数は、過去最高だった2019年比で7~8割の水準に戻りつつあります。

 また歴史的な円安傾向も相まって、単純計算でコロナ前の4割近く安く日本を旅行出来るとあって、外国人旅行者の関心度も非常に高まっているそうです。

 人口減少が続き、実質賃金は上がらず、縮小しつちある国内市場。数少ない伸びしろの一つが、インバウンドであり、その対策を講じることは、地域や業種を問わず、あらゆる事業者の方にとって不可欠なものとなっています。
 
 とはいえ、小規模で資本力や人材が乏しい自社では、どうしたらいいか分からない。そんな事業者の方向けに、具体的な対策提案をしているのが本書。著者は、インバウンド特化コンサルティング会社を主宰する村山慶輔さん。地域に根ざした、従業員数1名~50名規模の事業者を想定し、お金をあまりかけないノウハウを紹介しています。

【構成】

 全8章で構成されています。第1章では、温泉旅館、ビジネスホテル、ハンバーグレストランなど、仮名ながらインバウンド対策の実例を6つ、ストーリー仕立てで紹介。以降の第2章~第8章では、自社分析に始まり、人材採用までと7つのパートで54もの具体的なノウハウを紹介しています。

【所感】

 具体的な業種や地域は特定していない本書ですが、概ね地方観光都市の宿泊業、飲食業、小売業、体験業者などを措定して記されています。

 どんな事業者の方でも、自社の魅力や強みを意識し、ビジネスを営まれていることと思いますが、それが外国人観光客の琴線には触れていないことが、往々にしてあるとのことで、自己分析を過信せず、アンケート調査や口コミなど、外部の評価を意識すること。対象国を絞らないこと。旅行目的の理解。地域の特性やインフラ整備、行政の支援内容を知っておくことなどの重要性を説いた後で、具体的な商品ヤサービスの作り方、集客方法、接客術などが紹介されています。

 商品やサービスに体験要素を入れること。連泊を伸ばす工夫。免税を意識した商品構成を図ること。お土産の少量化・軽量化の意識。様々なノウハウが紹介され、興味を惹かれます。

 こと接客についてなど、外国人観光客には、積極的でストレートな接客をすべきとの指摘もあり、日本的な「察して」動く文化などは、日本人には効果があっても外国人には、マイナスに響くことも少なくないなどの指摘もあり、自らの思い込みに囚われないよう注意喚起なども記されています。

 個人的に強く印象に残ったノウハウは、人材の確保についてでした。ただでさえ人材確保が困難な観光業ですが、そこで一流大や企業出身者など高度人材をどうすれば確保できるかとの記述。
「語学」や「ITスキル」を磨ける職場としてのPRをして、採用活動に成功をしている事例があるとのことで、ドメスティックな観光業ではなく、世界に目を向けたビジネスとのスタンスを示すことが重要というものでした。確かにその通りであり、物は言いよう。そう言われれば、つい関心を覚えてしまいますよね。
 
 著者は、本書読者として想定しているような小規模事業者にこそ、チャンスが多いとの指摘もしていますが、その背景には、外国人観光客のニーズ変化があると言います。
インターネットなど通じ、日本の観光情報が知れ渡るに従い、より地域性や独自性の高い宿泊施設や店舗などを志向する外国人観光客が増え始めていること。そういった細かな対応が可能なのは、小回りの利く地域の小さな異業者に外ならず、ゆえにチャンスは大いにあると。

 全編、重要な箇所は太字強調されていますので、54のノウハウ表題と、太字部分を拾い読みするだけでも、十分得る点は多いのではないでしょうか。さほどお時間は要しませんので、インバウンド対策にご関心をお持ちの方には、一読をお勧めしたい1冊でした。
                               日経BP 2023年12月8日 1版1刷

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【概要】

  自己満足でやっている仕事、実は利益が出ていない仕事、会社の目的にあっていない仕事、価格競争に陥っている仕事 etc。

 よく考えてみれば、本当はやらなくてもいいのではないか?会社には、そんな仕事が数多く存在します。それを一掃してしまえば、必ずや会社の利益は増大する。

 そのために必要なことは、「すてる」「わける」「しまう」の3ステップによる「仕事の片付け」。それを「片付け経営術」と称し、その実践方法を紹介したのが、本書です。

 著者は、㈱NTTデータでSEやコンサルティングファーム勤務経験のある磯島裕樹さん。SE時代に鬱病を発症したことを機に、業務の効率化、仕事の効率化を徹底的に考えるようになった経験から本誌で紹介する「片付け経営術」を生み出したそうです。

【構成】

 全4章(PHASE)、45項目(本書ではTIPと称しています)で構成。前述した「すてる」「わける」「しまう」を第1章、第3~4章へ。第2章として「高価値化」を加えて章立てされています。冒頭より順次読み進めることで「仕事の片付け」が進む体裁となっています。

【所感】

 現状の仕事を可能な限り全て洗い出ししリスト化、その上で生産性の低い仕事を「すてる」。仕事をゴールから逆算し、タスクフローを細部まで「見える化」し段階分けをする「わける」。そしてその仕事の振り分け先を決める「しまう」。それが「仕事の片付け」の3ステップ。

 一見、手順はシンプルですが、「すてる」一つをとっても、どう選別するのか悩ましいところですが、本書では、まずやるべきは採算の理解であり、お金の流れを把握すること。その上で、自社製品やサービスの棚卸、事業目的との整合性の確認、顧客の選別を提唱するなど、実例を交えつつ順を追って解説されていますので、取り組み易いのではないでしょうか。

 経営資源の限られた中小零細企業が生き残るためには、経営資源の集約が必須であり、そのためには自社の価値を知り、顧客や取引先が欲しがっている価値を知ることが極めて重要です。そしてその価値をいかに高め、効率的に提供していくか。それを徹底することの重要性を本書は伝えています。

 特に肝に命ずべくは、経営者や優秀な社員こそ実務をやってはいけないとの指摘かもしれません。
 出来の悪い社員に仕事を振り分けたり、段取りをしている時間があるなら、自分たちでやってしまった方が早い。人的資源が限られるがゆえ、往々にしてありがちな事態ですが、これこそ将来に向けた会社存続のためには、必ずや打破すべき悪しき習慣と言えそうです。

 経営者のすべき業務は、会社の意思決定や方向性の提示。優秀な社員は経営者の思いを全社で実践していくための先鞭をとること。「そんなことは分かっているけど、やめられない。」「実際に人手が足らない。」「毎日忙し過ぎて余裕がない。」それが現実かと思います。その渦中にあっても、本書提言を意識し日々の業務に従事することで得る気づきは、随分と多いのではないでしょうか。

                        自由国民社 2023年11月23日 初版第一刷発行

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