
ビジネスマンにとって、そのうちの何割かは、「儲ける」ための意思決定であるはず。そんな意思決定を上手に行うための実用学が、本書のテーマである「損得学」です。
日本では、「損得学」は1960年頃にその体系が確立された比較的新しい学問分野だそうです。そしてその最初の教科書は「経済性工学」。
ややもすると金銭感覚が疎くなりがちな、エンジニア達に最低限の損得常識を身につけさせたいとの狙いで生まれたのが「経済性工学」だそうです。
さて本書は、「損得学」の入門書ということになりますが、実は「損得学」の大原則は2つしかないそうです。
第一原則 「比較の対象(目的)を明確にする。」
第二原則 「その比較の対象の間で収益と費用の違いをお金の流れに着目してとらえる。」
そして第一原則、第二原則の補足として、「開始時点と終了時点を明確にする。」
とはいえ、これだけでは、なかなか理解し難いため、下記の様な身近な事例を用いながら、比較範囲の決定や計算の手順について解説がされています。
・閑散期に定価より安いが、まとまった注文が入った場合、受注をするべきか否か。
・中国進出するなら、北京がいいのか上海がいいのか。
・製造部門と販売部門、社内の仕切り価格は、幾らが最適なのか。
・IT導入をしても、解雇できなければ人件費の節約にならないのか。 etc
他にも、設問としては、ちょっとどうかな?というものも含まれますが(笑)、「損得学」の基礎理解には充分な内容かと思います。
ところで、 第二原則に「収益と費用の違いをお金の流れに着目してとらえる。」とありますので、これらの設問を見ていても、ついつい「会計的」な考え方をしてしまいがちですが、解答を見ていくと、「会計的」には正しいが、「損得的」には誤っているということが、ままありました。
「会計」は現時点から過去を見渡すものであるのに対し、「損得」は、将来を見渡すものであるため、しばしばこういったことが起こるようです。本文中には「将来を見渡せない人には、不向きな学問」と、取り付く島も無いような記述が出てきます(笑)。
ただ二つの原則の補足にあったように、「終了時点」を明確にすることも、「損得学」には不可欠な要素ですので、当たりまえのことなのかもしれません。
不確かな時代だからこそ、「終了時点」における、あるべき姿を想像し、まとめあげる力が必要。
でもこれは「損得学」に限ったことではありませんよね・・・・・・・・・・。難しいものです。