
実は同社の代表取締役社長は、 元ゴールドマン・サックスのアナリストであるイギリス人です。
バブル~バブル崩壊までを金融アナリストとして過ごした経験から、日本の金融機関や銀行員と接する中で、彼らのあまりの無茶苦茶な理屈の振りかざし方にうんざりし、何故こんな国がこれだけの経済大国になれたのか、疑問と失望を抱きながら、日本を去ろうと決意をします。
しかしそんな中、縁あって茶道に触れたことから日本の良さを再認識します。そこから小西美術工業社の代表者へ就任することになっていくのですが、そこは文化財修復という異文化、そして職人の世界。
経営を任された彼は、同社の職人の3割を占めていた日雇いの非正規雇用者を全て正社員とし、年功序列の給与体系を改めます。それは「後継者不足」と「職人の技術の低下」を解決するため。
反対する職人達を説得し、同社の改革に成功した彼は「やるべきことをやれば日本の組織は劇的に改善する」
という思いを強くします。
そんな著者による本書は6章からなります。
1~4章では、日本経済や日本的経営の常識に疑問を投げかけます。
・日本の高度成長を実現したのは、単に爆発的な人口増加があったからに過ぎない
・日本の効率の良さは「世界で25位」
・日本の経営者には「サイエンス」が足りない
・日本は本当に「おもてなし」が得意なのか
・滝クリスピーチへの違和感 etc
辛辣な表現ですが、これがなかなか的を得ていて 小気味好ささえ覚えてしまいます。
そして5~6章では、文化財保護と真の観光立国化で、日本はまだまだ成長出来ると説きます。
大半の先進国はGDPの30%は輸出入だが、日本は15%程度。また観光業は、世界ではGDPの9%の貢献が一般的であるところ日本は2%程度。共に十分な伸びしろがあるというのが、その理由のようです。
ヨーロッパにひけをとらないほど、貴重な文化財が現存している日本。それら良質のコンテンツをいかにして活かすのか、自身の現業も踏まえた提言で締めくくられています。
元アナリストという冷静な分析と、外国人ならではの目線で描く日本経済復活の処方箋。
新書にしておくのが、もったいないような好著。お薦めです。