名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2015年06月

IMG_5711  「黒霧島」 

お酒、特に焼酎を飲まれる方は、一度は目にしたことのある銘柄かもしれませんね。今や、ほぼ全国で販売され飲むことの出来る芋焼酎です。
 
 誕生は1998年。宮崎県都城市にある霧島酒造という蔵元が製造をしています。
同蔵元が、「黒霧島」の販売をした1998年度の売上高は81億9,300万円。
その15年後の2013年度には、565億7,600万円と、7倍の成長を遂げています。その牽引役は間違いなく「黒霧島」。

  こんなデフレの時代に、なぜ「黒霧島」は、爆発的に販売量を伸ばすことが出来たのでしょうか。なぜ全国で販売されるまでに成長することが出来たのでしょうか。 そんな秘密に迫ったのが本書です。

  今回、本書を紹介させていただく理由は2つあります。

   1つ目は、自社製品を持つ中小企業の多くが、直面するであろう課題と対応が丹念に描かれている点です。

  下請から脱却し、自社製品を持つべきというのは、中小企業経営論では、よく言われる話ですが、その実現は並大抵のものではありません。
 
  脆弱化していた財務体質、ライバル蔵元の台頭、そんな中で始まった「黒霧島」の開発から、宮崎県を振り出しにドブ板営業を経て、最大の消費地東京へ乗り込むまでの過程。そして販売量増加に伴う原料確保の苦労、決断を迫られる大型設備投資の是非・・・・・。
芋焼酎不遇の時代に事業を継いだ3代目が直面する様々な課題と対応は、多くの中小企業経営者の方々に参考になる点も多いのではないでしょうか。

  そしてもう1つは、地域創生の要は、やはり地域の中小企業にあるという点です。

 「黒霧島」の成功により、同蔵元は、地域の雇用拡大に貢献するだけでなく、その認知度向上により同蔵元へ就職を希望する若者が集まり始めます。定住者の増加は地域の人口増へ繋がりますし、税収増も期待できます。

  また同社の在る都城市は、ふるさと納税に同蔵元の芋焼酎を特典とすることで、わずか4ケ月間で4億円の寄付金を集めることに成功しており、地域の魅力度を高めることへも貢献しています。

   かつて地方振興のためには、長らく産業誘致が不可欠と考えられてきましたが、その限界は明らかです。
今は、個々の地域が持つ魅力を掘り起し産業につなげる産業開発が不可欠と考えられ始めています。

  そんな一つのモデルが、この「黒霧島」を巡る物語。

  日本各地で、様々な「黒霧島」モデルが生まれることが、地域創生の望ましい姿と本書は結ばれています。
その担い手となりうるのは間違いなく各地域の中小企業。それは容易いことではありませんが、その可能性を感じさせてくれた本書。「黒霧島」を傍らに、是非ご一読ください^^。
  
                                                                                                                                   2015-06-27 VOL.105

IMG_5616 北陸新幹線開通もあり、注目高まる富山、石川、福井の北陸3県。
実は、この3県は北陸新幹線開通を待たずとも、数年前からある指標によって注目を集めていました。

   それは幸福度。

   「日本でいちばん大切にしたい会社」等の著作で知られる法政大学大学院の坂本光司教授と「幸福度指数研究会」が2011年に発表した四十七都道府県幸福度ランキングでは、1位が福井県、2位は富山県、3位には石川県と、この北陸3県でトップスリーを占めました。

  また福井県は、小中学校の全国学力テストでも、ここ数年1位か2位に定着しており、体力テストでも同様の成績を収めています。
他にも、世帯年収や共働き率、合計特殊出生率でも高い指数を示しているそうです。

  一般的に地方都市と聞くと、地場産業の冷え込みや少子高齢化による人口減、都市圏に比較した場合の機会の少なさ等、ついネガティブな印象を持ちがちですが、ことこの北陸3県については、それは当てはまらないようです。

  北陸3県で、いったい何が起こっているのか?
  そこには、これからの日本の未来を切り開くヒントがあるのではないか?
   そんなテーマに迫ったのが本書です。

  本書は4章で構成されており、第1章では、少子化対策が進まなかった理由や、企業誘致という地域活性化モデルの終焉といった我が国全体が抱える課題を取り上げています。第2章では国連によってエネルギー効率改善都市に認定され、世界的にtも注目を集める富山県(富山市)の取組について。そして3章と4章では、本書のタイトルにもなっている福井県(鯖江市 他)の取組み「福井モデル」についての解説となっています。

  丹念な現地ルポを通じ明かされる「福井モデル」の秘密。

  その要諦は「教育」と「協働」にあるようです。

   1996年頃を境に、世の中で必要とされる人材は「グッド・エキセントリシティ」へと大きくシフトしたそうです。
「グッド・エキセントリシティ」とは、直訳すれば「エキセントリックな良いヤツ」。教科書(既存の知識)を超えた発想と対応が出来る人材が、これからの世の中を引っ張る存在となっていく・・・・。
比較的早い時期に、それに気づきつつも、どうすればそんな教育が出来るのか、今だ解を導き出せない日本。

  ところが福井のような地方都市で、実は以前からそんな教育をする風土が醸成されており、そこで教育を受けた人達が、地域で協同しビジネス展開を行っていくという好循環モデルが生まれていた・・・・・。

  その背景も含めた仔細については是非、本書をお読みいただきたいと思います。

    地域の活性化のためビジネスを行いたい。そんな思いをもった経営者の方やビジネスマンの方は少なくないですよね。本書は、そんな方々に是非読んでいただきたい一冊。多くの示唆を得られることと思います。

  注目高まる北陸3県。近いうち観光でもと、計画されているのであれば、こんな福井モデルの存在を意識してみると、また違った景色が見えるのかしれませんね。
 

                                                                                                                                   2015-06-20 VOL.104

IMG_5553  今や、日本全国で1,000を超える店舗数を誇るスターバックス。

  その日本進出は、とある企業の存在無しにはありえませんでした。
その企業とは、サザビー(現:サザビーリーグ)。
Afternoon Teaのブランド名で展開しているティールームや生活雑貨販売等でご存じの方も多いかと思います。
 
  創業者の手によるものも含め、数多くのスターバックス本が出版されていますが、本書は、あまり知られることのなかった日本におけるスターバックス創業の物語。
  著者の梅本氏は、当時ササビーの経営企画室に在籍し、スターバックス創業に奔走した人物であり、知られざる日本での創業の物語を臨場感豊かに描いています。

  日本に初めてスターバックスの店舗が誕生したのは、1996年8月2日。その運営母体であるスターバックスコーヒージャパンがサザビーとスターバックス50対50の出資によって設立されたのは、その10ケ月前でした。

  そもそも、なぜスターバックスは、サザビーと組むことになったのでしょうか?
発端は、サザビー創業者の鈴木陸三氏の実兄であり、後にスターバックスコーヒージャパンの代表を務めた角田雄二氏が、1992年ロスのヴェニスビーチで、カリフォルニアに進出した1号店に出会ったことに始まります。
  
  独自の存在感を発揮しつつあったスターバックスに、「ここはいいにおいがする」と、サザビーに似た価値観を感じた同氏が、隆三氏の了解を得、当時のスターバックス社長、ハワード・シュルツ氏に宛てた手紙から全てが始まります。

  お互いの価値観の類似性を認識し、唯一無二のパートナーと確信しつつも、既に上場していたスターバックスと組むために、解決しなければならないビジネス上の数々のハードル。
そして、そもそもエスプレッソマシンによるダークローストのコーヒーは日本人の味覚に受け入れられるのか?単価やオペレーション、テイクアウトという文化はどうなのか?

  様々な困難を突破していったのは、直感的にスターバックスの本物さを見抜いた経営陣の眼力の鋭さと、その思いを信じ、応えたスタッフたちの情熱。
読んでいて胸が熱くなると同時に、新しい文化の生まれるダイナミズムみたいなものも感じさせてくれました。

  本書は、スターバックスコーヒージャパンの物語であると同時に、サザビー(現:サザビーリーグ) の物語でもあります。同社の創業から躍進の秘密。そして上場から上場廃止、スターバックスとの合弁解消に至る経緯まで。個人的にも、かつて同社の株主(少数ですが)でしたので、このあたりも興味深く読ませていただきました。

   さて一つの物語として十分楽しめる本書ですが、当ブログは「書籍から何かビジネスのヒントを探る」ことにありますので、最後に本書のプロローグにあったこの一文を紹介して終わりたいと思います。

「最初のフォロワーの存在が、ひとりのバカをリーダーに変える」と。

 誰かが一つのアクションを起こし、それに追随する勇気あるフォロワーが表れる。
その瞬間に、リーダーとフォロワーが生まれ、一つのムーブメントが始まっていく・・・・・。
著者がTEDでたまたま見た講演に、そんな内容があったようです。

 スターバックスとサザビーの関係を端的に表した一文であり、この示唆に富んだ引用をプロローグにするあたりに、本書の秀逸さが光ります。スターバックス・ラテでも片手に、是非どうぞ^^

                                                                                                                                 2015-06-13 VOL.103
 

IMG_5495   新潟県南魚沼市にある大沢山温泉。そこに「里山十帖」という宿泊施設があります。http://www.satoyama-jujo.com/
 
   ほぼ無名の温泉地。積雪が13メートルに達したこともある豪雪地帯。
引き取った廃業寸前の建物は、立派な古民家ながら、冬場の暖房費用が月200万円を超える物件。

  運営するのは、さして資金力を持たない出版社。当然旅館経験のノウハウはありません。そして絶対にこの事業は成り立たないと金融機関にもダメ出しをされます。
    
  しかし2014年5月の開業後、わずか3ケ月で客室稼働率9割を超えるようになります。全12室という小体な施設とはいえ、驚異的な数値です。
さらに同施設は、2014年度「グッドデザイン賞 ベスト100」に選出され、「ものづくりデザイン賞(中小企業庁長官賞)」をも受賞しました。

  なぜ「里山十帖」は、皆に支持されるのでしょうか?開業間もなくして、なぜ客室稼働率9割を超えることができたのでしょうか?

 著者は、その理由を「デザイン的思考」にあるとしています。

「デザイン的思考」とは著者の造語であり、「既成概念をいっさい取り払ってあらゆる可能性のパズルを検証していく思考法」と定義しています。

  本書は、そんな「デザイン的思考」で生まれた「里山十帖」の開業~現在に至るまでの記録と、「デザイン的思考」の方法論。そしてその方法論を「里山十帖」成功のポイントとして10の法則にまとめた、全3章から構成されています。

  著者の岩佐十良氏は、雑誌「自遊人」 http://www.jiyujin.co.jp/ の編集者であり代表を務めます。
本書の編集にどれだけ、関わってるのかは分かりませんが、さすが編集人らしく巧みな構成で、はじめにからあとがきまで一気に読ませてしまいます。

「里山十帖」開業のエピソード自体が十分興味深く、それだけで一冊の書籍として成り立つように思いますが、当事者にも関わらず、一歩引いた目線で、その成功要因を冷静に分析している点も秀逸ですね。

 「デザイン的思考」の要諦は、是非本書をお読みいただきたいと思いますが、既成概念に縛られない発想力と様々な要素を組み合わせて一つの形にまとめていく構成力は、編集者ゆえのセンスなのかもしれませんね。

  開業1年足らずの「里山十帖」ですから、真の評価が決まるのはまだ先のことかもしれません。
楽しみに見守っていきたい。出来れば是非宿泊してみたい。そんな思いを抱いた今週の1冊でした。


                                                                                                                                 2015-06-06 VOL.102

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