
ブランドとは、個人や企業がコントロール可能なものではなく、「人間でない何か」が、自身の目的を果たすため創造されるもの。
「人間でない何か」がブランドを利用し、その目的が達成されてしまうと、出ていってしまいます。そして結果そのブランドは衰退が始まっていく・・・・・。
著者は、この「人ではない何か」を「ブランド・ジーン(ブランドの遺伝子)」と呼び、このコンセプトをビジネスに活かすガイドラインとして本書を記したと述べています。
この著者オリジナルのコンセプトにインスパイアを与えたのが、雑誌Wiredの編集長、ケヴィン・ケリー氏の著作「テクニウム」だそうです。
「テクニウム」とは同氏の造語で、「テクノロジーを生み出す何か」。
世の中のテクノロジーは人や企業が生み出してきたものではなく、この「テクニウム」が、人や企業を使い次々と生み出してきたのではないか? そんな大胆なコンセプトを提言したものだそうです。
さてそんな「ブランド・ジーン」ですが、もし本当にそのようなものが存在するとしたら、どんな人や企業も「ブランド・ジーン」を自社に宿らせたい、すっと自社に留まってほしいと考えますよね。
残念ながら、それは不可能なことで、ブランドの栄枯盛衰は全て「ブランド・ジーン」次第。
我々人間の力が及ぶところではないそうです。しかしそれではあまりに切ないということで、人間が「ブランド・ジーン」に対して出来ることとして、3つの法則を紹介しています。
①「努力しない」の法則
②価値蒸留の法則
③諸行無常の法則
①の「努力しない」の法則。いこれは②③につなかる法則でもあるのですが、簡単に言ってしまえば、ブランドを作る、維持をするための努力をしないこと。音楽バンド SEKAI NO OWARI等を引き合いに、その理由を解説していますが、要は「楽しむこと。楽しんでいればジーンは味方をしてくれるという法則です。
②は価値蒸留の法則。価値蒸留とはブランド・エッセンスのことを指します。顧客が購入しているのは「製品・サービス」ではなく、その「してくれること」。自社のブランドのどこに顧客は価値を見出しているのか、それを知ることが極めて大切なことだそうです。アップルやマクドナルド等を引き合いに、どうすれば価値蒸留が可能なのか、その方法に迫ります。
そして③の諸行無常の法則。これも①同様、逆説的な法則であり、「ブランドが消滅することは、本当にいけないことなのか」その是非について言及をしたものです。そのブランドの目的が達せられると、ジーンは去っていってしまいます。それは悲しむべきことなのでしょうか。
著者は、ブランドの衰退とは進化であり、「我々の生活をより豊かに」すべく、どこかでまた新しいブランドが生まれているのだから、避けられないことであり実は歓迎すべきことなのだと説きます。
いつの日か企業からブランド・ジーンが去ることは避けられないことですが、企業より長い時間を生きる我々個人としてはそれでは困ってしまいます。そこで「ブランド・ジーン」を個人として味方につける術についても、この法則内で解説しています。そこで引き合いに出てくるのは、ダライ・ラマ14世や矢沢永吉。個人がブランド・ジーンを味方につけるためには「圧」と「逆風」をチャンスとして受け止めることが必要だそうです。
SEKAI NO OWARIやアップルにマクドナルドそしてソニー。更にはダライ・ラマ14世や矢沢永吉。
引き合いのユニークさから、一気に読めてしまう本書。分かり易いノウハウを求める方には不向きかもしれませんが、ブランドに対する一つの捉え方としては、なかなか秀逸なアプローチだと思います。
ブランド・ジーンを味方にするポイントは、突き詰めれば現状を楽しむこと。
所詮ビジネスはゲーム。「楽しんだ者勝ち」ということで本書は締めくくられています。
2015-07-25 VOL.109