名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2015年07月

IMG_5888  書店に行けば、ブランド戦略、ブランド研究に関する書籍は多々ありますが、これは異色の1冊ですね~。しかし面白いです。

   ブランドとは、個人や企業がコントロール可能なものではなく、「人間でない何か」が、自身の目的を果たすため創造されるもの。
「人間でない何か」がブランドを利用し、その目的が達成されてしまうと、出ていってしまいます。そして結果そのブランドは衰退が始まっていく・・・・・。
 
  著者は、この「人ではない何か」を「ブランド・ジーン(ブランドの遺伝子)」と呼び、このコンセプトをビジネスに活かすガイドラインとして本書を記したと述べています。

  この著者オリジナルのコンセプトにインスパイアを与えたのが、雑誌Wiredの編集長、ケヴィン・ケリー氏の著作「テクニウム」だそうです。

 「テクニウム」とは同氏の造語で、「テクノロジーを生み出す何か」。
世の中のテクノロジーは人や企業が生み出してきたものではなく、この「テクニウム」が、人や企業を使い次々と生み出してきたのではないか? そんな大胆なコンセプトを提言したものだそうです。

  さてそんな「ブランド・ジーン」ですが、もし本当にそのようなものが存在するとしたら、どんな人や企業も「ブランド・ジーン」を自社に宿らせたい、すっと自社に留まってほしいと考えますよね。

  残念ながら、それは不可能なことで、ブランドの栄枯盛衰は全て「ブランド・ジーン」次第。
我々人間の力が及ぶところではないそうです。しかしそれではあまりに切ないということで、人間が「ブランド・ジーン」に対して出来ることとして、3つの法則を紹介しています。

  ①「努力しない」の法則
  ②価値蒸留の法則
  ③諸行無常の法則
 
  ①の「努力しない」の法則。いこれは②③につなかる法則でもあるのですが、簡単に言ってしまえば、ブランドを作る、維持をするための努力をしないこと。音楽バンド SEKAI NO OWARI等を引き合いに、その理由を解説していますが、要は「楽しむこと。楽しんでいればジーンは味方をしてくれるという法則です。

 ②は価値蒸留の法則。価値蒸留とはブランド・エッセンスのことを指します。顧客が購入しているのは「製品・サービス」ではなく、その「してくれること」。自社のブランドのどこに顧客は価値を見出しているのか、それを知ることが極めて大切なことだそうです。アップルやマクドナルド等を引き合いに、どうすれば価値蒸留が可能なのか、その方法に迫ります。

 そして③の諸行無常の法則。これも①同様、逆説的な法則であり、「ブランドが消滅することは、本当にいけないことなのか」その是非について言及をしたものです。そのブランドの目的が達せられると、ジーンは去っていってしまいます。それは悲しむべきことなのでしょうか。
  著者は、ブランドの衰退とは進化であり、「我々の生活をより豊かに」すべく、どこかでまた新しいブランドが生まれているのだから、避けられないことであり実は歓迎すべきことなのだと説きます。

  いつの日か企業からブランド・ジーンが去ることは避けられないことですが、企業より長い時間を生きる我々個人としてはそれでは困ってしまいます。そこで「ブランド・ジーン」を個人として味方につける術についても、この法則内で解説しています。そこで引き合いに出てくるのは、ダライ・ラマ14世や矢沢永吉。個人がブランド・ジーンを味方につけるためには「圧」と「逆風」をチャンスとして受け止めることが必要だそうです。

 SEKAI NO OWARIやアップルにマクドナルドそしてソニー。更にはダライ・ラマ14世や矢沢永吉。
引き合いのユニークさから、一気に読めてしまう本書。分かり易いノウハウを求める方には不向きかもしれませんが、ブランドに対する一つの捉え方としては、なかなか秀逸なアプローチだと思います。

  ブランド・ジーンを味方にするポイントは、突き詰めれば現状を楽しむこと。

所詮ビジネスはゲーム。「楽しんだ者勝ち」ということで本書は締めくくられています。

                                                                                                                          2015-07-25 VOL.109

IMG_5852    世界最大級のビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービス LinkedIn。その登録ユーザーは全世界で3億人を超え、日本国内でも100万人以上が会員登録をしているそうです。

  同社創業者にして現会長であるリード・ホフマン氏による本書は、「企業」と「個人」の新しい関係を提言するものです。
 
   それは 「企業」と「個人」の間に、フラットで互恵的な信頼に基づく「パートナーシップ」の関係を築くこと。
それを本書では「アライアンス」と呼び、多数の事例を引き合いにし、その可能性につき言及をしています。

 「アライアンス」のもとでは、

 ①事業の変革と個人の成長が同時に達成でき、企業も社員も満足度が高まります。
 ②仮に退職をする結果となっても、退職後も企業と円満な信頼関係を築きます。
 ③退職後も社外にいる仲間として情報交換をしたり、あるいは社外外注として共に仕事をしたり、場合によっては再度社員として戻ってくる可能性もあります。

  果たして、本当にそんな関係が「企業」と「個人」の間に成立するのかという疑問を持たれた方も多いかと思います。

  目まぐるしく変化する昨今の経営環境。そんな中、長期的思考の出来ない企業は、将来に向けた投資の出来ない企業であり、そんな企業に未来はないと著者は説きます。

  企業が長期的思考を行うためには、社員と経営陣が高い信頼関係を築くことが重要ですが、とはいえ「終身雇用」という制度は、もはや崩壊しつつありますし、終身という雇用の拘束は、「企業」にとっても「個人」にとってもリスクや機会損失の側面があることは否定出来ません。

 「終身雇用」ではなく、「終身信頼(関係)」を築くためにはどうすればよいのでしょうか。

  そのキーワードは「コミットメント」と「ネットワーク」にあります。

  「コミットメント」は「企業」と「個人」が仕事の内容と期間を明確に定めることからはじまります。
「個人」は「企業」と合意したミッションを期限内に遂行することに専念し、そこに個人の信用をかけます。
その実績の積み重ねにより、双方は関係を深めていきます。
  この「コミットメント」には①ローテーション型 ②変革型 ③基盤型 と3類型があり、即戦力を期待されている者だけでなく、新入社員に対しても、期待される要求水準を双方で確認しつつ次のステップに移ることを繰り返すことで、有効に機能させることが可能なようです。
 
  具体的な運営方法や想定される課題については、是非本文をご参照いただきたいと思いますが、その要諦は、制度の体系化と運用の一貫性。そして透明性にあります。
その基本となるのは「社員」との対話であり、その役割を担うマネジャーへの助言も丁寧に記されています。

  もう一つのキーワードである「ネットワーク」。
 
  これには二つの意味があります。一つは「企業」が「社員」に対し社外に仕事上のネットワーク形成に機会提供をし支援すること、「社員」は自身のもつネットワークを通じ、「企業」の変革を支援するような働き方を行うこと。そしてもう一つは「企業」は「卒業生(退職者)」同士のネットワーク構築を積極的に図ること。
このネットワーク構築や運営方法についても「コミットメント」同様に本文内で丁寧に記されています。

  ところでこのような雇用関係は、米国、しかもシリコンバレーだからこそ成り立つのでしょうか。
日本の様な雇用慣行を持つ国や企業でも可能なのでしょうか。
雇用をされない関係といえば、「フリーエージェント」を想定される方も多いかもしれませんが、「アライアンス」はそれとはどう違うのでしょうか。

  様々な疑問が浮かばれた方も多いかと思いますが、個人的には、この流れは我が国でも主流になっていくのではないかと思います。

  景気回復感もあり、一時の就職氷河期から一転、今や売り手市場に変じています。
しかしながら、それは働き手の減少に危機感を覚え始めた大半の企業が学生の拘束に走っているだけで、採用する個人の「キャリア」形成にまで、きちんと考えを馳せている企業は少ないように思います。

  またワークライフバランスの提唱等で、総じて労働時間は減じており、経験を積む時間の少なさや、ハラスメントを恐れ、厳しく指導をされないことから、スキルが身につかないことに不安を思う若手が、少なくないことも事実です。
  労働者としての「個人」の権利や安全が尊重されることに、なんら異論はありませんが、囚われすぎることも、また別の課題を引き起こします

  本書の提言が全てということはなく、まだまだこの「アライアンス」という関係が主流足りえないことは、著者も認めるところですが、これからの「企業」と「個人」の関係のあり方に一石を投じる本書。参考になりました。

                                                             2015-07-18 VOL.108

IMG_5495   さして話題になっているわけではありませんが、なかなかユニークで興味深い内容でしたので、今週は本書をご紹介。

    おおよそ組織や集団の長にある方なら、誰しも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

  集団における「手抜き」の問題。
  
  そもそも「手抜き」とは何なのか。どうして「手抜き」は起こるのか。どうしたら「手抜き」は防げるのか。
 
  日本における「手抜き」研究の第一人者である大阪大学大学院の釘原教授が、数多くの実験や研究をもとに、「手抜き」の原因やメカニズムについて究明したのが本書です。

とはいえ決して堅苦しい内容ではなく、さくっと読むことができます。

  人間にとっての「快」は、ボンヤリして弛緩した状態でいること。そのため本来は努力が要求され緊張をもたらす「仕事」や「作業場面」でさえ、手っ取り早く弛緩状態に戻ろうとします。それこそが「手抜き」。
 
 そんな「手抜き」発生の要因は以下の4つに分類されるそうです。

 ①評価可能性・・・・・個人の努力が他者から評価されない場合、動機づけが高まらない。
 ②努力の不要性・・・・・他者が優秀であったり、一緒に作業している人数が多いので、努力してもムダと思って
しまう。
 ③手抜きの同調・・・・・多くの人が手抜きをしているので、一所懸命課題に取り組んでも馬鹿らしいと思ってしまう。いわゆる「腐ったリンゴ効果」
 ④他者の存在による緊張感の低下・・・・・同じことをしている人が他にもいると、自分一人くらい、やらなくても大丈夫だと思ってしまう。

  そして「手抜き」の対策として、以下の8つの方法が紹介されています。

 ①罰を与える
 ②社会的手抜きをしない人物を選考する
 ③リーダーシップにより仕事の魅力向上を図る
 ④パフォーマンスのフィードバック
 ⑤集団の目標を明示する
 ⑥パフォーマンスの評価可能性を高める
 ⑦腐ったリンゴの排除/他者の存在を意識させる
 ⑧社会的手抜きという現象の知識を与える

  これらの方法は、個人、組織、積極的、消極的という区分で以下のように整理でき、とるべき対策の順位は次のようになります。

 第一順位 個人に対する積極的対策 ④⑥⑧
 第二順位 集団に対する積極的対策 ③⑤
 第三順位 個人に対する消極的対策 ①②
 第四順位 集団に対する消極的対策 ⑦

  ややもすれば、我々はつい「手抜き」をする者に対し、罰を与えたり、あるいは排除をする方向に傾きがちですが、実はそれは得策ではありません。
与えられている役割や目的を明確にし、きちんとそのパフォーマンスを評価することや、集団の構成員数を、目の届く範囲や個々のメンバーが貢献度合いを実感できる程度に絞っておくこと等が、良策であることが分かりますね。

  「集団の業績は一般に2割の人が生産量の大半を生み出す」という有名なパレートの法則というものがあります。いわゆる2:8とか2:6:2の法則と呼ばれるものです。
  この2割の「怠け者」を排除すると、残った集団の2割が「怠け者」になってしまうというのは、よく言われることです。しかし著者は、そういった集団の多様性こそが、実は有益であるとも指摘をしています。
 今は稼げる2割の人たちも、いつかはやる気を失うかもしれない、あるいは今は単にぶら下がっているように見える2割や6割の人たちから、優れたパフォーマンスを発揮する者が現れるかもしれませんから。

  どんな集団でも、その構成員は大体下記の4つのグループに分類されるそうです。 

 ①ヒーロー  集団への貢献が多くの人から認められ評価され、尊敬されている人
 ②小役人  一所懸命努力するけれど評価されず、かえって蔑まれることさえある人
 ③スケープゴート  努力もせず、他者に迷惑をかけてばかりいるために、多くの人から嫌われている人
 ④マスコット  努力しないで他者に迷惑をかけているにもかかわらず、多くの人から好意的評価を受けている人
 
  スケープゴートやマスコットは、排除すべきグループかと思いきや、スケープゴートの存在が周囲の人の自尊心やモチベーション維持に貢献していたり、マスコットの存在が集団の雰囲気を和ませたりと、それぞれが集団の維持には不可欠な役割を担っているそうです。これ、よく分かる気がしますね。
  
    「手抜き」とは、排除すべきものではなく、許容しつつも、集団のパフォーマンスを落とさせない程度にはコントロールをしなければならないもの。やっかいな存在ですが、興味深いものですね。


                                                                                                                                   2015-07-11 VOL.107

IMG_5495  プラットフォームと聞くと、駅のプラットフォームを思い出す方が多いかもしれません。
たしかにプラットフォームの本来の意味は「土台」や「基礎」のことをさしますが、ITの世界では、Windowsの様なコンピューターを動作させるOSのことをそう呼んだりもします。

  本書が取り上げるプラットフォームとは「参加者が増えれば増えるほど、価値が増幅するIT企業が展開するインターネットサービス」のことであり、普段我々の大半が利用をする、グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト・・・の展開するサービスをイメージすると分かり易いかもしれません。

  著者の尾原和啓氏は、マッキンゼーを皮切りに、リクルートやグーグル、楽天といった11社の企業を渡り歩き、インターネット黎明期から様々な企業においてプラットフォーム構築に携わられた人物です。

  本書は、グーグルやアップル、フェイスブックといった巨大IT企業を引き合いに、プラットフォームの基本原理の解説からはじまります。その要諦は「共有価値観」。
そしてプラットフォームの何が世界を変えるのか、我々にどんな未来をもたらずのか、ネット社会における倫理とは何かについての解説が続きます。

    また日本独自のプラットフォーム展開をするリクルートや楽天。当時革新的なサービスであったNTTドコモのiモードなどの事例を通じ、日本ならではの「コミュニケーション消費」という現象へも触れています。

  軽妙な語り口ながらも豊富な経験と見識に裏打ちされた本書は、実にわかり易く、著者の前著には「IT業界の池上彰か?」とのレビューが付いたというのも納得です。

  著者が本書において我々に一番伝えたいことは、ずばり「リベラルアーツ」としてのプラットフォームの理解。

  「リベラルアーツ」とは、日本では「教養」と訳されることが多いようですが、原義は「人を自由にする学問」という意味だそうです。著者は更に踏み込んで、「学問」を「技術」と読みかえています。

   プラットフォームを理解することは、情報社会を生きる我々が「自由」になる技術を身につけること。

  それにより我々は、IT企業の展開するプラットフォームの「ビジネスモデル」の意図、そこに潜む問題を認識し適切な距離を保ちながら、うまくその仕組を利用をすることができるようになるそうです。

  またその運営の思想や哲学を読みとることで、これらの企業の次の展開を予想することができます。
そして彼らが次に目指すものが見えれば、そこにある様々なチャンスをつかむことも可能になるとしています。
 
 いやいや~。非常に示唆に富み、新書にしておくのには、もったいない素晴らしい内容でした。

 好むと好まざるをえず、今や我々はプラットフォームの存在抜きには、生活やビジネスそのものが成り立たない状況下にあります。
自身のいる業界や置かれたポジションに関係なく、全てのビジネスパーソンが一読すべきではないか。そんな思いを抱いた一冊でした。お薦めです。

 
                                                                                                                                   2015-07-04 VOL.106


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