名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2016年02月

IMG_7434  近年、経済格差と不平等の是正というのは、経済学における大きなテーマとなっており、トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」という著作がベストセラーになったことも記憶に新しいことと思います。

    同テーマを扱った書籍は多々ありますが、本書は、2001年のノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授の手によるもの。
タイトルには「世界経済」とありますが、主としてアメリカ経済を題材に「不平等な経済システム」是正のための提言をまとめたものです。

  経済学において、経済格差と不平等が拡大した真因については、実は経済学者の間でも議論が分かれ、明確な結論は出ていないそうです。
グローバリズムの進展やテクノロジーの発展が、その要因に挙げられることも少なくありませんが、著者は公共政策に着目をしています。 

   さてそんな本書は、二部構成となっており、第一部では、経済格差と不平等を生み出した主要因と考える公共政策の変遷について解説を行い、第二部では、不平等是正のための政策や改革、プログラム案が提言されています。
 
 第一部で著者は、現在の不平等な経済が生みだされた要因をは3つあると語ります。

 ①規制緩和 ②最富裕層の所得税率の大幅引下げ ③社会福祉支出の大幅削減

  まことしやかに信じられてきた、「政府干渉を大幅に減らすことで生まれる市場の創造力が、社会に活気を与える」という考え方の誤りにつき3章にわたり丹念に解説をしています。
   的確な編成に加え「キーワード」という用語解説と、一定の節ごとに設けられた「ポイント」という要点整理が適宜挿入されていることで、非常に分かり易くまとまっており、現在のアメリカ経済の実態がよく見えてきます。
 
  そして第二部の提言では、まず第一ステップとして

 ①レントシーキング(経済的に価値ある活動ではなく、しばしば搾取を通じて他者から利益を引き出すことで富を得る行為)の行動を抑制させる
 ②金融セクター(金融業界とでも訳すべきでしょうか?)に社会的使命を果たさせる
 ③(企業)業績評価に関する短期主義蔓延への対処
 ④公共投資の効率を高める税制改正

 第二ステップとして、中間層のために安定と機会を確保するルールと制度を取り戻すことし
 
 ①完全雇用のためのインフラ整備投資促進
 ②生産性に見合った賃金を確保できるルール化
 ③(女性・非白人・移民)就業参加障害の排除
 ④支払い可能な個人負担で、質の良い教育、医療、保育、金融サービス、退職保障が提供されること

 などを盛り込んでいます。

  残念ながらその提言は、特に目新しいものではなく、最富裕層や世界規模企業への課税強化を通じた財源の確保と再分配の仕組み作り。そして種々の法規制の整備を促したものです。

  財政安定と国民の満足度向上に欠かせない中間層の拡大と安定。
そのための手当を厚くすること。特に経済格差の連鎖により、次世代に経済的地位向上の機会を損なわせないとの主張も、多くの識者によって語られていることではありますが。

  個人的に、本書はタイトルにもある「新しい世界経済」への提言内容よりも、第一章で語られるアメリカ経済の現状分析にこそ、その秀逸さがあると思います。
グローバル経済の先鞭をつけてきたアメリカ経済の現状を知ることで、我々日本の現状も踏まえ示唆を得る点も多いのではないでしょうか。
                                                                                                                                           

                                                                                                                                     2016- 2-27 VOL.140                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    

  HOLACRACYIMG_7411

  「ホラクラシー」とは、どんな意味なのでしょうか?
本書では、「ホラクラシー」とは「ホラーキー(hola-)」の構造を持つ組織による「ガバナンス(-cracy)」という意味と説明しています。

 そして「ホラーキー」とは「ホロン同士の結びつき」のことを指し、「ホロン」とは「それ自体で全体としての性質を持つが、より大きな全体の部分になっているもの」という意味があるそうです。

  のっけから抽象的な話で分かりにくいですよね。
「ホラーキー」を分かり易く例えるなら、我々の身体。「ホロン」はその細胞の一つ一つ。

  身体のような組織。それはいったいどんな組織なのでしょうか。
我々の臓器は脳の支配下にあるようで、実は個々の臓器で独立した機能をもち、臓器自身で環境対応をしアラームを発したりします。

  「ホラクラシー」な組織とは、そのメンバーひとりひとりが明確な役割と決定権をもち、環境変化に俊敏に対応しながら、その変化を絶えず他のメンバーと共有すること。
そして健全な組織運営を行いつつ、組織が本来果たすべき目的を全うすることではないかと、個人的には解釈をしました。

  本書は、そんな新しい組織形態である「ホラクラシー」導入のためのガイドブックです。
生みの親である著者の手により、「ホラクラシー」の概略からケーススタディ、導入までのステップと、その全貌を余すところなく記しています。
           
  「ホラクラシー」には主要な4つの要素があるそうです。

 ①「ゲームのルール」を明示し、権限を再分配する憲法
 ②組織を構築し、人々の役割と権限の及ぶ範囲を規定する新しい方法
 ③それらの役割と権限をアップデートするためのユニークな意思決定プロセス
 ④チームを常に最新の情報に同期化し、一緒に仕事をやり遂げるためのミーティング・プロセス
                                     
  簡単に言ってしまえば、従来の中央集権・階層型のヒエラルキー組織と異なり、分散型・非階層型の組織であり、役割に応じたいくつものサークル内で意思決定と実行を行い責任を負います。
サークル同士は互いに連携しあいつつ、企業というより大きなサークルを運営するための活動を担います。

 適切な運営のためには「ホラクラシー憲法」とでもいうべき、ルールの尊守と、ミーティングを通じた意思決定のプロセスが重要となります。 上司部下といった上下関係ではなく、対等な立場で役割分担を行うことが、本書帯にもあります「管理職は、もういらない」という言葉で端的に表されているのかもしれませんね。
                                                                                                                  
  本当にそんな組織運営が可能なのか?疑問を持たれる方も多いかもしれません。

  個人的にもいくつかの疑問は浮かびますが、何よりこの「ホラクラシー」で求められるのは、組織のメンバーが「自律した個人」であること。
役割と責任が明確に分担されますので、自己管理が出来ないメンバーでは、そもそもこの組織は成り立ちません。導入や実際の運営よりも、実はこの個人の意識を変革することこそが一番難易度が高いことなのかもしれませんね。もっともそれはどんな組織運営においても不可欠なことではありますが。

  組織のあり方、個人の働き方も含め、様々な示唆に富んだ一冊。「ホラクラシー」導入の是非はさておき、一読の価値はあると思います。


            
                                                                                                                                     2016- 2-20 VOL.139                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                

IMG_7378  優れた技術、優秀な人材・・・・・

  潜在能力は高いのに、十分に実力を発揮できずグローバル市場で活躍できない、「もったいない」日本企業。
  その障害はどこにあるのか。どうすればその障害を乗り越えることが出来るのか。
  イノベーションの聖地とも言われるシリコンバレーで30年にわたり様々な企業の勃興を目の当たりにしてきた日本人コンサルタントである著者が「日本企業を強くするための処方箋」を記したのが本書です。
 
  イノベーションには、「技術革新」である「技術イノベーション」と、その技術がユーザーに価値を提供する仕組みの創造である「ビジネス・イノベーション」の2種類があるそうです。
そして日本は「技術イノベーション」では、決して他国に劣っていることはないのですが、「ビジネス・イノベーション」では大きく水をあけられています。その要因はどこにあるのか。著者は大きく3つの理由をあげています。

  ①技術革新だけにとどまり、なかなかビジネス・イノベーションの仕組みをうまく作れない現状
  ②画期的な新しいアイデアを消してしまう日本的思考や環境 
  ③うまくビジネス・イノベーションまでたどりついても、それをうまくグローバルに展開できない現状・・・・・ 
 
  これらの要因に対し、いかなる対応をすべきか。
著者が、自身の出身母体であるSRI(スタンフォード大学分身の応用技術の開発組織)で経験した、技術をビジネスに展開する思考法や、アップルやグーグルといったシリコンバレー企業に共通してみられる「イノベーション・プロセス」の紹介を通じ、考察を重ねています。

  実はこれらの要因を生み出しているものは結局のところ個人のマインドセット。
そしてそのマインドセットを生んでいるのは、日本企業の制度や仕組みにあるのだと著者は説きます。 そのマインドセットから、いかにして解き放たれるのか。

 減点主義ではなく、加点主義にする 
 失敗しても再チャレンジ出来る仕組みを構築する
 横並び思考発言はタブーとする ・・・・・

  本書では、20を超える提言が掲げられ、我々に変革を促します。
これらの提言は、やや総花的な側面は否めないものの、しごく真っ当な内容であり、何ら異論を挟む余地はありません。とはいえ組織の変革は一朝一夕では出来ないもの。

  ならば、まずはその構成員である我々一人一人はどうあるべきなのでしょうか。

  著者は「目に見えない制約」から自身を開放し自由な行動や発想、発言をすべきだと語ります。
しかしコミュニケーションのあり方には留意すべきと戒めます。優れた意見や発想であっても、相手から拒絶されてしまえば元も子もありません。多くの賛同者を得ることもイノベーションの実現には不可欠な要素なのでしょう。
そして既存の仕事をきちんとこなし付加価値をあげることも重要であるとしています。組織を変革するためには、その組織からの信頼があってからだこそと結んでいます。

  う~ん案外、差し障りのない結論に。
ユニークなテーマを扱いつつも、全編を通じ何か物足りなさの残った一冊でした。


                                                                              2016- 2-13 VOL.138                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                

IMG_7329  小倉昌男氏
  郵便以外の我が国最初の物流インフラである「宅急便」創設者にして、官庁の規制と闘い、行政訴訟も辞さなかった闘士。
ヤマト運輸退任後は、私財を投げ打って福祉財団を設立し障がい者の自立支援に尽力をされました。
  名経営者の誉れ高く、氏が生前に初めて記した「小倉昌夫 経営学」は刊行から15年以上経った現在でも、高い評価を受けています。
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  私も同書を持っていますが、「サクセスストーリーを書く気はない。乏しい頭で私はどう考えたか、それだけを正直に書くつもりである」 というまえがきではじまる同書。私情を控え自身の経営を理路整然と語るその内容に深く感銘を受けた覚えがあります。
  


    さて今回ご紹介させていくのは、そんな小倉昌男氏の評伝ですが、巷にあるヤマト運輸や小倉昌男氏に関する書籍とは、いささか趣向が違っています。

  ジャーナリストである著者は、これら多くの関連書籍を読んだうえで、3つの疑問を持ちます。
 
  ①ほとんどの私財(1993年/時価総額24億円の自社株)を投じて、福祉財団を設立したその理由
  ②外部からの高い評価と自身の控えめな評価のギャップがあまりにもありすぎる小倉氏の人物評
  ③小倉氏の最晩年の行動 (2005年7月/米国で死去)

  そんな疑問を解明することで、我々が今だ知ることのなかった小倉昌男氏の見えざる人物像に迫ったのが本書です。
 
    さてどんな内容なのでしょうか。
ノンフィクションですので、仔細は明かしませんが、キーワードは家族。
特に妻と長女の存在が小倉氏に多大な影響を与えています。
苦難の末、宅急便事業が軌道に乗り始めた頃、実は氏の家庭は崩壊寸前だったそうです。明晰な頭脳とその論理性。卓越した経営手腕を発揮しながらも、家庭内ではなす術もない日々。
また妻なき後、その孤独な晩年を支えたある女性の存在・・・・。

 小倉昌男氏の知られざる側面が次々と明らかにされます。しかしそこに何のスキャンダラスさも感じないのは、真摯に小倉昌男氏の生きざまを追い尊敬の念をもって記した著者の力量ゆえではないかと思います。

  さて今回個人的に一番印象に残ったのは、こういった小倉氏の知られざる素顔よりも、宅急便誕生の逸話でした。
小倉氏に宅急便発案のヒントを与えたのは実は佐川急便だったそうです。
路線免許があろうがなかろうが、荷主の依頼があれば何でも運んでいた佐川急便。
褒められたものではありませんが、顧客ニーズを掴んでいたのも事実。
  小倉氏の凄さはそれを合法的にやろうとし、正攻法で行政に向かっていったその姿勢。そのことは皆さまの多くがご存じの通りです。

  ノンフィクション物で、厳密にはビジネス書のカテゴリーには当てはまらないのかもしれませんが、その丹念な取材ぶりと、衝撃的ともいえる事実を丁寧に扱い、まとめ上げた力作。小学館のノンフィクション大賞で選考委員が全員満点をつけたのも納得の1冊でした。

                                                                                                                                  2016- 2- 6 VOL.137                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                

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