名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2016年03月

IMG_7508 「ビッグバン」

 宇宙創成の起源になったと言われる「宇宙の初めの大爆発」を指す言葉ですが、一般的には衝撃的、破壊的な変化や変革を指す言葉として使われることが多いように思います。

  日本でも平成8年、時の総理であった橋本龍太郎氏の提言した金融システム改革案である「金融ビッグバン」という言葉が印象に残っている方も多いかもしれません。

  さてそんな「ビッグバン」というタイトルをつけた本書。
 本書では 「ビッグバン・イノベーション」とは、「安定した事業を、ほんの数ケ月か、時にはほんの数日で破壊する新たなタイプのイノベーション」と定義されています。

 著者たちは、この数十年、イノベーションにまつわる専門家達の考えには大きく3つのフェーズがあったと語ります。

 企業の競争優位は「トップダウン」のアプローチによる「差別化」「低コスト」「集中」いずれかの選択により築かれるとしたマイケル・ポーター氏。

  これに異議を唱え、破壊的な製品やサービスは「ボトムアップ」から生まれるとした「イノベーションのジレンマ」で知られるクレイトン・クリステンセン氏。

   その考えを更に発展させ、競争相手のいない新たな市場「ブルーオーシャン」を創造すべきとした「ブルー・オーシャン戦略」で知られるW・チャン・キムとレネ・モボルニュ氏。
本社著者は、それは「トップダウン」でも「ボトムアップ」でもない「サイドウェイ」からの変革と定義をしています。

  そして第4フェーズとも言える「ビッグバン・イノベーション」の時代では、破壊的な製品やサービスは、「トップダウン」「ボトムアップ」「サイドウェイ」の3方向から同時に襲来し、かつ既存顧客の大半を奪い去っていく「破滅的」なイノベーションであると説きます。

  アドレス帳・スケジュール帳・ビデオカメラ・ポケベル・腕時計・地図・書籍・固定電話・トラベルゲーム・ウォークマン・トランジスタラジオ・カーナビ・空港のチケットカウンター・書店・旅行代理店・保険代理店 etc
我々の慣れ親しんだ、製品やサービスの現状を考えると、非常に分かり易いかもしれません。

  さてそんな「ビッグバン・イノベーション」には、①枠にとらわれない戦略 ②とめどない成長 ③自由奔放な開発という3つの特徴があるそうです。
本書では、様々な事例を引き合いにこの特徴を解説したのち、「ビッグバン・イノベーション」時代の製品ライフサイクル図「シャークフィン」(本書表紙にある鮫のひれのような形状)に沿って4つのステージを紹介しながら、「ビッグバン・イノベーション」時代を生き延びるための12のルールを提言しています。

 4つのステージとは、本来の「ビッグバン」になぞらえ、特異点、ビッグバン、ビッグクランチ、エントロピーがあり、それぞれのステージに応じ、3つずつ計12のルールが記されています。
 
   特異点のステージでは①「真実の語り手」の声に耳を傾ける。②市場に参入するタイミングをピンポイントで選ぶ ③一見ランダムな市場実験に着手する
 
   ビッグバンのステージでは④「破壊的な成功のシグナル」を見逃さない ⑤「ひとり勝ち市場」で勝者になる ⑥「ブレットタイム」をつくる

  ビッグクランチのステージでは⑦市場の飽和に先んじる ⑧負債化する前に資産を処分する ⑨リードしている間に徹底する

 エントロピーのステージでは⑩「ブラックホール」を逃れる ⑪他の企業の部品サプライヤーになる ⑫次の特異点を目指す となっています。

  やや抽象的で分かりにくい表現もありますが、共通して言えることは「スピード」。
様々な事例が紹介されている本書ですが、実のところ「ビッグバン・イノベーション」への明確な対応策はないように思います。唯一言えることは、環境変化に敏感であれということなのでしょうね。

  著者達も断りを入れていますが、本書でいう「ビッグバン・イノベーション」は全ての産業について当てはまるわけではないそうです。今起こっている「ビッグバン・イノベーション」の影響を特に受けているのはクラウドとモバイル技術に関する産業。しかしこの影響があらゆる産業に及ぶことは想像に難くないですよね。

  この「ビッグバン・イノベーション」という定義が確かなものであったかを判断するには、時の経過を待つ必要がありそうですが、その結果がどうであれ、それが様々な示唆に富んだ本書の価値を下げるものではないと思います。構成も上手く、ボリュームがありながらも比較的読み易かった本書。お薦めです。


                                                       2016- 3-26 VOL.144

IMG_7507  「コンセプト」

  もはや日常的に使われる言葉で、ほぼ日本語化しているといっても差し支えないかもしれませんね。
テーマや目的、基本思想、そんな意味付けでとらえられている方も多いかもしれません。

  三省堂の大辞林によれば、コンセプトとは ①概念 ②広告で、規制概念にとらわれず、商品やサービスを新しい視点からとらえ、新しい意味づけを与えてそれを広告の主張とする考え方 と説明されています。
 
    さて電通の現役クリエーティブ・ディレクターの手による本書は、そんなコンセプトをいかにつくりだすかにアプローチをしたものです。

  ありふれた商品やサービスには、もはやお客様は目向きもしない時代。
「その手があったか!」と膝を打つようなサプライズなくして、これからの商品やサービス開発はあり得ません。そのために不可欠なものはコンセプト。
  コンセプトづくりで大切なことは、データや理屈をこねくり回して、頭で考えることだけではなく、主観的な経験や直感までも取り込んだ「身体的思考」にあるそうです。
 
  本書では、著者の好みもあり「食」にまつわる様々な事例をあげながら、この「身体的思考」についての解説を展開していきます。
  「尾崎牛(黒部和牛)」「天国のぶた(濃厚プリン)」「贈りもの弁当(駅弁のカタログギフト)」「ワルのりスナック(味のり)」「チョップカツ(メンチカツ)」「インド鮪同好会(鮪赤身)」などが紹介され、「食」という身近な材料だけに、興味深い内容となっています。

  さてこの「身体的思考」ですが、これは縦軸の「マネジメント軸」と横軸の「コミュニケーション軸」で構成される十字フレームでまとめられるそうです。 
常識を覆すようなコンセプトを単なる「自由奔放な思いつき」で終わらせないために、その品質をコントロールするための「マネジメント軸」。そして、「商品やサービス」を「ターゲット」に結びつけるための「コミュニケーション軸」。

  とはいえこれは単なるフレームワークであり、コンセプトの作成に必要な要素を整理したもので、何らの思考法を提供しているものではありません。そこで紹介されているのが「ぐるぐる思考」という思考法。

  これは広告会社の思考伝統に経営学的な要素を加味したもので ①感じる(コンセプトの材料集め) ②散らかす(一人ブレーンストーミング) ③発見!(コンセプトの言語化) ④磨く(具体な商品化・サービス化)の4つのステップで構成されています。
先にあげた十字フレームワークを念頭に置きつつ、この「ぐるぐる思考」を繰り返すことが、「身体的思考」の要諦と言えそうです。

  こう文章で読んだだけでは、分かりづらいかと思いますが、本書内では実際の十字フレームワークを図示しつつ分かり易く解説されていますので、ご安心下さい。

  活字も大きく150ページに満たない本書。
事例も面白く、あっという間に読めてしまいますが、その実践は簡単なものではないですね。

  ネットの普及や情報アクセスの容易さで、今や誰もが評論家と成り得る時代。また他者のアイデアや発想を安易に模倣出来る環境ゆえに、自身の発想を信じ考え抜く姿勢は極めて重要で価値あることです。しかしそのハードルは非常に高い。そんな我々が自身の姿勢を貫く一助になりそうな本書。いろいろと考えさせられました。


                                                                                                                                     2016- 3-19 VOL.143

IMG_7492   みなさん 「サイロ」ってご存じでしょうか。
11887567_624 画像のような施設のことで 米・小麦・とうもろこし・大豆などの農産物、家畜の飼料を設置、貯蔵する倉庫、容器のことです。英語では「窓がなく周囲が見えない」という意味があるそうです。

  さてそんなタイトルのついた本書。
  「サイロ・エフェクト」とは、高度に複雑化した社会に対応するため組織が、専門家たちの縦割りの「サイロ」になり、その結果変化に対応できなくなってしまうことを指すそうです。

  なぜ現代の組織で働く人々は、時に愚かとしかいいようのない集団行動をとるのか?
  なぜ我々は時として自分に何も見えていないことに気づかないのか

  その共通要因である「サイロ」に着目し、なぜ「サイロ」は形成されるのか、「サイロ」をコントロールする術はあるのかに迫ったのが本書です。
                                                                                                                                    
   本書では、 「サイロ」に支配されてしまった3事例、ソニー・UBS・イングランド銀行、 「サイロ」を排除しようとした4事例、ニューヨーク市・シカゴ警察(殺人予報地図)・フェイスブック・クリープランド・クリニック、そしてこの「サイロ」を逆手にとって大成功を収めたヘッジファンド、ブルーマウンテン・キャピタルの8事例が紹介されています。
 
 どれも興味深い内容でしたが、特に唯一の日本企業であるソニーの事例については、我々にとって最も印象深いものかもしれません。
  
   1999年ラスベガスのコムデックス見本市。
当時のCEO、出井伸之氏の基調講演で紹介された3つの新しい音楽プレーヤー
「メモリースティック・ウォークマン」「ネットワーク・ウォークマン」「VAIO ミュージック・クリップ」。
一つのメーカーから、全く互換性のない3つの新しい製品を世に問うたこの講演こそ、ソニー凋落の始まりであり「サイロ」の存在を端的に表した事例であったと著者は語ります。その2年後に誕生したappleのIPodがこの市場を席巻したことは言うまでもありませんが。

  さてこのソニーと対峙する例としてフェイスブックが挙げられています。
 
  フェイスブック経営陣は、「我々はソニーやマイクロソフトと同じ轍を踏まない」とし、この「サイロ」を打ち壊すあらゆる手段を講じています。
  採用時に職位を問わず、必ず参加させる6週間の「ブートキャンプ」、「ハッカー期間」と呼ばれるジョブローテーション、「ハッカソン」という専門外の領域に取り組ませる仕組み etc

  そんな優れた取組みを紹介しつつも、その一方で社員の同質化が進む同社は、いつかフェイスブック自体が「サイロ」化するリスクを秘めていると、著者は冷静に分析をしています。
 
  ならば、この「サイロ・エフェクト」に我々はどう立ち向かえばよいのでしょうか。
この問題は進行形であり、紹介された成功事例もいまだ完結したものではないと、著者は語ります。
その上で、我々がこの「サイロ」に囚われないための5つの教訓を挙げています。

 ①大規模な組織においては部門の境界を柔軟で流動的にしておくことが望ましい
 ②組織は報酬制度やインセンティブについて熟慮をする
 ③(社内の)情報の流れに注意をはらう
 ④組織が世界を整理しているのに使っている分類法を定期的に見直す
 ⑤ハイテクの活用

  ただ何より大切なことは、我々自身が、既存の分類システムに絶えず疑問を持つ想像力を手にすることだと呼びかけます。実は著者の前身は、文化人類学者。「サイロ」とは実は文化現象であり、その理解には文化人類学的なアプローチが有効ではないかとの提言をしています。
  その要諦は「インサイダー兼アウトサイダー」視点をもつこと。多くの人類学者は、机上の理論に留まらず、時に現地の生活や文化習慣に入り込み研究を深めます。当事者になりつつも常に客観的な目線を持ち続ける姿勢にヒントがあるというのがその理由なようです。

  おおよそ組織に属したことのある方なら、誰もが感じたことのある「サイト・エフェクト」。
本書はその明確な対策を提示してくれるものではありません。なぜなら高度な専門家集団にも多くのメリットがあり、それを全否定するような単純な話ではないからです。

  それでも本書の内容は多くの示唆に富み、非常に面白く興味深い内容でした。
一読の価値ある一冊。お薦めです。


                                                                                                                                     2016- 3-12 VOL.142

   長く挑発的なタイトルがついています。IMG_7476

  本書は、神戸大学大学院経営学研究科教授である著者を中心に、日本政策投資銀行が立ち上げた「センサー研究会」のメンバーの手によるもの。テーマはずばり「センサーネット構想」。
 
  ”JAPAN AS NO.1” も呼ばれたのも今や昔。
世界NO,2の経済を誇り、浮かれていた80年代の日本を尻目に、米国が選択したのは「規模の経済」を捨て「ネットワークの経済」へ移行をすること。

  今やインターネットをはじめとする様々なIT関連技術や、それらの技術を背景に生れた様々なサービスで、世界を席巻するのは米国企業ばかり。 
事実上のディフェクトスタンダードを米国に押さえられているなか、日本逆転のキーは「センサーネット」構築にあるとし、大胆な提言をまとめたのが本書です。

  ところで「センサーネット」構想とは、いったい何なのでしょうか。

  米国主導で築き上げられてきたインターネットの世界。
そこに便乗する限り、主導権を握ることは極めて難しいことです。そこで考えられるのは、インターネットに対抗、または補完する新たなネットワークを構築すること。

  それはIoTではないの?との疑問を抱かれることと思いますが、 実はインターネットには、最大の欠陥があります。
その一つは、技術的な構造上、利用する組織や個人を特定できてしまうということ。そしてもう一つはタイムスタンプ機能がないため、データの「いつか」が特定できないこと。

  そこで個人を識別しない第二のネットワークを構築し、ここにビッグデータの生成・流通を担わせることは出来ないものか。
さらにそのネットワーク上では、個人の入力やクリックが出来ないように利用制限をかけ、情報の収集は全てセンサーに行わせてしまうことができないものか。

  匿名性がない故に、ネットワーク上に自身の情報を公開するのに躊躇する方も少なくないのではないでしょうか。つまりネットワーク上に流れる情報には一定の偏りが生じていることは、想像に難くないと思います。
有効にビッグデータを利用するには、より多くの情報を集めるとともに、その恣意性を排除する必要があります。
 
  そこで有効となるのはセンサー。多くの家電メーカーが衰退する中でも、今だ日本のデバイス技術は世界有数。その技術にネットワークをつなぐことが開く世界・・・・・・.。なんだかワクワクしてきませんか。

  残念ながら、「センサーネット」はいまだ構想段階であり、本書もその可能性への提言にとどまり、具体的な姿を表すまでには時間がかかりそうですが、なかなか興味深い内容でした。

   実は本書の秀逸さは、前半部分にあります。
それは米国の産業史を丹念に追っていること。英国から多くの住民が移り住んだ移民の国、米国。
なぜに、そんな米国が英国から経済の覇権を奪い、工業大国化し、大量生産の時代を迎えたのか。日本のキャッチアップを退け、今だ世界経済を牽引する力強さを維持できるのか。
歴史的な考察を経た上での提言ゆえに、その説得力を高めているように思います。
                                                                                     

                                                                                                                                      2016- 3- 5 VOL.141

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