
【概要】
長々としたタイトルがついてますね~(笑)
タイトル読むだけで大変だし、恐らく書店や取次店でタイトル登録するのも一手間。他にもあれこれ不便そう。
なんでこんな面倒なことしてるんでしょうか?
と感じつつ、興味をそそられた方、買ってみよう、読んでみようと思った方も少なくないのではないでしょうか。
本書に興味を持ってもらう、購入してもらうことを目的とするなら、この一見不便なタイトルのおかげで、その目的は十分に果たされたわけです。
それこそ本書のテーマである不便益という発想。
本書著者は、京都大学デザイン学ユニット教授であり、不便益システム研究所 http://fuben-eki.jp/ を主宰。
「不便だからこその効用が得られる、新しいシステムをデザインするための方法論」を作りたいと考える著者が集めた事例と、それらを役立てるための考察をまとめた一冊となっています。
【所感】
〇富士山頂まで登れちゃう「富士山エレベーター」
〇眠っている間に記憶が出来ちゃう「睡眠学習機器」 ※実在(効果は不明)
〇必ず狙ったところにヒットが打てちゃう「究極のゴールデンバット」
〇着るだけで記録が伸びちゃう水着「レーザーレーサー」 ※実在 etc
手間をかけず頭をかけずに目的を果たせるもの=「便利」とするなら、上記の様な事例は、確かに便利。
しかしそれを使って人は楽しいでしょうか。本当にうれしいでしょうか。
そんな問いかけから、本書は我々を不便益の世界へと誘います。
「便利」=手間がかからず、頭を使わなくてもいいこと(労力を必要としないこと)
「不便」=手間がかかり、頭を使うこと(労力を必要としないこと)
ならば「楽」じゃなければ「不便」なのかというと、必ずしもそうではありませんよね。「楽」ではないけれど「不便」ではないということも、世の中には結構あります。
便利-不便、益ー害は同一視すべきものではなく、個々は独立したもの。つまり便利=益ばかりではなく、便利=害、不便=益 という組み合わせも存在し、また一定の価値を持つのだということが、この不便益という発想の根本にはあるのではないでしょうか。
さて具体的に、不便益の効用にはどういったものがあるのでしょうか。
〇紙の辞書を使うことで得る「思わぬ気づき」、「辞書を引く速さの習熟」
〇オートロックではなく、挿してネジる鍵による「物理現象のイメージ」
〇「遠足のおやつは300円以内」という制限の中購入した自分だけのお菓子の組み合わせ「俺だけ感」
〇流れ作業や分業ではないセル生産方式による「達成感」
など、分かり易い事例として紹介されています。
不便益には、このように自分が習熟出来ている、主体性をもっている、スキル低下を防ぐなど、当事者に主観的な益をもたらすものと考えることが出来そうですね。
また本書では、車や電車の自動運転等を題材に、あえて人の手をかける余地を残すことで、防げる事故や事態もあるといった不便益の効用も紹介しています。
身近な事例を盛り込み、読み易く構成しつつ、後半では不便益の性質の定義や、不便益システムを作るためのチェックリストや発想方法、この発想から生まれた具体的な製品やサービスまでが紹介されています。
ユニークな内容に加え、我々が実際に活用可能なように体系立てて編纂されているあたりは、とても有益で好感の持てるものでした。
とかくビジネスの現場では、便利→自動化→大規模投資→資金必要 とつい中小企業や個人レベルでは無理と発想しがちですが、あえて不便を作ることで生まれるビジネスチャンスも少なくないことを本書は示唆しています。発想力の大切さと発想法を教えてくれる本書。一読の価値ありです。