名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2017年09月

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【概要】

 2015年の野村総合研究所の調査によれば、日本の純金融資産1億円以上の富裕層および超富裕層(同5億円以上)は全世帯の2.3%。
ボストン・コンサルティンググループが2015年に行った調査では日本の富裕層世帯は110万世帯。これは世界で3番目の数になるそうです。
 保有資産の規模でみると、富裕層と超富裕層の資産合計は272兆円。これは全体の19,4%にあたるそうです。

 そんな富裕層や超富裕層を顧客とするのがプライベートバンク。その主たる業務は、これらの層に対し、包括的な資産運用や提案を行うことにあります。

 本書は、かつて野村證券のプライベートバンク部門に勤め、現在は独立し金融機関に対し富裕層向けビジネスのコンサルティング等を行っている著者の手によるもの。
 
 知られざるプライベートバンクの世界について明かしています。

【所感】

 6章からなる本書。1章から5章にわたり、富裕層の実態、プライベートバンクの実態、富裕層へのアプローチ方法や、提言の内容、具体的な商品等を明かしたのち、我々のような一般人でも真似のできるプライベントバンクの手法を終章で紹介をしています。

 冒頭で挙げた日本の富裕層、超富裕層について、人口比でみれば実は少ないのだと著者は語ります。

 プライベントバンクを一言で表すなら、それは一族のCFO(財務責任者)。顧客の財産を保全するため、時には参謀として秘書としてメンターとして顧客とその家族に寄り添う存在であること。

 しかしまだまだ日本では、その利用が少ないことから、財産の保全やさらなる積み上げがままならず人口比に対する富裕層や超富裕層が少ないのだと説きます。
 
 その背景には、あまりにも複雑すぎる税制ゆえ、なかなか外資系金融が日本国内で事業を拡大できないこと。かといって日本国内の金融機関は人材不足、ノウハウ不足で顧客数の拡大がままならないことにあるようです。

 本書の狙いは、そんなプライベントバンクの実態を知ってもらい、身近なパートナーとすることで、富裕層、超富裕層がより有効な資産保全や運用を図ることが出来ることの理解を促すこと。そして一般層に対しては、その運用の基本を知ることで、富裕層や超富裕層には及ばずとも自身の財産形成について一考を促すことにありそうです。

 全編、興味深い内容ですが、やはり我々一般層が気になるのは、プライベントバンクの運用方法を我々が活用する方法。

 事前準備としてはライフプラン表を作ること。自身のBS(貸借対照表)とPL(損益計算書)をつくり、資産とキャッシュフローを見える化することなどを紹介し、配分編、運用編へと展開されていきます。
 外貨の変わりにFXを使用する、投資先は4等分するなど具体的な手法が明かされています。

 運用については、やや専門的な話も入りますが、決して奇をてらった方法でがなく、その手法はとてもオーソドックスなものでした。

 実はこういった手法よりも、「give-and-giveの精神」「投資発想」「長期的な視点」といったマインドが一番大切なのだと、巻末で著者は説いています。

 富裕層やプライベートバンクの実態を知りたいという興味本位で読んでも十分面白い本書ですが、金融リテラシーを身に着ける入門書として読んでも、なかなか有益ではないか?そんなことを感じた一冊でした。


                                  2017年9月13日 第1刷発行


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【概要】

 ものの売れない時代。自社の製品やサービスをブランド化し、販促につなげたい。多くの消費者に支持をされたい。ビジネスをされている方で、そのことを考えない方はいないのではないでしょうか。 

 いわゆるブランド構築に関する書籍は星の数ほど出版されていることからも、非常に関心の高いジャンルであることがうかがいしれます。

 スマホの普及、SNSの台頭。消費者を取り巻く環境はこの数年で大きく変わってきており、本書タイトルにもあるような「一体こんなもの誰が買うのだろう」という商品やサービスが、大人気となることが、しばしばあります。
本書でも冒頭に、今話題の「うんこ漢字ドリル」を引き合いにしています。

 今や誰でも、どんなものでもブランド化できる時代がやってきたと言っても過言ではないのかもしれません。本書は大阪を本拠地にブランド・ブティックや経営塾を主宰するブランド・クリエイターの手による1冊。
本書表紙にあるような多彩な事例を紐解きながら、ブランド構築のあり方につき提言をしています。

【所感】

 巷にある商品やサービスで「ブランド」になるかならないかの差は一体どこにあるのでしょうか?
著者はその差を「熱」「世界観」「共感」だとしています。
 この商品やサービスを世に出したいとの強烈な情熱。その情熱と提供する世界観に、共感する人があらわれる。そんな人たちがゆるくつながりはじめ、エコシステム(生態系)を形成していく・・・・・。
 
 SNSの普及により、今や人々は多くの人同士でつながり、そこにはいくつものコミュニティが存在しています。
その中のごく一人に響く商品やサービスがあれば、そのつながりを介し、広く伝搬していく可能性を秘めています。
 人には、それぞれ異なる趣味嗜好があります。その極めて細分化された琴線にふれることが出来れば、今やどんな商品やサービスでもブランド化することができるのかもしれません。

 より具体的な話については本書を是非ご参照いただきたいのですが、個人的に本書で一番興味を引いたのは第4章で語られる「大学に学ぶブランドのあり方」という内容でした。

 ここで言う「大学」とは、「論語」と並ぶ四書五経の一つで、「大人になるための学」いわゆる帝王学の基本図書の位置づけとなるものだそうです。

「大学」には三綱領と呼ばれるメインテーマがあり、それぞれ①明徳を明らかにする ②民に親しむ ③至善にとどまる とされており、ブランドのあり方をこの三綱領にあてはめ解説をしており、これはなかなか他のブランド本では見ない手法であり、非常に面白いものでした。
何事も突き詰めて整理をしていくと、最後は古典に帰着するものなのでしょうか。 
 
 そんなユニークな観点でも記されている本書。事例が豊富で手に取り易くも示唆に富む1冊でした。
 
 今ほど商売人にとって素晴らしい時代はないと説く著者。
「資本がない、知名度もない、歴史もない、資本力もない。そんな会社や個人が、資本力に勝る老舗と遜色なく堂々と渡り合って商売が出来るのだから」と。
その鍵はどこにあるのか・・・・・。みなさんはもうお分かりですよね。

                         日本経済新聞出版社 2017年9月8日 1版1冊                 

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【概要】

 2015年、米国連邦航空局の型式証明を取得し正式に販売開始。2017年上期(1月~6月)の出荷が24機となり、小型ジェット機の分野で世界一となったホンダジェット。
 1996年、20世紀には完成しないと言われていた自立型二足走行ロボット「P2(ASIMOの前身)」の発表。

 本田技研工業(ホンダ)。同社の自動車の年間販売台数は約500万台。トヨタ、フォルクス・ワーゲン、GMのような事業規模もなく、他自動車メーカーとの資本提携もありません。
 年間の研究開発費用は、およそ7,500億円(トヨタ自動車の約2/3)。超大企業に比べ決して潤沢ではない資金力ながら、ホンダには冒頭で記したような、世界初、世界一、日本初の技術や製品が少なくありません。

 天才技術者、本田宗一郎が創業。没後四半世紀を過ぎても、今なお生き続ける創業の精神と、チャレンジする組織風土。そんなホンダを「不思議力」を備えた会社と称し、その秘密に迫った一冊。
 日本企業の活性化を考えるうえで、この「不思議力」はきわめて示唆に富んでいるのではないか、そんな著者の思いが本書執筆の動機となっているそうです。

【所感】

 ホンダの「不思議力」の源泉は本田技術研究所。なんと戦後間もない昭和23年に設立。
本田宗一郎を支えた名参謀、藤沢武夫が「目先の業績に左右されない自由な研究環境と、研究員の待遇改善を目し」設立されています。その原資はホンダからの委託研究費で、その額はホンダの売上の概ね5%程度と言われているそうです。
 ユニークなのはそのテーマ設定。「将来性」「対価獲得性」などの項目で点数化したがる企業が多い中、「それは多分、失敗しますね」語る研究所関係者。
 研究テーマはずばり「自分のカン」「自分の思い」で選ぶしかない。「カン」とは「個」の適応力であり、「思い」とは「無」の信念。それこそ知的創造活動の要諦なのだと、関係者の談話を整理しています。

 本書は、そんな本田技術研究所とそれを取り巻く人々。そして1986年の開発開始から、紆余曲折30年の月日を経て誕生したホンダジェットの開発過程を基軸に描かれています。
 ホンダジェットのスタートは1986年。当時、ホンダ4代目社長の川本信彦の「そろそろ飛行機をやりたいのだけど」の一言から開発が始まっていきます。
 実はホンダは昭和30年代後半に一度航空機製造に乗り出そうとした経緯もあり、相応の技術者もいましたが四輪注力への必要性から凍結。20年以上経過した後となったはノウハウも0。そんな中から30年かけてエンジンのみならず、航空機本体までも作り上げてしまいます。

 筆舌難い苦難を超えて開発に成功。しかしながら航空機製造販売はリスクが大きいこと。ましてや同社が参戦するF1グランプリと同じように、最先端技術や製品に取組姿勢がもたらす企業イメージに貢献すれば十分との首脳層の判断から、まったく事業化は想定されていませんでした。
 
 それを覆したのは藤野道格(現ホンダエアクラフトカンパニー社長)。「つくったものを世に問わなければ意味がない」との思いが、周りを動かし状況を少しずつ変えていきます。
これこそまさに「個」の強い思いが道を切り開く様子であり、本田宗一郎DNAが脈々と生き続ける同社の強みを垣間見た思い、胸打たれた瞬間でした。

 ホンダジェット関連本は、何点も発表されていますので、一連のストーリーをご存じの方も多いかと思いますが、「個」に観点を置き描いた本書の手法は、また新鮮なものでした。

 また秀逸なのは、ホンダジェットの陰で、世に問われなかったレシプロエンジン(プロペラ機エンジン)に関する内容。優れた性能で既に販路も確保しつつ、研究所の組織変更。そしてホンダジェット開発陣に握りつぶされた悲運の製品の物語。
 
 ホンダジェット、本田技術研究所の礼賛にととどまらず、こういったアナザーストーリーにも迫った本書。著者の目論見通り、大変示唆に富んだ一冊。面白かったです。


                               東洋経済新報社 2017年9月14日発行

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【概要】

    あらゆるモノがインターネットへと接続されていくIot。
調査会社のガートナーによれば2020年にインターネットにつながるモノの数は250億と試算されているそうですが、兆単位を予測する企業もあるそうです。
 またIDCジャパンによれば、2016年日本国内におけるIot関連サービスへのユーザー支出額が5兆270億円に達したとの調査結果が報告されており、今後年間平均17%の成長を遂げるだろうと予測がされています。 

 IoTという大きなパラダイムシフトを迎えている現在、この分野で起業をしたい。あるいは新事業として参入を検討している既存企業の方も多いのではないでしょうか?

 本書の著者である野々上仁氏はサン・マイクロシステムズを経て起業家となった人物。
日本発のスマートウォッチを提供するスタートアップ企業 株式会社ヴェルト http://veldt.jp/ の代表を務めています。
 同社製品は一説によればAppleのApple Watch(iWatch)よりも先に誕生したスマートウォッチとも言われているそうです。

 さてそんな著者の手による本書は、これからIoTの分野で起業を志す方々に向けた指南書。
起案から実際の製品が完成するまでの一連の流れを「IoTジャーニー」と呼ぶ著者が、自身の体験を元に
要所を解説した内容となっています。

【所感】

 15章からなる本書。うち8章が本書の中核ともいうべき内容となっています。
著者が「IoTジャーニー」と呼ぶ一連の流れ、事前準備~ハードウェアビジネスの理解~グランドデザイン~チーム編成~プロジェクト管理~ソフトウェア に関し、自社での取り組みを振り返りつつ時系列で解説されています。ただ本書では製品の完成までを扱っていますので、その後のマーケティング等の取組の紹介は割愛されています。そのあたりを期待される方は少し物足りなさを感じるかもしれません。

 他の章ではIoTの概略や世界の動き。日本の課題。これからIoT起業へ取組む方へのメッセージとなっており200頁程度の体裁ながらIoTについて理解を深められる構成となっています。
 
 創業から製品完成への流れの中で生じる試行錯誤の様子や、フォロワーたちに向けた助言が興味深いのはもちろんですが、個人的には、日本の課題として掲げている下記の2点が気になりました。
 ①IoTテクノロジーの技術者は偏在 ②クラフトマンシップは散在

 つまり日本には既にIoTに関し専門技術を持つ人材は少なくありませんが、ほとんどが大手企業在籍で市場に出てくることがありません。
 そしてモノづくり。いまでも優れた加工技術を持つ中小企業は少なくありませんが、昔の企業城下町に代表されるような集積は非常に減っており、工場が日本各地に点在してしまっていること。
 IoTでのモノづくりはスピードと連携が生命線であり、このあたりの課題解決が急務であると説いています。裏返せばそれだけのポテンシャルを秘めているということでもありますが。

 その中で著者の提言「人的リソースのシェアリングエコノミー化」が興味を引きます。
これは端的に言ってしまえば、社員の兼業や副業を推奨しようというもの。働き方改革の意に沿っていることもありますが、優秀な人材は知的好奇心が旺盛で新しいプロジェクトにも積極的に参加をし知見を積みたがる傾向が強いそうです。
 そういった人材は、ややもすれば他企業に引き抜かれる可能性がないわけではありません。
こういった施策により、優秀な人材を繋ぎ留めつつ、彼らが他所で得た知見を持ち帰ることは雇用元にとって有益なことも多いのではないか?がその根底にはあるようです。

 これいい提言ですよね。企業にすれば自社でコストをかけ、育てた人材ゆえ納得いかない部分もあるかもしれませんが、一考の余地はあるのではないでしょうか?
優秀な人材こそ積極的に外に出すこと。それが我が国全体の競争力を高め、ひいては自社にも必ずその好影響は反映されてくるのではないでしょうか。



                             日経BP社 2017年8月7日 初版第1刷


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