名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2017年11月

IMG_16082017-11-26  VOL.231

【概要】

 著書「日本でいちばん大切にしたい会社」で知られる法政大学大学院教授、坂本光司氏。
同シリーズは現在5巻まで発行され、売上累計は70万部に達し、ビジネス書では異例のロングセラーとなっています。

 8,000社以上の中堅・中小企業に対し経営助言や調査を行ってきた著者による本書は「企業経営とは何か」「企業は何のために存在するのか」といった「そもそも論」に迫った1冊。

 日本の大学で「経営学部」が誕生したのは1949年、神戸大学だったそうです。今や日本国内で経営学部を設置する大学は130以上。また経営大学院は110以上にも達するそうです。

 日本の経営学は欧米諸国から輸入されてきた理論が中心。

 しかし「右肩上がり」や「物の豊かさ」を重視する時代はとうに過ぎ、今は「右肩下がり」であり「心の豊かさ」を求める時代となっています。

 そんな中、株主重視・管理重視・業績重視といった欧米流、企業重視の従来の考え方による経営では、もはや内部崩壊は避けられないのだと著者は警告を鳴らします。

 そこで著者が唱えるのは「人を大切にする・人を幸せにするための経営学」の確立。
 本書は、これまで常識や当たり前と言われてきた「経営の考え方・進め方」を否定、破壊し、それに代わる新しい「経営の考え方・進め方」を提示した1冊。

 企業経営者や管理職にいま一度、経営の根源につき考えてほしく、あえて「経営学講義」とのタイトルをつけたそうです。

【所感】

 15章73節で構成された本書。「企業は誰のものか」「企業経営の目的・使命」といった根源的なテーマから終章では「国際経営」と幅広いテーマを網羅しています。

 その中で要諦となるのは「五方良しの経営学」。人を大切にする経営学において企業が幸せを追求・実現するべき相手は以下の5人であると著者は説きます。

 ①社員とその家族
 ②社外社員とその家族
 ③現在顧客と未来顧客
 ④地域住民、とりわけ障がい者や高齢者など社会的弱者
 ⑤出資者ならびに関係機関

 そしてこの5人が程度の差こそあれ、幸せを実現できる経営こそが、求められる正しい経営なのだと断言をしています。
 ならばそれをどう実現するかにつき、各章各節を割き解き明かしているのが本書の構成ですので、この「五方良しの経営学」を頭に置いて本書を読み進めるのをお薦めします。

 組織、理念、価格、利益、業績、経営者と言った章立てで、多岐に渡る観点から「人を大切にする経営」について記した」本書。
 各章各節を単独で読んでも十分な内容ですが、本書の秀逸さは、いくつかの節で目安となる指標の明示もしていることです。

「人を大切にする」と言われても、では具体的に何を目安にしていいのか、戸惑う部分も少なくないかもしれません。 本書でも、数値の達成が目的ではないと前置きをしながらも

 〇給与水準は、地方公務員以上を目指す
 〇売上高営業利益率は5~10%
 〇本社人員数は全体の3~5%。
 〇自己資本比率は90% まずは50%
 〇一人当たり年間10万円前後、労働時間の5%以上の教育訓練時間
 〇売上に対し、最低1%、出来れば3%以上の研究開発投資 etc

 などの指標を記しており、実践に向け経営計画などに落とし込むうえで、参考になる部分も多いのではないでしょうか。

 職業柄もありますが、個人的に面白いと思ったのは、社員を「人的経営資産」と価値評価し決算書の貸借対照表に表記してはどうか?との提言でした。

 企業の決算書において、人件費はコストであり、損益計算書に記載をされます。
経営の三要素は「ヒト・モノ・カネ」と言いつつ、貸借対照表では資産と見なされるのは「モノ・カネ」の二つのみ。それでは「ヒト」を企業の財産という認識は持たないというのが、著者の考え。

 そこで、全社員の生涯賃金と退職金の総額を計算し、貸借対照表の固定資産の部に計上してはとの大胆な提言をしています。貸借対照表はバランスする必要がありますから、同額を負債の部に計上。これにより企業は「人への責務」を追っているという意識も芽生えるとしています。

 もちろん制度会計としては、到底認められない処理ですが、ユニークですし有効性も高そうですね。

 このような示唆に富んだ提言が多数盛り込まれた本書。是非手元に置いて繰り返し読んでいただきたい1冊。お薦めです。


                           PHP研究所 2017年11月29日 第1版第1刷

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【概要】
 米国はマサチューセッツ州に本拠を置くスーパーマーケット「マーケット・バスケット」 https://www.mydemoulas.net/

 およそ100年程前、ギリシャからの移民であった現CEOの祖父が創業し、現在70店舗以上を展開しています。 

   本書は、そんな同スーパーマーケットで起こったある事件を追ったドキュメンタリー。
 
 今から3年前。親族の手によって解任されてしまったCEOを復活させるために立ち上がった人々の物語。
 会社の方針に対し、従業員が反旗を翻すという物語は決して珍しいことではありませんが、本件が驚くべきは、従業員だけでなく顧客や取引先までもが、その動きに賛同をしたこと。その数はなんと200万人にも上るそうです。

 米国の経済史上でも類を見ない奇跡の出来事。

 レイオフが当たり前の米国社会にあって、なぜ従業員達は身を挺してまでCEO復活を願ったのか?
なぜ顧客までがその動きに賛同し支持をしたのか? 皆が復活を望んだ同社CEO アーサー・T・デモーラスとは何者なのか?  そしてそんな彼の率いてきた「マーケットバスケット」とはいかなるスーパーマーケットなのか? そんな疑問に迫ったのが本書です。
 
【所感】

 4章からなる本書。3章以降本書の大半は、一連の解任、復活劇を中心に描かれていますが、1章~2章までは、同スーパーマーケットの沿革や経営の特徴について記されています。
    さて舞台となった「マーケットバスケット」とはいかなるスーパーマーケットなのでしょうか。同スーパーマーケットのルーツは、ギリシャから渡ってきた現CEOの祖父夫妻がマサチューセッツ州ローウェルに開業した小さな食料品店にあります。

 ギリシャ系移民が多く住む地域で開業した彼らの店は、週払い給与で働く移民たちのためにツケで商品を販売しながらも品質にはこだわります。そんな夫婦の熱心な働きぶりは地域で有名となり多くの7移民たちに支持をされます。折しも1930年代の世界恐慌の際は、時に貧しい人々には無料で食品を販売するなどした結果、あわや倒産の憂き目を迎えます。

 そんな状況を救ったのは彼らの子供たち。懸命に働き何とか店を維持した後、同事業を両親から買い取り、1952年スーパーマーケットへと業態を転じます。
 その運営ポリシーは「低価格によって消費者の生活水準を引き上げること」素晴らしい接客をして高品質な商品を安く提供することに徹した同スーパーマーケットは、顧客の支持を集め、多店舗展開を実現していきます。

 驚くべきは、当時にして既にPB商品を作っていたことや、特定地域に集中出店するドミナント戦略を実施するなど、現在の小売業では当たり前とされる戦略を50年以上前に実施している点です。

 また店舗には十分に従業員を配置すること。商品陳列は日中に行い顧客と接する機会を多くするなど顧客本位の店舗運営をするのみならず、従業員にも手厚く報います。彼らの名札には在籍年数が記されており、数十年と記された名札をつけた従業員も少なくなく定着率の高さを物語っています。

 そんな同店を襲ったのは、現CEOのいとこである株主たちによる経営への参入。異質の経営である同スーパーマーケットの業績を上げ、高い配当を獲得し将来は他のスーパーマーケットチェーンに売却を画策するなど、株主の権利を最大化しようと画策をし、CEOを更迭・・・・・・.。

 その後の展開は是非本書をお読みいただきたいのですが、現在の「マーケットバスケット」は奇跡的に返り咲いたCEO アーサー・T・デモーラスの下、更に出店を続けながら繁盛を続けているそうです。
 
 この奇跡を可能にした要因は何か。それは同スーパーマーケットの企業文化にあることは間違いなさそうです。
 本書では同スーパーマーケットの企業文化には 「社会への奉仕」「家族意識」「従業員の自主性を重んじる上から下への権限移譲」「模倣より革新を重んじる独自性」という4つの特徴が挙げられています。
 CEO一族によって繰り返し伝え語られてきた「商品より人」との教え、自らがそれを実感する従業員たち。その姿勢を感じる顧客や取引先。年月をかけ生み出された「マーケットバスケット」への大いなる帰属意識と貢献意欲が、今回の奇跡を生んだのかもしれません。

「人々は自分自身よりも大きな何かに貢献していると思えたら、ときに進んで自己犠牲を払おうとするものだ。」
 そんな言葉が本書終章では語られています。企業とは誰のものか? 示唆に富んだ一冊。お薦めです。

                     集英社インターナショナル 2017年11月7日 第1刷発行

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【概要】

 クラウドファンディングとは、不特定多数の人からインターネットを介して資金を集め商品開発や事業などを達成する仕組みであり、近年にわかに注目を集めている資金調達方法です。

 日本国内にもいくつかのクラウドファンディング支援サービスを行う企業や団体が存在していますが、その中でも日本最大級と言われているのが本書著者である中山氏が代表を務める株式会社マクアケ。http://apply-product.makuake.com/ 

 2013年5月にサイバーエージェント・クラウドファンディング(後に社名変更)社として設立。
 当初はなかなかその仕組みが理解されず苦労を重ねますが、徐々に軌道に乗り始め、これまで1,000万円以上の資金調達に成功したプロジェクトは60件以上。なかには1億円もの資金調達に成功したプロジェクトもあるそうです。

 本書は、これまで同社が支援した事例を紹介しつつ、単なる資金調達手段にとどまらないクラウドファンディングの魅力と可能性について記した1冊となっています。

【所感】

 4章で構成された本書。中でも中心となるのは、2章に跨り紹介される同社の支援事例。
 腕時計、ジーンズ、パーカーといったファッション関係からティーバッグ、チーズ、日本酒といった食品や飲料。ホワイトボード、ペーパーナイフなどの文房具。電動バイクなどの他に、飲食店そのものや、アニメ映画製作まで、多岐にわたるジャンルの製品やサービスが紹介されており興味を引きます。

 またこういった事例を紐解きながら、クラウドファンディングは単に資金を集める機能だけでなく、テストマーケティングにも活用可能であること。
 いやむしろ資金調達にさほど苦労していない大手メーカーであっても、クラウドファンディングに関心を示してくるのは後者に魅力を感じてのことであり、資金調達に苦労する中小企業や個人が利用するものというイメージとは随分異なることが分かります。

 著者はクラウドファンディングにおいて、プロジェクトが成功するためには、次の3点が必要であると説いています。
 ①自分たちの製品や店の「特徴」をはっきりさせ ②その製品や店を魅力的だと思う人たちを「ターゲット」として明確にし ③ターゲットが実際に製品や店を使った「体験」をイメージすること。

 実はこれ、クラウドファンディングに限らず、どんな商売でも当たり前のことですよね。
ただ現物を見せずに支持者を集めることが必須ですから、通常の商売以上に、きちんと伝えることの大切さを説いているのでしょうね。

 さて本書で個人的に魅力を感じた紹介事例は2点。
クラウドファンディングの成功を呼び水に、金融機関からの資金調達もやり易くなり、事業拡大により潤沢な資金を準備できる機会が増えつつあること。

 そして莫大な金額の研究開発投資をする大手メーカーには、保有するも眠っている技術が少なくなく、クラウドファンディングを介し製品化していこうとする機運が高まっていることです。
これは元の技術が確かなだけに、大化けする製品が生まれる可能性も少なくなく非常に楽しみな領域ではないかと感じた次第です。

 平素な言葉で、クラウドファンディングの魅力を綴った本書。入門書として読むにも最適ではないでしょうか。


                           PHP研究所 2017年11月6日 第1版第1刷

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【概要】

 近大(近畿大学)https://www.kindai.ac.jp/
 2014年度入試から4年連続で志願者数日本一。2017年度の受験者数は14万6,000人に達し、この10年で2倍となったそうです。

 意表を突いた広告や、歌手のつんく♂氏や堀江貴文氏などを動員したド派手な入学式や卒業式の映像を目にした方も少なくないかもしれません。
 これまでの大学広報や運営の常識から考えれば、非常識に映るかもしれない数々の施策。

 18歳人口が減少し、今や私立大学の半数が定員割れを起こす中、今後多くの私立大学が淘汰されていくことは想像に難くありません。一部の有名著名校を除けば、学生の確保は死活問題ともいえます。

 関西にあり、失礼ながら私立大学の序列で言えば、「関関同立」よりも下位に位置づけられる同校に、なぜもこんなに多くの志願者が集まるのか。
 近畿日本鉄道から同校に転じ、広報担当となった著者が、そんな同校の取組を明かしたのが本書です。
 
【所感】
 
 民間企業から転じた著者に、大きく立ちはだかったのは二つの壁。

 一つは一般企業で言う顧客となるべきターゲットが18歳と極めて限定されること。
そしてもう一つ。関西で言えば「関関同立」や「産近甲龍」、関東では言えば「MARCH」や「日東駒専」など、根拠なき学校のくくりという壁。

 40~50年前の偏差値を基に、塾や予備校などの受験産業が決めたランク付け。
自身が志望する大学には、どんな教授がいて、どんな研究をしていて、どんな教育の特徴があるのか、あまり考えられることなく、自身の偏差値を勘案し進学先が決められている現実。

 そんな現実を打破するため、著者達は知恵を絞り広報活動に挑みます
 決して奇をてらった広報をするわけではなく、常に伝えるべきことを3つの柱としてまとめているそうです。

 ①近代マグロに代表されるように「実学教育の近代を社会に認知してもらう」こと ②創立90年とはいえ、他の有名大学に比べ歴史が浅いことから「伝統に縛られない大学の姿勢を世界に共感してもらう」こと ③「現状の大学の序列を打破し、フェアな競争環境を創り出し、日本の大学全体のレベルアップを図る」こと だそうです。
 
 なるほど同校の広告アーカイブ http://www.kindai.ac.jp/archives/ を拝見するとインパクトを与えつつも、伝えるべきことはきちんと盛り込んだ、そのスタンスに驚かされます。

 6章からなる本書。同校の取組は、教育機関のみならず多くの一般企業で広報に携わる方、いや広報に限らず自社の魅力をいかに伝えるかに、日々頭を悩ませている方々には非常に参考になる点が多いように思います。

 広報に関する内容以外にも、近代マグロに関し1章を割くなど大変興味深い本書ですが、個人的に一番印象深かったのは、本書の主旨からは外れてしまいますが、著者の生い立ちでした。
 実は著者は近代創設者で初代総長のお孫さんに当たります。3代目理事長は父。4代目理事長は著者の実兄にあたるそうです。子供の時から「長幼の序」を徹底的に叩き込まれた著者。
後に同校に転じた際に父親から「兄をたてろ。そう育てたはずだ」と念を押されたそうです。

 一般企業においても、兄弟姉妹で後継するケースはままありますが、様々な確執を生み経営に悪影響を及ぼすことも少なくありません。そんな中、兄をたて同校を盛り上げるべく奮闘する著者の姿には、事業承継のあるべき姿を教えられたようにも思います。

 少子高齢化含め激変する環境下で、有名著名校へ対峙し、自校の魅力を高め、情報発信を続けようとうする同校の有様を綴った本書は、大手企業に対峙し日々奮闘する、多くの中小企業の経営者の方々にとっても示唆を受けること間違いなしの1冊と言えます。


                          産経新聞出版 平成29年11月3日 第1刷発行

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