名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2018年02月

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【概要】

 かつて4大証券の一角を占めた山一證券。
破綻からすでに20年超。皆さまの記憶の中でももはや遠い存在になっているのかもしれませんね。
 同社破綻を巡っては、多くの書籍が出版されており、4年ほど前、同社の破綻処理に奔走した社員達を追った「しんがり」という書籍を本ブログで紹介させていただいたことがありました。
http://blog.livedoor.jp/kawazuisamu/archives/34736564.html

 山一證券の復活を目論む男?
そんなタイトルに惹かれて手に取った本書を今週はご紹介させていただきます。

 著者は、山一證券破綻当時、千葉支店副支店長を務めていた水野修身氏。
同社破綻後、証券会社勤務、人材派遣会社勤務を経て、金融業界専門の人材サービス会社 マーキュリースタッフィング https://www.msso.co.jp/index.php を起業。
同社の代表取締役を務めます。ちなみに社名のマーキュリーは、ロックミュージシャンのフレディ・マーキュリーの名前から拝借をしたそうです。

 かつて「日経ベンチャー」で「日本一の営業マン」とも称された著者。山一証券破綻時の年齢は39歳だったそうです。

 そんな著者の語る半生と、自身の仕事論。そして山一証券復活をどう目論んでいるのか?について記した1冊となっています。

【所感】

 1982年に入社。間もなく時代はバブルへ突入。さしたる強い動機もなく入社した著者が、徐々に頭角を現せたのは、時代背景をはあるものの、とにかく「人の縁」を大切にしたこと。
 
 そしてバブル崩壊、会社の破綻、紆余曲折を経て自らが「人の縁」をつなぐという人材サービス業を起業するに至ったのも当然の流れかもしれませんね。

 入社から破綻、起業までを前半に、後半では自身の経験則をまとめつつ、展開される本書。古き良き時代の証券会社営業マンのお話・・・・・・。

 と言えないこともありませんが、そこには時代を超えても生き続ける、経験則も少なくありません。その一つは本書で繰り返し語られる「縁」を大切にするということ。 結局どんなビジネスも人との繋がりから発展していくものだからでしょうか。
 何か目的をもって出会いを求めるのが「人脈」。「縁」とは、そんな目的意識に関係なく、まずその人の役に立てるかを考えること。そういう関係が構築できて初めて「縁」とはつながるものだと語ります。

 そして「縁」をつなぐのに一番大切なことは「噓をつかないこと」「気を使うこと」「相手の喜ぶ様子を想像すること」。これ当たり前のことばかりですが、ついおざなりになりがちですよね。

 この「縁」に加えて「手に職をつけること」。それが本書タイトルでもある「人財力」
になるのだと著者はまとめています。

 センセーショナルなタイトルながら、実はその教えはオーソドックスなもの。結局、時代や業界は移れど、その本質は変わらない。そんなことかもしれません。

 さて肝心の山一證券復活はどうなっているのでしょうか?
実は既に「山一證券」の名称自体は復活をしており、M&Aアドバイザリー業務を行う企業 http://www.yamaichi-sec.com/ として元社員を主メンバーに活動がされています。

 これとは直接関係はなく、著者が目論むのは新しい「証券サービス」。ファイナンシャルプランニングが出来る証券会社。顧客の資産を増やすのではなく、守ること。現行の法制化では出来ない遺言信託や、成年後見人の申請なども行える証券会社として、生涯にわたり顧客とつきあえるサービス体制を構築すること。残念ながら現時点で具体化はしていないようですが。

 また現在、同社はマイナビのグループ会社となっていますが、そのあたりの経緯については、まったく触れられておらず、本書の趣旨とはかけ離れているかもしれませんが、少々肩透かし感が残ったのが残念な1冊でした。
 
                       河出書房新社 2018年1月5日初版発行



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【概要】

  みなさまは「東ロボくん」「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト http://21robot.org/ なるものについてお聞きになったことがありますでしょうか?

 これは国立情報学研究所が主導し、人工知能の研究開発を通じ、2016年に大学入試センター試験で高得点をとり、2021年に東京大学入試突破を目標として2011年に立ち上がったプロジェクトでした。

 驚くなかれ2016年のセンター試験模試では5教科で偏差値57.1をマークし、MARCHや関関同立に合格するレベルにまで到達しています。

 しかし東大二次試験を受けるための足切り点数には及ばず、また現在の開発を進めても、同試験で求められるような文脈や複雑な文章を理解することは困難として、同プロジェクトは一旦凍結されています。 

 同プロジェクトのリーダーを務めたのは、同研究所教授である新井紀子さん。

 近年、何かと話題になることの多いAI(人工知能)。
書店には多数のAI関連本があふれていますが、その大半は短絡的や扇動的な内容であり、AIの実態。そしてAIがもたらそうとする未来につき、正しい理解がされていないのではないか。そんな疑問を彼女は投げかけます。

 本書は、そんな第一線でAIの研究開発に従事している著者の手による1冊。「東ロボくん」プロジェクトで得た知見をベースにAIのもたらす未来予想図について記しています。

【所感】

 AIについて、記された本なのに「教科書が読めない子どもたち」というタイトルはなぜ?
そんな疑問を持たれた方も多いかもしれません。
 
 4章で構成された本書。前半2章は、「東ロボくん」プロジェクトの内容と共に、AIの実態を解説しています。
 ややもすればAI万能論が跋扈する中、数学者でもある著者は、所詮AI(コンピューター)は計算機であり四則計算しか出来ない。スマートフォンに積まれる音声認識ソフトなども、一見意味を理解しているようにみえて、膨大なデータから最適解を弾き出しているに過ぎないのだと語ります。

 スマートフォンに「近所の美味しいイタリアンレストラン」と話しかけても「近所の不味いイタリアンレストラン」と話しかけても、似たようなお店を探し出す(美味しい不味いの意味は分からない)という事例には納得でした。

 そうか、所詮AIは計算機なのだから、将来も我々の仕事を奪うことはないのではないか。
話はそう簡単なものではありません。意味は理解せずとも莫大なデータの整合性を確かめる、一定の手順の作業を繰り返す。実は知的生産に見えるホワイトカラーの仕事の大半はそのような仕事であり、それらが代替されることは、もはや避けられない。

 そのインパクトは、過去の産業革命や情報革命の比ではなく、AI楽観論者が説くように、新しい産業が生まれ労働人口がそちらへシフトしていくようなバラ色の未来ではないと警鐘を鳴らします。

 ならばAIに代替されないために、我々に必要な能力は何なのか?
それが本書後半で語られる「読解力」。思えば「東ロボくん」プロジェクトを凍結するに至ったのも、東大二次試験に出題されるような高度な文章を理解する「読解力」をAIに持たせることの困難さにありました。

 
そして驚くべきは、著者達の開発した「RST(リーディングスキルテスト)」で判明した、この「読解力」に乏しい学生の多さ。本書タイトルにもなっている「教科書がまともに読めていない」学生
が巷に溢れている事実でした。
 冒頭で述べた「東ロボくん」の偏差値が57.1に達していることを鑑みれば、そんな彼らがAIに代替されるのは想像に難くありません。

 しかしながらその「読解力」を高める因子は何なのか。残念ながら明確な結論は出ていないようです。著者は「精読」「深読」にそのヒントがあるのではないか?と推測はしていますが。

 そんなAIと教育という二つの観点から構成され、終章ではこれからの企業のあり方、我々の働き方についても言及してまとめられた1冊。一線の研究者による説得力ある内容でした。



                             東洋経済新報社 2018年2月15日発行

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【概要】

   大塚食品の「ボンカレー」boncurry.jp/無題
同社のレトルトカレーを、誰でも一度は口にしたことがあるのではないでしょうか。明日2018年2月12日で誕生から50周年を迎えるそうです。

 そんな節目にありながら、いま同製品のテレビCMをほぼ見かけなくなっていることに皆さんお気づきでしたでしょうか。

 実は同社はボンカレー誕生45周年を迎えた5年ほど前から、テレビCMの出稿を控え、宣伝費を6割減らしたそうです。

 それは同製品が売れなくなってきたから?
いえいえ宣伝費を減らしながらも、実は売上は順当に伸びているそうです。

 テレビCMを通じて多数の人に視認され販売を伸ばしていく。
これまで当たり前のように行われてきたそんなモデルがもはや通じなくなってきているところに、敏感な企業は気づき始めています。
 もはや広告は効かなくなってしまったのか? ならばこれからの企業は、いったいどうやって自社の製品やサービスを認知してもらえばいいのか? 本書はそんな問いに対し示唆を与えてくれる1冊となっています。

【所感】

    TVを見ない人たちが増えているのだから、ネット広告へシフトすればいい。いやいやSNSを重視すべき。いずれも正論に思えますが、そもそもこれは広告であると分かった瞬間に、消費者は回避をする行動に出ます。
 本書でも、バナー広告はほぼ無視されていること。巧妙に本文に広告を滑り込ませても消費者が気づいた時の嫌悪感が企業イメージを損ねるリスクなど、ネットであっても視認されにくくなっていること。SNSですら、発信の方法を間違えれば、しばしば炎上をしてしまいます。

 ならばこれからの企業は、どう消費者へアプローチをすればいいのか?
そこで著者達が提唱するのはPR的コミュニケーション。
 日本ではあまり明確な定義は知られていませんが、米国にあるPR協会(PRSA)によれば、PRとは「広告や宣伝のように何かを売り込もうとするものではなく、企業などの組織と、それをとりまく社会的な存在との間に、好ましい関係性を作ること」とあります。

 最近、雑誌などで記事の体裁ながら「PR」と入ったページをご覧になったり、プレスリリースと称し、自社の商品やサービスを各メディアに提供し記事に取り上げてもらう行為をお聞きになった方も多いかもしれません。
 
 著者たちの挙げるPR的コミュニケーションの要諦は3点。
「第三者」「事実性」「マイクロコンテキスト(小さな社会集団)」としています。
 本書では、この要諦を前提に、これからの企業が消費者と良好なコミュニケーションを築く方法につき考察、解説をしています。
 200ページほどの体裁ですが、端的にまとまっており、個人的には非常に腑に落ちる内容でした。

 PRコミュニケーションが主流になると「信頼性」「透明性」「誠実さ」が重要な基軸になり、資金力の劣る中小企業でも大企業と同等の勝負ができるとしています。

 爆発的にヒットしている愛知ドビー製の「鋳物ホーロー鍋 バーミキュラ」。同製品をお手伝いしたのが著者たちであり、確かに同社のTVCMなど見たこともありませんが、いまや知らない人はいないほど認知されており、その主張にも説得力がありますね。

 今や消費者は「お金でモノを買う」から「信頼でコトを買う」時代に移行をしている。納得です。


                       インプレス 2018年2月1日 初版発行

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【概要】

 THE INOUE BROTHERS...(ザ・イノウエ・ブラザーズ)。https://theinouebrothers.net/jp
 デンマークで生まれ育った日系二世兄弟、井上聡氏、井上清史氏が主宰するファッションブランドです。

 失礼ながら、個人的には本書を読むまで、お二人の名前や活動内容については、全く存じあげませんでした。

 コペンハーゲンを拠点にグラフィックデザイナーとして活動する聡氏、ロンドンでヘアデザイナーとして活動する清史氏。
共に本業を持ちながら、その収入の大半を費やしブランドの運営にあたっています。

 そのブランド信条は、ずばり「エシカル(倫理的な)ファッション」。生産過程で環境に多大な負荷をかけない。生産者を不当に搾取しないことを目し運営されています。

 扱うのは、南米はボリビアで先住民たちが飼養するアルパカの毛を使用したニット製品。
アパレル業界出身でもない彼らが、自らのブランドを立ち上げたのは2004年。まだ道半ばながら、彼らの活動は多くの人の賛同を呼び、認知度も高まりつつあります。

 本書はそんな活動や兄弟の半生を追った1冊。ビジネス書というカテゴリーには収まらないユニークな体裁と内容になっています。 

【所感】

 本書は両兄弟による書下ろしではありません。9章から構成され、主たる内容は執筆者の石井氏が手掛けています。各章の終わりごとに、兄弟自身と二人の母親が語った思いと「ふたりの羅針盤」と称した兄弟を鼓舞してきた改革者たちの言葉(ガンディー、チェ・ゲバラ、ボブ・マーリー etc)が収められています。

 デンマークという異国で生まれ育ち、少なからずの差別や偏見も受けます。そして幼少期には、ガラス職人であった父親を失います。母子家庭となり金銭的には恵まれない中でも強く育った兄弟。

 それぞれの道で成功を収めつつも、何か満たされない思い。

 そんな兄弟が、南米はボリビアを訪ねたことから、物語は動き始めます。

 自身ははたして日本人なのか?デンマーク人なのか? アイデンティティを模索する中、気づいたのは自分たちは「地球人」なのだとの思い。そして亡くなった父親の残した言葉の数々。なかでも父親が身をもって教えた「自身の正義を信じ生きる」ことの大切さ。いつしか忘れていたそんな言葉が二人を動かします。

 関わる人みなを幸福にする仕組み。それはボランティアなどの一方的な施しではなく、関わる人みなが経済的に自立し、安定して循環するような仕組みを構築すること。
 いまでこそソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)なる言葉が知られるようになりましたが、そんな言葉など知る由もなかった二人が、本業での収入をつぎ込み徒手空拳で挑む日々。

 志は高くとも、そこはビジネス。資金、人材、認知度の不足。そして商流を作る困難さ。
二人が数々の試練を迎えることは一般の起業物語と変わりはありません。

 それでも本書全編を通じ感じるのは悲壮感ではなく、一種の爽快感と高揚感。
あくまで前向きな二人の生き方が、そんな雰囲気を醸し出すのでしょう。それは実際に兄弟二人に会った方々が、みな抱く印象でもあるようです。
 
「ファッションの力で、社会にポジティブなインパクトを与えたい」
そんな青臭い言葉が少しも嫌味に聞こえない。ポジティブな思いを鼓舞してくれる素晴らしい1冊でした。




                  PHP研究所 2018年2月6日 第1版第1刷発行

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