
2018- 7-29 VOL.266
【概要】
京都府宇治市に本社を構えるHILLTOP株式会社。http://hilltop21.co.jp/
多品種少量生産のアルミ切削加工を手がける試作品メーカーです。最大の強みはその生産スピード。
24時間無人加工の工場で、新規受注なら5日、リピート品なら3日で納品。月産の生産点数は3000種類にも上るそうです。
2013年には米国進出。翌年シリコンバレーに現地法人を構え、米国企業約700社を相手に取引。そこには本書タイトルにもある、ディズニーやNASA、ウーバー・テクノロジーなども含まれています。
創業は1961年。直前期の売上高は17億3200万円(日本)、4億3000万円(米国)。日本では126名、米国では20名の社員を擁します。
元々は大手自動車メーカーの孫請け部品工場。毎年5%のコスト削減を要求され、家族総出で深夜まで作業も経営は苦しく。典型的な町工場の一つに過ぎませんでした。
そんな同社を変革したのは、本書の著者であり、創業者次男で現副社長の山本昌作氏。
変革に際して取り組んだことはたった5つだけだったそうです。
①「人」を変えること ②「本社」を変えること ③「つくるもの」を変えること ④「つくり方」を変えること ⑤「取引先」を変えること
そんな同社の取組を明かしたのが本書です。
【所感】
どこにでもある町工場。そんな同社には二つのターニングポイントがありました。
一つは下請からの脱却。もう一つは著者自身の命の危機。
1977年に同社へ入社した著者。当時の社名は有限会社山本精工。人間をロボットの様に扱うライン作業。取引先からの度重なるコストダウン要求に未来はないと悟った著者は、ほどなく当時の売上高8割を占めていた自動車部品の製造から撤退。脱下請を目指し、多品種少量生産へと一気に方向転換をします。
しかしそこからは塗炭の苦しみ。3年間は仕事も給料もなく食うや食わずの状態が続いたそうです。
その中で著者が取り組んだのは、職人の技術やノウハウをデータベース化し、ルーティン作業は全て機械に任せる仕組みの構築。ヒルトップシステムという名称で呼ばれるこのシステムは、加工の仕方を全てデータベース化することで、リピート受注に即対応できることを意図したものでした。
同システムにより、作業者は昼間事務所で加工指示のプログラムを組み、夜間に無人化された工場で加工。翌朝には製品が完成するという流れを作り、驚異的な短納期を実現すると共に、高い利益率の確保に成功をします。これが一つめのターニングポイント。
ヒルトップシステムの稼働もあり、順調に業績を伸ばす中、2003年著者を悲劇が襲います。
それは工場での火災により負った自身の大やけど。
意識不明の状態が1ケ月も続く中、奇跡的に回復した著者は新社屋の建設に踏み切ります。
2007年、京都府宇治市のフェニックス・パーク内に完成した社屋は、建坪600坪で5階建。ド派手なピンク色で塗られガラスを多用した斬新なもの(表紙写真)でした。
和室や筋トレルーム、浴室まで備えた上、当時社員数わずか36名にも関わらず、カフェテリア風の社員食堂まで完備しています。
経営者の仕事は「人が人らしく働ける環境をつくる」ことであり、人を育てることが顧客を生むのだとの著者の確信が同社屋建設に繋がり、事実、認知度の向上もあり、社員採用や顧客獲得に十二分な成果を発揮しているようです。これが同社二つ目のターニングポイント。
是非、その仔細は本書をお読みいただきたいのですが、下請脱却や生産性の向上方法。そして社員の採用や育成方法、モチベーションを高める方法など、おおよそ多くの小規模製造業が悩む課題につき、様々な示唆を当たえてくれる本書。
「変わりたい」と思えば現実は変わるのだ。
平素な語り口で記されつつも、そんな著者の熱き想いが詰まった一冊。お薦めです。
ダイヤモンド社 2018年7月18日 第1刷発行