名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2018年07月

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【概要】

 

 京都府宇治市に本社を構えるHILLTOP株式会社。http://hilltop21.co.jp/

 多品種少量生産のアルミ切削加工を手がける試作品メーカーです。最大の強みはその生産スピード。

24時間無人加工の工場で、新規受注なら5日、リピート品なら3日で納品。月産の生産点数は3000種類にも上るそうです。

 

 2013年には米国進出。翌年シリコンバレーに現地法人を構え、米国企業約700社を相手に取引。そこには本書タイトルにもある、ディズニーやNASA、ウーバー・テクノロジーなども含まれています。

 

 創業は1961年。直前期の売上高は173200万円(日本)43000万円(米国)。日本では126名、米国では20名の社員を擁します。

 

 元々は大手自動車メーカーの孫請け部品工場。毎年5%のコスト削減を要求され、家族総出で深夜まで作業も経営は苦しく。典型的な町工場の一つに過ぎませんでした。

 そんな同社を変革したのは、本書の著者であり、創業者次男で現副社長の山本昌作氏。

変革に際して取り組んだことはたった5つだけだったそうです。

 

 ①「人」を変えること ②「本社」を変えること ③「つくるもの」を変えること ④「つくり方」を変えること ⑤「取引先」を変えること

 

 そんな同社の取組を明かしたのが本書です。
 

【所感】

 

 どこにでもある町工場。そんな同社には二つのターニングポイントがありました。

一つは下請からの脱却。もう一つは著者自身の命の危機。

 

 1977年に同社へ入社した著者。当時の社名は有限会社山本精工。人間をロボットの様に扱うライン作業。取引先からの度重なるコストダウン要求に未来はないと悟った著者は、ほどなく当時の売上高8割を占めていた自動車部品の製造から撤退。脱下請を目指し、多品種少量生産へと一気に方向転換をします。

 しかしそこからは塗炭の苦しみ。3年間は仕事も給料もなく食うや食わずの状態が続いたそうです。

その中で著者が取り組んだのは、職人の技術やノウハウをデータベース化し、ルーティン作業は全て機械に任せる仕組みの構築。ヒルトップシステムという名称で呼ばれるこのシステムは、加工の仕方を全てデータベース化することで、リピート受注に即対応できることを意図したものでした。

 

 同システムにより、作業者は昼間事務所で加工指示のプログラムを組み、夜間に無人化された工場で加工。翌朝には製品が完成するという流れを作り、驚異的な短納期を実現すると共に、高い利益率の確保に成功をします。これが一つめのターニングポイント。

 

 ヒルトップシステムの稼働もあり、順調に業績を伸ばす中、2003年著者を悲劇が襲います。

それは工場での火災により負った自身の大やけど。

 意識不明の状態が1ケ月も続く中、奇跡的に回復した著者は新社屋の建設に踏み切ります。

2007年、京都府宇治市のフェニックス・パーク内に完成した社屋は、建坪600坪で5階建。ド派手なピンク色で塗られガラスを多用した斬新なもの(表紙写真)でした。

 和室や筋トレルーム、浴室まで備えた上、当時社員数わずか36名にも関わらず、カフェテリア風の社員食堂まで完備しています。

 

 経営者の仕事は「人が人らしく働ける環境をつくる」ことであり、人を育てることが顧客を生むのだとの著者の確信が同社屋建設に繋がり、事実、認知度の向上もあり、社員採用や顧客獲得に十二分な成果を発揮しているようです。これが同社二つ目のターニングポイント。

 

 是非、その仔細は本書をお読みいただきたいのですが、下請脱却や生産性の向上方法。そして社員の採用や育成方法、モチベーションを高める方法など、おおよそ多くの小規模製造業が悩む課題につき、様々な示唆を当たえてくれる本書。

 

「変わりたい」と思えば現実は変わるのだ。

平素な語り口で記されつつも、そんな著者の熱き想いが詰まった一冊。お薦めです。

  

                         ダイヤモンド社 2018718日 第1刷発行

 


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【概要】

 

 モザンビーク共和国。アフリカ大陸南東部に位置する人口2967万人(2017)、世界でも最貧国の一つに数えられる国家です。 

 同国の北東端にあるカーボ・デルカド州。電気も通らず、ほぼ自給自足の生活を強いられる地域。

 

 本書は、そんな辺境の地にあるいくつかの農村で電子マネーを使った銀行を作ろうと奮闘する日本人起業家の物語。

 

「無電化の村でどうやって電子マネーが使えるのか?」「世界で最もお金の回らないエリアに銀行を作って、事業として成り立つのか?」そんな疑問を抱かれた方も少なくないのかもしれません。

 

 著者が手掛けているのは、複利の金利をとらない「収益分配型モバイルバンク」という仕組み。

これは預金者には利息を支払わず、融資に際しては複利の貸出利息をとりません。その代わりに決済手数料などで得た収益の20%を預金者に還元します。

 ただし預金者個人に分配するのは1%のみ。残りの19%は預金者の属するコミュニティ(村・部族)に分配され、その分配金をインフラ整備や事業資金に充ててもらうことを意図したものです。

 

 世界には銀行口座をもたない、金融サービスを利用したことがない人々が、20億人にも上ると言われており、それが貧困から抜け出せない一つの要因となっています。

 著者達が採用しているNFCカードという比較的ローテクな技術は、ネット環境などが脆弱な地域でも利用が可能なことから、その仕組みや運用面も含め、世界から注目されつつあるようです。

 

    京都大学を中退。紆余曲折を経て、日本植物燃料 http://www.nbf-web.com/japanese/index.html というバイオ燃料の製造販売会社を立ち上げた著者が、なにゆえにモザンビークで、新しい金融の仕組みを作り運営をすることとなったのか。その経緯や事業展開で得た様々な気づき、そして将来の構想について記した1冊となっています。 

 

【所感】

 

  5章からなる本書。

  1章では著者の考える新しい金融システムである「収益分配型モバイルバンク」の仕組みについて。2章~4章では、起業やモザンビークでビジネス展開をするに至った経緯。異国の地ゆえ生じる様々なトラブルと対処の数々。そして最終章では今後の構想について記されています。

 

 本書内で何度も繰り返される自身のライフミッション。それは「世の中から不条理をなくすこと」。そこに至ったのは二つの原体験からだそうです。

 

 一つは被爆地である長崎で生まれ育った著者が、幼少期より繰り返し聞かされてきた太平洋戦争の悲惨さと、その要因が石油資源というエネルギー確保問題に端を発していたということ。

 もう一つは学生時代に旅したアンデスで接したお菓子を売る少女。貧困地域で、どんなに努力しようとも現在の経済システムでは決して裕福になることはできないとの諦観。

 

 そんな原体験から「エネルギー」と「食糧」そしてその分配方法である「お金の仕組」を適切に構築していくことこそが、「世の中から不条理をなくすこと」に繋がるとの確信を抱いた著者。

 

 バイオ燃料への関心、貧困地でのビジネス展開、そして金融システム構築へと著者の活動内容が変遷していくのも当然のことなのかもしれませんね。

 

 日本から12,000㎞も離れたアフリカはモザンビークという地でビジネス展開する様子も当然興味深いのですが、個人的に本書の要諦は、1章で記される現行の金融システムに対する著者の考えにあるように思います。

 

 金融の専門家でもない著者ながら、過去の金融にまつわる歴史などを紐解きつつ、独自の目線で今の金融システムの課題を見出します。

 今や世界は資源制約期に入ったこと。そこではこれまでとは違った仕組みが必要なこと。複利計算がまかり通る金融システムでは、絶対に格差是正は出来ないこと。etc

 

 私的見解と謙遜しつつも、訥々と記される課題と、それに対しモザンビークで自らの仮設を立証していく様子。経済的な成功や名声を求めず、ただただライフミッションに忠実であり、社会的課題を解決したいと願う著者の姿勢。

 日本にもこのような起業家が現れてきたことに、驚きと称賛を感じざるを得ない1冊でした。

 

                         日経BP社 2018625日 第1版第1

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【概要】

 2018年5月24日、EU議会が加盟国28か国の承認を得て発効した「EU一般データ保護規則」General Data Protection Regulation いわゆるGDPR。
 これは個人データの処理に関する個人の保護、および個人データの自由な流通のための規則を定めたもので、EU加盟国に直接適用をされます。

 その基本骨格は下記の4点から構成されています。

 ①「忘れられる権利」・・・個人がデータの処理を望ます、かつ個人データを企業が保持する正当な理由がない場合、検索エンジンなどの個人データは削除要求に応えなければならない。
 ②データへのアクセスの容易性・・・個人は、データの処理方法に関する情報をより多く有し、その情報は明確で分かり易い方法で利用できるようになる。
 ③データがいつハッキングされたかを知る権利・・・企業や組織は、個人を危機にさらすデータ侵害を監督当局に速やかに通知し、ユーザーが適切な情報を講じることができるようになる。 
 ④デザインによるデータ保護のデフォルト・・・サービスの設計段階からプライバシーを保護する設計にすること。初期設定の時点でプライバシー保護をデフォルト化すること。

 これによりEEA(欧州経済地域)から第三国や国際機関に個人データを移転する場合には、所定の手続きが要求されるとともに、その運営には厳格なルールが定められ、反した場合には多額の制裁金を課すことが決定されています。

 ここでいう個人データには、インターネット上における、個人の属性情報のみならず、SNSなどへの投稿や、検索閲覧、購買履歴などの情報も含まれ、その範囲は非常に幅広いものになっています。
 その影響はEU加盟国のみならず、EU国内に支店などを置く企業や、EU加盟国と取引のある企業や組織、全てに及びます。
 
 中でも最大の影響を受けると言われるのが、GoogleやFacebookといったアドワーズ広告(利用者の検索結果などに連動した広告)で莫大な利益を上げてきた企業群。
    今やネット上で大半のアプリケーションは、ほぼ無料で入手可能ですが、それと引き換えに、我々は抗うことなく無防備に自らの個人情報を提供してきました。

 しかしながら、GDPRの施行は、こういったビジネスモデルに終焉をもたらそうとしており、いまやインターネットは新しい局面に移行しようとしています。

 GDPRの背景にあるものは何か。そして我々はこれからやってくるであろう新しいインターネットの世界にどう対峙していけばいいのか? そのあたりの考察を試みたのが本書です。

【所感】

  本書は、ビジネス書のカテゴリーですが、GDPRに対するビジネス上の対応など、実務的な内容を記したものではありません。

 著者もGDPRとは、企業が制裁金を回避するために施策を講じる法務問題ではなく、そこに囚われると企業活動の足元をすくわれると警告を鳴らしています。

 世界最大の立法機関を有する欧州議会が、10年以上練り上げて発効したGDPRは条文からは読み切れない欧州の歴史や文化が反映されたもの。そこは法律家の主戦場ではなく、21世紀の社会や文化、メディアやインターネットの行方さえ左右しかねない強烈な闘争の場であり、その発効の背景を俯瞰してみることを推奨しています。

 よって本書の構成も、GDPR発効の背景にとどまらず、個人データが莫大な富を生む理由、米大統領選挙に多大な影響を及ぼしたとされるフェイクニュースが生じた背景、プライバシーはいつ生まれ、いつから保護すべき対象となったかなど、幅広い内容をカバーしています。

 ポケモンGOすらGDPR違反の疑いがもたれていること。2003年から全世界の図書をデジタルスキャンしてきたGoogleが、実はその電子化された莫大な情報を自社のAI開発に利用していたこと。2017年に、Googleの親会社であるアルファベットが得た広告収入は734億ドル(7.8兆円)。同じくFacebookは360億ドル(3.6兆円)にものぼること。

 などの興味深いエピソードを引き合いにしながら、展開される本書。

 グローバルなネットワークを通じ、その利活用が目覚ましく発展し、今や社会的基盤として我々の仕事や生活に不可欠な存在となっているインターネット。
 たとえGoogleやFacebookといったプラットフォーマーに、いいように自身の検索履歴などを利用されようと、無償でサービスを受ける以上、それは致し方無いことと半ばあきらめつつも納得してきた我々に対し、GDPRを通じ公然と異議申し立てをはじめた欧州の動き。
 
 それは米国に覇権を握らることを嫌がった欧州各国の嫌がらせにも似たカウンターパンチとの穿った見方もあるようですが、当の米国すら現在のインターネットの在り様には、相当の危機感をもっており、多くの識者からも、(インターネット)再構築は待ったなしとの声が高まっているそうです。

 インターネット再構築により、個人情報やデータ保護と引き換えに、大半のサービスが有償になったとしたら我々はどういった選択をするのか。SNSなどのコミュニケーション手段はどう変わっていくのか。既存の媒体からネット広告へ大きく軸足を移してきた企業や、はたまたシェアリングビジネスなど、ネット上のプラットフォーム構築で急成長を遂げた企業はどうなっていくのか。

 様々な思いを馳せるに至った本書。キャッチーなタイトルに反し、深き内容の一冊でした。
 

                    ダイヤモンド社 2018年6月20日 第1刷発行

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【概要】

 30年6月29日 参院本会議で可決成立した「働き方改革関連法案」。これは残業時間の上限規制、同一労働同一賃品、脱時間給制度の導入などを目したもので、今や日本の労働慣行は大きな転換期を迎えようとしています。

 残業時間の上限規制でまことしやかに囁かれるのは、事実上の残業代カット。すなわち給与の減少につながるのではないか? と戦々恐々としているビジネスパーソンも少なくないのかもしれません。

 働き方改革を機に、ビジネスパーソン自らが給与の本質について再考すべき時期にきているのではないのか?
 むしろこんな時代だからこそ「自分の力で給与を上げる」ことが可能ではないのか?

 著者はそんな問いかけをしています。

 終身雇用と年功給を前提に、業績と連動し成果が出たものには賞与で調整。基本的に人件費は抑制すべきとの考え方が「給与1.0」。

 これに対し本書タイトルでもある「給与2.0」とは「付加価値で企業と社員がつながる」という考え方。社員自らが自身の価値を高め、それを可視化することで給与も上げていこうという考え方です。

 また企業サイドに対しては、人件費とは抑制すべき「費用」ではなく、生産性や業績向上のための「投資」なのだと認識を改めることを促しています。

 会社と社員が対等な立場で給与について話し合い、給与の額を決定する。一部の企業ではそういった動きが始まっており、業績にも好影響を及ぼしているそうです。

 そんな「給与2.0」について考察をしたのが本書です。 
 
【所感】

     4章からなる本書。
 まず第1章では、終身雇用、年功給の限界、成果主義の失敗。これまでの日本型給与制度の概要に触れ、基本的に給与とは抑制されるものだと説き、制度そのものの見直しも必要だが、まずは雇用される側の意識の変革が必要だと説きます。

 そのために必要なことは、各人がプロフェッショナルとして会社にどんな貢献が出来るのかを約束すること。そして自分自身が給与を決め、それをもらえるだけの目標設定をし、行動を変え、給与を勝ち取っていくような働き方をすること。

 当然、貢献を約束するためには、会社にとって必要な領域で必要な能力を発揮するための自身のキャリア形成についても考える必要があります。
 そこで第2章ではリクルート出身で、義務教育下で初の民間校長となった藤原和博氏の著書「10年後、君に仕事はあるのか?」を引用しながら、自身の希少性を高める方法などについて触れています。

 そして本書の要諦とも言える第3章では、サイバーエージェント、サイボウズなど先進的な働き方や給与制度に取り組む9社の事例を紹介しつつ、具体的な実現につき考察を加えています。

 最終章では、給与アップには①時給という考えを持つこと。②自身のバリューを上げること。③会社と同じ方向を向くこと 3つの視点が必要とし本書を結んでいます。

 恐らく一読されると「そんな話は理想論」「赤字などで業績の上がらない企業はどうするのか」「バックヤード業務や間接業務の評価はどうするのか」といった疑問は当然生まれることと思います。
本書は具体的な制度設計までは、踏み込んだ内容にはなっておらず、一連の疑問への回答は残念ながらありません。

 それは事例として取り上げられた企業群でも同じであり、各社、試行錯誤を繰り返しつつ制度の構築に苦心をしていますが、重要なことはそんな取組を介する中で、確実に社員の意識は変わっていくことにあるのではないかと個人的には感じた次第です。

 戦後、急速に拡大した給与所得者「サラリーマン」という働き方は、自身がどう働き、どう生きるのかというもっとも大切な部分を企業に丸投げする、実は極めてリスキーな行為だったのかもしれません。

「働き方改革」を機に、それを自らの手に取り戻す。あるいは常に考え、自身の意識や行動を改める。
そんなことの大切さを改めて気づかされた1冊でした。

                                          アスコム 2018年7月6日 第一刷



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 2013年7月からスタートした弊事務所の公式ブログ。
いよいよ6年目を迎えます。いつもお付き合いいただき、本当にありがとうございます。毎週1冊の新刊ビジネス本を紹介させていただき262冊目。今週はこんな1冊をご紹介させていただきます。
 
【概要】

 現在、消費者行動は「所有」から「利用」へとシフトしつつあると言われています。この流れを受け、企業は積極的にサブスクリプションモデルの構築を目指し始めています。

 サブスクリプションモデルとは、毎月平準化された一定額を支払うことでサービスが享受出来る仕組みであり、アマゾン・プライムや音楽配信のスポティファイなどの会員になられている方も少なくないのかもしれません。
 定額支払いとは決して新しいビジネスモデルではありませんが、クラウド技術の進展もあり、かつては購入以外に選択肢のなかった様々なモノやサービスまでが、この流れへと向かっています。

 消費者には、初期投資もいらず、やめたい時にいつでもやめることの出来るサブスクリプションモデルは大変便利なものですが、提供する企業側にとってはどうなのでしょうか。

 これまでのように、大型の販売契約をいくつか取ることで、売上を確保するのではなく、単価の小さな顧客をたくさん確保し、かつ継続利用を促し売上を確保する方向へとシフトをする必要があります。

 そのようなビジネスモデルにおいて、大切なことは①チャーン(解約)の減少と管理。②既存顧客の契約(利用)金額増。③カスタマーエクスペリエンス(顧客経験価値)と顧客満足度の向上。

 そのために企業が最優先すべき事項は、「カスタマーサクセス」すなわち「顧客の成功(の支援)」であり、そこで必要とされる考え方や行動について考察をしたのが本書です。

【所感】

  17章からなる本書。サブスクリプションモデル、カスタマーサクセス(戦略)の概略にはじまり、中心となるのは、カスタマーサクセス実践のための10の原則。 1つの原則に、1章ずつを充てながら解説をしています。

 正しい顧客に販売すること、顧客の指標を深く理解すること、(カスタマーサクセス)にトップダウンかつ全社レベルで取り組む必要性などが挙げられています。

 この10の原則こそ本書の要諦ですが、惜しむらくは、10の原則すべてをバラバラの執筆者が担当をしていること。原則という割には、その名称などにも一貫性がなく、各章の冒頭にサマリーと章末には著者等の補足説明があるものの、端的にまとめこの場でお伝えするには、少々ハードルが高いというのが正直な感想です。

 また様々なジャンルにサブスクリプションモデルは広がっており、全ての企業、業種にとってこのカスタマーサクセスへの取組は不可欠なものとしつつも、やはりその主流はSaaS(ネット経由でソフトウェアを利用するサービス)であり、著者達の経歴や事例を含めどうしても同業界での観点からとなる点も少々、不満の残るところです。

 著書名ゆえ「カスタマーサクセス」の言葉が多用され、何度となくその定義が本書内でもされているのですが、それが理念やコンセプトを指すのか、組織や部署を指すのか、仕組みを指すのか、少々混乱をするのは訳書ゆえかもしれません。

 その中でも、「カスタマーサクセス」とは ①収益ドライバー(契約更新/アップセル)②能動的 ③成功重視型 ④分析中心 ⑤予測性 

 と整理した記述があり、結局のところ「カスタマーサクセス」とは、ネット技術を利用し、顧客におけるソフトウェアの稼働状況や収集されたデータに着目し、その解析や活用を積極的に提案し、顧客自身の成長や収益性向上に貢献する努力を惜しまないこと。
 とはいえあらゆる顧客に対し、その実現は(理想とはいえ)困難であり、それゆえ10の原則にあるように「正しい顧客」を選ぶことが第一の原則とされていることが、非常に腑に落ちた次第です。

 著書名のキャッチーさに反し、少々読み辛い本書でしたが、今後あらゆる業種でサブスクリプションモデル化が進展するという著者達の主張は大いに賛同出来るものでしたし、一つの大きなビジネストレンドとして、押さえておくべき1冊とはいえるのかもしれません。

 

                      英治出版 2018年6月10日 第1版 第1刷

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