名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2019年01月

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【概要】


 アンダークラス。その定義は時代背景や識者により異なりますが、概ね共通している解釈は、永続的で脱出困難な貧困状態に置かれた人々のこと。
 本書において著者は、我が国における非正規労働者からパート主婦、非常勤の役員や管理職、資格や技能をもった専門職を除いた人々としており、その数なんと930万人。
 これは日本の就業人口のおよそ15%を占めており、階級構造のなかの重要な要素を占めるようになっています。

 その平均年収はわずか186万円。貧困率(所得が国民の平均値の半分に満たない人の割合)は38.7%のものぼるそうです。
 
 名目GDP世界3位。家計の金融資産残高は1,900兆円に達するとも言われる日本。諸外国よりも格差が少なく、比較的安定した社会構造が維持されていると思われてきましたが、随分とその実態は異なるものとなっているようです。
 このままアンダークラスが放置され、さらに拡大するような事態になれば、間違いなく日本は危機的状況に陥ってしまいます。

 アンダークラスの実体を明らかにすること。その解決に適切な措置を行う重要性に理解を深めること。そんなことを目し、本書は記されています。

【概要】

  8章で構成される本書。1章から2章ではアンダークラス誕生の過程、アンダークラスの定義などが記された後、3章で日本の現状を分析します。そこでは男女 20歳~59歳 60歳~ と4つのパターンに分類した後、各層につき、以降の章で考察がされています。

 本書の主たるデータは、SSM(社会階層と社会移動)研究会 http://www.l.u-tokyo.ac.jp/2015SSM-PJ/index.html より引用をされており、多様な観点からその特性が浮かび上がってきます。但しサンプル調査で全数実施ではありません。
 
 分類別に各特徴がみられます。

 ①59歳以下男性アンダークラス-大学進学率28.3% 職種はマニュアル職57.9% 未婚率66.4%、個人収入213万円 
 ②59歳以下女性アンダークラス-大学進学率27.3% 職種はマニュアル職25.1% 事務系サービス系が同程度ずつ 未婚率56.1%、個人収入164万円

 ③60歳以上男性アンダークラス-大学進学率21.5% 職種はマニュアル職56.2% 未婚率5.0%、個人収入293万円
 ④59歳以下女性アンダークラス-大学進学率7.7%   職種はマニュアル職35.9% サービス系39.7% 未婚率9.0%、個人収入193万円

 
また59歳以下男性アンダークラスでは、傾向として、出身家庭が貧困。家族関係に問題があり、教育環境に恵まれず成績も悪くいじめられた経験も多いこと。59歳以下女性アンダークラスでは出身家庭の貧困さは、男性ほど多くないものの、他は同様の傾向、ただ女性は結婚後の離死別を機にアンダークラス化する傾向の強さがうかがえるそうです。

 ややもすれば、アンダークラスというのは、怠惰で自助努力もせず、仕方なくそうなってしまったのだと見られがちですが、その背景は一様ではありません。また一旦そのクラスに陥ってしまえば、自力で抜け出ることは非常に困難であり、世代間で連鎖する傾向も強いものがあります。

 本書では(著者の別書にて提示済とのことで)具体的な解施策の提示はなく、アンダークラスが支持するような政党の出現を期待する程度の記述があるのみです。

 著者は我々に、アンダークラスへの転落は、誰にでも起こり得る事態であり、自身がそのクラスにいないことは、たまたまに過ぎないこと。ゆえにそういった一定層の存在を認識し理解を深めることを読者に呼び掛けています。人は往々にして、経済的レベル、教育レベルの似通った職場やコミュニティを一にすることが多く、意識をしなければなかなかアンダークラスの存在に気づかない点を危惧しています。

 本書に記されているわけではありませんが、非婚、子供を持たないという選択は、社会への復讐なのだとの説を聞いたことがあります。確かに59歳以下男性アンダークラスには、そんな傾向もあるのかもしれません。しかしながら経済的困窮は、もはや選択する余地すら与えていないのでは、そんな懸念を抱きました。
 アンダークラスは、そこに属する人々固有の問題ではなく、国全体で取り組むべき重要課題であるとの認識をもつこと。特に若年層アンダークラスへの適切な対処は、少子高齢化対策、生産人口確保の点からも見逃せない課題であることの理解こそ、まずは我々に必要なことかもしれません。
 

                      筑摩書房 2018年12月10日 第一刷発行


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【概要】


 元ゴールドマン・サックスのアナリストなどを経て、現在は日本の国宝や重要文化財の修復を行う小西美術工藝社の経営に携わるなど、異色の経歴を持つ著者。
 2015年に刊行された「新・観光立国論」で注目を集め、以降いくつもの書籍を記されており、日本経済改革などの提言をされています。

 本書も、同様な内容ですが、やや論調は過激です。人口減少と少子化が世界でも類を見ない速さで進行する日本。このまま行けば日本は三流先進国どころか発展途上国にまで転落をしかねない。

 しかしまだ一縷の光を見出すことは出来るのだと説きます。
そのためには何をすればいいのか。個人の感覚や感情ではなく、海外エコノミストによる118本もの論文やレポートを引用した客観的なデータに基づきつつ、大きく6つの提言を記したのが本書です。

【概要】

 7章で構成される本書。まず展開されるのが日本経済の現状と未来予想。これまでの金融政策では一向に効果が上がらない理由を明かした後、ずばり結論を記しています。

 それは「賃上げ」。金融政策でいくらお金を供給しようとも需要が喚起できないゆえ日本経済には低迷するのだと。そこで継続的な賃上げによりデフレ圧力を吸収する必要があり、具体的な取り組みと、その根拠につき以降の章で論じています。

 ①高付加価値・高所得経済への転換 ②あらゆる産業での輸出強化 ③企業規模の拡大 ④最低賃金引き上げ ⑤生産性の向上 ⑥人材育成の強制化 

 なかでも反発必須なのが、企業の統合を推進し個社の事業規模を拡大せよと記した③でしょうか。

 本書における著者の結論が「賃上げ」であることは前述しましたが、結局規模の小さな企業が生き残れるということは、低賃金で労働力が確保出来ているからであり、またその不安定な経営環境ゆえ賃上げも難しいことのだと、様々なデータからその根拠を示しています。また昨今言われる人材不足との声にも、単に安価な労働力が手に入らないことへの嘆きに過ぎないと手厳しく論じています。

 また中小企業の多さが日本経済の強さとしばしば言われる定説に対しても、たまたま人口増加、経済成長が続く局面において自然増しただけに過ぎず、明確な因果関係は実のところ分からないのではないのかとも記しています。

 この辺りは意見の分かれるところかと思いますが、そもそも大企業と中小企業では生涯賃金に歴然とした差があることを我々は容認しており、確かに賃金という部分のみに着目すれば、規模の拡大が賃金を引き上げることに繋がる可能性は想像に難くはありませんね。

 日本の強さと思われていた中小企業の存在が、実は賃金を上げる足かせになっているとしたら、起業の推奨を含め、そもそも企業数増加を促すべきとの発想そのものから変えていかなければならないのかもしれません。

 このように、人口減少と少子化という未知の局面においては、過去のセオリーを一旦リセットし根本的に発想を変える必要があること。個人や企業ではなく国家レベルで半ば強権的に施策を進めていかなければ、日本は変われないというのが本書における著者の主張かもしれません。
日本に深くかかわりつつも、日本人ではないゆえに出来る歯に衣着せぬ提言集。そんな1冊でした。 

 日本の勝算は「賃上げ」にあり。みなさんはどう思われますか。

                       東洋経済新報社 2019年1月24日発行

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【概要】


 みなさんは最近、サーカスってご覧になったことありますか。
シルク・ドゥ・ソレイユは観たことはあっても、意外と日本のサーカスってご覧になる機会が少ないのではないでしょうか。
 子供の頃には観た記憶があるのだけど・・・・・。
実は私もそんな一人なのですが。

   それもそのはず、最盛期には20を超えた日本のサーカス団で現存するのは4つのみ。その大半は新興の団体であり、従前から興行を続けるのは木下サーカス1団体のみですから、名前を目や耳にする機会も随分減ってきたからかもしれません。

 そんな木下サーカス。創業は1902年。当時ロシアの租借地だったダルニー(現 大連)で軽業一座として旗揚げをしたのが始まりだそうです。現在は株式会社化されており、年間の動員数は、なんと120万人。多い年には130万人も超える年もあり、世界でも1~2を争う規模のサーカス団となっているそうです。
 
 常設の劇場や舞台を持つわけでもなく、100人近い団員やその家族が、2~3ケ月ごとに都市から都市を渡り歩きながら、これだけの動員ができるビジネスモデルは他に類がなく、極めて異色の企業体と言えるのかもしれません。本社は、そんな木下サーカスの創業から、現在までを追った1冊です。

 興行という極めて特殊な業界の商慣習。他のサーカス団体が次々と廃業する中、どうして木下サーカスだけが存続することが出来たのか。そのビジネスモデルの特徴、そして同族経営としての承継の重み等 知られざる100年企業の秘密が明らかにされています。

【概要】

 本書を読んで一番驚いたのは、やはりそのビジネスモデルでしょうか。
失礼ながら、サーカスといえば、どこかもの悲しさと郷愁漂う前近代的な印象を抱きがちですが、そんな予想はものの見事に裏切られました。

 同サーカスの興行には、仮設劇場テント、団員の住むコンテナハウス、動物の飼育スペース、事務所、売店。観客の駐車場 約1万坪の広大な土地を要するそうですが、年に4~5箇所もそんな場所を確保することが、大変な作業であることは想像に難くありません。

 概ね1年以内には、場所の選定。半年前には前乗りして、テレビ局や新聞社と連携したプロモーションの展開と営業活動。地域の福祉施設の入居者を無料招待するなど自治体への配慮。そして時代にキャッチアップし練りに練られた演目。

 営業や事務、演者には大学新卒を採用しており、事務方以外の演者も月給制。かつ芸の幅を広げれば手当をつけることでモチベーションを向上させる。共同風呂さえ備えたコンテナハウスでプライバシーの守られた生活環境。団員家族の子供たち16名や、外国人団員も多く抱え共同生活を送る多様性。
 
 その実態は驚きに満ちており、読み飽きることがありません。

 そして4代にも渡る同社の歴史にも興味はつきません。とかく色眼鏡で見られがちな興行の世界ですが、博徒と香具師はまったく別者と混在されることを頑なに拒んだ初代。道理を通し、昭和恐慌、太平洋戦争を生き延びます。
 そして婿養子ながら、戦後同サーカスの躍進を支えた2代目。紆余曲折の末、事業承継をした3代目は、団員の生活環境を大きく改善するも、多額の債務を抱え若くして亡くなってしまいます。
 多額の債務ゆえ、親族会議で廃業を決定も、存続を決意し見事再生した4代目。
各世代ごとに、読み応えのある内容が続きます。

 興行という特殊な世界とはいえ、家族経営、同族経営である同社の歩みは、他の一般企業と何ら異なることはなく、その歴史には共感と賛同を覚える経営者の方も多いかもしれませんね。

 永続する企業には、必ず経営の柱となる揺るぎない信条を持つといいますが、同社の場合は「一場所、二根、三ネタ」がそれにあたるそうです。「場所」は公演地の選定、「根」は営業の根気。「ネタ」は演目を指すそうです。廃業の危機から立ち直った4代目は、再生のキッカケを、この原点とも呼べる考え方に立ち返り、愚直に実践したことと語っているそうです。

 第1章で描かれる2017年の札幌講演の様子を描き、興味を惹きつけた後、2章以降で同サーカスの沿革をおった構成の巧みさもあり、一気に拡大引き込まれ非常に楽しめた1冊でした。

 ちなみに名古屋では、この3月23日から白川公園で6月10日まで公演開催予定。 http://www.kinoshita-circus.co.jp/htmls/sche/sche-02.htm 久しぶりに足を運んでみたいと思っています。


                        東洋経済新報社 2019年1月3日発行


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 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお付き合いの程お願いいたします。新年1回目は、先週同様少し毛色の変わった1冊をご紹介させていただきます。年初に、これからの教育について少し思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

【概要】


 2016年に刊行されベストセラーとなったリンダグラットン氏の「LIFE-SHIFT」。100年時代の人生戦略と副題のついた同書。
以降、人生100年時代というキーワードが非常に目につくようになってきました。本書もそんなカテゴリーに該当するのかもしれません。
 著者は、メディア・アーティストにして、筑波大学准教授、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を務める他、企業経営者の顔を持つ落合陽一氏。若干31歳ながら、「現代の魔法使い」の異名をもち、その動向が各界の注目を集めています。
 冒頭で述べた「人生100年時代」において、どうすれば生涯に渡り学習意欲を持ち続ける人を育てることが出来るのか、そんな命題に対し、氏なりの提案をまとめた1冊。

 過去の著書に比べ、平易な文書で記された本書。自身も子を持つ親として、親子で読むことも想定した読み易い体裁となっています。

【所感】

 大きく3章からなる本書。第1章では「なぜ生涯学び続けなければならないのか?」とのメインテーマにつき、13のQ&Aとしてまとめています。第2章では、落合氏自身の半生を振り返り。第3章では、これからの教育として、最近話題を集める「STEAM教育」について言及をしています。

 1章の一部と3章は連動するものの、基本的には3章とも独立した内容と捉えてよく2章については関心の分かれるところかと思います。

 子供に「どうして学校に行かないといけないの?」と言われた時に、どう対処すべきかというありがちなテーマを振り出しに、幼児教育・プログラミング教育・英語教育早期化の是非、リベラルアーツ必要性の是非、2020年大学入試改革の行方と興味深い内容が続きます。

 前提として押さえておくべきは、現在の日本の教育のあり方。明治政府の唱えた「富国強兵」。それは近代国家を目指し、国民の「均質化」「同質化」を高め人的インフラを厚くする戦略でした。
 その基本的な考え方は第二次大戦後も継続。人口増加局面では有効に機能し、高度成長を成し遂げたことは周知の事実です。ただ今や人口減少局面に移行した日本では、この前提が崩れつつあります。

 そんな中、期待を集めているのが「STEAM教育」。Science(科学) Technology(技術)Engineering(工学) Art(美術) Mathematic(数学)の頭文字をとったものですが、落合氏はこれを踏まえ、日本の「STEAM教育」においては、特に 言語(言葉をロジカルに用いる能力) 物理(物理的なものの見方や考え方) 数学(数学を用いた統計的判断や推定力) アート(アートやデザインの鑑賞能力・審美眼)の4点を伸ばす重要性を説き、具体的な学習法についても独自の提案をしています。

 ただ教育が変われば、全て良しではなく、まず必要なことは我々のマインドをリセットすること。これまでの価値観が大きく変わり「何が正しいのか」という定義すら目まぐるしく変わる世の中では、絶対的な正解というものは存在しません。

「何が正しいのか」を知っているのではなく「正しいことは何か」と常に考える姿勢が重要であること。そして「自分は何かを知らない」ことを常に理解し、「もっと学ぼう」という意識をもつことが、生涯学び続けるというモチベーションに繋がっていくのかもしれません。

 そのために必要なことはトライ&エラーを繰り返すこと。これまでの教育では、人は賢くなればなるほどリスク回避の方向に向かっていましたが、今やリスクを取りにいかないことが、最大のリスク。これからはリスクを取れる人が集まって、一緒に何をすべきか考え行動することが、最もリスクの低い生き方になるのではないかと結んでいる点が強く印象に残りました。

 示唆に富んだ1冊。しかし本書の内容を鵜呑みにするのではなく、「本当にそうなのか?」と疑問を持ちつつ読むこと。それこそ落合氏が最も望む本書への向かい方かもしれません。


                      小学館 2018年12月4日 初版第1刷発行

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