名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2019年04月

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【概要】

 

 GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc)の台頭著しいプラットホームビジネス。
 いまや米国を代表するこれらIT企業のサービスは、もはや我々の生活には不可欠な存在となっています。
 こういった企業の価値の源泉は、製造設備や営業拠点といった有形資産にあるのではなく、システムやノウハウといった無形資産にあります。そしてそういった無形資産で成り立つ企業は易々と国境を超え、タックスヘイブン(租税回避地)にその本拠地を移します。
 OECD(経済協力開発機構)の試算によれば、米国IT企業などがタックスヘイブンへの移転により行う国際的租税回避は全世界の法人税収を1,000~2,400億ドル(約10~24兆円)を失わせているそうです。これは全世界の法人税収の4~10%にも達するそうです。

 このようなデジタル経済とでもいうべき、あらたな経済活動の登場は、これまでのビジネスの在り方のみならず、課税の在り方についても変革を迫っています。

 本書はそんなデジタル経済の課税の在り方について論じた一冊。
冒頭であげたGAFAといったプラットホームビジネス以外にも、シェアリングサービスやフリーマーケットなどの課税問題や、マイナポータル、AIとBI(ベーシックインカム)など幅広いテーマに言及しています。

【構成】

    全10章で構成された本書。前半5章は主として法人の租税回避行為に着目をし、後半5章は個人にスポットを当てた構成となっています。雇用の概念が変わる中、公正な課税とはどうあるべきなのか?AIがもたらす大失業時代と更なる格差拡大にどう対応すべきかなどがテーマとなっています。

【所感】
   
   本書のテーマであるデジタル経済とは、いったいどんな経済活動のことを指すのでしょうか。著者はデジタル経済がもたらす変革として以下の4点を挙げています。
 ①モノからサービスへの転換   
 ②ユーザーの参加するプラットホームという発明 
 ③企業価値の大部分が無形資産となったこと 
 ④無形資産の生み出すビッグデータ、AIという存在

 そんなデジタル経済の申し子とも言えるのが、冒頭でも掲げたGAFA。
 各社微妙にそのビジネスモデルは異なりますが、共通しているのは我々の個人情報をうまく吸い上げ、その加工データを扱うことが各社の企業価値の源泉となっていること。AmazonやAppleは実際の商品や製品を扱っているのではとの疑問も起こりますが、前者はあくまでも販売の場の提供であり、後者は自社では製品そのもの製造は一切行っていません。よって非常に時価総額の高い企業ながら、それに反し実に身軽な企業体であり、本社をどこに置こうが、あまりその収益構造に影響を及ぼすことがありません。

 残念ながら現行の各国税制は、こういった新しい企業体に際し全く有効な課税方法を見出せていません。特にGAFAの台頭に危機感を募らせるEU諸国ではOECD(経済協力開発機構)主導で新しい課税方式の検討が盛んに行われるものの、そもそもアイルランドやオランダなど、OECD参加国ながらタックスヘイブンと同じ機能をもつ国もあり、なかなか一枚岩の施策がとりにくいこと。またトランプ政権以降、ややもすれば保護主義の強まる米国では、こうった企業を擁護するスタンスも見え隠れしていることなどが紹介をされています。
 それでも2020年から英国ではデジタルサービス税の導入が予定されており、今後各国が追随する可能性もありますが、その有効性の立証はこれからなのでしょうね。

 租税回避のもたらす影響は、当然税収の減少もありますが、そもそも税というコストが少なければ少ないほど収益性も高く競争力もあるわけですから、対等する企業が生まれにくく独占を許し消費者に不利益をもたらす結果にもつながりかねません。
 独占を禁止するため企業分割など、事業規模を抑え込む施策もあるでしょうが、冒頭で述べたように、これらの企業価値の主たるものは無形資産であり、そもそも分割という概念が馴染むのかとの疑問も残りました。

 本書前半に関する所感が中心となってしまいましたが、特に個人の働き方や所得、格差拡大に及ぼす影響という点からは、むしろ後半部分の方が我々にとってはより切実な問題かもしれません。

 タイトル的に手にするのを敬遠しがちな類の書籍ですが、決して難解ではなく法人個人問わず幅広くデジタル経済のもたらす影響を税という観点からみた本書。
マイナポータルなど今後我々に直接影響のあるテーマもカバーしており興味深い一冊でした。



                   日本経済新聞出版社 2019年4月16日 1版1刷


 

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【概要】

 

 経営学書としては異例の大ヒットとなった「ストーリーとしての競争戦略」。
本書は同書著者にして一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻教授である楠木建氏の手による一冊。
 純然たる書下ろしではなく、文書オンラインというWeb連載の記事を加筆修正したものがベースとなっています。

 本書に限らず実は著者の書籍には「好き嫌い」をタイトルとしたものが目立ちます。その理由は著者の研究する競争戦略そのものに理由があるようです。
 戦略とは競合他社との差別化であり、その原点は「好き嫌い」にあると著者は説きます。
単に良い商品やサービスを提供しているから顧客が支持をするのではなく、その商品やサービスが好きだから支持をするのであり、往々にしてそういった商品やサービスは当事者が心底好きで面白いと思うことを突き詰めた結果生まれるものだとも説いています。
ゆえに著者の書籍には、「好き嫌い」というタイトルが目立つということのようです。

 さて本書は、そんな著者の極私的な「好き」と「嫌い」を軸に語られる仕事論、会社論、社会論。極私的というだけあって取り上げられているテーマや展開を含め、読み手にとっては、まさにタイトル通り好き嫌いの分かれる一冊となっているかもしれません。

【構成】
 
 仕事論、会社論、社会論の3部で構成される本書。23のテーマを掲げ、それぞれに好きと嫌いを端的なフレーズで記し、内容を論じる展開となっています。
帯だけを見てしまうと、よくありがちなビジネススキル本かと思いますが、仕事論のウェイトは全体の1/3程度に過ぎませんし、普遍的かつ具体的なノウハウについて言及をしているわけではありません。

【所感】

 冒頭で、世の人々は「良し悪し族」と「好き嫌い族」に分かれると著者は説きます。
「良し悪し族」は世の中を縦に見て、見るもの聞くものを、良し悪しの縦横にあてはめて価値判断をします。一方「好き嫌い族」は、世の中を横に見て、それぞれに好き嫌いが異なる個人の集積として世の中をとらえます。
 著者は当然自身を「好き嫌い族」と分類していますが、今はとかく世の中全体が「良し悪し」で物事を決める傾向が強まっているのではないかと警鐘を鳴らします。本来個人的「好き嫌い」の問題に過ぎない世事に「良し悪し」をつけたがる風潮は迷惑だとも言い切っています。

 ことビジネスにおいても、結果(業績)としての「良し悪し」はあっても、そこに至る過程(戦略)の大半は「好き嫌い」の問題なのだと著者は説きます。いわゆる王道と呼ばれる戦略も、それがあらゆる企業に当てはまることもない筈なのに、経営者たちはしばしば勘違いをしてしまうのだと。 

 そんなことを念頭に読んでいただくとよい本書ですが
、連載記事を加筆修正した書籍ゆえ記された時期にバラツキがあり、なんとなく一体感に欠け個々のテーマには正直あまり連続性を感じません。よって本書の内容を端的に表現するのもなかなか難しいところがあります。

 取り上げるテーマ(タイトル)には、スポーツが嫌いな理由、「出過ぎた杭になれ」になるな、UMS(ユニクロ・無印良品・サイゼリヤ)主義者かく語りき、「文春砲」を考える などユニークなものが並びますので、特に順番に囚われず好みのテーマを選んでみるという読み方でよいのではないでしょうか。

 極私的というだけあって、そんな好き嫌いどうでもいいんじゃないの?という内容が無きにしも非ずですが、個々のテーマそれぞれに著者なりの視点が光り個人的には楽しめた一冊でした。  
 著者の考えを鵜呑みにするのではなく、著者の掲げたテーマに対し読み手自身が自らの好き嫌いを意識し本書に対峙すること。それこそが著者が望む本書への向かいかたと言えるのかもしれません。


                       文藝春秋 2019年3月30日 第1刷発行

 
 
 

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【概要】

 

 副題にDynamic Capability(ダイナミック・ケイパビリティ)の経営学とある本書。ダイナミック・ケイパビリティとは、カリフォルニア大学バークレー校のデイビット・ティース教授の提唱する経営理論です。

 企業には2種類のケイパビリティ(能力)があり、その1つはオーディナリ-・ケイパビリティ。これは、企業は利益の最大化を目し企業内の資産や資源をより効率的に扱おうとする通常の能力。
 そしてもう一つがダイナミック・ケイパビリティ。これは「企業が環境の変化を察知し、そこに新しいビジネスの機会を見出し、既存の知識、人財、資産およびオーディナリ-・ケイパビリティを再構成・再配置・再編成する能力」であり、強いて訳するなら「変化対応的な自己変革能力」。

 本書は同教授に2年間師事した著者が記した1冊。昨今世界の経営学者たちが着目するこの経営理論が日本企業において極めて有効であることを示し、かつ難解と称され、あまり日本では認知されていない同理論をかみ砕いて紹介することに挑戦した1冊といえます。

【構成】

 4部12章から成る本書。第1部では、本書帯にある3つの事例を通し、ダイナミック・ケイパビリティがどういったものなのかを具体的に紹介しています。第2部では、どうしてダイナミック・ケイパビリティ理論が日本にとって有益かつ馴染み易いのかに触れ、第3部ではダイナミック・ケイパビリティ理論自体の誕生や変遷について解説しています。そして最後の第4部では、どのようにこの理論を経営に取り入れていけばよいのかを解説しており、事例としてトヨタ自動車を紹介しています。

【所感】

 まずは不条理を引き合いに、ダイナミック・ケイパビリティの有効性について論じられる本書。
人や組織は無知で非合理で非倫理的であるために失敗するのではなく、むしろ逆であると。人や組織は合理的に失敗するのであり、それを不条理現象と著者は呼んでいます。
 不条理現象には①個別合理的全体非合理 ②効率的不正 ③短期合理的長期非合理の3類型があるとしています。そして日本企業は成功体験がもたらず不条理現象に陥りやすいと指摘しています。
 
 成功を経験したまじめな日本企業は更に努力をかさね、パラダイム(思考の枠組み)を精緻化し続けてしまいます。結果大きな環境変化に対応できず、まじめに失敗してしまうと。著者はこれを「パラダイムの不条理」と定義しています。

 この「パラダイムの不条理」の脱却には、①取引コストを節約する方法と②付加価値を高める方法の2つがあるとしています。取引コストとは端的に言えばしがらみ。この取引コストを上回る成果を得られれば、不条理を回避できる。それこそがダイナミック・ケイパビリティであり、その本質は「知の探索」にあるとしています。そして「知の探索」とは、「自身・自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする行為」のことを指すそうです。

 やや抽象的な表現で分かりにくいかもしれませんが、このあたりは本書第1部の3つの事例により、具体的に明かされていますので、一読されると納得いただけるのではないかと思われます。

 とかくバブル崩壊後の失われた20年とも30年とも言われる中、日本企業は経営に関する自信を喪失し、欧米の経営手法をなんでも受け入れてしまう傾向が強まってしまいました。
しかし今こそ日本企業は欧米で主流とされている株主主権論、(コストを削って配当原資を増やす)株主利益最大化を志向するのでなく、付加価値最大化を目指すダイナミック・ケイパビリティを志向すべきであり、日本企業にはその素養が十分あるのだというのが著者最大の主張かもしれません。

 それではそのダイナミック・ケイパビリティとはどのように形成されるのでしょうか。
著者は自社の活動と環境のギャップが発生した場合、その会社がとる対応には2類型があると指摘しています。
 ①(自らを不完全で限定合理的な存在と認識し)批判的な態度を伝統とする企業群 ②(自らを完全合理的と認識し)批判的な態度を伝統としない企業群。そして生き残るのは①の企業群であると。
 自らの存在を疑い現状維持を忌避する組織風土こそがダイナミック・ケイパビリティの形成には不可欠と解されるのかもしれません。
 その典型的な例として、トヨタ自動車の情報公開の姿勢、外部利害関係者の声を積極的に聴く経営陣の姿勢などが紹介されています。メディアに登場する同社豊田章男社長の発言を聞いても、驕ることなく常に危機感をにじませている印象があることをふと思い出しました。
 

 やや難解な部分もありましたが、ダイナミック・ケイパビリティの概要や有効性を知るには最適といえる1冊でした。経営者の方のみならず多くのビジネスパーソンにとっても、示唆を得るところ多いのではないでしょうか。


                    朝日新聞出版 2019年3月30日 第1刷発行

 


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【概要】

 

 宮崎県宮崎市にある KIGURUMI.BIZ株式会社。
ゆるキャラなどに代表される、いわゆる「着ぐるみ」を製造販売しています。http://www.kigurumi.biz/

 本書著者は同社の代表の加納ひろみさん。2004年、ご主人と営む造形美術製作会社の一部門として着ぐるみ製作をスタート。紆余曲折を経て2012年に法人成りをしています。

 地方都市にある小さな企業ながら、国内はもとより海外からもオーダーの入る同社。
なんと従業員は全て女性だそうです。「着ぐるみ」という扱う製品のユニークさもさることながら、女性が働きやすい職場を目指し手がけた数々の施策が評価され、経済産業省が選定する新・ダイバーシティ経営企業100選にも選出されています。

 本書は、そんな同社の沿革や取組について記された1冊。
かつてシングルマザーでもあった著者の手による本書は、ご自身の半生も交えて綴られており、ビジネス書の枠に収まらない読み応えある1冊に仕上がっています。

【構成】

 4章からなる本書。KIGURUMI.BIZ誕生までの経緯と、著者自身の半生について記された1~2章。法人成りから、試行錯誤を繰り返し事業を軌道に乗せていく3章。ゆるキャラブームの終焉とリストラを経て、海外へと販路を伸ばしていく4章で構成されています。

【所感】

 知られざる「着ぐるみ」製造の工程。ユニークな人事施策。SNS活用による低コストな営業活動。海外企業からの受注。地方の小さな企業が工夫を重ね、成長していく様子は大変興味深く参考になる点も多い本書。またシングルマザーとして苦難を重ねた様子も、働く女性ならみな共感出来る点も多いのかもしれません。

 ただ個人的に一番注目すべきは、著者の御主人なのではないかとの思いにいたりました。
「着ぐるみ」という製品、女性経営者、女性が生き生き働ける企業。そういった面を強く打ち出した方が書籍としてはインパクトがありますし、事実同社の躍進は、著者の活躍に負うところが多いところは間違いないのでしょう。
 実は著者が同社の代表となったのは2017年。それまでは同社代表はご主人が務めています。本書においてご主人が登場する場面は、さほど多くはありませんが、印象に残る記述がいくつかあります。

 シングルマザーとして福島で働いていた著者を縁あって宮崎に呼び寄せたご主人。
 共に仕事をする中で2つのことを繰り返し著者に語ったそうです。1つ目は「できますか?」と尋ねられたらまずは「できます」と答えること。2つ目は「グズグズしないこと」。

 そして代表を引き継ぐに際し、それまでご主人に教わった中で一番大切なものは「正しさ」であったと著者は記しています。
「正しさ」ビジネスにおいては結局それが一番の近道。何かをごまかしたり、面倒なことから逃げたりすることは、結局進化のスピードを落としてしまうからと。

 それを集約したともいえるのが「正しい商品は正しい場所から生まれる」との同社ポリシー。その徹底こそが同社の運営や様々な施策を可能にし、成長を促してきたのでしょうね。

「着ぐるみ」というニッチな業界動向。小さな企業が描く経営戦略のあり方。はたまた最近話題の「働き方改革」の施策を考えるヒントなど、示唆に富んだ本書ですが、そういった実用面を差し置いて通読しても楽しめる本書。全編通じ著者の強い「着ぐるみ」愛が溢れてます。 
 

 

                   日本経済新聞出版社 2019年3月25日 1版1刷

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