名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2019年06月

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【概要】

  
 ハーバード・ビジネス・スクール教授にして、企業のイノベーション研究の第一人者であるクレイトン・M・クリステンセン氏の手による新作。
 主として企業単位で語られることの多いイノベーションについて、国家という単位で着目をしています。

 世界には、かつての貧困国から輝かしい発展を遂げてきた米国や日本、韓国といったアジア諸国が存在する一方、ODA(政府開発援助)の支援を受けながら、いつまで経っても貧困から抜け出せない国も多数存在します。

 タイトルにあるパラドクスとは逆説、背理、逆理のこと。正しそうにみえる前提と妥当にみえる推論から受け入れがたい結論が得られることを指します。
 よかれと思って行われる貧困国への支援が功を成さないのは、その施策は真の繁栄につながるものではなく表層的、一時的なものに過ぎないから。ならば持続的な繁栄を促す施策とが何なのか。
 それはイノベーションへの適切な取り組みに他ならないというのが著者の主張です。
真に繁栄をもたらすイノベーションとは何か。どうすればそれは起こせるのか、そんなテーマに迫ったのが本書です。
 
【構成】

 4部11章で構成された本書。各章の冒頭には、章ごとのテーマが要約されています。
 第1部では繁栄を持続するためにイノベーションがいかに有効であるかを論じ、第2部では米国、日本、韓国、メキシコでの事例を紐解きます。第3部ではイノベーションを契機にガバナンスや社会インフラの整備、腐敗の減少が進む過程を考察しています。第4部ではイノベーション。時に市場創造型イノベーションについて5つの原則を紹介しながら全体を総括しています。

【所感】

 国としてのイノベーションがテーマであり、ビジネス書のジャンルからは外れるのでは?との疑問を抱かれるかもしれませんが、多くの場合イノベーションの担い手は企業となります。
 また
本書は、貧困問題に取り組む有識者や政策立案者のみならず新興国での事業に取り組もうとする投資家、イノベーター、起業家も読者に想定されており、十分読み応えのある内容となっています。

 さてイノベーションには、①持続型イノベーション、②効率化イノベーション、③市場創造型イノベーション3つの類型があるそうです。

 本書では特に③の市場創造型イノベーションを重視します。なぜなら市場創造型イノベーションは、①雇用の創出 ②利益の創出(税収増による公共サービスの充実) ③社会全体の文化を変容する という3点において極めて大きなインパクトを生み出すからです。

 そして市場創造型イノベーションを成功させるためには5つのポイントがあると説きます。①無消費をターゲットにしたビジネスモデルの構築 ②実現技術(従来より安価で高度なパフォーマンスを実現する技術)の活用 ③新しい価値ネットワークの構築 ④柔軟な戦略 ⑤経営陣の理解とサポート 
 貧困国での様々な市場創造型イノベーションの事例が紹介された本書ですが、特に成功事例として頻出するのが①無消費をターゲットにするビジネスモデル構築。
 アフリカでの携帯電話事業やインスタント麺事業など、おおよそ誰もが市場など存在しないと考えがちな地域でも、新たな市場が生まれてきたこと、そしてそのインパクトや波及効果の大きさに驚かされます。

 一般的に後進国では、安い人件費を背景に、海外のグローバル企業から効率化イノベーションが持ち込まれるケースが多いことかと思います。主としてメーカーが輸出を目し工場などを設置、一定の雇用を生み出します。国家を挙げてそういったグローバル企業の誘致をするケースも多いでしょうね。
 ただ総じて支払われる賃金は安く、市況の変化でこういったグローバル企業は、いとも簡単に生産拠点を移すため雇用は常に不安定です。しかし企業側から見ればリスク回避の点からも、この手法は常識的な判断といえます。

 反面、市場創造型イノベーションの場合、成果を得るには相当の時間を要します。また過去の経験則もあまり役には立たないのかもしれません。当然「無消費」をターゲットにするなら、どんな産業でもよいというわけでもありません。ある意味、非常識な選択ともいえます。
 いかに適切な「無消費」を見出し、信念をもって事業化に取り組むことが出来るのか。まずは個人の着想からかと思いますが、それには「よい質問をできる能力」が大切なのだと著者は説いています。
 「なぜこの方法を採るのか?」「物事を違うふうに考えてみたらどうなるか?」そんな単純の自問からでも人は有力な知見を得ることができるのだととも説いています。

 どの国にもすばらしい成長の機会があること。市場創造型イノベーションは単なるプロダクトやサービスを供給する以上の意義があること。既存のプロダクトやサービスを入手し易くする工夫だけでも新しい市場を創造できる可能性がある。そんな点を挙げ総括された本書。
 タイトル、400ページを超えるボリュームに、つい敬遠しがちですが、示唆に富んだ良書。是非一読いただきたいお薦めの1冊です。

                 フランク・フォーリー 2019年6月21日 第1刷発行

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【概要】

  
 京都は西院にある国産牛ステーキ丼専門店、佰食屋。https://www.100shokuya.com/
 営業時間は11時~14時30分。基本メニューは3種類で、値段は1,080円~1,188円。毎日100食限定で売り切ったら閉店。従業員の残業時間は0。なのに給料は百貨店並み。
 そんな常識破りの飲食店を経営するのは、株式会社minitts。代表取締役は二児の母でもある中村朱美さん。
 
 京都女性起業家賞、京都市「真のワーク・ライフバランス」推進企業賞、経済産業省ダイバーシティ経営企業100選選出と表彰歴も多数。メディアにもよく取り上げられるので、ご存知の方も多いかもしれませんね。
 
 なぜこのようにユニークなビジネスモデルが生まれたのか。本当にこんな常識やぶりの飲食店がやっていけるのか。多くの人が抱くそんな疑問も踏まえ、佰食屋経営の秘密を余すところなく明かしたのが本書です。

【構成】

 5章からなる本書。1章では佰食屋誕生の経緯を。2章では佰食屋経営の肝とも言える100食限定の「制約」が生んだメリットについて触れています。3章~4章では売上数値や原価率など、同社の実態を余すとこなく開示。最終章の5章では同社の新しい業態、佰食屋1/2の紹介と今後の展開について記し結ばれています。

【所感】

 同社誕生の発端は、中村さんの出産。二人目のお子さんが障害をもって生まれたこともあり、育児をしながら働くために考えたのは自営。ご主人の将来の夢であった飲食店経営を前倒しで実現すること、ご主人の手料理であったステーキどんぶりで勝負をすることを決意します。
 元手は500万円。100食どころか20食を売るのが精一杯の日々。それでも商品に妥協せず真摯に営業を続けた結果。ある方の書いた1本のブログからお客様が押し寄せるようになります。
 オープンして3ケ月。ついに100食完売を達成。経営も徐々に軌道の乗ったことから、思い切って夜の営業を完全に廃止してしまいます。その後、すき焼き、肉寿司専門のお店を各々1点ずつ構え、現在に至ります。
 
 100食という制約は、同社にこんなメリットをもらたしたそうです。

 ①早く帰れる       →たった一つの目標だからモチベーションが高まる。
 ②フードロスはほぼゼロ  →原価低減、労働時間短縮
 ③経営が究極に簡単になる →圧倒的な商品力の実現。広告宣伝費を原価に上乗せ
 ④どんな人も即戦力になる →やる気に溢れる人はいらない。いまいる従業員に合うのが大切
 ⑤売上至上主義からの解放 →やさしい働き方の実現

 仔細はぜひ本書をご参照いただきたいと思いますが、実に興味深い実態が記されています。
 おおよそどんなビジネスでも制約条件はあるもの。
その制約条件をどう乗り越えるかが、経営のノウハウと言えるのでしょうが、自ら売上に制約をかけるケースはまずはありませんよね。
 人件費や家賃、黙っていてもかかる固定費。ならば少しでも長い時間お店は明けていたい、売上を伸ばしたい、利益を出したい。誰でもそう考えるのが当たり前のところを中村さんは断固否定します。

 何のために商売をするのか。中村さんはお客様のことだけを大切にするのではなく、従業員を大切にすることだと語ります。「明るいうちに仕事が終わって帰れたら、幸せだよね」
 そんな幸せを従業員みなに享受してもらうために、売上に制約を設ける決断をしたそうです。
毎日100食という明確なゴールがあることがもたらすメリットは前掲した通りですが、普通の感覚であれば100食は必達の上、それをどれだけ越えれるかいう発想をしがちですが、そこをあえて目指さないところから組み立てられたこのビジネスモデルには、驚かざるを得ません。

 本当にそれで、経営を続けていけるのか、社員の給与は上げれるのか。そんな疑問にも包み隠さず回答が記されており、好感を覚えるとともに、中村さんのゆるぎない自信を垣間見た思いがしました。

 さてそんな同社が、今後展開を考えているのは佰食屋1/2という業態。なんとこれは50食限定のお店。しかも今後はそのFC展開を考えているそうです。ただ展開したいのは、商売のFCモデルではなく働き方のFCモデル。どんな広がりを見せるのか。今後が楽しみですね。

                      ライツ社 2019年6月17日 第1刷発行


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【概要】

  
 今や中高生でも知っていると言われる「サブスク」こと「サブスクリプション」。
 本来のsubscriptionには(雑誌の)「予約購読」「年間購読」という意味があるそうですが、そこから転じ、製品やサービスを一定期間利用することに対して代金を支払う方式のことを指すことが一般的となっています。

 「ネットフリックス」や「スポティファイ」、「アップルミュージック」や「アマゾンミュージック」といったデジタル系のサブスクリプションがよく知られていますが、最近はこういったデジタル系だけでなく、モノ系のサブスクリプションも増加傾向にあります。

「所有から利用へ」

 消費者のお金の使い方が変わる中、サブスクリプションを志向する企業も少なくありません。定額課金で安定的に収入の得られるビジネスモデルは非常に魅力的に映る反面、定額課金という表層面だけに着目して参入しても、うまくはいかないと著者は警告を鳴らします。

 そこで必要なのが本書タイトルでもある「つながり」。
「つながり」とはユーザーとの関係性であり、その強さがサブスクリプションの成功を左右します。そして問われるのは真に企業が「ユーザーに寄り添っているかどうか」。

 本書は、そんな「つながり」が不可欠な時代に、どうすれば収益を生み出すビジネスモデルがつくれるかを考察した1冊となっています。


【構成】
 6章で構成された本書。サブスクリプションを含む定額利用サービスを包括して「リカーリングモデル」と称しますが、前半3章では、リカーリングモデルが着目される理由やそのバリエーション。そして課金や利益確保の方法を解説しています。
 後半3章では「つながり」の強化や可視化。「つながり」の有効な切り口である「メンバーシップ」について触れています。また「でんかのヤマグチ」「セールスフォース・ドットコム」といった成功企業のビジネスモデルについて詳しく解説し「つながり」の育み方について言及しています。

所感】

 まずは秀逸なのが、本書裏表紙に描かれた「リカーリングマップ」。
 縦軸に継続の拘束力、横軸に利益回収の時間をとったチャートに「リピーター」「レーザーブレイド(剃刀の交換刃や、プリンターのトナー販売)」「リース」「フリーミアム」「サブスクリプション」といったビジネスモデルを配置をした図表ですが、本書の意図するところを端的に表すとともに、この図表を紐解きつつ、従来のビジネスモデルとサブスクリプションの違いを分かり易く解説しています。
 また従来の売り切り型モデルに限界を感じサブスクリプションを志向する企業に対し、収益性のいたずらな追及や、安値安定の罠に陥らないよう、必要利益の考え方や確保の方法にもアプローチをしています。
 一見安定的な収入確保の可能性に目を奪われがちですが、特にモノ型サブスクリプションでは先行的な投資が不可欠なこと、またユーザーの意思決定いかんで大きく収益が左右されることから、初期投資においては内部留保で行うことを推奨するなど慎重な取り組みを促します。

 その上で説かれるのが「つながり」の重要性。

 販売後のユーザー登録やアフターフォローを通じ、顧客と「つながり」があると認識している企業は少なくないようですが、そういった事後的な対応で築かれた「つながり」は脆弱なものです。
 強い「つながり」のためには顧客への積極的な対応が不可欠であり、絶えず顧客の生活をアップデートする提案をするためには徹底したユーザー目線が大切であること。そのためには「つながり」の強弱の可視化が重要であり、そのための「ユーザーの活動チェーン」というフレームワークも紹介されています。また「つながり」も一つの経営資源であり、いたずらな浪費ではすぐに枯渇をしてしまうため、増強をする手立てについても考察されています。

 全編通じ丁寧な解説で記されたサブスクリプションというビジネスモデルと、その前提となる「つながり」の重要性。非常に示唆に富んだ内容であり、業種を問わず今後のビジネスを考える上では必読の1冊と感じた本書。
 
 本書を読み、個人的に今後のビジネスの要諦は「先回り」ではないかと考えました。ユーザーの先回りをし、絶えずユーザーが解決したいジョブへ積極的にコミットしていくこと。
 それを現時点で最も効果的に実現できるのが、サブスクリプションというビジネスモデルであり、特に親和性の高いデジタル系の台頭が目立っているだけのこと。

 今後も様々なビジネスモデルが登場してくることは想像に難くありませんが、絶え間ない「先回り」発想で顧客へ対峙する姿勢と「つながり」を強化し続ける意識を持ち続けること。その重要性を改めて認識されてくれた1冊でした。

                       東洋経済新報社 2019年6月20日発行


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【概要】

  
 不正検査、バイトテロ、ワンオペ、宅配クライシス etc
 近年頻繁に目にするようになった企業の不祥事。日本企業の競争力の源泉であった現場は今疲弊し壊れ、時に企業の屋台骨まで揺るがす事態になっている・・・・・。そんな書き出しで始まる本書。

 どうすれば日本企業は再び現場力を取り戻せるのか?著者達はそのキーワードは業務改革にあると説きます。

 1980年代、OA(オフィスオートメーション)に代表される業務改革を1.0とするなら、1990年代以降のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)に代表される業務改革は2.0。そして今求められているのは3.0。
 その基軸となるのは「人間中心の業務改革」であり「創造性と生産性の両方を同時追及する」こと。そのコンセプトを著者たちはYTRと称します。YTRとは、Y=役に立つことを T=楽しく R=楽にやるという語呂合わせ。
 どうすれば会社で働く社員が、業務を創造的なものへと転換し、生み出す価値を高め、その結果として生産性や効率性を高めることが出来るのか。そんな考察に挑んだのが本書です。

【構成】

 5章で構成された本書。1章では業務革命3.0を推進する上で不可欠な5つのパラダイムシフト(発想転換)について解説し、2~4章では無印良品、変なホテル(H.I.S)など3社の事例を紹介しています。
 5章では業務革命3.0を成功に導く6つのポイントを紹介した後、YTRの象徴的な実践例として千葉県にある不動産管理会社を取り上げエピローグとしています。

【所感】

 著者たちが現場を重視する最大の理由として挙げているのは、今や経営の競争力の根幹は「戦略」から「実行力」にシフトしているから。
 デジタル化、グローバル化の進行した昨今、どんな優れた戦略であろうとそれはあっという間に模倣されてしまいます。戦略の斬新さではなく、いかにスピーディに実行するか、市場や顧客の変化にいかに柔軟に対応するかが重要であること。そして個の力に依存するのではなく組織全体が一丸となって取り組むことが不可欠と説きます。
 そして今、現場が疲弊し競争力を劣化させているのは、経営リーダーたちがパラダイムシフトに対応出来ていなからだとし、まずは今後の業務改革を考える上で不可欠な5つのポイントを列挙しています。

 ①創造性と生産性を同時追及すること 
 ②「ToDo」ではなく「ToBe」を考えること 
 ③社会最適を追及し、外部連携力を強化すること 
 ④デジタルはアナログを増幅する武器と心得ること 
 ⑤「N倍、N分の1レベル」の変革を目指すこと

 そして業務改革実行に際してはYTRのコンセプトに則り6つのポイントを解説しています。

 ①「お金を生む」より「時間を生む」を目指すこと →【楽に】の実践 
 ②「情報の共有」より「意識と感情の共有」を図ること →【楽しく】の実践 
 ③「会社のために」から「地域・社会のために」と →【役に立つ】の実践 
 ④経営と現場の「距離」を縮める →【役に立つ】の実践 
 ⑤「慎重に検討する」より「いろいろ」試してみる →【楽しく】の実践 
 ⑥客観から主観へ →【YTR発想の起点】 

 本書を読んで総じて言えることは、端的な表現で腹落ちし易いこと。具体的な実践例については細切れで紹介することなく、経営トップへのヒアリングという形で別章建としていることも分かり易さに一役買っているように思います。

 まずは現場の仕事を楽に楽しくしようという起点に立つこと。そのための着想や工夫は一過性のものでなく断続的に日々行われるべきものであること。その際には過去の慣習に囚われないこと。楽に楽しくするためにデジタル技術は積極的に利用すべきものであること。自身の仕事について広い視野や長期的な視野をもつことなどが大切なのでしょう。

 本書では収益や利益という表現はあまり出てきません。収益や利益はあくまで結果であって、それを目的化するのでなく、YTRという考え方の実践が結果として収益や利益に繋がるもの。現場を疲弊させず活性化させる取組こそ、現在の日本企業に必須であることを強く訴える内容の1冊でした。

                  日本経済新聞出版社 令和元年5月24日 1版1刷


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【概要】

  
 時折目にする高額な値段のついた青果物。あるものは産地、あるものは育成法にこだわることでブランド化に成功しています。
 本書タイトルを見られて「レンコンですら、高額化できるのか」そんな印象を抱いた反面、出来る出来ないは別にしても、「(ブランド化というのは)よく聞く話だよね~」との思いを持たれた方も少なくないのではないでしょうか。

 それでも本書を取り上げたのには理由があります。

 それは著者の経歴のユニークさ。民俗学・社会学の研究者でありながら、レンコン農家である家業にも従事するという二刀流。
 研究者として数多くの農家を訪ねインタビューを重ねた経験と、農産物の生産者・販売者として自らの実践を通じ記される日本の農業の限界と可能性。
 単なる「青果物のブランド化・高価格化」という内容にとどまらず、日本の農業の抱える構造的欠陥までも踏み込んだ興味深い一冊となっています。

【構成】

 6章から構成された本書。日本の農業への問題提起が記された1章。2~5章は「一本5,000円のレンコン」に着想した経緯と取組内容。終章の6章では、2~5章で記された私的体験を整理し分かり易くそのエッセンスをまとめた構成となっています。

【所感】

 試行錯誤しながら「一本5,000円のレンコン」販売に邁進する取組は当然面白いのですが、強く印象に残るのは、冒頭で語られる「生産性の向上モデル」と「やり甲斐搾取」への痛烈な批判。
 
 生産面積を拡大し、常に技術革新や経営革新を怠らずに効率化・合理化を図り、生産性を高めコストを下げることで利益を確保するというのが「生産性の向上モデル」ですが、そもそも農地の限られた日本ではこのモデルは限界があること。
 結果「農業は儲からない」という理由を誤魔化すため、まことしやかに囁かれる「自然の近くで仕事が出来る」「都市生活では希薄になった人間関係を取り戻せる」「野菜の育成は楽しい」との声。
 著者はこれを、経済的な不足を文化的・社会的充足で補填しようとする「やり甲斐搾取」だと喝破しています。

 象徴的な事例として語られるのが「農産物直売所」。元々は販売ルートに乗らない規格外の青果や家庭菜園の延長程度で出来るものを販売しちょっとした現金収入が得られればという着想だったものが、いつしか直売場が大型化し結局安価な青果が売れるという、低価格競争が加速してしまった実態。
 また安全・安心という観点から着目されてきた「有機野菜」も同じ末路を辿っていると著者は指摘をしています。

 この「生産性の向上モデル」と「やり甲斐搾取」というキーワードは、農業だけの問題ではありませんよね。こつこつと努力を惜しまない国民性ゆえ、細かな努力を重ねるも、その前提がもはや時代とそぐわなくなっているゆえ、頑張れば頑張れるほど苦しくなっている産業や事業の数々。
 はたまた伝統産業だから手仕事だからを理由に、儲からなくとも、あたかも社会的価値があるようにカモフラージュされる事例も多く散見されます。

 
 ならどうあるべきか。
 終章で著者なりの提言が挙げられていますので、是非ご参考いただきたいと思いますが、個人的には「自身の置かれた現状の前提を疑うこと」がもっとも大切ではないかと感じた次第です。
 なぜレンコンは一本5,000円で売れないのか?世間相場がそうだから?そんなに美味しいものではないから? そんな疑問から著者の取組も始まっています。
 著者が専業農家でない違う視点をもっていたゆえに
辿りつけた側面はあるかもしれませんが、前提を疑う姿勢と発想こそ業界や事業内容は異なれど、今我々に一番必要なものかもしれませんね。

                           新潮社 2019年4月20日発行

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