【概要】
人工知能(AI/Artificial Intelligence)
人間の知的能力をコンピューター上で実現する技術やソフトウェア、システムの総称を指します。
1958年米国の計算機科学者であり認知科学者であったジョン・マッカーシーによって命名されています。おおよそ50年前にその概念は生まれていますが、近年にわかに注目を集めはじめたのは、深層学習やビックデータの登場により、その活用範囲が飛躍的に拡大していることが背景にあります。
またその影響で我々の仕事の大半はAIにとって変わられるのではないかとの恐怖論、警戒論として取り上げられることも多く、関心をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
さて本書は、そんなAIを自社のビジネスに活用するための入門書。小さな会社でも始められると副題にありますように、AIの基礎知識から導入までのステップにつき簡潔にまとめられた1冊となっています。
【構成】
序章終章含め6章で構成された本書。序章及び1章で記されるのは、AIの概要と導入以前に自社でやるべき課題抽出の方法。2章ではAIが得意とする「5つの自動化」について解説し、3章では具体的な導入事例が7つ紹介されています。4章ではまず自身が体験するためのプログラム導入手順が紹介されています。そして終章では将来の活用方法につき記しまとめられています。
【所感】
冒頭でまず記されるのは、AIはソフトウェアやアプリの様にインストールをしたらすぐ使えるものではないし、決して万能ではないということ。
現時点でのAIは、大別して
「弱いAI(人間の判断そのものを持つ機械を作ろうとする立場)」
「弱いAI(人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする立場)」
または
「汎用型AI(入力に応じ様々な役割をこなし、人間と同様もしくはそれ以上に汎化能力をもつ)」
「特化型AI(何か一つの役割に特化した部分で技能を発揮する)」に分類出来ると説いています。
現時点で我々がビジネスの場で扱うのは主として「弱いAI」ないし「特化型AI」であり、その前提をしっかり理解することを促しています。
その上でAIの活用には、その技術面の理解だけでなく、仕事上の課題(イシュー)からAIの活用を考える両方の視点が重要と説きます。
本書が扱うのは主としてAI活用による「自動化」ですが、そのためにはどんな仕事上の課題(イシュー)を、どんな手順でどう解決し、どんな成果を得たいのかを明確に定義し、必要な情報をAIに学習させる必要があります。そのため下記の4つのステップが本書では紹介されています。
①表出化(イシュー設定のため、課題と思われる事項をできる限り暗黙知から形式知にする)
②要件化(イシューを解決するために必要な要件を漏れなく挙げる)
③データ化(各要件がデータとして存在するか、もしくは今後取得可能かを検討する)
④指標化(イシューを解決するために「データをどのように解釈するか」を規定する)
またAIが得意とする自動化には5つあると解説しています。
①分類(入力されたものが何なのか、どのような状態なのか過去データから判別する)
②回帰(目的となる数値を過去のデータから導出する)
③クラスタリング(与えらたデータの中で似たもの同士をグループに分ける)
④推論(与えられた問題について、あらかじめ溜め込まれている知識やデータから答えを導き出す)
⑤探索(指定されたキーワードや条件の合致したものを見つけ出す)
何を解決したいか(イシュー)を明確に定義し、解決に適切な自動化を選択すること。あるいは複数を組み合わせること、それこそがAI導入の要諦と言えるのかもしれませんね。
とは言ってもこれだけでは、なかなかイメージがつきませんので、本書では事例として畜産業での「発情期の牛を分類する」自動化、英会話学校での音声データから「英語の発音」を評価する自動化、水産業での水温データから「マグロの餌の適量」を自動化などが紹介されており、何がイシューなのか、どういった自動化技術を利用しているのかが併記されており、理解に一役買っています。
こういった解説に加え、人工知能実装プログラミング言語のパイソン(Python)、フレームワークや開発実行環境構築に必要なソフトウェアインストール方法と、簡易な実体験のやり方もフォローしており、入門書と呼ぶには盛りだくさんの内容となっています。
イシュー見極めの重要性が再三説かれ、安易なAI導入には警告を鳴らす本書ですが、それでも著者はなるべく早くAI活用の実践をし、そこから生じた新たなイシューに対処するといったサイクルを何度も回すことを推奨しています。
今後AIは低価格化が進み操作性など導入のハードルも大幅に下がることが予想されますが、その際問われるのは一つの自動化技術のみならず、複数技術の組み合わせ方の妙。
その巧拙が今後企業の競争力を決めることは明確であり、そのためには先行しノウハウを積むことが肝要なのかもしれません。では何から手をつけるべきか、そんな行動を始める一助となりそうな1冊でした。
朝日新聞出版 2019年7月30日 第1刷発行
2019年07月
THE ONE DEVICE iPhoneという奇跡の”生態系”はいかに誕生したか ブライアン・マーチャント(著)
【概要】
iPhone 言わずと知れたアップル製のスマートフォン。普段お使いの方も多いのではないでしょうか。
2007年に発表。本格的に市場投入されたのは2008年のiPhone3Gから。現在同社は販売台数の公開をやめていますが、2017年に発表された統計サイトStatistaの調査によれば販売開始から10年で12億台以上を販売。7380億ドルを売り上げたと推測されています。
ある識者によればiPhoneは資本主義誕生以来もっとも成功した製品ではないかと述べられていますし、またある識者は、人が一度手に入れたら二度と手放さない製品というのは皆無に等しく、衣服、メガネ、そして携帯端末ではないかとも述べています。
そんなiPhone。我々はそれがアップルの製品であること。巧みなプレゼン映像と相まって、あたかも故スティーブ・ジョブズが発明したかのような印象を植えつけられていますが、iPhoneは決して彼の発明によるものではありません。
ではiPhoneを発明したのは誰なのか、そしてiPhoneはどうやって出来ているのか。
徹底した秘密主義で知られるアップルゆえ、iPhoneに関して当事者のインタビューや情報提供などが得られないなか、著者の丹念な取材でiPhone誕生の真実に迫った一冊。iPhone、アップルファンならずとも興味を惹かれる内容となっています。
【構成】
章立てのある3部+1部で構成された本書。章立てのある3部は14章からなります。
それぞれの章では、iPhoneで使われている要素技術の出所から、構成素材であるアルミニウムやリチウムイオン電池のリチウム採掘場所。はたまた悪名高きiPhoneの組立工場、深圳のフォックスコンまで。要素技術の歴史を巡る縦の線(時間軸)と、世界各地を巡る横の線(エリア)で描かれるiPhoneの実態。章立てのない1部では、その集大成として2007年のiPhone誕生直前の様子を描き、締めくくられています。
【所感】
著者が使用する自らのiPhoneが破損したシーンから始まる本書。秘密主義のアップルゆえ、基本的に簡単には解体は出来ないiPhoneですが、大胆にも解体をしてみる著者。そしてその構成された主要なパーツにフォーカスしながら本書は展開されていきます。
ところでなぜ著者はこのような書を上梓したのでしょうか。
本書内で著者はある歴史家のこんな話を引用しています。「この情報化時代、この知識社会においても、発明に関する最も古い神話が広く信じられている」と。
その神話とは「たった一人の人間が地道な努力を果てしなく重ねたあげく、ついに歴史を変えるほどの大発明をなす」といったものです。iPhoneで言えば、それはスティーブ・ジョブズ。でも現実には、そんなことはあり得ませんよね。
iPhone発表時「本日、アップルが電話を再発明します」と語ったスティーブ・ジョブズですが、著者はアップルは何も発明はしていないと指摘しています。
iPhone含めスマートフォン操作の代名詞ともいえるマルチタッチ。搭載されたバッテリー、カメラ、CPU、指紋センサー、加速度センサーと言ったハード面に加え、音声認識やセキュリティといったソフト面まで。各要素技術の誕生の経緯などを丹念に解説しています。
何より驚くのは、iPhone誕生から15年も前にIBMが発表していた「サイモン」という携帯端末の存在。当時既にスマートフォンというコンセプトはほぼ完成していたことに驚きを感じ得ません。
思えば著者の意図は、本書を通じiPhone誕生に極めて重要な影響を与えつつも、あまり日の当たることのなかった技術や技術者たちを明らかにすることにあるのかもしれません。
またどんなに優れた技術であろうと世に出るタイミングを逸すれば、決して日の目を見ることなく埋没していってしまう残酷さ。しかしそれでもそういった技術の蓄積があってこそ、時に圧倒的なブレークスルーを生み出すことがあること。そしてiPhoneとはその典型的な事例であることを伝えたかったのかもしれません。
たしかにiPhoneを構成する要素技術には、アップル独自のものは乏しいのかもしれませんが、その要素技術をまとめ、極めて利用しやすい形にしたこと。また細かなディテールの一つ一つまで徹底的に配慮し、ある意味崇高さを感じるまでの製品化に成功している点で、アップルとスティーブ・ジョブズの功績に異論を唱える人はないかと思いますが。
冒頭でも記しましたが、直接関係者への取材が、ほぼ困難な中、丹念な取材でiPhone誕生のストーリーに迫った力作。アップル、スティーブ・ジョブズ関連本は多数出版されていますが、iPhoneという単体の製品のみに着目した稀有な本書。iPhone、アップルファンならずとも一読の価値ある内容、お薦めです。
個人的には個々の要素技術開発史に非常に関心を抱いた1冊でした。
ダイヤモンド社 2019年7月10日 第1刷発行
NOKIA 復活の軌跡 リスト・シラスマ(著)
【概要】
かつて世界最大の携帯電話端末メーカーであったNOKIA。
フィンランドに本社を置き、「北欧の巨人」「フィンランドの奇跡」とまで称賛されていた同社。
実際に使用をしたことはなくとも、名前くらいは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
1998年から2011年までの長きに渡り、携帯電話端末の市場占有率及び販売台数で世界一を維持をしていました。
しかし2012年以降、スマートフォン戦略への失敗で、業績は大きく低迷。大規模なレイオフを余儀なくされ、後には携帯電話端末事業を売却してしまいます。
誰もが同社の破綻は避けられないと思う中、通信インフラ設備の製造開発、特許ライセンスを主体とするビジネスモデルへ転換して危機を脱し、今では世界トップスリーの通信インフラ事業者として完全復活をしています。
本書は、同社会長リスト・シラスマ氏の手による1冊。2008年取締役就任、2012年には会長就任。2013年9月から半年間は暫定CEOも務め、同社改革の立役者となったシラスマ氏が、自身の改革を振り返った1冊となっています。
【構成】
大きく「凋落」と「再起」という二部で構成された本書。
携帯電話の雄であった同社がスマートフォン戦略で躓き、マイクロソフトとの提携に賭す判断を下すあたりまでを綴った一部。シラスマ氏が会長に就任。携帯端末事業の売却を含め、大きくビジネスモデルを転換してくいく様子が描かれた二部。概ね1988年から2016年頃までが18章に分かれ時系列に記されています。
各章末ごとにシラスマ氏の体験を教訓として整理したまとめがついており、読み易い体裁となっています。
【所感】
ヘルシンキ工科大学時代に起業し上場までこぎつけた経験をもつ著者。
その経験を機にNOKIAの取締役に就任。世界一の携帯電話会社の経営に参画。グローバル企業の取締役会で、大いなる学びや経験を期待するも、どうも様子が違います。
官僚化、硬直化し、何ら活発な議論が行われない取締役会。それどころか現場からの情報が上がらず、次世代技術開発の進捗遅れすら共有されていない始末。結果スマートフォンの開発販売で先行しながらも、iPhoneやアンドロイド端末の台頭を許し、徐々にシェアを落とします。
当時のNOKIAのCEOは、スティーブ・ジョブズから「弊社はプラットフォーム企業であり、あなたがたは競争相手ではない」とまで言い放たれます。
携帯電話事業で圧倒的な成功を収めた同社。しかし携帯端末はハードウェアからOS(ソフトウェア)へその重要性が移行。また端末のみならずそれを含めたプラットフォームやエコシステムの構築が成否の鍵を握るようになり、同社は完全に立ち遅れます。
同社凋落の端緒は、思えば同社の取締役会に見られたのかもしれません。シラスマ氏は自身の体験も踏まえ、意思決定の場であるべきチーム運営として ①正しいことを議論しているか? ②正しいテーマを正しく議論しているか? ③リーダーの意見に忌憚なく異を唱えられるか? 3点の重要性を挙げています。
さて巻き返しを図るため、マイクロソフトと提携しウィンドウズフォンに注力を図った同社ですが、マイクロソフト自らがサーフェイスという端末機器の開発販売に乗り出したことを機に微妙な関係となり、結局携帯端末事業そのものをマイクロソフトへ売却してしまいます。
同時期に、独シーメンスとの合弁会社を100%子会社化。またフランスのALUという企業買収を図り、無線通信インフラ市場でのシェア拡大に向け大きく方向転換を図っていきます。
今後通信ネットワークは5G世代に入ることから、大幅な設備投資が予測されることや、ALUは子会社にベル研究所をもつことから、その知的財産の活用を図ることで、新しい成長の道筋を描こうとしています。
圧倒的な成功を収めながらも、いつしか時流を外し低迷。NOKIAの姿に日本の家電メーカーの姿を重ねてみた方も多いかもしれません。はたして何故にNOKIAは再生を図ることが出来たのでしょうか。
シラスマ氏は自身が会長になるにあたり「起業家的リーダーシップ」の哲学を応用したこと。そしてその根幹には「パラノイア楽観主義」があることを綴っています。
「起業家的リーダーシップ」とは、自らが当事者意識をもって行動することであり、「パラノイア楽観主義」とは、最悪の状況を可能な限りいくつも予見することが、結果として楽観的な余裕を生むことを指します。
また疑問を感じていた取締役会では、八つの黄金律を定め適切な意志決定が出来る仕組みへと変革していきます。その前提となるのは信頼関係の構築。信頼は透明性と平等から構築されるとし、データの共有や分析、活発な議論を推奨することなどを通じ、チーム精神を養うことに尽力をしていきます。
企業の再生物語といえば、ややもすれば経営者にスポットがあたり、その辣腕ぶりに目がいきがちですが、本書ではあまりそういった印象は受けません。
NOKIA社で起こった事実を端的に記し、シラスマ氏の考察を加え読者へ教訓としてのフィードバックを意図した構成は非常に好感がもてるものでした。
企業改革のケーススタディブックとしても最適な本書。400ページを超えるボリュームですがお薦めの1冊です。
早川書房 2019年7月15日 初版発行
NETFLIX コンテンツ帝国の野望 ジーナ・キーティング(著)
【概要】
NETFLIX
言わずと知れた米国のオンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信事業会社です。
創業は1997年。米国の主要なIT企業群 FAANG(Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Google)の一つに数えられ、年間売上は157億ドル(2018年)、契約者数は世界で1億2500万人とも言われています。
日本では2015年9月からストリーミングサービスのみを開始。配信される作品には、日本オリジナルの作品も制作されるようになってきています。
本書はそんなNETFLIX社について1997年の創業から、おおよそ2012年頃までを追った1冊。原書の発売は2012年。日本語版発売まで7年も経過しています。IT業界を扱っているのに、さすがにそれでは古すぎるのではと思われるかもしれません。
そのあたりはさすがに訳者、出版社も考慮しており、本書は日本で初めてNETFLIXの創業期にフォーカスしたドキュメンタリーであり、タイムリーさに欠ける部分については、いささかも本書の価値を貶めるものではないとしています。
それでも原作者による日本語版特別寄稿が冒頭に寄せられており、2012年から概ね2018年頃までの同社の変遷と躍進ぶりが補足された体裁となっています。
【構成】
特別寄稿、エピローグ、プロローグを除き15章で構成された本書。1997年の創業から1年につき1章のペースで時系列で記されています。
ふるっているのは、各章のタイトル。「夕陽のガンマン」「宇宙戦争」「お熱いのがお好き」「大脱走」「ニュー・シネマ・パラダイス」など、往年の映画作品名が、そのままに使われています。
【所感】
本書自体のエピソードは2012年頃までのもので、同社が祖業であるDVDレンタル事業をスピンアウトさせ子会社化するあたりで終わっています。創業、IPO(株式公開)、最大のライバルと目されていたブロックバスター(ビデオレンタル最大手)の破綻などは含まれるものの、同社の更なる躍進を予感させるあたりで完結しています。
訳者も指摘をしていますが、NETFLIX社は学生ベンチャーではなく、ビジネスで相応の成果を上げてきた中年男性二人(ヘイスティングス/ランドルフ)が創業をした企業です。
レンタルビデオの延滞金の高さに腹を立てたヘイスティングスが、当時出始めたDVDを郵便でレンタルすることを思いついたことが創業のきっかけとありますが、そんな自らのビジネスで世界を変えたいとか、ありあまる情熱が創業に駆り立てたといった、起業家物語にありがちな熱さは本書を読んでもさほど感じません。
創業者自身にビジネス経験があるため、立上げ時期に必要な資金調達や人材確保なども比較的スムーズに進んだ印象を受けます。確かに創業から大幅な赤字が続き、資金繰り懸念もあったでしょうが、さほど深刻な事態としては受け止められていません。
本書全編を読み感じるのは、優れたビジネスモデルを発案しても、やはり成功には運とタイミングが欠かせないということ。
同社の創業時に出始めたDVDというメディア規格が普及しなければ、郵送によるレンタル事業はコスト的に合わなかっただろうし、実店舗展開によるVHSビデオレンタルで成功を収めたブロックバスターの失策が無ければNETFLIX社の存続がおぼつかなったことは想像に難くありません。
またネット環境の整備と普及、リーマンショックによる消費縮小と消費者の内向き志向在宅志向の増加も見逃せない要素ではあります。
そしてもう一つ重要なことはトップの冷徹さでしょうか。
IPO直前に、ヘイスティングスは「ウォール街(投資銀行)の投資意欲を醸成するには、①人員をカットできる ②現金を無駄につかわない ③他社の攻勢を跳ね返せるほど身軽でスピーディーであることを証明する必要がある。」とし、4割もの人員をバッサリと解雇します。
家族的チームワークを醸成し創業時を支えたもう一人の創業者ランドルフは徐々に経営権を奪われ、IPO後ほどなく同社を離れます。
米国の投資家の間では「馬でなく、騎手に賭けろ」との通説があるそうで、ビジネスモデルのユニークさより、誰がその企業のCEOなのかが資金調達には極めて重要とのこと。
冷徹な判断が下せる強さも経営者の需要な資質であることが窺いしれます。また厳しいながらも、そういった人員の流動性の高さが次の起業家を育む側面も否定はできないとの印象も抱きました。
丹念な取材を重ね、NETFLIX社サイドのみならず、ブロックバスターサイドにもフォーカスし双方の目線から記された本書ですが、先ほど記したように、さほど熱さを感じないと思ったのは、創業者でかつ現在のCEOであるヘイスティングスへのインタビューや現役社員への取材は全くされていない(出来ない)ことにあるのかもしれません。
ヘイスティングスの冷徹さ、揺るがない信念の本質に迫っていれば、本書の価値を更に高めたかもしれません。ただその分、より客観的に記されているとも言えるのかもしれませんが。
新潮社 2019.6.25