名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2019年10月

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【概要】

  ビジネス書の範疇からは外れるかもしれませんが、今週はこんな一冊をご紹介させていただきます。

「やねだん」とは鹿児島県大隅半島のほぼ真ん中。鹿屋市串良町にある小さな集落です。正式名称は「柳谷」住民は300人ほど。

 ご多分に漏れず、過疎高齢化でさびれゆく地域でしたが、平成8年を機に大きく変わり始め、いまや地域再生、地域創生のお手本として全国からの見学者が後を絶たないそうです。

 変革のきっかけとなったのが、集落のリーダーともいえる自治公民館長の交代。それまでは65歳前後の現役を退いた世代が形だけの選挙を行い、持ち回りで務めていた役職に50代の豊重哲郎さんが選ばれたことから、同集落は変わり始めます。

 集落再生のためには、「自主財源」と「人の和」が不可欠と常々考えていた豊重さん。その一途で真摯な思いと行動が、集落民を動かしていきます。
 本書はそんな集落変遷の様子を長きに渡り取材した鹿児島県の民間放送、南日本放送のアナウンサー(当時)山縣由美子さんの手による一冊。

「行政や補助金に頼っていては感動がありません。自力で汗を流すから感動がある。住民は命令や理屈では動きません。感動し仲間意識を感じた時、住民は喜んで動いてくれるんです。」
 豊重さんの講演で聞いたそんな言葉が、著者の心を捉えたのが発端だったそうです。

【所感】

 やねだん出身。若い頃は東京で信用金庫職員として働いていた豊重さん。しかし高卒ゆえ学歴の壁に失望し帰郷。うなぎの養殖など自身でビジネスを手がけながら、地元の高校のバレー部の監督をしていたそうです。弱小高校を県大会で優勝するまで育て上げた手腕や、人柄を見込まれ集落のリーダー自治公民館長に就任したところから本書は始まります。

 地域再生には「自主財源」と「人の和」が不可欠と考えていた豊重さんがまず着手したのは、公園整備。集落の中心地にありながら、そこにいた企業が撤退したことから荒れ地となっていた野原の整備を思いついたのです。
 整備財源などありませんから、集落民全員の強力が必要。そこで整備に必要な作業を分担し、集落民全員に役割を与えます。そして命令はせず、自身が率先して働いたそうです。そんな姿をみた集落民の協力を得て、公園はおよそ1年で完成。

 少しずつ変わり始めた集落民の意識や様子を見て手ごたえを感じた豊重さん。
 続いて自主財源確保のために集落を挙げて、さつまいも栽培そして芋焼酎製造へ乗り出します。他にも土着菌を研究して米ぬかにまぜた独自の商品を生み出したり、放送番組として取り上げられたことをきっかけに、韓国に「やねだん」の名を冠した居酒屋が誕生。逆に韓国に近い気候を生かしたとうがらし栽培など、どんどん自主財源も
増えていきます。
 集落民のがんばりに報いるため、自主財源から全集落民に10,000円をボーナスとして支給。

 そんな施策の数々が同集落を活性化しています。ただそうは言ってももともと少子高齢化の地域。人口としては、微減をしているそうです。
 圏外からアーティスト移住を促したこともありますが、一方で「やねだん」がメディアでとりあげられるようになったことから
、Uターン組も徐々に増加するという嬉しい変化もあるようです。

 300人程度の小さな集落の物語ですが、これ企業にも通じる話かもしれません。「自主財源」とは独自の商品やサービスで付加価値をあげること。「人の和」とはコミュニケーション。そして豊重さんのリーダーシップと集落民の方の参画の意識の醸成。

「やねだん」の評判を聞きつけ全国での講演も多い豊重さん。どの地域でも繰り返し言われることは「うちは豊重さんの様なリーダーがいない。そんな資源や環境がない。」などの言葉。彼はそれを悲しいと言います。学歴のない自分でも一生懸命動くうちに知恵が出てきたのだから、誰でも出来る筈。その一助になればと思い、講演は極力断らないそうです。

「奇跡」とはどこからか降ってくるのではなく、みなが夢中になって取り組んでいるうちに気づけば起こっているもの。当事者は誰もそれを奇跡とは思っていない。そんな印象を抱いた1冊でした。「やねだん」是非一度行ってみたいですね。


                       羽島書店 2019年10月10日 初版

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【概要】

  昨年末、東京六本木にオープンした書店、文喫。入場料1,500円が必要なことで大きな話題となりました。https://bunkitsu.jp/
 そして今やスープ専門店として全国で広く認知されるようになったスープストックトーキョー。https://www.soup-stock-tokyo.com/
 個性的でユニークな業態の開発や展開、プロデュースを行う株式会社スマイルズ。
 本書は同社の取締役でありクリエイティブ本部長を務める野崎亙さんの手による一冊。
 
 事業展開には「市場調査」も「値引」も「広告」もいらない。「大切にしているのは生活者としての自身の目線である。」と語る同氏。
ならば同社は、どのような手法で新たな業態を生み出しているのか。そんなメソッドを公開したのが本書です。
 同社が業態開発を行う際に大切しているのは ①課題設定が肝 ②「N=1」を基点とした発想 ③「関係性のブランディング」による市場の分析 の3点。
本書では、この3点を基軸に、具体的な事例を交えつつ同社の業態開発の手法が明かされています。

【構成】

 全7章で構成された本書。1章では同社の考えるマーケティングのあり方について解説した後、2章では同社の祖業であるスープストックトーキョーの誕生経緯を紹介。3~6章では冒頭で挙げた同社が大切にする3つの手法を解説した後、ケーススタディとして話題の「文喫」誕生の経緯を明かし、締めくくられています。

【所感】

 第2章で綴られるスープストックトーキョーという業態誕生の経緯。カップやスプーンといった細部へのこだわり。ライスを用意したりカレーやビールを提供する理由。まずは同社の代名詞とも言えるスープストックトーキョーの事例から、同社が大切にしていること。本書で伝えたいことが端的に語られます。
 同業態誕生の有名なエピソードとして語られるのは「1人の女性がスープをすすってほっと一息つくシーン」を思い描いたこと。女性受けしそうなスープを提供したらうけるのではないか、そんなマーケティング的な発想で生まれたわけではなく、一人の女性をとりまくシーンや状況をイメージすることから全ては始まったそうです。

 そうこれこそ同社が大切にしている3点の中で、もっとも重要視されていると思われる「N=1」を基点とした発想。「N=1」とはアンケート調査におけるサンプル数が1つということ。一般的にはサンプル数が多ければ多いほど、その企画の優位性が高いと考えますが、同社はそう考えません。

 知らない100人や1000人を理解するよりも、まずは自分自身や身近な誰かのことを理解することは容易いはず。そんな「N=1」にフォーカスし、自身や身近な人の経験や感情の起伏、一見非合理に思える行動を引き起こす要因、そんなことを精緻に考えることが、これまで見えなかった「問題」や「課題」「解決策」を探し出すことにつながると記しています。
 
 そんな着想をどのように膨らませていくのか。いくつかのフレームワークを紹介しつつ、その手順が紹介されています。また最近のビジネス書で時々見られるのですが、本書の要所要所はラインマーカーが記されており、ざっと本書の内容を押さえる一助となっています。

 一読し共感を得る点も非常に多いのですが、果たしてどれほどの企業や組織が、この「N=1」という着想を許容できるのか。それには非常に勇気が必要ですよね。そんな勇気ある決断が出来る企業や組織が増えること。それこそが日本企業が再び輝きを取り戻す鍵なのかもしれません。

                 日経BP 2019年10月15日 第1版第1刷発行


 

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【概要】

「ほどよい量をつくる」というタイトルを聞いてみなさまはどんな印象を抱かれるでしょうか。
 数回前に本ブログでも紹介させていただいた京都にある佰食屋http://blog.livedoor.jp/kawazuisamu/archives/53509429.html  など、最近いたずらに売上や利益を追わず、身の丈にあったビジネスを志向する経営者の方や企業の存在がクローズアップされることが少なくありません。

 必要なものを必要なだけ、やり甲斐を伴う仕事として世に送り出し、買い手に届ける。本書は、そんなビジネスを志向する経営者の方や企業を追った一冊。

 飲食店、パン屋、縫製工場、染色工場、印刷工場、花火製造、農家、書店  etc
様々な業種の方が登場をします。すでにメディアで大きく取り上げられているものもありますが、さほど知られていない事例も丹念に取材されており、全国で生まれつつある新たなビジネスの潮流について紹介、解説されています。

【構成】

 大きく「つくり手」「お客さん」「商品」という3テーマを掲げ、更にそれを3章ずつに分け、計9章で構成された本書。各章の冒頭で章ごとの前提を記した後、具体的な事例が紹介されています。
 単に量にだけ着目しているのではなく、作り方、売り方、届け方といった多角的な視点からもアプローチをしています。

【所感】

 少子高齢化の進展で、市場の縮小や需要の減少は避けられない日本。
これまでの様な右肩上がりの成長は望むべくもなく、また大量生産、大量消費、大量廃棄といったこれまでのビジネス慣習に疑問を持つ方も少なくないのではないでしょうか。

 本当に必要とされている量だけを、自信をもって、本当に必要とする方に届けたい。
そんな思いを抱きながらも、これまでの商習慣を変え、量や数を追わない生産や販売にシフトすることはとても勇気がいることです。

 本書では、勇気をもってそんな取組をした事例が多数紹介されています。
業種によって差異はありますが、共通するのは、分業制など従来の商慣習を改め、消費者との距離を縮める(流通経路を短くする)工夫。そして適正な価格設定を行い、その価格をきちんと理解してもらう努力。
 ネット販売の普及、SNSの普及による告知や認知方法の変化で、従来の商流も大きく変わろうとしています。
 大卸、卸、小売店といった流通経路を省略することで、川上にあたる生産、製造業者の利幅が向上し、これが数量を追わずともやっていける原資となること。
 不特定多数の消費者を相手にするのではなく、ダイレクトな情報発信で、自社の考えや生産物に共感してくれる消費者に直接つながっていくこと。

 そんなことが、適量でビジネスを継続出来る大きな後押しとなっていることを感じました。
 今後の日本は大きく経済成長は望めず、成長よりも成熟が求めらている昨今、本書で取り上げられているような適量ビジネスが主流になっていくことは、経営資源の乏しい中小企業にとっては特に望ましいように感じます。
 半面、自ら考えることをせず、市場環境を言い訳にしたり、メーカーや卸、小売店に依存した体質から脱却しない限り、将来は厳しい。そんな読後感を抱いた一冊でした。

 丹念な取材と読み易い構成と編集。
これからのビジネスはどうあるべきかの示唆に富んだ内容。お薦めです。
 
                      インプレス 2019年9月21日 初版発行

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【概要】

 インターネットや人工知能に代表される第四次産業革命。大規模なパラダイムシフトが起こる中、社会的使命を終えた企業は規模の大小を問わず消えていってしまう。一方社会的責任を負った企業は、例え規模は小さくても世界で活躍できる可能性がある。
 これからの産業界では、むしろ小回りのきく中小企業のほうが有利になる可能性が高い・・・・・。そんな書き出しで始まる本書。

 これから活躍できる中小企業には5つの指針が必要だと著者は説きます。
 ①生産性の再検討 ②イノベーションへの関与 ③情報の輪への加入 ④大企業妄信からの脱却 ⑤世界への飛翔

 特に重要視すべきは「情報の輪」への加入。そして大半の中小企業はこの「情報の輪」への加入がほとんど出来ていないと説きます。

 その理由を著者は地勢図になぞらえ、中小企業は、その住む地域がMSDS山脈によって囲まれてしまっているからだと説きます。MSDS山脈とは M:モラルハザード(さぼり癖) S:サンクション(いじめ) D:ディストーション(歪み) S:サスピション(疑い)の頭文字をとったもの。
 
 本書は、そんなMSDS山脈を乗り越え、世界へ飛び出そうとする中小企業のための指南書。リサーチ会社を経て、日本の中小企業の海外事業展開に特化したコンサルティング事務所を主宰する著者の手によるものです。

【構成】

 序章、終章含め全7章からなる本書。
成功企業の事例を紐解きながら、著者の提唱する5つの指針の重要性や、MSDS山脈がもたらす影響について解説をしながら、いかに「情報の輪」へ加入していくのか、そしていかにその輪を広げていくのかについて考察をしています。

【所感】

 本書におけるキーワードは「情報の輪」
「情報の輪」に加わるためには、①エンドユーザーとつながり情報に直接アクセスする ②オーソリティ(権威者)の力を借りてアクセスする ③「海外」の力を利用してブーメラン効果を得る などの施策が考えられるそうですが、成功企業に共通するのは「勇気」と「粘り強さ」そして「負けん気」をもって積極果敢に攻め込んでいっていること。

 また単に「輪」の中に加わるだけでなく、「輪」を広げる努力も欠かせないと説きます。
そのために必要なことは、イノベーションを通じた生産性の向上であり、自社が提供出来る価値の見極めと陳腐化させない工夫。また正当な評価をしてくれる取引先とつきあうことやニッチな市場であっても自社が業界標準となるような働きかけの重要性が記されています。

 特定の顧客に依存した下請け状況から脱したい。自社独自の製品やサービスで高付加価値を得たい。それを願わない中小企業は皆無ではないでしょうか。

 その一方、人口減少、市場の縮小、需要の減少と今後の日本経済に明るい要素は乏しく、このまま日本国内に軸足を置いていては、これまでのしがらみからの脱却は難しいのも事実。
 今こそこの状況を真摯に受け止め、世界に打って出る気概をもたなければ、大半の日本企業は座して死を待つだけだと著者は警告を鳴らします。

 ただ世界に打って出るというのは、何も自社が直接海外に出向くのみならず、例えば知財の分野では海外企業を日本に引き込み連携していくクロスボーダー・アライアンスの様な方策も考えられるのではないかとの指摘もしています。
 
 そうは言われても、具体的にどのように進めればいいのか分からないという方に向けて、本書終章では中小企業が海外事業を考える中で比較的現実的な、このクロスボーダー・アライアンスの進め方を解説しています。まずは本編の前にここを読み、その後前提となる前章を順に読んでみるのも、本補に対峙するには良いかもしれません。


                  日本経済新聞出版社 2019年9月18日 1版1刷

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