名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2020年02月

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【概要】

 QRコード。正方形内にある碁盤の様な格子上に白と黒の模様を配置したもので、様々な媒体などに掲載されたこのコードを、スマホで読み取った経験のある方も少なくないのではないでしょうか。
 実はこのQRコードを発明したのは、日本の自動車部品メーカーであるデンソー。1994年に誕生しています。
 元々同社が開発し、トヨタ生産方式の「かんばん」を支えてきたNDコードを改良発展させたものです。
 新たに開発するに際し、同コードが広く普及することを目し、特許を公開してきたことから、自動車部品のサプライヤー以外にもその利用が進み、また日本国内のみならず中国や米国、ヨーロッパでも広く普及し、今や国際標準となっています。
 前身のNDコード誕生から数えること50年。なぜ日本の自動車部品メーカーが開発した規格が国際標準となることが出来たのか。あまり知られることのなかったQRコード誕生と普及発展の経緯を丹念に追ったのが本書です。

【構成】

 終章含め5章で構成された本書。QRコードの前身となったNDコード誕生にはじまり、開発、標準化、進化という章立てで時系列に記したのち、経営という観点から総括をしています。

【所感】
 
 QRコードという革新的なイノベーションを扱った本書ですが、「一人の天才の発想が世界を変える技術開発につながった」というような華々しいストーリーが綴られているわけではありません。
 
 1970年代、確立されつつあったトヨタ生産方式の「かんばん」導入が、各サプライヤー向けに行われ始めます。デンソーも当然その1社。しかしながらジャストインタイムゆえ日に何度も納品を行う必要があったことから膨大に触れあがったサプライヤー側の伝票作成などの事務処理負担。

 これを軽減するため「かんばん」をデジタル化出来ないか。そんなデンソー側の技術者の思いと黎明期にあった小型コンピューター活用方法の模索が相まって物語は動き始めます。

 QRコード開発が始まったのは1992年。もたせるべき情報量が増えすぎ、もはや限界に達していたNDコード(バーコード)に変わるものとして開発が始まります。
 ①200桁以上の情報を「かんばん」に表示できること ②「かんばん」を箱につけたままワンタッチで読み取れること ③コンベヤ上を流れる移動中に読めること ④油などの汚れに強いこと ⑤モノ(生産物)そのものに印刷出来て読み取れること ⑥取引上の伝票に使用できるほど多くの情報が入れられること などの要件を満たすことを目標とし、わずか4名の陣容でスタート。

 QRコードの肝であるファインダ゙パターンを見つけ出すのに、国内外数千の媒体からあらゆる活字を解析するなど苦労を重ねます。「自分たちが開発するコードを全世界で使ってほしい。BtoB企業ゆえ、なかなか世間に知られることのないデンソーの名前を世界に知らしめたい。」開発者たちはそんな思いを抱き、わずか2年で完成にこぎつけます。

 以降は、世界標準化に向け、国内自動車工業会、全米自動車産業協会での採用を経て、ISO規格での採用へ至る様子。QRコードが一般に広く認知されるきっかけとなった、コード読み取り機能を搭載した携帯電話誕生の経緯などが綴られます。

 中心となった技術者たちは紹介されるものの、概ね淡々と記されているのは経営学者の方が執筆されたからでしょうか。
 それでもデンソーという自動車部品メーカーでは亜流ともいえる部署から革新的な技術が生まれた意味。現場という最前線にこそ課題解決のきっかけがあること。さほど著名でない大卒、工業高校卒の社員が主たる開発を担ったこと。イノベーションが生まれるために経営陣がとるべき姿勢など、経営という観点から端的に総括している点は、個人的な過度な思いを挟まないゆえ、この日本発の稀有なイノベーションの史実をきちんと伝えているように感じました。 

                       東洋経済新報社 2020年2月27日発行

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【概要】

 アルゴリズム フェアネスという聞きなれないタイトルのついた本書。どんな意味があるのでしょうか。

 ちなみにアルゴリズムとは、「問題を解決するための方法や手順のこと。問題解決の手順を一般化するもので、コンピュータープログラムを作成する基礎になるもの」という意味があるそうです。一方フェアネスには、「公平なこと。公正さ」といった意味があります。

 我々の日常でもっとも身近なアルゴリズムと言えば、グーグル検索やアマゾンでの買い物ではないでしょうか。インターネットの普及とこれらプラットフォーマーの台頭で、我々はいとも簡単に調べたいものや買いたいものにアクセスをすることが出来ます。
 これを可能にしているのが各プラットフォーマーの提供するアルゴリズムです。しかし便利さの反面、個人の検索履歴などを元に提示される広告などを見るにつけ、自身の個人情報がこれらの企業に利用されているという不信感、警戒感を覚える人も少なくないのではないでしょうか。

 様々な情報への容易なアクセスは、我々に多様な選択肢を提供してくれます。
 つまり我々はかつてないほどの自由さを享受できる時代に生きているとも言えます。しかしそれは何らかのアルゴリズムによって操作をされた自由かもしれません。
 このような時代にあって我々はどんなスタンスでこれらのプラットフォーマーに対峙していけばよいのでしょうか。気鋭のIT批評家として知られる尾原和啓氏が、最新の事例を交えつつそんなテーマに迫ったのが本書です。

【構成】

 序章を含め全6章で構成された本書。序章でアルゴリズム フェアネスの定義をした後、第1章では最新のアルゴリズムが我々の生活に及ぼしている影響について記しています。第2章ではGAFAに代表されるプラットフォーマーの動向、続く第3章では、米欧中に加えエストニアにおけるプラットフォーマーやネット社会への対応姿勢を紹介しています。第4章はブロックチェーン技術の可能性にまるまる1章を充て、終章の第5章では改めてインターネット普及の過程を振り返りつつ、デジタル社会に生きる我々がとるべき姿勢を提言し締めくくられています。

【所感】

 全体の論調としては、プラットフォーマーの台頭やAI技術の進展はかつてないほどの自由を我々に与えてくれており、その未来は明るいというもの。
 本書内では一例として「個人スコア」活用や「グラブ」という配車アプリなどのサービス活用をすることで生活の質が高まる事例などを紹介しています。

 利便性の反面、我々が差し出す個人情報を悪用乱用されるのではないかとの危惧に対しては、基本的にどのプラットフォーマーも個人情報を集め解析し、単に収益に結びつければよいとの意識は低く、常にユーザーの利便性を高めることを目的としているのだと著者は説きます。 
 その前提として、これらのプラットフォーマーに在籍する優秀な技術者は、既にかなり高額の報酬を得ており、単なる金銭が彼らにモチベーションを与えているわけではないこと。またグーグル行動指針として掲げる「邪悪になるな」のようにプラットフォーマー自体が自らの行動を戒めることを課しているケースも多いこと。その大半が米国籍であるプラットフォーマーは、自由と独立を求める米国の国民性を色濃く反映しそれに反する行為に対し自浄作用が働きやすい点などを掲げています。

 とはいえ手放しで自由の享受を礼賛をしているわけではありません。上記の様な前提があるにせよ、ややもすれば国家以上に絶大な権力をもちつつあるプラットフォーマーが暴走をしない保証はどこにもありません。そこで我々がもつべきは「フェアネス」を求め続ける姿勢。我々は個人情報を提供し利便性を得ると同時に、自らそれを守る義務と権利があると著者は説きます。

 そのためには絶えず監視をする意識をもつこと。それには二つの方法があります。
一つは直接ないし、国家やメディアを介し間接的に疑問や不満の声を挙げること。個々の声は小さくともSNSなどの台頭で大きな力となる例は昨今多く見られます。
 そしてもう一つは、そのプラットフォームから離反してしまうこと。
巨大プラットフォーマーといえど、結局はユーザー数がモノを言います。大量のユーザー離反が起これば当然その存続は脅かされます。そのため我々は複数のプラットフォームを利用し、常に代替が効く備えをしておくこと。
 
 つまりこういった時代にあって、自らの自由を守るというのは、こういったプラットフォーマーから完全に距離を置き、依存をしないという選択をするのではなく、逆に複数の依存先をもつという意識に切り替えていくこと。実はこれは我々の日常生活についても同じことが言えますよね。複数の依存先をもつ。すなわち多くの逃げ場があるほど、我々の自由さと一定の生活基盤は担保されていく。

 プラットフォーマーの台頭という新たな時代を生きようとも、我々が大切にすべき行動の本質は変わらない。そんなことを感じた次第です。

 単なるデジタル先端事例の紹介のみならず、その歴史的地理的背景なども踏まえ記された本書。ヨーロッパで個人情報意識が高い背景にある過去のナチス台頭への反省。イギリスの左派系新聞ガーディアンやニューヨークタイムズなどへの寄付が増加している背景。個人的にも琴線に触れる内容の多い1冊でした。

                      KADOKAWA 2020年1月31日 初版発行


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【概要】

 かつてジョン・F・ケネディがアポロ計画開始にあたり語ったとされる「ムーンショット」(月へのロケットの打ち上げ)という言葉。それは「非常に困難で独創的だが、成功すれば大きなインパクトやイノベーションを生む壮大な計画や挑戦すること」を指します。
 
 MとL 一字違いの本書ですが、MOONならぬLOONを調べると「ばか」とか「気の狂った人」といった訳語が登場します。
 そうLOONSHOTS(ルーンショット)とは「誰からも相手にされず、頭がおかしいと思われるが、実は世の中を変えるような画期的なアイデアやプロジェクト」のことを指す著者の造語なのです。

 なぜ画期的なアイデアが生まれても、その多くは、実際の製品や戦略になることなく消え去ってしまうのか、なぜそういったアイデアを大切にし画期的な製品や戦略を生み出した企業や組織があってもあっという間に凡庸なものになったり破綻してしまうのか。

 その理由を、科学の世界でしばしば用いられる「相転移」という手法や技法で解き明かそうとするのが本書です。
 上記の様なケースはしばしば「イノベーションのジレンマ」などと言われますが、それを引き起こすのは決して文化的な理由ではなく、構造的な理由によるものであると著者は説きます。
 物理学者であり、コンサルティング会社を経てバイオ企業を創業。後に同社をIPOさせたという経験をもつ著者ゆえイノベーションの誕生を「文化」という曖昧な定義で終わらせることなく、「構造」として科学的に解き明かそうと挑戦した画期的な内容となっています。ちなみに本書が初の著作となるそうです。

【構成】

 全3部、9章で構成された本書。第1部の5章では、第二次大戦中の米軍のレーダー開発、日本人遠藤章氏の創薬開発、パンナム航空とアメリカン航空、ポラロイド社など、主として5つの事例を紐解きつつ、ルーンショットの概要を解説しています。
 第2部以降では、本書主題である「相転移」について、それがどう起こり、どのようなアプローチで対峙すべきかにつき解説されています。巻末には用語解説や付録と称し本書内で紹介されたルールや方程式などが整理され付されています。

【所感】

 著者自ら、本の内容を簡潔に示してくれる著者が好きと語っており、本書のポイントを冒頭で下記3点にまとめています。

 ①最も重要なブレークスルーは「ルーンショット」
 ②そういったブレークスルーを製品や戦略に転換するには大規模な集団が必要
 ③集団の行動に「相転移」の科学を当てはめることで、実践的ルールが明らかになる

 本書における最も重要なキーワードは「相転移」。「相転移」とは2つの相、すなわち2種類の創発的振る舞い(部分だけを調べても定義・説明できない全体の特性)の間の突然の変化のことを指します。
 分かり易い事例としては 
 ①水(氷は固く叩くと割れるが水の状態では滑らかに流れる) 
 ②交通渋滞(高速道道路は順調に流れることもあれば、些細なことで渋滞する)
 ③市場(合理性があるようで時にバブルを引き起こす)などが挙げられます。

 「ルーンショット」の具体化には大規模な組織が必要なことは前述の通りであり、本書ではそれを「フランチャイズ」と呼んでいます。映画に例えるなら「ルーンショット」は第1作「フランチャイズ」は続編といったところでしょうか。またいわゆるイノベーション理論で言うなら「ルーンショット」は破壊的イノベーション。「フランチャイズ」は改良的イノベーションと言えるのかもしれません。

 画期的な製品や戦略を生み出した集団であっても、いつしかその輝きを失ってしまう。それも先ほどの「相転移」という視点から見れば、致し方ないのかもしれない。本書でもそんな事例が数々紹介されています。ならばこの「相転移」を組織や企業はどう活かせばよいのでしょうか。
 必要なことは「相転移」を起こす臨界点を見極め、その状態を長く維持できる方法を考えること。それは科学的に可能であり「相転移」を起こす様々な予兆を把握することで、一見予測不能と思われる事態への対処も可能となる点を著者は主張しています。またその実践に際しては「ブッシュ・ヴェイル ルール」というものをまとめて紹介しており、非常に興味深いものでした。

 タイトルはキャッチーで、創薬や戦争(兵器開発)といった事例も織り交ぜつつ面白いのですが、実例と理論が混在しており、正直やや読みにくさは否めません。

 ただ巻末(おそらく日本版のみですが)に日本におけるイノベーション研究の第一人者である米倉誠一郎氏が解説を寄せており、これが端的にまとまっており、本書理解の一助となりました。
 よくあるビジネス書の類かと思い手にとったら、その科学的・歴史的知識の膨大さ、国家論・産業論までも踏み込んだ内容に驚嘆したと米倉氏も記しています。
  500ページを超え少々ボリュームはありますが、是非読んでいただきたい好著。お薦めです。


                    日経BP 2020年1月27日 第1版第1刷発行 

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【概要】

 プラットフォームビジネス。プラットフォーマー。ビジネスの世界でその名を聞かない日はないほど、広く認知されるようになっています。

 GAFAとして知られるグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル。時にマイクロソフトを加えGAFMAと称されることもあります。また最近は中国を代表するインターネット企業、バイドゥ、アリババ、テンセントの頭文字をとったBATという通称も良く聞かれるようになりました。

 プラットフォームとは端的に言えば一定のサービス享受を得るためのインフラであり、実はビジネスモデルとしては決して新しいものではありませんが、近年あらゆる産業へその領域が広がっていること。展開スピードは早くグローバル化していること。顧客の意思決定に及ぼす影響が非常に大きくなっているといった特徴があるそうです。

 日本では、楽天、メルカリ、リクルートなどが、我々のよく知るプラットフォームビジネスと言えますが、世界レベルで見ればその規模は小さく、存在感は非常に薄いものとなっています。
 プラットフォームビジネスの世界で立ち遅れつつある日本。今後どのような戦略をもちビジネス展開をしていけばよいのか。そんな提言をしたのが本書です。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章で概要を記した後、本書提言の核となる4つの戦略に1章ずつを充て解説。総括として最終章で4つのポイントを挙げ締めくくっています。
 国内外で18の事例を合わせて紹介しており、そのビジネスモデルをコンパクトに図示化したものが添えられており、理解し易い体裁となっています。

【所感】

 今後プラットフォームビジネスにおいて日本がとるべき戦略はいかなるものなのでしょうか。
その前提として現在のプラットフォームビジネスにおいては、①プラットフォームが多層化しすみ分け領域が生まれていること。②既存プラットフォームが積極的な連携をはかり始めていること。③技術的なハードルが下がってきていること の傾向が見られるそうです。

 これを踏まえ、本書では日本企業がとるべき戦略として
 自社プラットフォーム展開によるセグメンテッド・プラットフォーム戦略(メガプラットフォーマーとのすみ分け)
 他社プラットフォーム連携による ①チャネル連携(プラットフォーマーを販路として利用する) ②顧客化連携(プラットフォーマーを顧客にする) ③アプリケーション戦略(自社ノウハウを実装したソフトウェアをプラットフォーム上で展開する) を紹介しています。

 こう記すと、いわゆる中小企業は、チャネル連携により販路確保かと思いがちですが、実は本書でもチャネル連携で紹介されている事例は、イオンモールや資生堂、コニカミノルタなど大手のもの。
 実は一見ハードルが高そうにみえるアプリケーション連携こそが、意外と穴場なのではないかと思った次第です。
 本書でも記されていますが、これまで企業の競争軸はQ(品質)C(コスト)D(デリバリー)にあり、これは事業規模に勝る大手企業が圧倒的に有利。
 しかし今や企業の競争軸はV(自社独自の提供価値)P(プラットフォーム展開/連携)S(エコシステム)とその下敷きとなるD(デジタル)へ移行をしつつあります。

 今後中小企業は自社がもつ固有のQ(尖った技術・ノウハウ)をS(エコシステム)と連携しP(プラットフォーム)活用しV(価値)提供しレバレッジを効かせることが可能になるとし、福岡にある金属加工会社三松、福島県の蔭山建設の事例が紹介されています。

 プラットフォームビジネスとは、自社と無縁ではないもの。IT関連企業の独壇場ではなく何らかの商機は見出せるもの。そんな着想を得るには好適な1冊ではないでしょうか。
 
                  日本経済新聞出版社 2020年1月24日 1版1刷

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