
【概要】
QRコード。正方形内にある碁盤の様な格子上に白と黒の模様を配置したもので、様々な媒体などに掲載されたこのコードを、スマホで読み取った経験のある方も少なくないのではないでしょうか。
実はこのQRコードを発明したのは、日本の自動車部品メーカーであるデンソー。1994年に誕生しています。
元々同社が開発し、トヨタ生産方式の「かんばん」を支えてきたNDコードを改良発展させたものです。
新たに開発するに際し、同コードが広く普及することを目し、特許を公開してきたことから、自動車部品のサプライヤー以外にもその利用が進み、また日本国内のみならず中国や米国、ヨーロッパでも広く普及し、今や国際標準となっています。
前身のNDコード誕生から数えること50年。なぜ日本の自動車部品メーカーが開発した規格が国際標準となることが出来たのか。あまり知られることのなかったQRコード誕生と普及発展の経緯を丹念に追ったのが本書です。
【構成】
終章含め5章で構成された本書。QRコードの前身となったNDコード誕生にはじまり、開発、標準化、進化という章立てで時系列に記したのち、経営という観点から総括をしています。
【所感】
QRコードという革新的なイノベーションを扱った本書ですが、「一人の天才の発想が世界を変える技術開発につながった」というような華々しいストーリーが綴られているわけではありません。
1970年代、確立されつつあったトヨタ生産方式の「かんばん」導入が、各サプライヤー向けに行われ始めます。デンソーも当然その1社。しかしながらジャストインタイムゆえ日に何度も納品を行う必要があったことから膨大に触れあがったサプライヤー側の伝票作成などの事務処理負担。
これを軽減するため「かんばん」をデジタル化出来ないか。そんなデンソー側の技術者の思いと黎明期にあった小型コンピューター活用方法の模索が相まって物語は動き始めます。
QRコード開発が始まったのは1992年。もたせるべき情報量が増えすぎ、もはや限界に達していたNDコード(バーコード)に変わるものとして開発が始まります。
①200桁以上の情報を「かんばん」に表示できること ②「かんばん」を箱につけたままワンタッチで読み取れること ③コンベヤ上を流れる移動中に読めること ④油などの汚れに強いこと ⑤モノ(生産物)そのものに印刷出来て読み取れること ⑥取引上の伝票に使用できるほど多くの情報が入れられること などの要件を満たすことを目標とし、わずか4名の陣容でスタート。
QRコードの肝であるファインダ゙パターンを見つけ出すのに、国内外数千の媒体からあらゆる活字を解析するなど苦労を重ねます。「自分たちが開発するコードを全世界で使ってほしい。BtoB企業ゆえ、なかなか世間に知られることのないデンソーの名前を世界に知らしめたい。」開発者たちはそんな思いを抱き、わずか2年で完成にこぎつけます。
以降は、世界標準化に向け、国内自動車工業会、全米自動車産業協会での採用を経て、ISO規格での採用へ至る様子。QRコードが一般に広く認知されるきっかけとなった、コード読み取り機能を搭載した携帯電話誕生の経緯などが綴られます。
中心となった技術者たちは紹介されるものの、概ね淡々と記されているのは経営学者の方が執筆されたからでしょうか。
それでもデンソーという自動車部品メーカーでは亜流ともいえる部署から革新的な技術が生まれた意味。現場という最前線にこそ課題解決のきっかけがあること。さほど著名でない大卒、工業高校卒の社員が主たる開発を担ったこと。イノベーションが生まれるために経営陣がとるべき姿勢など、経営という観点から端的に総括している点は、個人的な過度な思いを挟まないゆえ、この日本発の稀有なイノベーションの史実をきちんと伝えているように感じました。
東洋経済新報社 2020年2月27日発行