2020-3-29 Vol.353【概要】
イスラエルと聞いて、みなさんはどんな印象をお持ちになるでしょうか。
第二次世界大戦後の1948年に建国。その建国の経緯から近隣国との紛争が絶えない、なんとなく危険な国家。その程度の印象かもしれません。
しかし今やイスラエルは、数多くのハイテクスタートアップ企業を輩出するイノベーション国家であり、中東のシリコンバレーとまで呼ばれるようになってきています。なぜそのような国家に生まれ変わることが出来たのでしょうか。
その秘密は人材開発にあります。18歳から男性は3年、女性は2年の兵役が義務付けられた同国ですが、そこで自主自立の精神、リーダーシップ、課題解決力などを培います。決して軍隊は起業家養成を目しているわけではありませんが、結果として起業に必要なスキルやマインドを身につけることに繋がっていきます。そして本書タイトルでもある「タルピオット」。
これは毎年成績優秀な高校生1万人の中から50人を選出し施されるイスラエル式エリート養成プログラム。約3年にわたり、イスラエル国防軍、ヘブライ大学、産業界が共同で英才教育にあたります。
本書はそんな「タルピオット」を含め、知られざるハイテク、スタートアップ輩出国家イスラエルの現状について紹介をした1冊。近年日本でも着目されはじめた同国から我々のビジネスに活かすヒントを探ります。
【構成】
全6章で構成された本書。1章から2章では知られざるイスラエルの概要を、3章では本書の主題でもある「タルピオット」を含めた同国のエコシステムについて言及。4章以降では今後日本企業は、どのようにイスラエルと関わっていけばよいのかを提言した内容となっています。
【所感】
本書タイトルでもある「タルピオット」についての解説が主題かと思いきや、端的に言えば著者たちの主張は、日本企業はイスラエルスタートアップ企業との協働を加速させ、日本でのイノベーションの契機に繋げよというもの。協働を促す理由として、下記の4点を挙げています。
①「世界の時間軸」を取り戻す契機となること
②テクノロジー人材の確保につながること
③日本の製造業の評価の高さ
④(日本企業の遅い意志決定を)待てるスタートアップの増加
また国家として、まだまだ伸びしろがあり、しかも比較的親日的であること。
起業家たちの問題意識が高く、課題解決によせる責任感や当事者意識の強さに接することの刺激なども利点として挙げています。
その上で、そのような人材を生む出す大きな原動力となっている「タルピオット」の存在について改めて言及。そのプログラムが有する優れたエッセンスを、いかに日本の人材教育に取り込むかの提言をし本書はとりまとめられています。
一読して感じるのは、そもそもイスラエルという国家、国民としての危機意識の高さは他国民には、到底真似が出来ないだろうという点。長らく迫害の歴史をもつユダヤ人国家ゆえ、目に見える財産より(決して奪われることのない)頭脳に投資すべきという価値観。国土や資源の乏しさゆえ科学技術に国家の存続を賭けざるを得なかった環境。
そういった背景から生まれた「タルピオット」ゆえ、そのエッセンスからうまく学べと言われても、所詮それは浅はかなものになってしまうのではないか。そんな印象を抱きました。
決して学ぶことの重要性を否定するものではありませんが、それよりも彼らの価値感やその前提になっている背景をよく知ることこそ大切なこと。そんな知識を得るには好著と呼べる1冊なのかもしれません。
コロナウイルス影響で渡航は難しい昨今ですが、2020年3月より日本からイスラエルへの直行便が週3本運行されはじめています。まずは現地を知ること。そんなハードルも低くなっています。
日本経済新聞出版社 2020年3月18日 1版1刷




