名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2020年04月

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【概要】

 組織風土変革の必要性を説き、そのための有力なツール「オフサイトミーティング」を紹介しつつドラマ仕立てで構成された名作「なぜ会社は変われないのか」から20数年。「それでも」と銘打った本書。
 失われた20年とも30年とも揶揄される日本。その張本人ともいえるのが、日本社会が伝統的に引き継いできた「調整文化」にあると著者は説きます。

「調整文化」とは、何よりも組織の安定を優先し「組織の混乱回避」を大切にする文化。組織を安定して運営するために有効なのは「予定調和」という考え方であり、前例踏襲路線です。つまり概ね見えている結論に向かい物事を進めていく作業であり、そこに深い思考は必要ありません。この無自覚な思考停止状態こそが、日本を停滞たらしめている・・・・・。

 そんな「調整文化」の弊害を改め「挑戦文化」を強めるような組織風土の変革をどのように推し進めればよいのか。そこで本書を通じ著者が提言するのが「役員のチーム化」です。
 企業文化改革の根幹に手を打てるのは経営陣だけであり、経営陣が自身の担当領域を越え、相互理解を深めチームとして経営に携わることが組織全体の変革を促していきます。
 そんな「役員のチーム化」はどのように進めていけばいいのか。
本書ではケーススタディ仕立てで、変革のプロセスを紹介しながら、その手順やポイントを整理解説しています。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章で課題提起をしたのち、第1部として構成された2章から3章では、架空の企業を舞台にしたケーススタディで「役員のチーム化」に至るプロセスを解説しています。第2部として構成された4章から6章では、著者の言う「調整文化」の真因を深く掘り下げ、変革に挑むために必要な思考法やマインドセットについて言及しています。
 個々の章の内容は独立しており、1部2部の順番を逆にしても、各章ごとに読んでも支障はない体裁となっています。

【所感】

 それなりに業績は安定し、各担当役員も自身の担当分野のコントロールはそつなくこなす。ただ相互に担当業務への干渉もなく、経営全体に意識が及び危機意識をもってチャレンジするような役員がいない。そんな意識では、先の見えない経営環境下で生き延びていくことは出来ない・・・・・。

 どんな経営トップも抱くであろう、そんな思いから展開されるケーススタディで本書は始まります。
 本書では役員合宿を通じ、各役員が本音をぶつけあう過程が描かれますが、キーになるのは経営改革の起点は自分達であるという事実を自覚し、腹落ちさせること。当事者意識をもつこと。
 そのためには「心理的安全性の醸成」と「(役員間の)論理的ギャップの解消」がポイントとなるそうです。何を言っても咎めず本音をぶつけあう雰囲気を醸成。相互に信頼関係を深めた上で、納得いくまで論理的に議論を詰めていく。そんなプロセスが本書では紹介されています。
 
 いやいや自分は経営陣ではないから、こういった話は関係ないよ。そんな印象を持たれるかたも多いかもしれません。確かに経営陣への変革を促すのが本書ですが、第4章で記される日本企業が抱える3つの課題についての記述は万人が真摯に受け止める内容ではないかと個人的には感じました。

 日本企業の抱える3大課題とは、①先進国としては非常に低い生産性 ②意思決定と実行スピードの遅さ ③新しい試みの成功確率の低さ

 仕事とは、働き(付加価値を高める行為・行動)であるべきところ、殆どの人は、動き(原価だけを高める行為)にとどまっており、その要因として仕事に「価値」の優先順位がつけれないこと。
「みんな」で責任を分け合い「(会議などの)場」に決定をゆだねることによる意志決定スピードの遅さ。仕事の目的が曖昧で仕事の手段が目的化してしまう本末転倒ぶり。「正解なき時代」にも関わらず「失敗しない」ことが正解とされてしてしまう風土。耳に痛い指摘が続きます。
 
 経営陣の変革もさることながら、我々一人一人もまた変わっていかなければならないことを強く意識させられます。それを踏まえ次章の第5章では、我々はどう思考法を変えていくべきかの提言がなされています。
 そこでは「閉じる問い」「開く問い」というキーワードが登場します。
「閉じる問い」とは正解があることを前提に、そこに集約されていくような問い。これに対し「開く問い」とは簡単に答えの出ない問い。
「自分は何のために働くのか」「働く目的は自分にとっては何なのか」そんな各人にとって答えが違う問いに立ち向かい思考することが重要と説きます。
 生産性を高めるためには、効率よく仕事を進める必要があり、そのためのノウハウやツールを求めるのは当たり前。正解のない問いに長々と付き合っている時間などない・・・・・。
 ややもすればそんな考えに陥りがちですが、そんな「やり方」のみに囚われる我々の思考法を変えることが、極めて重要なことを改めて痛感させられます。

「調整文化」からの脱却を促す本書ですが、実は「調整文化」には「日本人がもつ共感力の高さ」などプラスの面もあるそうです。各人が自身の頭で考えつつも、独善的にならず他者の考えに共感する柔軟性も兼ね備えること。「調整文化」と「挑戦文化」を対立という図式でなく両立という図式で捉え行動を起こすこと。それこそが今の我々にとって最も大切な意識なのではないでしょうか。

                       日本経済新聞社 2020年4月17日 1刷

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【概要】

 今週ご紹介させていただくのは、株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS 代表取締役CEOを務める宇野康秀氏の評伝。
 3度にわたり自身の会社を上場させた経験をもつ稀有な現役経営者です。子供の時から企業家になることを夢見て、経営者に関する評伝を読むのが好きだったという宇野氏。リクルート・コスモスを経て、1989年に人材派遣会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)を起業。
 同社は、2000年4月にジャスダック市場への上場を果たしますが、宇野氏はその2年前に同社を離れています。
 それは余命幾ばくも無い父親に乞われ、父親の創業した株式会社大阪有線放送社(現 株式会社USEN)の経営を引き継ぐためでした。
 年商800億円。業界で圧倒的シェアを誇っていた同社ですが、その事業基盤は、NTTや電力会社が所有する電柱の無断使用という不正行為による脆弱なもの。しかも個人保証800億円まで背負う羽目となります。その解決に目途をつけるも、ITバブルの勃興と崩壊。リーマンショックを経て、浮き沈みの激しい経営者人生を送ります。最後には必死で立て直した同社の経営を追われる立場に。

 本書はそんな宇野康秀氏の人物像に迫った1冊。常人には想像もできないような辛苦を舐めつつも、関わったどの社も破綻させることのなかった経営手腕は、いかに培われたのか。大阪有線放送社創業者であり父親でもあった元忠氏
の人物像も交えつつ記されています。

【構成】 

 全12章で構成された本書。前半の1~3章は、大阪有線社と同社創業者である父親を中心に記され、4章~7章では、リクルート・コスモス入社からインテリジェンス創業までのエピソードが記されています。8章からは、大阪有線社を引き継ぐ経緯に始まり、同社代表を追われた12章が最終章となっています。

【所感】
 
 ITバブル華やかな頃、よく名前や姿を見かけた宇野康秀氏。端正な顔立ちもあり、2001年にはベストドレッサー賞も受賞しています。「ヒルズ族の兄貴分」などと本書帯にもありますが、同社もご本人も六本木ヒルズに事務所や居を構えたことはまったくないそうですが、若きベンチャー経営者が台頭していた当時の世相もあり、そのような印象を持たれていたのかもしれませんね。

 一代で全国に有線放送網を構築する辣腕ながら、家庭を顧みない父親。幼少期から疎ましいと思いながらも、自身が起業を目指す中で、実は父親こそベンチャー経営者のはしりであり、事業家として尊敬すべき存在であったことに気づく・・・・・。

 本書では、そんな父親の興した大阪有線社が事業規模を拡大していく様子や、その人柄や経営手腕につき側近中の側近へのインタビューが記されていますが、率先垂範する超ハードワーカーであることや、卓越した事業構想力や粘り強い実行力など、直接父親の薫陶を受けていないにも関わらず、その経営スタイルに共通項が多く見られることは非常に興味深い点でした。

 本書を読み一番感じ入るのは宇野氏の胆力でしょうか。
 年商800億円を超える企業ながら、不正な有線網構築により蛇蝎のごとく郵政省から嫌われていた大阪有線社の経営を引き継ぎ、少なからずのコストをかけ(正常化に)100年はかかると言われていた一連の不法状態を是正、正常化に導きます。
 多額の個人保証を背負うも、来るべきブロードバンド時代に同社がもつ全国有線網の存在が勝機になることを見出し、大きな事業構想を描くも、土壇場で出資や提携をご破算にされる。あげく提携を打診した企業に事業構想そのものを真似されてしまう。
 ネット社会ではコンテンツが重要になることを見越し、矢継ぎ早にエンターテイメント企業などへ出資。日本初ともいえる動画配信サービスを始めるなど、様々な打ち手をしていましたが、リーマンショックによる株価下落にまつわる金融機関からの執拗な要請で、事業は切り売り。祖業とも言える㈱USEN経営者の座すら追われてしまいます。
 それでも新たな動画配信サービス企業を上場させ、同社との統合により再度代表に返り咲きます。
結果として三度の上場を経験・・・・・。そんな凄まじい体験の数々が綴られています。

 並の経営者なら、間違いなく投げ出すか、自死を選んでいたのではないでしょうか。何がそこまで彼を駆り立ててきたのでしょうか。誰でも思うそんな疑問に当然著者も切り込んでいます。
 その問いに対し「苦難というか苦しさというか、そうした所に身を置いた時に生まれる、研ぎ澄まされた感じっていうのが好きというのはありますね」と淡々と宇野氏は答えています。凡人には想像も及ばない、選ばれしものだけが感じ入る感覚。そんな境地に彼はいるのかもしれません。
 単なる蛮勇ではない真の勇気をもつ経営者。そんな宇野氏に対する著者の畏怖とも言える思いが本書のタイトルには込められているのかもしれませんね。
 
 先週の豊田章男氏に続き、今週も現役経営者の評伝本となりましたが、本書も一気読み必須の1冊でした。お薦めです。

                       文藝春秋 2020年4月10日 第1刷発行

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【概要】

 時価総額21兆6499億円(2020年4月10日現在)、2020年3月の連結決算売上見込み29兆5000億円。グループ全体の年間世界販売は1000万台以上。
 日本を代表する企業であり、世界でも有数の自動車メーカーに数えられるトヨタ自動車。

 同社11代目社長を務めるのが、言わずと知れた豊田章男氏。2009年1月に就任。創業者豊田喜一郎氏の孫であり、名誉会長豊田章一郎氏の息子である章男氏。正当な創業家の3代目であり、正真正銘の御曹司です。

 メディアにも積極的に登場。俳優の香川照之氏と共に登場するTVCMトヨタイムズ https://toyotatimes.jp/ などで発せられる数々のメッセージ。自動車メーカーのみならず、日本の企業でここまで顔の知られた経営者は珍しいのかもしれません。

 眼鏡をかけたその容姿から柔和で親しみやすい印象を受ける章男氏ですが、意外とその人物像は知られていません。世界有数の企業経営者はいかに生まれ、何を考え、何をしてきたのでしょうか。そしてトヨタ自動車はこれからどこへ向かおうとしているのでしょうか。本書はそんな豊田章男氏の知られざる本性に迫った1冊。週刊東洋経済での連載記事がベースとなっています。

【構成】

 「人間」と「経営者」と大きく2部に分け、全10章で構成された本書。前半4章では 生い立ちやトヨタ自動車入社時の様子、イチロー氏との対談を引き合いに、私人としての豊田章男氏に迫ります。
 後半6章では未曾有の危機下での社長就任となった2019年からを時系列で追いつつ、彼のとった数々の施策を通じ、経営者としての豊田章男氏に迫っています。

【所感】

 慶応義塾大学時代はホッケー部に所属し、日本代表に選出されるほどのアスリートであったという章男氏。「モリゾウ」の名前でレーシングカーなどのハンドルを握る様子も知られています。
「何事も、考える前に、まずやってみる」のが体育会系の行動パターンの特徴と言われますが、章男氏の信条もまさにそれだそうです。超御曹司ながら案外、世俗にまみれ下世話なことも知っていると評されるそうですが、上下関係の厳しい体育会系の部活動で培われた部分も少なくないのかもしれません。

 トヨタ自動車に入社も、御曹司ゆえ「何をするにもお手並み拝見」という目で見られてしまう孤独感。やるせなさ。何度も退職を考えたそうです。
 しかしそんな彼に臆することなく、叱責し指導した工務部・生産調整部、財務部の上司。そこで叩き込まれた現地現物確認の重要性。また書籍にもなったエピソードですが、章男氏に運転技術を教え込んだテストドライバーの存在。

 超巨大企業のトップになることが既定路線という常人では想像し難いプレッシャーの下、レーシングドライバー「モリゾウ」というキャラクターをまとうことで、気持ちの整理をつけ経営者としての自身を確立していく様子など、興味深いエピソードが続きます。

 リーマンショックによる未曾有の経営危機、米国での大規模リコール。
「一連の騒動はトヨタ自身の慢心にあるのではないか」「原点回帰が必要ではないか」。
そんな危機感を抱いた彼が社長就任時に発したのは「現場にいちばん近い社長でありたい」「いい車をつくりたい」というシンプルなメッセージ。しかしそれを冷ややかに受け止めるメディアや世間の論調。

 あれから10年。現在のトヨタ自動車を見れば、章男氏の経営手腕がどれほどのものであったかは想像に難くありませんよね。TPS(トヨタ生産方式)の更なる進化を進める一方で、繰り出される魅力ある新車。モータースポーツへの参戦。様々なアライアンスの提携。盤石な経営にも写ります。

 それでも今や100年に1度の大変革の時期に入ったと言われる自動車業界。そのかじ取りをどうするのか。次期社長、自身の後継者をどうするのか。まだまだ課題は尽きないとし本書は締めくくられています。
 こういう類の書籍なので、多少の忖度はあるものとは思いますが、章男氏の人物像この10年来のトヨタ自動車の経営に深く迫った1冊。一気読み必須との出版社の宣伝もうなづける内容。お薦めです。

                      東洋経済新報社 2020年4月23日 発行

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【概要】

 1990年代以降、急速に注目を浴びるようになった行動経済学。
 人はかならずしも合理的には行動しないことに着目をし、従来の経済学では説明の難しかった社会現象や経済行動を解き明かそうとする経済学であり、2002年に経済学者のダニエル・カーネマン氏がノーベル経済学賞を受賞して以降、特に広く認知をされるようになってきています。
 本書もその類の一冊。あえて行動経済学とは言わず、日本人のメンタリティに一番響きそうな「義理と人情」という表現をしていますが意図するところは同じです。
 一見不合理にみえる行動が、実は理にかなったものになっていることを解き明かすことを目的としていますが、心理学的な実験を通じてではなく、普段の日常生活にみられる様々な事例を集め、そこから知見を得ようとする点が著者のオリジナルといえるのかもしれません。

【構成】

 全5章で構成された本書。第1章の「甲子園高校野球は、なぜ全試合テレビ放送されるのか?」にはじまり、我々が抱きがちな素朴な疑問をタイトルした章立てが並びます。
 本書カバー裏には「共感」「信頼」「嫉妬」「利他」「幸福感」に注目してデータ分析したとありますが、必ずしもこの5項目に沿って内容が明確に分類されているわけではありません。

【所感】
 
 特段行動経済学に関心がない人にも手に取ってもらうことを意図してか、あまり専門用語は使われず、引き合いに出されるものも、「高校野球」「プロ野球」「相撲」「(TV番組の)おしん」「(映画の)ボヘミアン・ラプソディー」「富士そば」「タカラジェンヌ」など多岐にわたっています。

 掴みとしては面白く、人の行動の多様性という点でみればどの事例も興味深いのですが、系統だった項目の整理がなく、なんとなく腹落ちしにくい点。データ解析と言いつつ、引用されたデータも母数がはっきりしないものや計測期間がはっきりしないものが散見している点など、個人的には少々物足りなさを覚えた部分もありました。

 さて国家や共同体主導のいわゆる社会主義的経済が終焉し、資本主義が大きく台頭した今世紀。しかし個人や企業が合理性や功利を求め過ぎた結果、経済格差の拡大や富の偏在が加速し世情も不安定に。
 行き過ぎた資本主義がもたらした弊害に対し、国家が介入し富の偏在の解消や格差の是正へ努めるべきではないのかというのが昨今の論調。

 たしかに一理ありますが、一方でどんな施策を講じようとも、そもそも人々が近視眼的で利己的な行動を改めることがなければ、それも難しいのかもしれません。
 その一助となるのが、本書で取り上げるような事例の数々。一見不合理で得策とは思えない行動が、実は結果として大きな効用をもたらすことが少なくないことを理解すること。他者や未来について思いを馳せる想像力
こそが、今我々には必要なのではないか。そんな感想を抱いた一冊でした。
とはいえ、そういった想像力が発揮されるのも、時間や経済的、精神的な余裕があってこそ。今の我々にはその余裕の確保こそが一番難しい課題なのかもしれませんが。

                        東洋経済新報社 2020年4月9日発行
 
 

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