名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2020年06月

2020- 6-28  Vol.366CB80C392-DC43-4AA4-B759-F6EA50A5ABA0

【概要】

 組織のエンゲージメント(愛着や思い入れ)を測るツールに米国ギャラップ社が実施している「エンゲージメント・サーベイ」というものがあります。 少し古いデータの引用となりますが https://www.nikkei.com/article/DGXLZO16873820W7A520C1TJ1000/
 2017年に、同社が公表した1300万人のビジネスパーソンを対象に行った調査によれば、「熱意あふれる社員」は6%で139ケ国中132位。ほかにも「不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」の割合は70%にも達しています。

 
なぜここまで日本の労働者の士気は下がってしまったのでしょうか。諸要因あるのでしょうが、バブル崩壊後の20~30年間、ICT化を進めることもなく、非正規の安い労働力と正規社員の長時間労働、賃金の抑制で乗り切ろうとしてきた日本企業とその経営陣たち。
 従業員を「コスト」としか考えず、その価値を高める努力を怠ったツケが、上記の様な結果を生み出しているのではないか。著者はそう指摘します。
 ならば再び日本の労働者が士気を取り戻すにはどうすればよいのでしょうか。
本書では、日本の労働者が抱いている労働時間、組織や人間関係、仕事に対する意識について、過去の歴史を紐解きつつ、その特徴を明らかにすることを試みています。
 そこから見えてくる日本の労働者がもつ特徴。それを理解し伸ばすための経営や施策について考察をした内容となっています。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章では。近年まことしやかに囁かれる「生産性向上」のナンセンスさを指摘。以降、日本の労働者の、時間、組織、仕事観につき、1章ずつを充てています。
 第5章は少々毛色が変わり、AIの台頭が本当に人の労働を代替できるのかを考察し。終章では本書を改めて5つのポイントに整理し、総括しています。

【所感】

 以前も本ブログで本書著者の書籍を紹介させていただいていますが、同書と同様に本書も著者オリジナルの考えを記すというよりも、多くの文献を参考、引用し組み立てられています。よって巻末には8ページにわたる参考・引用文献のリストが付与されています。
 
 まず冒頭で取り上げられるのは、生産性向上の是非。生産性向上は「働き方改革」の目標の一つでもありますが、著者はこの生産性は時代錯誤の遺物と言い放ちます。

 国別の生産性比較でもまず引き合いに出るのはGDP。しかしもはやこのGDPでは、デジタル革命による恩恵など経済換算できない要素が多くなっていること。また生産性の計算式自体、GDPを1年間の平均従業者数で割ったものであり、失業者が増えれば生産性が向上すると言った矛盾を抱えており、この結果に一喜一憂することがいかにナンセンスかを指摘しています。

 またGDP向上には、物価、賃上げが不可欠ですが、日本の企業はどちらも及び腰。
また日本の労働者は労働者としての立場より消費者としての意識が高く、賃金上昇よりも、物価上昇を極端に嫌う傾向があります。結果として企業、消費者としての労働者の思惑が合致しGDPが伸びない要因になっている点など、労働者自身の意識の問題もあるとの指摘もしています。
 それでもやはり長期にわたる賃金抑制が、冒頭であげた日本人のエンゲージメントの低さに繋がっている影響は大きく、将来の不安を理由にひたすら内部留保を溜め込む企業や経営陣を手厳しく批判しています。

 以降の章では、時間や組織、仕事観など、日本の
労働者にまつわる各種通説への疑問、あるいはそんな通説が形成された経緯などを解き明かしながら、労働者としての日本人の特徴にアプローチをしていき終章に至ります。
 あえてAIについての章を設けているのは、数年前に大きく取り上げられた「AIに仕事を奪われる」という論調が最近トーンダウン(Aiに代替される仕事は所詮数%に過ぎない)している背景もありますが、著者はAIと人の手が結び付く「デジタルものづくり」にこそ、日本が世界と差別化する大きな勝機があるとの思いを込め、付記をしている感があります。

 賃金は勿論のこと、企業や経営陣はいかに労働者に、やりがいや達成感、成長を実感できるようなマネジメントを遂行していくのか。また労働者自身も自立し「自分で決めて、自分で結果に向き合う」よういかに自身の意識を変えていくか。
 本書の結論も結局シンプルなものに落ち着くのですが、生産性向上という小さな枠に囚われない発想と行動を、いかに多くの企業や労働者が起こせるか。日本の浮沈はそこにかかっているのかもしれません。

                          日本実業出版社 2020年6月10日 初版発行

  
 

2020- 6-21  Vol.365
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【概要】

 Yahoo!JAPAN(ヤフージャパン)言わずと知れた日本最大級のポータルサイトです。
 1996年1月、運営母体であるヤフー株式会社が設立されてから、ほぼ四半世紀。今や6,700万人を超えるユーザー数を誇り、2019年の連結売上高は9,548億円。まさに日本のインターネット産業を牽引してきた企業と呼んでも差し支えないのではないでしょうか。

 同社の誕生は、ソフトバンクグループが、インターネット検索エンジンを開発した米国のベンチャー企業、ヤフー・インクへの投資を行ったことが発端でした。

 米国で勃興しつつあったインターネット産業。その入口となるポータルサイトと検索エンジン。必ずや近いうちに日本でも一大ニーズが生じる筈。当時「タイムマシン経営」を標榜していた孫氏の英断が同社への投資につながりました。
 残念ながら本家のヤフーは、業績悪化から2017年に中核事業を売却し、事実上の消滅をしてしまいますが、冒頭で記したとおり、ヤフージャパンは堅調な業績を維持し続けています。

 同社は設立時の代表者こそ、孫正義氏でしたが、半年後には井上雅博氏が代表に就任します。そして代表を退く2012年6月まで、16年間増収を続けました。孫正義氏と違い、ほとんど表舞台に出ることのなかった井上氏ですが、彼無くしてヤフージャパンの成長、いや日本のインターネットの成長はなかったと評されるほど、その経営手腕を高く評価する方も少なくありません。
 
 本書は、そんな知られざる経営者、井上雅博氏の評伝。残念ながら、ヤフー退任の5年後に趣味の自動車レースで事故死されたため、関係者からの聞き取りが中心で構成されていますが、経営者としての側面のみならず、ヤフー退任後に没頭した趣味人としての側面も丹念に追い、その人物像を浮かび上がらせています。

【構成】

 序章終章含め11章で構成された本書。第1章で事故死やお別れの会の様子などを描いた後、2章以降はほぼ時系列で、幼少期から学生、社会人時代。そしてヤフージャパン社長時代、退任後の生活の様子などを記しています。

【所感】

 東京都内の団地で生まれ育ち、普通の進学校を経て東京理科大学へ。幼少期、学生時代を通じて、何か特段に秀でたところもなく、あまり目立つことのない存在であったという井上氏。
 起業家でもなく、単なる一介のサラリーマンであった彼が、ヤフージャパンの創業に関わり、上場、その後も企業価値を高め続け、自社株により巨万の富を得ます。しかし55歳であっさり退任した後は、決してビジネスに携わることなく趣味人として生き、60歳で突然の事故死。

 そんな井上氏の強烈な生涯を描いた本書。ヤフージャパンをどう躍進させたのか、その経営手腕が知りたいところですが、特に突出したエピソードが記されているわけではありません。

 本書タイトルでもある、癖のある「ならずもの」を好んで採用してきたこと、孫正義氏に面と向かって意見を言える存在であったこと、黎明期のポータルサイト運営にあって、将来は既存4大メディアを追い越す存在になり得るという大きなビジョンを抱いていたこと、そして自身が何より最大のヤフージャパン利用者として、徹底しユーザーの利便性を考えてきた様子などが記されていますが、特に目を見張るものではありません。

 井上氏の凄さは、いい意味で「人たらし」にあったのではないかと個人的には考えます。
 井上氏の社会人デビューは、今はなきPCベンチャーの雄、ソードですが、同社では社長の椎名氏に気に入られ直轄の商品企画課で海外の展示会などへ足しげく参加。後にソフトバンクに転じるも、やはり孫氏に気に入られ、社長室長へ配属。米ヤフーへの投資決定から、ヤフージャパンの社長に転じることとなります。実際にその期待に応え続けたのですから、相当の力量はあったのでしょうが、まずはその巡り合わせを引き寄せてきた運の強さがあってこそのことではないでしょうか。
 
 それは部下に対しても同じかもしれません。「ならずもの」を好んで採用したといいつつも、同社躍進はこれらの人材あってのこと。将来さえよく分からないインターネット業界において優秀な人材を集めることが出来たことも「人たらし」ゆえ。そんな印象を抱きました。

 本書は、ヤフージャパン躍進の様子やビジネスパーソンとしての井上氏を描くだけでなく、彼が巨万の富を得たあと、どのようにお金を使ってきたのか、また超富裕層たちの娯楽の世界(井上氏が命を落とすこととなったクラシックカーの世界)についても触れており、非常に興味深く、多様な内容で飽きることなく読み進めることの出来た1冊でした。

                   講談社 二〇二〇年五月二七日 第一刷発行




2020- 6-14  Vol.3645D8F4497-0181-4FA3-A93B-C98E2D1266B3

 2013年7月に始まった当ブログ。毎週1冊の新刊紹介をさせていただいていますので、今回が52冊×7年=364冊目。いつもお付き合いいただきありがとうございます。節目の364冊目にご紹介させていただくのは、こんな1冊です。

【概要】

 2019年帝国データバンクの行った調査によれば、日本にある業歴100年以上の「老舗企業」は3万3千社以上。世界でも類をみない数の多さだといいます。
 
 本書に登場する株式会社にんべん ttps://www.ninben.co.jp/ もその一つ。鰹節で知られる同社ですが、創業はなんと元禄12年(1699年)。昨年、創業から320年を迎えています。
 創業以来、鰹節を扱い続けてきた同社は、なぜここまで長きに渡り、存続することが出来たのでしょうか。本書はそんな同社の経営について、13代目当主が記した1冊。

 折しもコロナショック下、未曾有の経営危機を迎えつつある今だからこそ老舗企業に学ぶ点は多いのではないか。そんな思いから今週は当書を取り上げさせていただきました。

【構成】

 3部全8章で構成された本書。第1部の1~3章で記されるのは、同社の沿革と経営の特徴。第2部4章~5章では、同社の主力商品である「鰹節」と「だし」文化の変遷が記されています。第3部6章~8章では、祖業を守りつつも新たな事業展開を図る同社の戦略について言及。国内のみならず海外で鰹節を広めるための取組などが紹介されています。

【所感】

 冒頭で綴られるのはなぜ同社が320年もの長きにわたり存続することが出来たのか。著者である13代目当主は、それは3つの革新にあったと記しています。

「現金掛値なし」「商品券」「鰹節製造技術の革新」
 商品そのもの正価を定め、その場で商品と代金を交換する「現金売」。天保年間(1830年代)にはじめた鰹節と交換可能な「商品券」の発行販売。鰹節に複数回カビを植えつけることで誕生した「本枯鰹節」の製法。これ現代で言うところのキャッシュフローとイノベーション重視ですよね。

 また同社は昭和に入ると、我々が普段使う小分けの袋に入った鰹節削り節「フレッシュパック」や、今ではごくごく当たり前につかわれる液体調味料「つゆの素」の開発販売を開始しています。「フレッシュパック」については製造技術を囲い込むことなく広く公開。自社独占でなく業界全体を活性化させたい思いもあったようです。

 平成に入ると、創業の地である日本橋で1杯100円の「だし」を飲ませる「日本橋だし場」をオープン。以降直営のレストランを開店する他、弁当・惣菜事業にも進出をしています。

 鰹節という本分を見失わず、かつ時代の流れに埋没することなく、存続し続けた同社。
上記以外に、代々の経営者から引き継がれた教えについても、本書では紹介されていますが、どれも決して奇をてらったものではありません。
「粗食・粗服であること」「金儲けは悪ではないこと」「自社だけの儲けを追わないこと」etc
 具体的な承継の方法については記されていませんが、承継を見越し共に働くなかで先代の言動や姿勢を通じ身に着けていくのかもしれません。
 また本書内で、著者は「だし文化」という言葉を繰り返します。単なる一企業でなく「(日本の)だし文化」を担う企業なのだという矜持こそが同社を長く存続させてきた秘訣なのではないか、個人的にはそんな印象を抱きました。

 老舗企業の経営に関する逸話のみならず、「鰹節」「だし」という日本の食文化の変遷、飲食業界の動向、海外への食品販売の障壁と可能性など、多様なテーマを含んだ本書。
 多少のPR的要素があることは割り引いて読む必要はありますが、300年超企業の経営を知る、示唆に富んだ一冊でした。
 
                   PHP研究所 2020年5月28日 第1版第1刷発行

2020- 6- 7  Vol.363

【概要】IMG_5030
 
 多くの日本企業はいま、オーバー・アナリンス(分析過剰)、オーバー・プランニング(計画過剰)、オーバー・コンプライアンス(法令遵守過剰)という3つの過剰による三大疾病に苛まれ、活力を失い組織能力の弱体化が進んでいるにではないか。

 しかしそのような渦中にあっても、時に生みだされる画期的な製品やサービス。そんな成功事例のベースには「共感」があり、その「共感」をうまく活用し、大きなイノベーションへと花開かせた「物語り戦略」があると著者達は説きます。

「共感」はいかに生み出され、組織の活性化にどうような影響をもたらすのか。それを可能とする「物語り戦略」とはどういったものなのか。9つのケースと3つの参考事例を紐解きながら、解説をしたのが本書です。

【構成】

 全5章で構成された本書。第1章~第4章では9つのケースを扱っています。
日産の「ノートe-POWER」、マツダの「スカイアクティブ・エンジン」、ポーラの「リンクルショット メディカルセラム」、花王の「バイオIOS」といった工業製品の他に、NTTドコモの「アグリガール」という営業組織や、京都の鉄工所「HILLTOP」、金沢の福祉施設「佛子園」などの企業体も取り上げられています。各ケースとも事例紹介のあとに、理論面の解説が加えられています。
 最終章の第5章では、未来型リーダーにつき言及し、FRの柳井社長他2名を取り上げています。

【所感】

 事例そのものの面白さ。コンパクトながら巧みで適切な紹介文もあり非常に読み易い反面、理論面をしっかり読み込んでいかないと、なかなか深い気づきと理解を得られないのが本書かもしれません。

 大きなイノベーションが起きる過程には「共感」→「本質直観」→「跳ぶ仮説」があり、それを包括するのが「物語り戦略」と個人的には理解をしました。
 かつて「優れた戦略には、人に話したくなるようなストーリーがある」と説いたのは「ストーリーとしての競争戦略」で知られる楠木建氏でした。
 確かに本書のケース事例は人に話したくなるような素晴らしいエピソードを含んだものばかりですが、本書で言う「物語」はそれとは少々趣が違うようです。

「物語」を「物語」という名詞ではなくあえて「物語り」と動詞で記しているところに、本書の肝はあります。市場データや自社の内部資源など分析結果を元に導き出される戦略は「物語」であり、「物語り」は自分達の存在意義を問いながら、自社のビジョンを実現するため、「いま、ここ」の状況下において、その都度判断し行動を起こす、もっと動的なものとして捉えられています。

 そんな「物語り」戦略は、二つの要素からなるそうです。それは取り組む事業やプロジェクト全体のプロット(筋書き)とそのプロットを実現するため、メンバーや社員がどう行動するかというスクリプト(行動規範)。
 この二要素は表裏一体で相互補完的なものであり、具体的には企業の存在意義や組織ビジョンに基づいた経営計画やプロジェクトプランがプロットであり、それを実現するための判断や行動の規範となるのがスプリクトとなります。プロットはわくわくし、スクリプトは腹にガツンとくる言葉でなければ、行動は呼び起こせない。つまり「共感」を生むことはないとも記されています。
 なるほど本書で紹介されるケース例でも、それは明らかであり、かつそんなプロットやスクリプトを提示し、メンバーに行動と実践を促せるリーダーの存在もまた不可欠であることが伺いしれました。

 折しもコロナショックで、かつてない環境変化や経営を揺るがす事態となり、前例もないゆえ明確な指針や方針を示せない今こそ、危機を乗り越える行動につなげる「共感」をどう呼び起こすのか。今まさに「共感」の重要性が高まっているのではないか。そんな印象も抱いた1冊でした。


                  日本経済新聞出版本部 2020年5月21日 1版1刷
 

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