名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2021年02月

2021- 2-28  Vol.4012F596617-D2FF-4D6E-8F6F-00E4A09594D4

【概要】

 カップ焼きそばのペヤング。どなたでも一度くらいは口にしたことがあるのではないでしょうか。
 焼きそばといいつつ、実はお湯を入れているだけで、焼いていないことはご存じの通りです。じゃあこれ本当に焼いてみたら美味しいんじゃない?
 そんなきっかけで生まれたのが、ペヤングのソース焼きそばしか作れないホットプレート「焼きペヤングメーカー」。

 2019年に発売された同製品は、そのユニークさからメディアで大きく取り上げられ、昨年10月には、累計販売台数40,000台を突破しています。
 同製品を開発したのは東大阪市に本社を置く、株式会社ライソン。従業員20名ほどの中小企業です。「
焼きペヤングメーカー」以外にもユニークな製品を次々と開発している同社。本書は同社代表を務める山俊介さんが、自社の製品開発について語った一冊。小さな家電メーカーの奮闘記でもあります。

【構成】 

 全6章16話で構成された本書。同社の代名詞ともいえる焼きペヤングメーカー」のほか、様々な同社製品開発の経緯を中心に、山俊介さん自身の経歴なども盛り込まれています。

【所感】

 同社の祖業は金型製造の鉄工所。時代の変遷ともに業態を変え、山さん入社時は輸入販売を主業務とし、ゲームセンターなどへ景品を卸す事業を展開していました。
 一営業担当として同社に入社した山さん。決して優秀な営業マンではなかったそうで、詐欺まがいの商品を掴まされ、会社に大きな損害を与えたこともあるそうです。
 それでも徐々にコツをつかみ、営業成績を上げ始めた山さん。そこで気づいたのは、やはり商品力の重要性。営業力で売るのでなく、商品自身の魅力で売ること。そこで自ら商品開発を手掛けるようになり、後に
焼きペヤングメーカー」といったヒット商品を生み出すようになります。

 開発の様子などは、是非本書をご参照いただきたいと思いますが、特に多くの中小企業にとって参考になるのは、クラウドファンディングの活用と、徹底したニッチ市場の発掘ではないでしょうか。

 下請けから脱し、自前の商品や製品で差別化を図りたい。しかしそれをエンドユーザーにまで認知させるには、莫大な広告宣伝費や販路の確保が必要となります。
 そこで同社が徹底活用しているのが、クラウドファンディング。大勢の人には受けないかもしれないけれど、ごく少数の人には圧倒的な支持を得るに違いない。
 そんな思いで企画した製品を、クラウドファンディングを通じ公開。同社にとってそこは資金調達の場というより、マーケティングの場。
 直に消費者の反応を見ることができること、メディアの注目を浴びやすいことも魅力の様です。

 そして「枯れた技術」を使うことも重要なポイントかもしれません。コストを抑えるためには、すでに流通し、性能や価格がこなれた部品や部材を使うこと。余計な機能を付加するのでなく、徹底的に絞り込み製品のコンセプトを歪めないこと。「これしか出来ません。使えません。」そんな思い切りの良さが極めて大切だということが伺えます。

 小さな企業でも、世間の注目を集める商品開発は可能であり、むしろ様々な面で従前よりもそのハードルは低くなっていること。要はアイデアの勝負であり、自分たちが自信をもって欲しいと思うものを楽しんで作ること。そんなことの大切さを教えてくれる1冊でした。


                          清流出版 2021年2月18日 初版第1刷発行

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 当ブログも今回が400回目。足掛け8年、いつもお付き合いいただきありがとうございます。そんな節目にご紹介させていただくのは、こんな一冊です。

【概要】 

 連日のコロナウィルス感染症報道。いい加減うんざりすることありませんか。検査総数も明かさず、連日繰り返される感染者数。真偽のよくわからない対策。「痛い」の「痛くないの」レベルで語られるワクチン接種・・・・・。

 コロナウィルス感染症関連に限らず、一見、重要そうに見えて、実は単に我々にストレスを与え続けるだけの存在にすぎないニュースの数々。本書は、そんなニュースから自身を遠ざける「ニュース・ダイエット」の効用について記した一冊。世界的ベストセラーとなった「Think-clearly」の著者の手によります。

【構成】

 全35章で構成された本書。各章、4~6ページと手ごろなサイズにまとめられており、7章以降の章末には「重要なポイント」と称し、簡潔なまとめがついています。一読後に振り返ったり、時間がなければ、まずここを通読し、関心のある章から読むのも、よいかもしれません。巻末には、出自を明らかにした付録もついており、充実した内容となっています。

【所感】

 ニュースに関し、著者は下記の様な見解を記しています。

 □頻繁に流されるニュースほど重要性は乏しい。本当に重要なニュースは、なかなか表に出ない。
 □一見重要にみえて、我々自身に多大な影響を及ぼすニュースは実はとても少ない。ほとんどのニュースは我々にとっては無関係。
 □ネットニュースの様な断片的な情報を受け続けると、徐々に長文や書籍を読むことが困難となってしまう。 
 □メディアに登場するコメンテーターの様に、我々自身の意見は無理してもたなくてもよい。 
 □ニュースは信用出来るメディアの出版物などで、1週間単位で接すれば充分。
 □権威ある報道機関すら「PR記事」や「ネイティブ広告」の販売に力を入れている。
 □「悪いこと」は「よいこと」より重要と感じてしまう。など
 
 なぜ著者は、我々にニュースから遠ざかることを推奨するのでしょうか。
それは我々の時間を無駄にしないため。そして「集中力」や「意思力」を損なわないためと説きます。
 情報の豊かさは、受け手の注意力を消耗させてしまいます。また意思力すら消耗させてしまい、自身がやりたいことも成し遂げられなくなってしまうと警鐘を鳴らします。

 そのために必要なことは、自分の「能力の輪」の境界を見極めること。これは著名な投資家ウォーレン・バフェットが語っているそうですが、人は自身の「能力の輪」の内側のことは習熟できるが、その外側にあるものは、理解できないか、一部しか理解できないそうです。
 この境界を見極めることで、自分が入手すべき情報の選別が可能になります。そしてその輪の中で、自身の専門分野を掘り下げ「広い知識」より「深い知識」を身につけること。「専門バカ」になるか「敗者」になるか、我々には二択しかないのだから、選択すべきが何かは明らかと辛辣な考えも述べています。

 ニュースから自身を遠ざける「ニュース・ダイエット」に、まずは30日挑戦してみること。情報の入手先として、良質な書籍を読むこと。20ページ読んでも見識の広がらない場合、とっとと読むのをやめてしまうこと。同じ本を続けて二度よむことなど、情報を取捨選択しつつ、より有効に生かす実践法にも触れている本書。

 他者からの受け売りでない、自分自身で深く考察することの重要性。そのために必要なことは、多量の情報ではなく十分な時間。その時間をいかに創出するか。それを阻害する最たる例として本書ではニュースを取り上げていますが、人間関係や仕事、様々なつきあいごとなど、本書で著者の説くその考え方はニュースに限らず、広く応用される機会は多いのではないか。そんな印象も抱いた一冊でした。
                         
                            サンマーク出版 2,021年2月20日発行

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【概要】 

 数年前、世間を騒がせた「かぼちゃの馬車事件」。株式会社スマートデイズが展開していた、女性専用シェアハウスのサブリース事業が破綻。物件を所有していたオーナーへの賃料が未払いとなった事件でした。

 そもそもスマートデイズ社は、サブリース事業で収益を上げていたわけではなく、物件を紹介し建築業者から受け取るキックバックが収益の柱でした。つまり次から次へとオーナーを探し、新たな建物を作り続けなければ、破綻してしまうことは明らか。はなから詐欺目的と言われても仕方のない脆弱なビジネスモデルでした。

 その被害をさらに大きくしたのが、スルガ銀行の存在です。
 主として横浜東口支店を舞台に行われた不正融資の数々。建築業者などへの多額なキックバックを含むため、不当に高額な物件と知りつつも融資を実行。与信力の低いオーナーへの審査を通すために行われる書類の偽造。抱き合わせで実行される積立定期預金による資金拘束に希望しない1,000万円ものフリースタイルローンの強制。おおよそ信じがたい行為が横行し、オーナーはひとりにつき1億円以上の債務を背負うことになりました。
 
 追い詰められたオーナー達。
紆余曲折の末、被害者同盟を結成。辣腕弁護士河合弘之氏の支援を経てスルガ銀行を相手に、債務帳消しを求め戦います。
 結果、約250名の被害者(同盟参加者)が抱える債務約440億円は帳消しに。金融史上前例のない決着をみることとなります。
 本書は、そんな被害者達がスルガ銀行から「債務帳消し」を勝ち散るまでを描いた1冊。
事件発端のインパクトのわりには、以降の報道が少なく、今ひとつ解決の経緯が見えにくかった本件ですが、その全容を丹念に明かしています。

【構成】

 全7章で構成されており、事件の発端から決着までを、おおむね時系列で記しています。
ノンフィクションですが、河合弁護士など一部の当事者を除き、登場人物はほぼ仮名となっています。

【所感】

「事実は小説よりも奇なり」そんな言葉がありますが、まさにそんな印象を受けた本書。

 高齢者ならまだしも、良識や常識も備えているであろう現役のビジネスマンたちが、いとも簡単に「必ず儲かる」という不動産投資に引っかかってしまう不思議さ。不動産購入にも関わらず物件を見ることもなく、多額の融資に同意してしまう下り。スルガ銀行による書類偽造があるも「原本と相違なき証明書」に署名をしてしまっているゆえ窮地に陥りそうになる脇の甘さ。まさか金融機関がお墨付きを与えているのだから、失敗する筈はないだろうとの楽観。どんな時代になっても、この手の事件が後を絶たないところに垣間見える人の心理。

 そもそも「投機目的」でやっているのだから破綻してもそれは「自己責任」という世論。自分自身を責める要素には事欠かない中、それでも、被害者の一人、冨谷氏(仮名)の勇気ある行動から、本件は動き始めます。
 何より大きかったのが、河合弘之弁護士を、被害者同盟の弁護団に向かい入れることができたということ。奇しくも河合弁護士の婿旦那も、本件の被害者だったそうです。

 河合弁護士は、誰と戦うのか、どう戦うのか、どう決着をつけるのか、そこを明確にする大切さを被害者に説きます。スマートデイズ社を訴えたところで、債務が無くなるわけではない。ならば戦う相手はスルガ銀行でなくてはならない。しかもその決着は中途半端な和解ではなく、代物弁済による全額債務帳消ししかないと。

 訴訟をやれば、長引くし金銭負担も大きくなってしまう、デモを行い世論を味方につけること。上場企業であるスルガ銀行の株主となり、株主総会に乗り込むこと。そんな形で揺さぶりをかけながら、交渉を続ける経緯は、痛快であると共に、その戦略の巧みさに驚かされます。

 結果、被害者同盟全員の「債務帳消し」に成功をしますが、これは相手が地方銀行であり、風評による資金流出などで経営が持たないからとの判断。都市銀行などメガバンク相手では、勝てなかったかもしれないと、ご本人も語っており、実は奇跡に近い勝利だったのかもしれません。

 経済事件の都度、しばしば名前が浮上するスマートデイズ社の陰の主宰、佐藤太治氏の存在。地銀の雄と評されたスルガ銀行の実態、リテール不動産融資の危うさ。被害者個々人の置かれた背景へのアプローチと、他にも読み応え十分の本書。

 巻末で河合弁護士の語る「弁護士に頼んだからと思って安心しちゃダメだ。手を抜いちゃダメだ。一緒に戦わなければ勝てないから。」それが自身が大きな事件で勝ってきた秘訣と明かし、
様々な葛藤を抱きながらも、皆をまとめ何度もデモ活動を繰り返すなど共闘した冨谷氏のリーダーシップや奮闘を労う言葉が記されています。

 確かな戦略や当事者意識の高さ。ゆるぎない意思と実行力。どんな難局であっても屈せず戦うために大切なものは何なのか。一つの経済事件を扱った本書から、そんなことも併せて考えさせられました。

                           さくら舎 2021年2月11日 第一刷発行

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【概要】 

 今や我々の生活に不可欠なスマートフォン。操作のなかで何気なくやっているピンチング(画面の上で二本の指を広げたり狭めたりすること)。これを可能にしているのが「スマートスキン」というマルチタップインターフェイスです。
 実はこの技術を開発したのが本書著者である暦本純一氏。
ソニーコンピューターサイエンス研究所フェロー副所長を務めていらしゃいます。これまで特許を取得した発明は100以上とか。

 本書はそんな暦本氏が明かす思考方法や発想法のコツ。

 氏が本書を執筆しようと思ったきっかけは、イノベーションを巡る昨今の雰囲気や論調に対し感じる違和感からだそうです。

 社会の変化の度合いが加速する中、他者に先んじるために「何か新しいことを考えなければならない」「どうすれば新しいアイデアが浮かぶのか」そんな義務感に追い立てらている人が多すぎるのではないかと。我々は、とかく現在の延長で物を考えがちですが、真のイノベーションはそれを飛び越えた先に生まれます。
 その元となるのは、人が抱く様々な「妄想」。「妄想」は自由で楽しく、時にワクワク感すら覚えるもの。そんな頭の中で抱いた「妄想」を、手を動かし思考する(具現化)するためには、どうすればよいのか。ご自身の経験も踏まえつつ、その秘訣を明かしています。

【構成】

 序章、終章含め全8章で構成された本書。序章から第1章では「妄想」について論じたあと、第2章から第5章では、その「妄想」を現実的なアイデアとして具体化する手法を明かしています。
 第6章では、自身の経験も踏まえ「妄想」について改めて考察。終章ではイノベーションの源泉を枯らさない社会であってほしいとの提言で締めくくられています。

【所感】

 すべては人々の「妄想」から始まる。まったく異論のないところです。「妄想」を「妄想」のまま終わらせず、とはいえ具体的なアイデアの形にまとめるためには、一定の専門性や経験が必要です。しかしそれを重ねれば重ねるほど、素人感覚は薄まりアイデアは凡庸なものになっていく。

 その両方を並ぶ立たせるため、暦本氏の研究室では「天使度」「悪魔度」というチャートを使い、研究テーマを評価するそうです。「天使度」とは発想の大胆さであり「悪魔度」とは技術の高さ。横軸に「天使度」、横軸に「悪魔度」という線を引き、4つのエリアに区分した上で、テーマを位置づけてみるそうです。元々は映画監督の黒澤明氏が語った「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」という言葉に着想を得たそうですが、面白い方法ですね。

 暦本氏が発想法で一番大切にしているのは「言語化」。研究者の世界では、自身が研究したいテーマをクレームと呼ぶそうです。それは自身の頭で描いた「妄想」を自分にも他者にも分かるように整理したもの。そしてこのクレームは一行で言い切れ、かつ仮設として成り立つものでなければならないと氏は説きます。
 そして(研究であれば)論文のあらすじを考え、そのアイデアに決着をつけるための最短パスを考えること。早く決着をつけることで、多数のアイデアを試すチャンスが生まれるとしています。

 またアイデアの源である「妄想」は自分のやりたいこと。そのためには自分の好きなものを「妄想の種」にすることを推奨しています。筋のいいアイデアは、そこに発想者の「その人らしさが垣間見えるもの」。自身が好きなものが3つあれば、「妄想」の幅が広がるとしています。

 他にも、様々な思考方法や発想法に言及。実際の技術事例も多く紹介されており、「妄想」を抱き、それを具現化していく楽しさ、面白さを余すところなく伝えたいという印象を強く持ちました。

 暦本氏の「妄想」の原点は、SFであったり、子供時代に数多く放映されていたロボットアニメや特撮もの。日本はそんな「妄想天国」であった筈なのに、いつしかそれが損なわれ、気づけば悲壮感だけが漂う国になってしまったと終章で語っています。
 真面目一辺倒では、新しいことや面白いことは生まれない。不真面目ならぬ非真面目路線で、何をやっているか分からないような人を許容出来るような社会であってほしい。自分の「妄想」を直視し大切にしよう。本書をそう結んでいます。

                          祥伝社 令和3年2月10日 初版第1刷発行




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