名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2021年05月

2021- 5-30  Vol.414F632F06A-421D-4020-ACCC-49BE04EFF03C


【概要】
 
 元米海軍大佐でリーダーシップ・コンサルタントである著者の手による1冊。自身が海軍在籍時に、艦隊一のお荷物と言われた原子力潜水艦「サンタフェ」の艦長を務めた経験をもつ著者。
 著者のある行動をきっかけに、お荷物とまで言われた同艦はみるみるパフォーマンスと士気を高め、海軍に要請されるあらゆる任務において好成績を収めはじめます。著者が去った後も、同艦では優秀な士官が次々と育ち、多くの艦長を輩出するようになります。はたして同艦を変えた著者の行動とは何だったのでしょうか。
 海軍の仕組みは堅固であり、スケジュールや任務、様々な手順や方針、はたまた艦に乗る人員など、艦長に与えられた裁量はほとんどありません。その中で著者が変えたのは言葉遣いでした。

  ①他者に何かを促す言葉ではなく、自発的に動くことを表す言葉を使うようにした。
  ②「証明や実行」を意味する言葉に代え「改善や学習」を意味する言葉を使うようにした。
  ③「強さや確かさ」を表す言葉に代え、「弱さや好奇心」を表す言葉を使うようにした。

 海軍退役後、リーダーシップ・コンサルタントに転じた著者は、この「言葉遣い」が、あらゆる組織において有用な効果をもたらすことを確認します。「言葉遣い」がどのように組織を変革していくのか。どうすればその様な組織風土は醸成されていくのか。そんなテーマに迫ったのが本書です。

【構成】

 全11章で構成された本書。主題となるのは、
第3章から第8章であり、本書帯にもある「6つのプレー」がそのテーマとなります。第3章から第8章の各章末には個々の「プレー」に関するまとめが付記されており、内容の整理に一役買っています。第9章では9つのケーススタディを紹介。また冒頭では、貨物船沈没のエピソードを取り上げ、誤った「プレー」が引き起こす悲劇について触れ、読者の関心を高める趣向がこらされています。


【所感】


 本書帯にもある「プレー」という言葉。これは集団スポーツの中で用いられる「プレーブック」に端を発しています。スポーツ、特に集団スポーツでは、競技が繰り広げられている状況を読んで、どのように行動するのか、どのようなプレーを選択するのかを「プレーブック」として共有しています。

 これは職場においても同じことであり、文書化されているか否かに関わらず、様々な状況下で一定のパターン化された行動がとられることが多いかと思います。本書ではそれを「プレー」と称し、この古い「
プレー」がもたらす弊害と、いかにそれを刷新するかを本書の主題としています。また著者はここでいう「プレー」は「アメリカン・フットボール」のゲームをイメージしてほしいとも記しています。

 さてこの
古い「プレー」をどう見直すのか、本書では6つのパターンに分類し解説を行っています。

 ①時計に従う → 時計を支配する
 ②強要する → 連携する
 ③服従する → 責任感を自覚して取り組む  
 ④終わりを決めずに実行する → 事前に定めた目標を達成して区切りをつける  
 ⑤能力を証明する → 成果を改善する  
 ⑥自分の役割に同化する → 垣根を越えてつながる

 また見直しの前段階として、赤ワーク、青ワークという言葉の定義も行ってもいます。
赤ワークとは「行動を起こす、工程の一部を担う、生産するなど、何かを実行すること」であり、青ワークとは「思考力、認知能力、創造力を使って決断する仕事のこと」としており、赤ワークはバリエーションが少ないほど、有用性が高まり、青ワークはバリエーションが多いほど、有用性が高まるそうです。
 赤ワークは、やるべき手順やゴールが明確であるのに対し、青ワークは、手間や労力がかかる割には、その成否も判断しづらく、また評価も行いにくいため、人はついつい赤ワークを志向してしまうそうです。そしてそれがしばしば大きな誤りを生んでしまいます。
 赤ワークと青ワークをどう融合していくのか。あるいは両ワークの切り替えをどう適切に行うかが、「プレー」見直しの第一歩と言えるようです。

 さて肝心の6つの「プレー」見直し手順ですが、留意点やメンバーへの質問方法、具体的な声のかけ方など細部まで踏み込んで記されている他、端的にまとめた要約も付されており、実践し易い構成となっています。
 仔細については是非本書をご覧いただきたいと思いますが、リーダーシップとは自身がメンバー引っ張ることでなく、メンバー自身が考え行動することを促すこと。また僅かな言い回しの違いが、メンバーに与える影響は少なくなく、リーダーはメンバーの状況を見極め、適切な言葉を選ぶ大切さなどが繰り返し語られています。
 リーダーシップの在り方として、奉仕や支援を通じメンバーの信頼を得るサーバント・リーダーシップという概念がありますが、本書を通じ、更に「言葉遣い」を意識し行動することが、より効果を高める可能性が高いのではないか。そんな印象を個人的には覚えました。

 折しもコロナウィルス感染症の影響もあり、コミュニケーションの難しさが特に言われる昨今だからこそ、「言葉」を選ぶ大切さと影響の大きさを教えてくれる本書。少々ボリュームはありますが、示唆に富む1冊でした。

                            東洋経済新報社 2021年6月11日発行

2021- 5-23  Vol.413
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【概要】
 
 未だ終息の気配すら見えない新型コロナウィルス感染症。
果たしてコロナ終息後の世界はどうなっていくのか。そこでしばしば引き合いに出されるのが、1920年前後に世界中で大流行したスペイン風邪です。
 1918年頃から世界的に感染がはじまり、終息したのは1921年。日本国内では、およそ40万人が亡くなったとされています。
 スペイン風邪の流行のみならず、戦前における日本では、結核、赤痢など、死亡要因の半数以上は何らかの感染症であり、当時の日本人は日常的に感染のリスクにさらされていました。死は現在よりも身近な存在であったことが窺い知れます。

 世界的にみても、コロナウィルス感染症による死亡者数は少ないとされる日本ですが、2020年春に続いた著名タレントの死去や毎日報道される感染者数や死亡者数など、これまであまり意識することのなかった「死」を身近なものと感じはじめている人も少なくないのではないでしょうか。

 かつて「死」がより日常的であった戦前の日本社会。そしてコロナウィルス感染症の影響から、人々が改めて「死」を身近なものと捉え、将来の不確実性を認識しはじめた現在の日本。
 そこから相似点を見出し、コロナウィルス感染症終焉後の企業の在り方。労働者を含む利害関係者の在り方についての考察を試みたのが本書です。
 
【構成】

 序章、終章含め全8章で構成された本書。
今よりも「死」が身近なものであった戦前の日本企業における「労務管理」「消費者行動」「株主との関係」「労働者の意識」という観点で1章ずつを充て構成されています。各章とも、戦前の状況を記した後に「コロナ後」と称したまとめが付記されています。

【所感】

 衛生管理面など、労働者の健康管理の観点から企業内レクリエーション、特にスポーツ活動が活発になったことから、後に「東洋の魔女」と呼ばれた女子バレー日本代表チームが誕生したこと。
 粗悪品を買わされたくないという消費者の心理が生んだ通信販売や購買組合。現在よりも転職が容易であったホワイトカラー層の存在など、各エピソードには大変興味を惹かれます。

 端的に言えば、戦前の企業経営の特徴として「死」が身近にあり将来の不確実性がより高かった当時、人々は労働の場の確保、安心した消費活動のため、企業への依存度をより高めたこと。またそのような背景を踏まえ、企業はより永続性を意識するようになったことが見てとれます。

 労務管理に力を入れ、優秀な人材の確保に努める。企業永続を目し株主からの短期的な利潤追求を退ける。取引業者などとのネットワークを強化する。消費者の信頼を得る企業活動を行う。
 それは少しでも不確実さを低減したいという人々の欲求にも合致するものであったと著者は指摘します。その一方で企業による行き過ぎた囲い込みは、労働者を含めた利害関係者の依存度を高め、自主性を損なわせ、自由度を奪う側面があることも指摘をしています。
  
 その様な背景を踏まえ、今後企業は利害関係者に対し自社の永続を含めた保障を提供しつつも、双方に利益のある関係を構築することに努力をしなければならないこと。また利害関係者は、企業の行き過ぎた行動を抑制できるようなパワーバランスを確保する必要があること。特に労働者は自身の「人的資本」を高め(転職などの)移動性を有し、企業と対峙する姿勢が求められることなどを記し本書は、まとめられています。

 スペイン風邪とコロナウィルスと、共に感染症の流行という相似点はあるものの、戦前と現代の日本では、経済状況、医療体制、衛生状況など、単純に比較出来ない要素も大きく、著者の結論にある、現在の企業や利害関係者、労働者の在り方についても一般的に認識されていることであり、ことさらそこに感染症の影響を見出すことは、やや無理があるのではないかという印象を個人的には覚えました。
 とはいえ感染症を基軸に日本企業の経営変遷を振り返ろうとする著者の試みはユニークであり、あまり知られることのなかった企業史や経営史の一部に触れることの出来た点において、本書は一読する価値のあった1冊でした。

                        中央経済社 2021年5月10日 第1版第1刷発行

2021- 5-16  Vol.412
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【概要】 

 
  現在、3度目の新型コロナウィルス感染症「緊急事態宣言」が発令されている日本。5/14現在、発令されている地域は、北海道、東京都、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、福岡県の9都道府県ですが、今後更に対象地域が広がる可能性が高い状況となっています。

 ちょうど1年前のこの時期「特別定額給付金」として、一人10万円の現金が一律支給されたことを覚えてらっしゃいますでしょうか。

 近年、着目を集めてきた社会保障制度に「ベーシックインカム(基本所得、Basic Income、BI)」があります。
これは、政府から国民全員に、毎月一定額を無条件で交付しようとする制度で、貧困、少子化対策や労働環境改善につながるメリットがあるとされる一方で、財源の確保や労働力低下懸念などのデメリットも予想され、主要国でも本格的に導入しているところはありません。
 しかし今回のコロナウィルス感染症影響により、国民に対し一時給付を行った国は少なくなく、わが国における「特別定額給付金」も一時的なBI(ベーシックインカム)と位置付けることが出来ます。
 コロナウィルス感染症の終焉もなかなか見えない中、今後各国でBI導入を巡る動きが活発になっていくことは想像に難くありません。

 コロナウィルス感染症にかかる経済対策のみならず、30年来の経済停滞に悩まされる日本では、BI(ベーシックインカム)の様に政府がお金をバラまいて需要を喚起し、緩やかなインフレ好況を作りだし、それを持続させることが不可欠であると説いたのが本書。
 駒澤大学経済学部准教授、経済学者である井上智洋さんの手によります。

【構成】

 全4章で構成された本書。第1章では、コロナ不況下における経済政策のあり方について論じ、第2章ではBI(ベーシックインカム)の必要性を説きます。第3章では国家財政と近年話題のMMT(現代貨幣理論)について触れ、終章の第4章では経済成長必須論への疑問を呈し、本書をまとめています。

【所感】
 
 BI(ベーシックインカム)とMMT(現代貨幣理論)を主軸に展開される本書。
昨年日本で実施された「特別定額給付金」ですが、全国民に一律支給したというのは画期的な施策であり、将来不安から貯蓄に回した方も少なくないとの指摘もありますが、白物家電の販売が増えるなど一定の経済効果はあったと言われています。
 一時金でなく、これが継続支給されるとなれば、国民の意識や消費行動が、かなり変わることは想像に難くありません。コロナウィルス感染症影響以前から日本経済低迷の要因は総じて需要不足にあるのであり、安定した生活資金確保と将来への不安が多少なりとも払拭されれば、消費意欲も生まれそうです。

 では日本でこのBI(ベーシックインカム)を導入する上では、何が課題となるのでしょうか。 
現政権の政策理念のうち、こと社会保障に関しては「自助自立を第一に、共助と公助を組み合わせる」とあります。これは個人の「自助」や家族親族・地域の「共助」で補えない部分を、政府が「公助」するということであり、一律で支援するわけではないということです。
 全国民に一律に定額を支給するBI(ベーシックインカム)は「公助」ファーストであり、政策理念に反するもの。財政健全化急務の日本にとって、政府支出を抑えたい意識が背景にあることは否定できません。ならば現在の日本で、このBI(ベーシックインカム)の実現は不可能なのでしょうか。

 要は財源をどうするかということ。そこで本書で引き合いに出されるのが、MMT(現代貨幣理論)。これは端的に言うなら「変動相場制で自国通貨を有している国家の政府は、通貨発行が可能であるため、政府支出の適否は、税収や国債残高の多寡で判断されるのではなく、インフレ率の状況による」とするもの。乱暴に言うなら、通貨を刷ることで、いくらでも資金は作れるということです。

 これにより財源は確保できるのだから、BI(ベーシックインカム)の導入は可能であること。アベノミクスの名のもとにインフレ率の目標設定をしてきたものの、ことごとく未達に終わった要因は、明らかな需要不足にあり、国民各個人の需要意欲を喚起しない限り、長期経済低迷から抜け出すことは困難というのが、本書における著者の主張と言えそうです。

 新書ということもあり、BI(ベーシックインカム)やMMT(現代貨幣理論)についてコンパクトに解説されており、読みやすい1冊でした。どちらも反主流の考えであり、実現のハードルは高そうですが、その動向には着目をしていきたいですね。


                           NHK出版 2021年5月10日 第1刷発行

2021- 5- 9  Vol.411D7CF72DA-0B24-4AB4-8996-43B088E3712A

【概要】 

 
  書籍「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズで、知られる坂本光司さん。法政大学大学院教授などを歴任された後、現在は「人を大切にする経営学会会長」を務めていらっしゃいます。
 本書は、同会と千葉商科大学が共催している「中小企業人本経営(EMBA)」プログラム参加者が取材・執筆をした内容を編纂した1冊。「非価格経営」を実践する中小企業企業24社の事例を紹介しています。
 2016年に坂本氏が出版された「さらば価格競争」という書籍を全面改訂し、さらに対象企業を加えた内容となっています。

 人は。いつの時代も「高くてよいもの」より「安くてよいもの」を求めます。それはごく自然な行動ですが、その価格が誰かの犠牲の上にかろうじて成立しているのであれば、その値決めは健全・適正とは言えません。価格とは、たかが価格ではなく、企業経営の命であり良心。よって価格は、生産者、販売者、物流業者、顧客、地域社会の「三方よし」どころか「五方よし」でなければならないと坂本氏は冒頭で語っています。

「非価格経営」とはどういったものか。またどうすれば「非価格経営」は実現できるのか。「ブランディング」「ニッチ市場」「差別化」「いい会社」といったテーマ別に事例企業が紹介されています。

【構成】

 冒頭で「非価格経営」を進める8つのポイントを紹介した後、上記テーマごとに4部(パート)にて構成されています。

【所感】

「非価格経営」の実現には「価格」でない「付加価値」をつくることが必要であり、そのためには8つのポイントがあると坂本氏は語ります。

 ①企業経営の真の目的・使命を果たす 
 ②価格は需給のバランスで決定する 
 ③価格競争型経営と段階的に決別する
 ④非価格経営を創造する
 ⑤創造型人財を確保・育成する
 ⑥外部有用経営資源を内部化して経営する
 ⑦適正な価格で経営する
 ⑧先進企業に学ぶ

 本書で紹介される企業は、上記ポイントのいくつかを実現していること。そして実践において最大の問題は、規模や業種、立地や取引先にあるのではなく、経営者自身の考え方、進め方にあるとしています。確かに本書で紹介される事例は、やはり製造業が多いのですが、美容業やクリーニング、スーパーマーケットなどの業種も挙げられていますし、年商も数千万円から数十億円と幅広いものとなっています。

 総じて言えることは「非価格経営」に踏み出すことは、非常に勇気がいるということ。
一番最初に紹介されている無添加石けんの製造販売をされているシャボン玉石けん㈱様では、無添加石けんに製品を絞った結果、月商は100分の1に100名いた従業員数が5名になってしまうなど、企業存続の危機に立たされます。
 17年間赤字を続けたのち、時代背景の変遷もありましたが、軌道に乗せることに成功します。書籍内では端的に記されていますが、事業転換を図った2代目経営者 森田光徳さんが当時抱いていた心情がどのようなものであったのかは想像にも及びません。

 同社事例に限らず「非価格経営」へ移行した大半の企業は、大きな減収減益に見舞われています。
それでも移行の手を緩めず、思いを貫き通すその強さは、どこから湧いてくるのでしょうか。
 各事例では経緯となったターニングポイントも記されていますが、共通するのは「後ろめたさや卑屈さを覚えることなく、胸を張って、堂々と商売をしていきたい。」そんな思いにあるように感じました。
 自分の気持ちに偽りがないから続けられる。偽りがないから強くいられる。偽りがないから、いつかその思いは皆に伝わる。偽りがないから、それを承継したいという人が必ず現れる。

「非価格経営」を実践する各社のビジネスモデルのユニークさに感心すると共に、そんな印象を強く抱いた1冊でした。
  
                            あさ出版 2021年4月14日 第1刷発行 


2021- 5- 2  Vol.410FD4C86AE-1D68-4E9D-85A6-12D8D815109A

【概要】 

 
   東京都台東区にある「かっぱ橋道具街」
調理器具、厨房備品など、主として「食」に関する専門店が約170軒を連ね、100年近い歴史をもつ専門店街です。
 本書は、同地区で料理道具専門店「飯田屋」を営む6代目店主 飯田結太氏の手による1冊。
 2009年に母親の後を継いで入社し店主となった飯田氏。元々精肉店のための道具専門店として繁盛してきた同店ですが、飯田氏が入社した当時は、飲食店で使われる道具なら、なんでも扱う、さして特徴のない店に。1997年頃 3億7000万円ほどあった年商は、2009年には、1億円近くにまで減少していたそうです。

 もはや廃業寸前だった同店ですが、紆余曲折の上、飯田氏が活路を見出したのは自店を「超」がつくほどマニアックな品揃えを持つ専門店にすること。そんな同店の奮闘ぶりを綴ったのが本書です。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章~2章では、主として飯田氏が入社後、数々の失敗を経て現在のお店のコンセプトに辿り着くまでの経緯を記しています。第3章~第6章では、過剰在庫、営業ノルマ、売上目標なし等、反常識ともいえる同店の運営方法について、紹介をしています。

【所感】

 さほど特徴もなく、見通しも明るくない事業を承継してしまった後継者の抱える悩み。事業内容を問わず、同じような状況にある方なら、誰しも共感できること間違いなしの本書。

 後継するも事業の立て直し方法が分からず、安売りに走り、ますます窮地に。あるきっかけを機に「超道具専門店」というコンセプトを掲げ、メディアの注目を浴びるも、従業員の反発を浴び集団退職の憂き目に。
 徐々に売上も伸びはじめ、飯田氏は従業員の待遇改善を図るため、①給与の改善 ②休暇の増加 ③福利厚生の充実 ④働いていることが恥ずかしくない職場に の4点に着手。それでも従業員が退職してしまうことに衝撃を受けます。その原因は、高圧的な態度で売上至上主義を貫き、正論で従業員を追い込んでしまった飯田氏の態度。それを変えるきっかけとなったのは、あるセミナーの受講でした。

「従業員は、あなたや、あなたの会社のために働いているのではない。自分と家族の幸せのために働いている」講師のそんな言葉が飯田氏を変えていきます。

 営業ノルマなし。売上目標なし。過剰在庫を目指し在庫回転率は無視。定例会議は廃止しも朝礼終礼は1時間たっぷりと。アルバイトは年間300万円まで、正社員は500万円まで、役職者はは2,000万円まで自由に使える裁量権を与える。一人のお客様に160時間までをかけていい。反常識ともいえる施策の数々が、同店を変えていきます。
 飯田氏が入社した2009年から、2020年までで売上は約3倍に。2020年には過去最高益を計上したそうです。従業員を大切にしたい。そんな飯田氏の言葉を裏付ける様に、本書では同店スタッフの方々も紹介されており、笑顔の写真が印象的でした。

 さて個人的に関心を覚えたのは、Amazonに代表されるネット通販の台頭に対し、同店の様なリアル店舗に勝算はあるのかという点です。飯田氏は同店において、まったく影響がないと記しています。同店もオンラインサイトを構えていますが、サイトの販売増に合わせ来店者数も増加傾向にあるそうです。その理由としてネット販売が増えれば増えるほど、そこでの不満、不便、不快、不都合といった潜在的な「不」を抱えた消費者が増加しているからだと分析をしています。
 またAmazonなどのカスタマーレビューの影響についても言及。ネットでは味わえない買い物体験の提供にこそ、リアル店舗の強みがあるとも言及をしています。
 売場面積33坪ながら8,500もの商品在庫を揃える同店。膨大な在庫は「売れ筋」ではなく「売れな筋」も扱うから。しかし「売れな筋」商品を発掘し、その魅力を伝えることにこそ、同店の様な小規模事業者は勝算があると飯田氏は記してます。十分な商品知識と、それを伝える手間。小規模な店は資金力では劣るかもしれませんが、固定費が小さいゆえ、その様な販売が可能である点が強みとも記されています。
 ユニークな商品を発掘するのみならず、今や自社企画の商品開発にも着手している同店。今後どのような展開を図っていくのか、非常に楽しみですね。

【所感】冒頭にも記しましたが、小規模事業を営む方、後継者の方にとって示唆多き本書。飯田氏が試行錯誤の末、気づいた従業員の大切さ、商売の楽しさ、面白さ。そんな思いが、ひしひしと伝わってくる1冊でもありました。お勧めです。

                         プレジデント社 2021年4月14日 第1刷発行 
 

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