
【概要】
元米海軍大佐でリーダーシップ・コンサルタントである著者の手による1冊。自身が海軍在籍時に、艦隊一のお荷物と言われた原子力潜水艦「サンタフェ」の艦長を務めた経験をもつ著者。
著者のある行動をきっかけに、お荷物とまで言われた同艦はみるみるパフォーマンスと士気を高め、海軍に要請されるあらゆる任務において好成績を収めはじめます。著者が去った後も、同艦では優秀な士官が次々と育ち、多くの艦長を輩出するようになります。はたして同艦を変えた著者の行動とは何だったのでしょうか。
海軍の仕組みは堅固であり、スケジュールや任務、様々な手順や方針、はたまた艦に乗る人員など、艦長に与えられた裁量はほとんどありません。その中で著者が変えたのは言葉遣いでした。
①他者に何かを促す言葉ではなく、自発的に動くことを表す言葉を使うようにした。
②「証明や実行」を意味する言葉に代え「改善や学習」を意味する言葉を使うようにした。
③「強さや確かさ」を表す言葉に代え、「弱さや好奇心」を表す言葉を使うようにした。
海軍退役後、リーダーシップ・コンサルタントに転じた著者は、この「言葉遣い」が、あらゆる組織において有用な効果をもたらすことを確認します。「言葉遣い」がどのように組織を変革していくのか。どうすればその様な組織風土は醸成されていくのか。そんなテーマに迫ったのが本書です。
【構成】
全11章で構成された本書。主題となるのは、第3章から第8章であり、本書帯にもある「6つのプレー」がそのテーマとなります。第3章から第8章の各章末には個々の「プレー」に関するまとめが付記されており、内容の整理に一役買っています。第9章では9つのケーススタディを紹介。また冒頭では、貨物船沈没のエピソードを取り上げ、誤った「プレー」が引き起こす悲劇について触れ、読者の関心を高める趣向がこらされています。
【所感】
本書帯にもある「プレー」という言葉。これは集団スポーツの中で用いられる「プレーブック」に端を発しています。スポーツ、特に集団スポーツでは、競技が繰り広げられている状況を読んで、どのように行動するのか、どのようなプレーを選択するのかを「プレーブック」として共有しています。
これは職場においても同じことであり、文書化されているか否かに関わらず、様々な状況下で一定のパターン化された行動がとられることが多いかと思います。本書ではそれを「プレー」と称し、この古い「プレー」がもたらす弊害と、いかにそれを刷新するかを本書の主題としています。また著者はここでいう「プレー」は「アメリカン・フットボール」のゲームをイメージしてほしいとも記しています。
さてこの古い「プレー」をどう見直すのか、本書では6つのパターンに分類し解説を行っています。
①時計に従う → 時計を支配する
②強要する → 連携する
③服従する → 責任感を自覚して取り組む
④終わりを決めずに実行する → 事前に定めた目標を達成して区切りをつける
⑤能力を証明する → 成果を改善する
⑥自分の役割に同化する → 垣根を越えてつながる
また見直しの前段階として、赤ワーク、青ワークという言葉の定義も行ってもいます。
赤ワークとは「行動を起こす、工程の一部を担う、生産するなど、何かを実行すること」であり、青ワークとは「思考力、認知能力、創造力を使って決断する仕事のこと」としており、赤ワークはバリエーションが少ないほど、有用性が高まり、青ワークはバリエーションが多いほど、有用性が高まるそうです。
赤ワークは、やるべき手順やゴールが明確であるのに対し、青ワークは、手間や労力がかかる割には、その成否も判断しづらく、また評価も行いにくいため、人はついつい赤ワークを志向してしまうそうです。そしてそれがしばしば大きな誤りを生んでしまいます。
赤ワークと青ワークをどう融合していくのか。あるいは両ワークの切り替えをどう適切に行うかが、「プレー」見直しの第一歩と言えるようです。
さて肝心の6つの「プレー」見直し手順ですが、留意点やメンバーへの質問方法、具体的な声のかけ方など細部まで踏み込んで記されている他、端的にまとめた要約も付されており、実践し易い構成となっています。
仔細については是非本書をご覧いただきたいと思いますが、リーダーシップとは自身がメンバー引っ張ることでなく、メンバー自身が考え行動することを促すこと。また僅かな言い回しの違いが、メンバーに与える影響は少なくなく、リーダーはメンバーの状況を見極め、適切な言葉を選ぶ大切さなどが繰り返し語られています。
リーダーシップの在り方として、奉仕や支援を通じメンバーの信頼を得るサーバント・リーダーシップという概念がありますが、本書を通じ、更に「言葉遣い」を意識し行動することが、より効果を高める可能性が高いのではないか。そんな印象を個人的には覚えました。
折しもコロナウィルス感染症の影響もあり、コミュニケーションの難しさが特に言われる昨今だからこそ、「言葉」を選ぶ大切さと影響の大きさを教えてくれる本書。少々ボリュームはありますが、示唆に富む1冊でした。
東洋経済新報社 2021年6月11日発行




