名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2021年06月

2021- 6-27  Vol.418C3AC5552-E603-4E44-97AE-E4B533A8DDD4

【概要】 

 ベストセラーとなった「未来の年表」で知られる河合雅司氏による1冊。少子高齢化が進む日本で今後生じるであろう諸問題を年表形式で記し、好評を博した同署の発売から4年。

 今回のコロナ禍により、大半のイベントは中止、多くの店舗が閉店を余儀なくされました。移動の自粛もあり、街から人が消えた様子は、猛スピードで人口減少の進む日本の未来を先取りして見ているかの様だと報じるメディアも少なくありませんでした。

 そんなコロナ禍は「未来の年表」にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。具体的なデータを積み上げながら、その実態を明らかにし、来るべき未来に対する方策を考えようとするのが本書です。

【構成】

 大きく2部で構成された本書。第1部では「急加速した少子化」「高齢者とコロナ自粛」「都市と地方経済」など16のテーマを取り上げ、現状と課題を明かします。第2部では日本を守る「切り札」5ケ条と称し5つの提言を挙げています。

【所感】

 表題のとおり「ドリル形式」で構成された本書。第1部で取り上げる16のテーマについて、各冒頭にクイズ形式の表題が付されています。また本文中にも、あえて「ひらがな」表記をしているキーワードがあり、著者は、その狙いを読者に積極的に考えてもらい理解を深めるためと記しています。

 さて本文ですが、冒頭で語られるのは、今回のコロナ禍が日本に与えた最大の影響は、少子化の加速であるということ。2020年の人口動態統計によれば、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に子供を産む数)は1.34。そこには、
日本の女性人口の過半数が50歳以上になったことも影響しているようです。

 また妊婦届け出数は87万2227件で過去最低、婚姻件数も激減しており2021年には40万組台に落ち込むことが予想されています。出生どころか、そもそもの婚姻者が減ることに大きな衝撃を覚えました。

 これを前提に、様々なテーマにつき考察が行われていきますが、著者が本書で一番危惧しているのは、今回のコロナウィルス感染症に対する日本や日本国民の過剰な反応。欧米に比べ圧倒的に感染者数、重病者数も少ないのに大騒ぎとなり、政府の対策もが後手に。一種の社会的パニックになった背景にこそ「社会の老化」があると指摘しています。

 個々人と同じで「若さ」を失うことで、ストレスや変化に弱くなっていくように、今は日本国家そのものが「若さ」を失い、老化により柔軟性を無くしています。
 相当前から危機的状況にあることが喧伝されきた人口減少問題についても、大胆な施策が打てず、ズルズルと無策を続けたことが、それを如実に物語っています。

 もはや打ち手はないのか。そんな失望感を覚える本書ですが、著者は日本の未来を拓くためには「若い突破力」に委ねるしかないと説きます。

 本書では、国政選挙の若者枠の新設、中学卒業からの「飛び入学」導入、「30代以下のみが住む都市」の建設など大胆な施策提案をしています。なるほど、世代間の大きな断絶を引き起こすことは、避けられないかもしれませんが、一向の余地はありそうです。

 このような施策に限らず、我々中高年以上の世代に出来ることは、自分の価値観や成功体験を若い世代に押し付けないこと。それは若者に阿るということではなく、彼らが活躍できる基盤作りを支援しつつも、我々自らもまたチャレンジマインドを持ち続けるということです。
 そして何よりも大切なことは、今の日本に漂う一種の「諦観」を次世代に引き継がせないこと。未来への希望を抱く人が増えることこそ、最大の少子化対策であり、国家の活力の原動力になるものだから。
そんな感想を抱いた今週の1冊でした。
 
                             講談社 2021年6月20日 第1刷発行


2021- 6-20  Vol.417ECFEF2BA-D1FE-402F-AE41-3AE3A299F9BE

【概要】
 
 ROCKONOMICS?
そんな単語はないのでは? そんな疑問を思いつつ手に取った本書。端的に言えば「経済学による音楽稼業の研究」ですが、決してふざけた内容ではありません。

 本書著者のアラン・B・クルーガー氏は、2011~2013年 米国大統領経済諮問委員会のトップ、オバマ大統領の経済ブレーンを務めた人物。経済学者として、どうすれば米国民が、経済に関し正しい知識を得ることが出来るのか。それ以前にどうすれば経済に関心を持ってもらえるのか。そんな疑問を抱えていた著者が辿り着いたのは音楽でした。

 政治・信仰・文化・地域・民族・人種、人は様々なバックグラウンドを抱えています。音楽は、そういったものを越えて我々をひとつにすることが出来る数少ない営みの一つ。また経済に関わる問題も我々について回ります。誰もが慣れ親しんでいる音楽を介し、経済について分かりやすく伝えることが出来ないか。そんなテーマを記したのが本書です。著者自身が相当のロック(音楽)好きというのも、その背景にはあるようです。

 著者の
アラン・B・クルーガー氏は2019年逝去。本書が遺作となります。

【構成】

 全11章で構成された本書。イントロと銘打った第1章で、本書の意図を記した後、第2章では音楽業界の経済規模などを解説。以降の章では、もう少し細分化し、人的資本としてとらえたミュージシャンの実態、スーパースターの生まれる背景、ライブ活動の経済効果、サブスクリプションの影響、知財保護などのテーマで章立てされています。
 時折、コラムと称し著者がミュージシャンや業過関係者に行ったインタビューも挿入されています。

【所感】

 音楽を切り口に経済について語ろうとする本書。
 では音楽の経済規模はどれくらいなのでしょうか。2017年のデータですが、音楽への支出は世界全体で500億ドル。世界のGDPの0.06%。
 世界全体でエンターテインメントメディアに遣われたお金は2兆2000億ドルですので、その業界の中でもわずか2%に過ぎません。そんな業界の研究から、経済を語ることは出来るのでしょうか。
 
 なるほど数多くのミュージシャンの中で、スーパースターと言われるのは、ごく一握り。その様子は、全世界的に富の偏在が進み、中間層の凋落が著しい昨今の世界を反映しているかの様です。
 またデジタル化の進展は、従来の様にCDなどの物販で収益を得ることを難しくしつつありますし、ストリーミングやサブスクリプションが台頭する中、その対応を求められている様子は、業種を問わず皆が抱えてはじめている課題なのかもしれません。

 本書では、ロック(音楽)から経済を読み解くカギとして7つのキーワードを挙げています。
 ①供給と需要 ②規模と不完全代替性 ③運 ④ボウイ仮説 ⑤価格差別 ⑥コスト ⑦お金以外の何か。
 ④と⑦以外はなんとなく内容はご理解いただけると思いますが、④のボウイ仮説とは何でしょうか。
これは、かのデヴィッド・ボウイが、「音楽はやがて水道とか電気みたいになる。年がら年中ツアーをして回る覚悟がいる(いい音楽を作ってレコードやCDを出すだけでは、ミュージシャンは食べれない時代がやってくる)」と予言していたというもので、奇しくもそれは現実のものになりつつあることに言及をしたもの。
 ⑦はそれでもロック(音楽)には、単に経済活動という言葉では括れない魅力があるという結論ともいえる内容でした。
 
 本書を通読し感じるのは、(ミュージシャンの実収入など)非公開の情報が多い音楽業界において、経済面を丹念に追っている点は興味深く、特に業界に関心の高い方なら、ここで記される様々なエピソードには心躍らされるものも少なくないのではないでしょうか。

 反面、我々の日常生活における経済活動との相似点や関連性について明確に紐づけし解説されているかというと決してそうでもなく、上記で挙げたキーワードについても、個々にまとめが付記されている訳でもないため、正直読みづらさは否めません。
 結果、本書の何から示唆を得るのかは、読み手自身にかなり委ねられている感を強く受けました。
ただ著者自身のロック(音楽)に対する思い入れの強さは、本書の端々から痛いほど感ずるところであり、個人的には決して嫌いではないのですが、読み手の好みにより評価は分かれそうな1冊でした。

                         ダイヤモンド社 2021年6月9日 第1刷発行

2021- 6-13  Vol.4160597E642-CD31-4C65-A5C8-2434E69AD84E

【概要】
 
 先のことは判らない。未来は予測出来ない。
今回のコロナウィルス感染症の流行や、その影響の大きさを考えるに、そのことを痛感されている方も多いではないでしょうか。

 予測出来ない未来に備え、今日何をすべきか考えることが、ビジネスであり人生ですが、それでも我々は未来は予測可能と考えがちです。
 たとえばビジネスの場面で広く使われるPDCA(計画・実践・評価・対処)という考えも、未来は過去の延長上にあるという前提にたっています。予測に基づいた計画が可能と考え、その予測との剥離を修正することが重要と捉えられているのです。
 
「未来は予測不能」な筈なのに、それを理解している人や組織はほぼなく、例外なく「ある程度、未来は知り得る」ことを前提に、様々な活動が今日も行われていきます。
 こと組織においては「ルール」「標準化・横展開」「内部統制」の存在が、状況への柔軟な対応を困難なものとしています。ならばこの「予測不能」を前提に、変化に柔軟に対応していくために、組織や人はどうあればいいのか。そんなテーマに迫ったのが本書です。

 特徴的なのは単に理屈を述べているのではなく、科学的なデータの裏付けに基づいた観点から論じていること。
 日立製作所フェローにして、20年ちかくウェアラブルセンサーやデータ解析の研究をしてきた著者が、ウェアラブルセンサーを身につけた被験者たちから収集したビッグデータの解析を通じ、変化の対応に柔軟な組織や人の実態を浮かび上がらせています。

【構成】

 全8章で構成された本書。第1章で、変化に対応するための4原則を明かした後、第2章~第4章ではその目的である「幸せ」について論じています。第5章~第6章では、組織運営について、第7章と第8章では、やや前章と異なり「格差」と「易」について触れています。

【所感】

 AI技術の進展によるビッグデータ解析と言われると、莫大なデータを分析することで、より正確な未来予想が出来るのではないかと、つい我々は感じがちですが、それはあり得ないと著者も断じています。ただ一定の傾向やパターンは判ると。その中から導き出されたのが、企業や組織が、多様性と変化に対応するための4原則。

 ①実験と学習を繰り返す 
 ②目的にこだわり、手段にこだわらない
 ③自己完結的な機動力をもたせる
 ④「自律的で前向きな人」づくりに投資すること

 これは個人にも当てはまると著者は説きます。本書では「幸せとは何か」についても論じていますが、興味深いのは、上記に挙げた4原則を実践できる人々への考察。
 この様なポジティブで高いパフォーマンスを発揮する人達は、それが出来るから「幸せ」なのではなく「幸せ」だから、その様な行動がとれるのだとデータから導き出します。
 「幸せ」には二つの側面があるそうで、それは手段としての「幸せ」と身体的な変化。
「何を幸せ」と感じるかは人それぞれであり、そのための手段は多様なため一律には論じられません。一方、データ解析により「幸せ」を感じるとき、感情のポジティブな度合いが高まる様子が生化学的な反応として見てとれるとのこと。

 そこから「幸せな組織」の4つの特徴(頭文字をとってFINE)を紹介しています。

 ①Flat(均衡)・・・・・人と人のつながりが特定の人に偏らず均等
 ②Improvised(即興的)・・・・・5分から10分程度の短い会話が高頻度に行われている
 ③Non-verbal(非言語的)・・・・・会話中に身体が同調してよく動く
 ④Equal(平等)・・・・・発言権が平等

 また「幸せを高める能力」として4つ
(頭文字をとってHERO)を紹介しています。

   ①Hope・・・・自ら進む道を見つける力
 ②Efficacy・・・・・現実を受けとめて行動を起こす力
 ③Resilience・・・・・困難に立ち向かう力
 ④Optimisim・・・・・前向きな物語を生み出す力
 
 この4つは「心の資本」とも呼べるものであり、変化に柔軟な組織、幸せな組織とは、構成員が互いの「心の資本」を高めることが出来ることの出来る組織であり、互いが互いの幸せを願える組織と著者は論じています。
 またその変化は、メンバーが周囲を明るく元気にしているかで決まるとし、これもデータの裏付けをとっている点には驚かされました。

 変化への柔軟な対応 → 他者を幸せにすること
 
 と一足飛びに書いてしまうと、やや突飛な印象を受けてしまいますが、一連の展開の中では納得感をもって受け止めることが出来ました。

 やや毛色は変わりますが、著者は変化への対応として「易」についての理解も提案しています。
仔細は省略しますが、予測不能な未来への対処は今に始まったことではなく、その変化に体系的に対応する方法として、2000年以上前に記された「易」から学ぶ点は多いと著者は説きます。
「論語」が広く読まれているのに対し「易」はあまり知られておらず、その有効性とそれを取り入れる訓練方法について論じている点も印象に残りました。

 タイトルから推測した内容とは、やや異なった結論と印象を得た本書ですが、示唆多き有益な1冊であり、変化に対応していこうという前向きな気持ちを鼓舞する1冊でした。

                                  草思社 2021年5月14日

2021- 6- 6  Vol.4153B30F797-3A8D-450C-9049-52C2C00F32BA


【概要】
 
 アフリカと聞いて、みなさんはどんなイメージをもたれるでしょうか。豊かな自然や野生動物、貧困、開発途上、紛争・内戦 etc
 もちろんこれもアフリカの一端ですが、それはほんの一部に過ぎません。
 54ケ国から構成され、その総国土面積は3,022万k㎡。日本の約80倍になります。東西の距離約7,400㎞、南北約8,000㎞と広大なものであり、国や地域によって、その発展具合も様々です。
 東アフリカのケニア共和国では新幹線が走り、その首都ナイロビには大型ショッピングモールを含め近代的な建物が並びます。

 こと経済面に目を向ければ、アフリカ全体の実質GDPは2兆4,000億ドル(2017年)、日本円にして約250兆円にのぼります。アフリカ全土の総人口は約10億人ですが、
注目すべきはその人口構成。中位年齢が20代の国も少なくなく、国によっては10代のところもあり、今後大きな経済成長を果たすことは想像に難くありません。
 本書は、そんな知られざるアフリカの実態、特に経済面やビジネス面を紹介しようとする1冊。
外資系コンサルティングファームなどを経て、現在は新興国でのコンサルティングや事業投資を行う傍ら、自らもルワンダでマカダミアナッツ農園を共同経営している著者の手によります。

【構成】

 全10章で構成された本書。アフリカ全土の概要に始まり、経済、社会、暮らしの実態を紹介する他、ビジネススケール、ビジネスチャンス、イノベーションといったテーマに1章ずつを充て、終章の第10章では、アフリカ進出成功のポイントに触れ、まとめています。
 また各章の冒頭には「アフリカ・ファクトフルネス」と銘打った2~3程度の設問が設けられており、各章の理解に一役買っています。

【所感】

 さて本書副題にある「LEAPFROG」ですが、どんな意味かお分かりになりますでしょうか。
直訳するなら「蛙飛び」ですが、一般的には遊びの「馬飛び」を指すようです。そこから派生し、新興国が先進国から遅れて新しい技術に追いつく際に、通常の段階的な進化を踏むことなく、途中の段階を全て飛び越えて、一気に最先端の技術に到達してしまう現象のことを指しています。
 
 ことアフリカで言えば、電気や通信インフラ整備が整わずとも、成人の大半がスマホを持っていたり、またそれに付随しモバイルマネーの普及率も高いなど、後発ゆえに先進国よりも進んでいる部分も少なくありません。
 本書帯で推薦文を寄せている大前研一さんは、現在のアフリカは高度経済成長の入口に入っており、50年前の日本、25年前の中国、10年前のインドがそこにあると語っています。つまり日本人は、これからアフリカがどのような成長を遂げるのか、その答えを知っていると。
 日本自らの経済成長体験に加え、この「LEAPFROG」現象を理解することに、ビジネスチャンスを見出すことが出来るのではないか。本書を上梓した著者も思いは同じなのかもしれません。
 
 さて現在、アフリカに進出している日本企業は、約500社、800拠点。日本人の数は2019年の外務省統計では7,500人。1960年代~1970年代には、現在の3倍の日本人がいたそうです。日本は高度経済成長期。アフリカも各国の独立が相次ぎ、繊維、家電、自動車と生活必需品を求める中。安価な日本製品がもてはやされていたと。その後、日本ではバブル崩壊。アフリカは資源価格、一次産品の価格低迷、世情不安で経済成長は止まり、多くの日本企業は徹底をしていきます。
 その後は韓国企業や中国企業の進出が始まります。特に2003年以降には中国企業の大規模進出により資源バブルが始まり、併せて行われたインフラ投資もあり、急成長を迎えているのが現在。

 ことインフラ受注については、中国とアフリカでは物価水準が近く、中国での見積金額をアフリカに持ち込んでも、ほぼ大差がないことから、商談や施工が早く圧倒的な強さを示しており、日本企業がその牙城を崩すのは難しいようです。

 中国の後塵を拝した感が強い日本ですが、近年再度進出企業も増えており、自動車関連や大手商社を除く中で最大の成功を収めている企業としてカネカと味の素を取り上げています。

 特にカネカは、ウィッグ(かつら)用の人工毛髪で圧倒的な支持を得ているとのこと。意外に感じますがアフリカの女性は髪型に敏感であり、ファッションとしてのウィッグに非常に関心が高いとのこと。そういった消費にお金を惜しまない層がいることには、正直驚きを隠せませんでした。

 今後日本企業がアフリカ進出するパターンには、①資源獲得の場 ②将来の有望市場 ③生産拠点 ④新たなビジネスモデル発掘と実験の場の4つが考えられるそうですが、特に日本が力をいれるべきは④であり、数年後を見越した②も有望ではないかとしています。発展途上にあるがゆえ、規制や既得権者が少なく新規事業を起こしやすいことが、その背景にはあるようです。
 先ほどのカネカの事例の様に、意外な市場がある可能性も高く、先入観をもたず向き合うことにビジネスチャンスはありそうです。

 知られざるアフリカ経済の現状を丹念に伝え、非常に興味深い内容となっている本書。コロナウィルス感染症もあり、まだまだ現実の渡航は難しそうですが、その現状をこの目で見たい。そんな思いを強く抱かせてくれた1冊でした。

                            東洋経済新報社 2021年6月10日発行

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