
【概要】
ベストセラーとなった「未来の年表」で知られる河合雅司氏による1冊。少子高齢化が進む日本で今後生じるであろう諸問題を年表形式で記し、好評を博した同署の発売から4年。
今回のコロナ禍により、大半のイベントは中止、多くの店舗が閉店を余儀なくされました。移動の自粛もあり、街から人が消えた様子は、猛スピードで人口減少の進む日本の未来を先取りして見ているかの様だと報じるメディアも少なくありませんでした。
そんなコロナ禍は「未来の年表」にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。具体的なデータを積み上げながら、その実態を明らかにし、来るべき未来に対する方策を考えようとするのが本書です。
【構成】
大きく2部で構成された本書。第1部では「急加速した少子化」「高齢者とコロナ自粛」「都市と地方経済」など16のテーマを取り上げ、現状と課題を明かします。第2部では日本を守る「切り札」5ケ条と称し5つの提言を挙げています。
【所感】
表題のとおり「ドリル形式」で構成された本書。第1部で取り上げる16のテーマについて、各冒頭にクイズ形式の表題が付されています。また本文中にも、あえて「ひらがな」表記をしているキーワードがあり、著者は、その狙いを読者に積極的に考えてもらい理解を深めるためと記しています。
さて本文ですが、冒頭で語られるのは、今回のコロナ禍が日本に与えた最大の影響は、少子化の加速であるということ。2020年の人口動態統計によれば、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に子供を産む数)は1.34。そこには、日本の女性人口の過半数が50歳以上になったことも影響しているようです。
また妊婦届け出数は87万2227件で過去最低、婚姻件数も激減しており2021年には40万組台に落ち込むことが予想されています。出生どころか、そもそもの婚姻者が減ることに大きな衝撃を覚えました。
これを前提に、様々なテーマにつき考察が行われていきますが、著者が本書で一番危惧しているのは、今回のコロナウィルス感染症に対する日本や日本国民の過剰な反応。欧米に比べ圧倒的に感染者数、重病者数も少ないのに大騒ぎとなり、政府の対策もが後手に。一種の社会的パニックになった背景にこそ「社会の老化」があると指摘しています。
個々人と同じで「若さ」を失うことで、ストレスや変化に弱くなっていくように、今は日本国家そのものが「若さ」を失い、老化により柔軟性を無くしています。
相当前から危機的状況にあることが喧伝されきた人口減少問題についても、大胆な施策が打てず、ズルズルと無策を続けたことが、それを如実に物語っています。
もはや打ち手はないのか。そんな失望感を覚える本書ですが、著者は日本の未来を拓くためには「若い突破力」に委ねるしかないと説きます。
本書では、国政選挙の若者枠の新設、中学卒業からの「飛び入学」導入、「30代以下のみが住む都市」の建設など大胆な施策提案をしています。なるほど、世代間の大きな断絶を引き起こすことは、避けられないかもしれませんが、一向の余地はありそうです。
このような施策に限らず、我々中高年以上の世代に出来ることは、自分の価値観や成功体験を若い世代に押し付けないこと。それは若者に阿るということではなく、彼らが活躍できる基盤作りを支援しつつも、我々自らもまたチャレンジマインドを持ち続けるということです。
そして何よりも大切なことは、今の日本に漂う一種の「諦観」を次世代に引き継がせないこと。未来への希望を抱く人が増えることこそ、最大の少子化対策であり、国家の活力の原動力になるものだから。
そんな感想を抱いた今週の1冊でした。
講談社 2021年6月20日 第1刷発行