名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2021年07月

2021- 7-25  Vol.42380ECD4B1-8C3C-48C6-8B9F-0E4920D9B35D


【概要】
 

 企業の持つ素晴らしい技術やアイデアを知的財産化させ新市場創造の支援を行う特許事務所 JIPS(日本知財標準事務所)
 https://www.ipstandard.jp/ 本書は同事務所の手による1冊です。
「ものづくり大国」を自称し、その価値を世界中の人々に認められてきた日本。先進国の中でも特に低成長にあえぐ日本ですが、それでも名目GDPのランキングは世界第三位。
 しかしそんな日本のものづくりが「ガラパゴス化」していると言われたら、皆さまはどう思われるでしょうか。

 資源の乏しい国だけに、国外から原材料を調達し、それを製品化して付加価値をつけることで、経済成長を実現してきた日本。そのものづくりが行き詰りつつある中、日本はどこに活路を見出せばいいのか。
 それは「もの」という有形資産ではなく、「技術や文化」という無形資産にあると、本書は説きます。しかも単に技術を売るのではなく、その技術を国際標準にして縛って普及させる。そんな戦略が今後の日本には不可欠であると。ならばどう動けばよいのか。そんな提言を記したのが本書です。

【構成】

 全5章で構成された本書。第1章~第3章までは、日本のものづくりの何が「ざんねん」なのかを、様々な実例を引き合いに解説。後半の2章では、数は少ないものの日本の成功事例を紹介しつつ、今後とるべき戦略について言及しています。

【所感】

「もの」という有形資産での差別化が難しくなるなか、日本の高い「技術や文化」を国際社会に理解してもらうには、国際的にもわかりやすいルールを日本から提案し、世界的にスタンダードになるように努めていかなければならない。本書の主張はそこにあります。

 柔道と剣道、(お茶の)表千家と裏千家など、同じ日本発の武道や茶道であっても、うまくルールを変えることでグローバルに広がり普及した柔道や裏千家、一方伝統を重んじた結果、日本国内で「ガラパゴス化」してしまった剣道と表千家。

 優れた品質を持ちながら、種苗という大切な技術を流出させ、大きな経済損失を被ってしまった、日本のイチゴ、サツマイモ、葡萄などの農産物。
 運航技術を輸出できないJR。iモードなど革新的な携帯通信の技術を確立しながらも、その先見性を生かしきれなかったNTT。開発中断を余儀なくされた国産ジェット機MRJの三菱重工。
これでもかと紹介される日本の「ざんねん」な事例の数々。

 共通するのは、日本の常識や規制に囚われた結果、せっかく世界基準を狙える立場にありながら、いとも簡単に転がり落ちってしまったり、そもそもその舞台にも立てなかったということ。

 数少ない成功事例としては、1994年、デンソーの開発した「QRコード」が紹介されています。
デンソーはQRコードの使用を無償で公開して規格化、生成装置の特許も公開して普及(オープン)させました。一方読み取りシステムは有償(クローズド)にしています。

 技術の一部を公開することで仲間やユーザーを増やし普及を促し、2000年にはISO規格を獲得しています。特許そのものは20年で効力が切れてしまいますが、「QRコード」という商標権(ブランド)は永久権であり、この商標をコントロールすることで、プロダクトの品質と利益を確保していくことが出来るといいます。
 これからの日本の「ものづくり」はデンソーの事例の様に「知的財産」をうまく活用し、新しい技術やサービスの特許を一部開放して「標準」化し、同業他社をひきつけ普及促進を図ること。
「知的財産」は利益獲得の源泉であり、
「標準」は市場シェア拡大の源泉。特許=「知的財産」ではなく、特許を含めた製品ヤサービスのあり方全体のコントロールが重要になると説いています。

 具体的な実践手順、特に「標準化」については、図示も交え記述もありますが、著者の営業的な側面もありますので、ここでの紹介は割愛させていただきますが、本書の事例を読みながら、今後のビジネスで「知的財産」を意識するのは当然としても、我々が慣れ親しんだ枯れた技術や文化であっても、実は普及方法を改めて検討することで活路を見出せるものは、意外と多いのではないか。個人的には、そんな感想を抱いた1冊でした。

                          総合法令出版 2021年7月21日 初版発行

2021- 7-18  Vol.421272CEDDE-951F-4E4A-AFBA-B5C37AD1D0C5

【概要】
 
 パソコンやスマートフォンから利用できる個人向け家計簿アプリ「マネーフォワードME」や、会計業務、請求業務、給与計算など業務系の「マネーフォワード クラウドシリーズ」といったサービスを提供している株式会社マネーフォワード  https://corp.moneyforward.com/ 

 2012年5月に創業。2017年9月には東証マザーズに上場。主力サービスである「マネーフォワードME」の利用者は2020年4月に1000万人を突破しています。

 2020年11月期の決算報告によれば、連結売上高は、前年同期比+58%の113.2億円。売上総利益は
 前年同期比+76%の76.2億円、経常利益は△25.3億円となっています。創業からわずか10年ながら、SaaSやFinteckといった事業領域では、日本でも有数の知名度や存在感を示す企業となっています。今後の更なる成長が期待されており、本年(2021年)6月には、東証1部へ市場変更を果たしています。

 本書は、そんな同社の創業者である辻庸介氏が綴った創業奮闘記。
 京都大学卒。2001年ソニー㈱入社。2004年にはマネックス証券㈱創業に参画。同社在籍時にペンシルバニア大ウォートン校でMBAを取得。しかも同氏の祖父は、シャープ㈱の3代目社長を務めた辻晴男氏だといいます。その華々しい経歴に目を奪われがちですが、本人はいたって弱い人間、失敗だらけの人間だと冒頭で語っており、マネーフォワードも思いだけが先行し、その創業は稚拙で泥臭いものだったと辻氏は語ります。
「成功するまでやり続ければ、致命的な失敗にはならない」大いに失敗を語り、次に生かしていこう。本書はそんな辻氏のポジティブな思いが詰まった1冊となっています。

【構成】

 全7章で構成された本書。創業から概ね2017年の上場あたりまでを中心に、時系列で記されています。本文のほか、辻氏が経営の参考に読んできた書籍一覧、本書登場人物の紹介、マネーフォワード年表などが付されています。

【所感】

 起業のきっかけは、2つの憤りにあったと辻氏は語ります。一つ目はソニー勤務時代の経験。経理部に配属され、紙ベースの経理業務の生産性、効率性の低さにうんざりしてきたこと。もう一つは海外留学を経て感じた日本人や日本のビジネスの元気のなさ。
 憤りはあるも、果たして何から始めたらよいのか。紆余曲折を経て辿り着いたのは、日本人一人一人がパワーをもつことの重要性。個人のパワーの源泉はお金であるにも関わらず、どうも日本人はとかく「お金」に対してネガティブな印象を抱きがちです。そんな日本人のお金のリテラシーを高めたい。そんな思いが創業を決意させます。
 
 思いは強いも、開発者目線で作られた、最初のサービス「マネーブック」は惨敗。ただ創業メンバーの一人に「アカウントアグリゲーションエンジン(各金融機関の口座情報を集約するシステム)」をつくれるエンジニアを擁していたことから、個人の金融資産を集約する機能をもたせた「マネーフォワード」を開発し、事業が動き始めます。
 
 資金調達の苦労。金融機関のサーバー負荷問題から受ける接続拒否。急成長に伴う組織のひずみ。創業メンバーの離脱。技術をめぐる特許訴訟。様々な苦難が辻氏や同社に巻き起こります。

 数多くの失敗を繰り返しながらも、要所要所でキーマンとなる方と出会い、難局を乗り越えていきます。同社の掲げるミッションやビジョンへの共感や「自分は弱い経営者」と語る辻氏を応援したいとの思いを抱く方も多いのでしょうね。

 社会を変えたいという熱いビジョン、優れた製品やサービス、安定した資金調達。スタートアップ企業に必要なものはたくさんありますが、何より大切なのは、まずは経営トップが愛され支持されること。いい意味で「人たらし」であることこそ、実は経営者にとって一番必要な資質ではないか。そんな印象を強く抱いた次第です。まずは経営者自らが、皆に慕われ愛されなくては、そんな経営者が起こした企業や事業が愛される訳はないということなのでしょうね。

 辻氏が創業する際、在籍していたマネックス証券㈱の代表、松本大さんから「会社は失敗するかもしれないが、お前の人生は続く。それを忘れないようにしなさい。」という言葉をいただいたそうです。
 たとえ経営がうまくいかなくても、取り繕ったり、嘘をついたり、誰かを騙したりしてしまえば、人生そのものが終わる。人として恥ずかしくない生き方だけは守りなさい。
 そう辻氏は心に留めたそうです。失敗してもいい負けてもいい。そこに後ろめたさがなければ、必ず再起できるし次に活かせるから。起業家のみならず、あらゆる人が意識すべきことかもしれません。

                         日経BP 2021年6月28日 第1版第1刷発行

2021- 7-11  Vol.420
79E21E95-8F19-410A-AA8A-EC234F81E9B9

【概要】
 
 ドムドムハンバーガー https://domdomhamburger.com/
 みなさん覚えてらっしゃいますか?

 かつてダイエーの子会社オレンジフードコートが運営をしていたハンバーガーチェーン店。ドムドムとは、ダイエーの企業理念「よいものをどんどん安く」のどんどんから派生したものだそうです。
 1970年2月東京都町田市のダイエー店舗前に、日本初のハンバーガーショップとして開店。最盛期の1990年代には全国に約400店舗を構えるも、現在営業しているのはFCを含め27店舗のみ。
まさに本書帯にある絶滅寸前のチェーン店となってしまった、ドムドムハンバーガー。
 2017年7月、ホテル事業や事業再生を行うレンブランドグループが同社を買収、事業再生に乗り出します。そんな同社の代表を務めるのが本書著書の藤﨑忍さん。50歳にして同社に入社。入社前まで新橋で居酒屋のおかみをやっていた異色の経歴。入社からわずか9ケ月で同社の代表となった彼女の奮闘を記したのが本書です。
 
【構成】

 全7章で構成された本書。ドムドムハンバーガーについて記されているのは、後半の4章以降。
前半3章では、39歳まで専業主婦だったという自身の半生を振り返りつつ、アパレルショップ店長から居酒屋おかみを経て、ドムドムハンバーガーに参画するまでを綴っています。

【所感】

 プロ経営者でもない自分が、ビジネス書を上梓していいのか。正直そんな感想を抱いていたという藤﨑さん。区会議員だった夫の落選と病気を機に生活のため、知人の伝手で39歳にして渋谷109のショップ店長となります。自身より一回りも若い店員を盛り立て、独自の企画や管理で同店を繁盛店に。

 経営方針の変更から、同社を退職した後は、なんと新橋の居酒屋でアルバイトを始めます。
わずか5ケ月で、バイトする店舗の近隣で空きテナントが出たことを機に独立。自身の店舗を構えます。ほどなく繁盛店となり2店舗へもオープンへ。

 居酒屋の常連だったレンブランドグループ幹部の誘いで、ドムドムハンバーガーの新メニュー開発に関わったことを機に同社へ転じ、ほどなく社長に。

 稀有な経験の連続。しかも本人があまり意図することなく、次々と展開していく様は、小説やドラマでもなかなかお目にかかれません。出版社から声がかかったのも、納得ですね。
 社会人経験がほぼなく、経営に関して学んだこともない藤﨑さん。アパレルショップや居酒屋の成功。ドムドムハンバーガーでの業績回復などを振り返り、自身の強みについて「目の前のことに夢中になれること」「常に不安で発展途上という意識」「人の心を思うことの大切さ」の3つを挙げています。
 特に生家が事業をしており、また父親が地方議員をしていた関係から、幼少期から人と接すること。人を大切にすることを教え込まれてきたことが、大きな資質となっているようです。
 人(お客様)に喜んでらうためには、どうしたらよいのか。中途半端に社会人経験がない分、なまじ先入観をもたず、素直に行動に移せる点こそ、最大の成功要因ではなかったかと、感じる次第です。

 さて肝心のドムドムハンバーガーですが、企業研究の書籍ではないため、沿革やなぜ凋落したのかについての解説があるわけでもありません。経営母体が二転三転しており、正確な記録もあまり残っていないそうです。

 店舗数も減り、凋落著しの感もありますが、実は認知度は非常に高く、同店の発売する新メニューは、しばしばSNS上で話題になります。またコラボ商品やイベント企画に声がかかることも少なくないそうで、その理由を藤﨑さんは、ドムドムハンバーガーの創業から最盛期を知る人たちが、社会で決定権をもつ世代になったからではないかと分析しています。

 子供時代を懐かしく思い出したり、「まだ頑張ってるんだ」とあたかも絶滅危惧種を応援しようとするかの様な気持ち。郷愁・愛情・期待、そんな入り混じった思いが、店頭に足を運んだり、様々な提携話が持ち込まれる理由ではないかと。
 
 実はドムドムハンバーガーは、再生計画の中に100店舗を目指すという目標があるそうです。
しかし藤崎さん自身は、100という数字を公言したことはないそうです。オペレーションや様々な制度面の整備など、同社にはまだまだ改善すべき課題が山積みだといいます。
 やみくもに数を追うよりも、同社を支持してくれる既存顧客の期待を裏切らない商品開発や店舗運営に徹し、事業としての足元を強くすることを優先したいと考えているようです。そして創業から50年を超えた同社を、これから50年後も愛されるブランドとして支持してもらうため、お客様や従業員、同社を取り巻く人々に愚直にまっすぐに向き合っていきたい。そんなことを記し本書は結ばれています。

                         ダイヤモンド社 2021年7月6日 第1刷発行

2021- 7- 4  Vol.419A0EFB570-ECB5-4DCE-9EBE-F2B87DAA04A4

【概要】 

「~即戦力採用ならビズリーチ」
 女優の吉谷彩子さんが、人差し指を立てて、そう語るCMをご覧になった方も多いのではないでしょうか。
 日本発の「求職者課金型」転職サービスであるビズリーチ。
仕事を探す求職者の職務経歴を蓄積したオンライン・データベースを運用。人材を探す企業や人材紹介会社は、直接このデータベースにアクセスし採用や転職斡旋に利用します。
 画期的なのは、求職者自ら費用負担し登録を行うこと。結果、意識が高く真剣に求職する人が集まりデータベースの価値も高まります。同社公式サイトによれば、登録された人材数は123万人以上。累計で15,500社を超える企業が利用をしているそうです。
 同社の持株会社である株式会社ビジョナルは、2021年4月22日、東証マザーズに上場。公募売り出し5,000円に対し、初値は7,150円、終値は7,000円を付け、上場初日の時価総額は2,400億円超に達し、マザーズ市場時価総合ランキングでは5位にランクインした大型上場となりました。

 本書は、そんなビズリーチの創業から上場までの経緯を追ったノンフィクション。
同社のビジネスに迫るのは、もちろんのこと、同社を創業した南壮一郎氏に強くフォーカスした1冊。
 その理由を著者は、南氏がビズリーチに固執することなく後進に経営を譲り、次から次へと新たな事業を立ち上げる、その姿勢にあるとしています。何がこの稀有な起業家を育んだのか。そしてこれからどこに向かおうとしているのか。そんな関心が本書執筆のきっかけとなったようです。

【構成】

 全8章で構成された本書。第1章で上場のエピソードを綴ったのち、第2章以降は、ほぼ時系列で綴られます。創業前に勤めた楽天イーグルス時代にも1章を割いている他、巻末では南氏の知人である小林りん氏が、本書タイトルに込められた意味も含め、解説を寄せています。

【所感】

 2009年4月創業。そのビジネスモデルは、これまで求人広告や人材紹介会社を介するしかなかった中途採用のあり方を大きく変えました。リーマンショック後の景気拡大局面、就職、転職に関する人の意識の変化という追い風もありましたが、その原動力となったのは、創業の際に南氏の立てた仮説の確かさにあります。
「今ある社会の課題を解決するためには、何をすべきか」その卓越した「問いを立てる力」こそ、南氏の真骨頂。自身の資質もありますが、それを大きく育んだのは、南氏が創業前に勤めた「東北楽天イーグルス」での経験。

 2004年、半世紀ぶりに誕生したプロ野球チーム「東北楽天イーグルス」。初年度は38勝97敗1分。記録的な勝率の低さが注目されましたが、大半のプロ野球関係者の興味を集めたのが、同球団の初年度収支が黒字であったこと。当時パリーグは全球団が赤字。ましてや新規参入した初年度に黒字を叩き出すなどあり得ないこと。
 そのあり得ないことの起こった現場に南氏はいました。当時外資系金融機関にいた南氏は、楽天がプロ野球に参入すると聞きつけるや、あらゆる伝手を使い、楽天グループ代表の三木谷氏と接触。直談判し入社します。後の正規募集時には25人の採用枠に7,000人以上が殺到した狭き門であり、南氏の先見の明もさることながら、入社を直談判したその行動力に驚かされます。

 ビズリーチ創業を記した本書ですが、実は個人的に一番興味を覚えたのは、この楽天イーグルス時代を記した第2章でした。
 三木谷氏を含めた3名との出会い。楽天イーグルスの母体「楽天野球団」取締役事業本部長の小澤隆生氏、球団代表の島田亨氏、そして三木谷浩史氏。
 徹底的なリサーチを重ね問を立てる方法論を教えた小澤氏。マネジメントの肝を教えた島田氏。大義の大切さ、成果を測定し数値化する重要性を教えた三木谷氏。

 仔細については、本書に詳しいのですが、事業を立ち上げ、継続発展させるための要諦。全てのビジネスパーソンが持つべき意識。それは
徹底して考えること。本書タイトルにもある「突き抜けるまで問い続ける」こと。「あなたはそれが出来ているのか?」

 ビズリーチという新たなビジネスモデル。南壮一郎という新たな起業家の誕生、その経営スタイルを丹念に追いつつも、著者が我々に伝えたい一番の思いはそこにあるのではないか。そんな印象を抱いた本書。一企業の創業ストーリーに収まらない示唆多き1冊でした。 

 

                        ダイヤモンド社 2021年6月29日 第1刷発行

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