【概要】
企業の持つ素晴らしい技術やアイデアを知的財産化させ新市場創造の支援を行う特許事務所 JIPS(日本知財標準事務所)
https://www.ipstandard.jp/ 本書は同事務所の手による1冊です。
「ものづくり大国」を自称し、その価値を世界中の人々に認められてきた日本。先進国の中でも特に低成長にあえぐ日本ですが、それでも名目GDPのランキングは世界第三位。
しかしそんな日本のものづくりが「ガラパゴス化」していると言われたら、皆さまはどう思われるでしょうか。
資源の乏しい国だけに、国外から原材料を調達し、それを製品化して付加価値をつけることで、経済成長を実現してきた日本。そのものづくりが行き詰りつつある中、日本はどこに活路を見出せばいいのか。
それは「もの」という有形資産ではなく、「技術や文化」という無形資産にあると、本書は説きます。しかも単に技術を売るのではなく、その技術を国際標準にして縛って普及させる。そんな戦略が今後の日本には不可欠であると。ならばどう動けばよいのか。そんな提言を記したのが本書です。
【構成】
全5章で構成された本書。第1章~第3章までは、日本のものづくりの何が「ざんねん」なのかを、様々な実例を引き合いに解説。後半の2章では、数は少ないものの日本の成功事例を紹介しつつ、今後とるべき戦略について言及しています。
【所感】
「もの」という有形資産での差別化が難しくなるなか、日本の高い「技術や文化」を国際社会に理解してもらうには、国際的にもわかりやすいルールを日本から提案し、世界的にスタンダードになるように努めていかなければならない。本書の主張はそこにあります。
柔道と剣道、(お茶の)表千家と裏千家など、同じ日本発の武道や茶道であっても、うまくルールを変えることでグローバルに広がり普及した柔道や裏千家、一方伝統を重んじた結果、日本国内で「ガラパゴス化」してしまった剣道と表千家。
優れた品質を持ちながら、種苗という大切な技術を流出させ、大きな経済損失を被ってしまった、日本のイチゴ、サツマイモ、葡萄などの農産物。
運航技術を輸出できないJR。iモードなど革新的な携帯通信の技術を確立しながらも、その先見性を生かしきれなかったNTT。開発中断を余儀なくされた国産ジェット機MRJの三菱重工。
これでもかと紹介される日本の「ざんねん」な事例の数々。
共通するのは、日本の常識や規制に囚われた結果、せっかく世界基準を狙える立場にありながら、いとも簡単に転がり落ちってしまったり、そもそもその舞台にも立てなかったということ。
数少ない成功事例としては、1994年、デンソーの開発した「QRコード」が紹介されています。
デンソーはQRコードの使用を無償で公開して規格化、生成装置の特許も公開して普及(オープン)させました。一方読み取りシステムは有償(クローズド)にしています。
技術の一部を公開することで仲間やユーザーを増やし普及を促し、2000年にはISO規格を獲得しています。特許そのものは20年で効力が切れてしまいますが、「QRコード」という商標権(ブランド)は永久権であり、この商標をコントロールすることで、プロダクトの品質と利益を確保していくことが出来るといいます。
これからの日本の「ものづくり」はデンソーの事例の様に「知的財産」をうまく活用し、新しい技術やサービスの特許を一部開放して「標準」化し、同業他社をひきつけ普及促進を図ること。
「知的財産」は利益獲得の源泉であり、「標準」は市場シェア拡大の源泉。特許=「知的財産」ではなく、特許を含めた製品ヤサービスのあり方全体のコントロールが重要になると説いています。
具体的な実践手順、特に「標準化」については、図示も交え記述もありますが、著者の営業的な側面もありますので、ここでの紹介は割愛させていただきますが、本書の事例を読みながら、今後のビジネスで「知的財産」を意識するのは当然としても、我々が慣れ親しんだ枯れた技術や文化であっても、実は普及方法を改めて検討することで活路を見出せるものは、意外と多いのではないか。個人的には、そんな感想を抱いた1冊でした。
総合法令出版 2021年7月21日 初版発行