名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2022年02月

2022- 2-27  Vol.454 4C2920F4-FABF-4023-844A-4909CCF539DC

【概要】
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 デパ地下の食料品売場で、よく見かけるこのロゴ。サラダを中心とした惣菜を販売しており、実際に購入されて食べた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 同ブランドを展開するのが、株式会社ロック・フィールド。社名の由来は、創業者の岩田弘三氏の苗字から。1965年、25歳の時に神戸市内でレストラン「フック」を開店。ほどなく繁盛店となります。1971年欧米に視察旅行に出かけた岩田氏は、各国で出会ったデリカッセンに衝撃を受けます。レストランに引けを取らないクオリティの惣菜を持ち帰り、自宅での食事を楽しむ人々を見て、そこにビジネスの可能性を見出し、日本でもこのデリカッセン事業を起こすことを決意します。
 1972年には、運営母体となる株式会社ロック・フィールドを設立。本年6月は設立50年を迎えます。今や東証1部上場、2021年4月時点での従業員数は1,557名、連結売上は437億62百万円と堂々たる企業へと成長をしています。

 本書は、そんな株式会社ロック・フィールドの社史であり、日本発の「惣菜ビジネス」を起こしたベンチャー起業家である岩田弘三氏の評伝とも言える1冊。
 本書タイトルの「青いりんご」とは、岩田氏の盟友である建築家、安藤忠雄が同社に贈った、青いりんごのレプリカから。その意味は本書冒頭で明かされています。

【構成】

 全9章で構成された本書。第1章と第5章を除き、創業から現在まで、ほぼ時系列で同社の沿革を辿っています。第5章では「匠職」と呼ばれる古参社員3名と女性シェフへのインタビューを収録し、社員の目から見た同社の変遷の様子が明かされています。また巻末には同社略年史と注解が添えられています。


【所感】

 神戸の小さな洋食レストランから始まったビジネスが、どうしてここまでの事業に成長発展することが出来たのか。誰でもが気になるところだと思います。
 創業者、岩田
弘三氏の先見の明の高さと言ってしまえば、それまでですが、レストラン事業で成功を収めつつも、安住することなくデリカッセン事業へ進出。1970年代、欧風総菜を購入し自宅で食べるという習慣などなかった時代に、苦労をしながら、まずは地元大丸神戸店での出店を軌道に乗せます。
 その後は、首都圏の百貨店へも進出、ギフト商品を中心に安定した収益を上げるようになりますが、このギフト事業からも撤退。店頭での「惣菜販売」へ注力し、複数あったブランドも統一。扱う惣菜もサラダ中心へとシフトをしていきます。
 

 今でこそ「デパ地下」や「中食」と言われ、当たり前の様に外で「惣菜」を購入するという食習慣が我々の生活に定着していますが、今から50年も前にそのような姿を予見していたかのような同社の展開には正直驚きを隠せません。いやむしろ同社の事業活動そのものが、そういった食文化を日本に根付かせてきたのかもしれません。

 食品ですから「美味しい」「安全」は当たり前です。しかし事業規模が拡大するのにつれ、安定した生産や安定した品質の追求も不可欠になります。
 そこで同社が導入したのは「トヨタ生産方式」。畑から、それが加工され店頭に並び、お客様の口に入るまでを一連のサプライ・チェーンと見立て、サラダの「パーツ化」と「キット化」を実施。農産品という工業製品とは異なる特性に苦労しつつ、自社なりの生産方式を確立していきます。

 岩田氏の口癖は「いまが駄目でなはく、このままでは駄目や」だそうですが、本書で紹介される様々な変革の過程を見るにつけ、企業を存続させる唯一の方法は、安易に現状に満足することなく、絶えず危機感を持ちながら、革新を続ける意識に他ならないということを改めて感じた次第です。

「サラダを中心にした惣菜販売」という唯一無二の企業体であるロック・フィールド社と同社を作り上げた岩田弘三氏の物語。折しものコロナ禍、少子高齢化の進展、相次ぐデパートの閉店。これまでとは異なる経営環境下で、次の50年に向け同社がどのような事業展開を図ろうとしているのか。興味は尽きません。

                         PHP研究所 2022年3月3日 第1版第1刷発行

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【概要】


 昨年話題となった韓国ドラマ「イカゲーム」。2020年カンヌ国際映画祭でのパルムドール受賞やアカデミー賞4冠を達成した映画「パラサイト」。同じく2020年、アジア人非英語圏アーティストとして坂本九以来57年ぶりに米国ビルボードのメインチャート「HOT100」で1位を獲得したBTSの「Dynamite」。

 ドラマ、映画、音楽とあらゆるジャンルで世界を席巻しつつある韓国エンタメ、いわゆる「韓流」。
その経済規模は、韓国全体の輸出額(2020年度は約5125億ドル)のおよそ2%(同約108億ドル)を占めるほどになっています。
 
 長らく軍事政権時代が続き「民主化宣言」が発表されたのが1987年。いわゆる「表現の自由」を得てから、わずか30数年。なぜ韓国エンタメ産業は、ここまでグローバル化し、成長発展することが出来たのでしょうか。ソウル在住のノンフィクションライター菅野朋子氏が、その理由について考察をした1冊。「文集オンライン」への掲載記事を加筆、再編集した内容となっています。

【構成】

 全9章で構成された本書。1章~5章では、韓国エンタメ産業の歴史を追い、その戦略の変遷を見ます。6章~8章では、急減な成長の中で生まれたいくつかのスキャンダルを介し、韓国社会の抱える歪みについて考察。終章では、かつて憧れであった「日本のエンタメ」が現在の韓国でどう受け止められているかを紹介し結んでいます。

【所感】

 韓国エンタメの変遷には、大きく3つのターニングポイントがあったと著者は記しています。
 
 ①1980年代末の韓国民主化による「表現の自由」の獲得
 ②1997年のIMFショックによる韓国の産業構造の転換
 ③世界のデジタル社会化 

 IMFショックによる経済危機が、韓国の産業構造を大きく変えたことは、よく知られていますが、それはエンタメ産業も同じこと。90年代後半、中国で韓国のドラマが人気を博したことをきっかけに、当時アジア最大の市場であった日本への挑戦が始まります。

 音楽業界に目を向けると、まずは2000年代初頭に「BoA」「東方神起」といったアーティストが日本で人気を呼び始めます。当初から海外進出を目し、ボーカルやダンス以外に日本語や英語教育のトレーニングを受けた彼女(彼ら)は、日本企業に活動のマネジメントを委託、徹底した現地適応(ローカライズ)によるプロモーションを主体に認知度を高めていきます。

 そんな流れを大きく変えたのが、2010年に日本デビューした「少女時代」。デビューと同時に日本で爆発的に人気を生んだ背景には、SNSを駆使したマーケティングがあったそうです。YouTubeなどを通じ、彼女たちのパフォーマンスを配信。その反応を見てプロモーション戦略を立案し成功を収めています。

 経済危機により産業構造の余儀なくされた韓国は「IT大国」を目し、ネットインフラ整備を強力に推進します。インターネットの普及により音楽は、CDで購入する時代から配信へと移行。メディアの主役もテレビやラジオから、ネット上のSNSに取って代わられていきます。
 その流れに巧みに乗ってきたのが、韓国の音楽事務所。ノウハウの蓄積からプロモーション功者ことなった彼ら。こと「BTS」においては「トランスメディア」という手法を用い、非常に強力なプロモーションを展開。ビルボード「HOT100」1位を達成するまでの背景には、緻密な戦略がありました。

 音楽業界以外にも、ドラマ、映画と、なぜ韓国エンタメが世界を席巻するに至ったかを丹念に解説。その一方で、急激なデジタル化が引き起こした新たな問題にも目を向けます。リベンジポルノ問題や、ネット上の悪質な攻撃から生じたアイドルグループメンバーの自死など、日本でもニュースとなった事件を取り上げ、華やかな成功の裏で広がる闇の部分は、エンタメ業界のみならず、韓国社会全体にも暗い影を落としていることが窺いしれます。

 多少の不都合には、目をつぶりつつも、成長を志向する傾向が強いと言われる韓国という国家。
エンタメ業界に限らず、あらゆる業界で十分な内需があったゆえ、様々な改革が遅れてしまい、徐々に世界でその存在感を失いつつある日本。
 手放しで韓国から学べと言うには、難しい部分もありますが、少なくとも、世界に伍して戦おうとするその姿勢には、敬意が払われるべきですし、そのしたたかさと覚悟からは、謙虚に学ぶべきではないのか。そんな読後感を抱いた1冊でした。


                            文藝春秋 2022年1月20日 第1刷発行

2022- 2- 6  Vol.451 2BE1FEA7-480C-4614-8B38-8AF1E9DD7F07

【概要】

 日欧米の先進諸国が直面している、長期的な経済停滞と格差拡大。
 こと日本においては「失われた30年」とまで揶揄されるほどの長期停滞が続いています。
 大胆な金融政策や機動的財政出動を旗印に、2012年末からはじまった安倍晋三政権下でのアベノミクス。
 確かに雇用状況は改善し、株価は上昇しましたが、消費は低迷。国内総生産(名目GDP)も、横這いのペースが続いており、大半の国民は景気回復を実感することもありません。

 なぜこのような状況が続くのか。今や従来の経済学では、その理由は説明できないと著者は説きます。説明が出来ない長期停滞の理由を、経済学は市場の非効率や様々な制度の欠陥にその理由を求めてきました。それを受け、様々な規制緩和や自由化が行われてきましたが、むしろ経済格差を拡大させる結果となっています。
 
 本書著者は、経済学者で大阪大学特任教授の小野善康氏。かつて菅直人首相の経済ブレーンを務めています。本書で著者が取り上げるのが「資産選好」というキーワード。このキーワードに着目して、新たな経済分析方法を用いながら、
成長期から成熟期に移行した先進諸国の経済を読み解き、それに対処するための経済政策などを提言した内容となっています。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章で経済学の基本的な考え方や、これまでの資本主義の変遷に触れた後、成熟経済、格差拡大、国際競争と円高といった章立てで、本書表題でもある「基本方程式」をベースに解説。終章の6章で政策提言をして締めくくっています。

【所感】

 一見、やや難解な本書。数学的、経済学的論理展開に慣れていない読者は、第1章と第6章を読んだ方がいいかもしれないと著者自身が記しています。

 さほど経済学に関し知識がなくても、腑に落ちるのは、第1章で記される「消費選好」と「資産選好」。生活必需品が不足する成長経済下では、人々は「消費選好」を志向します。
 それが充足するにつれ、より高価な消費をするため、貯蓄などに一定の所得を振り分けるのなら一時期の需要不足として説明が付きますが、貯蓄など、お金を貯めることが目的化していってしまうのが「資産選好」。

 お金の魅力は、今使うという、何らかの決断をしなくても、使いたいときに自由に使えるという自由度の高さにあります。かつこの自由さを得るのに、さほどコストもかかりません。いくら持っていてもコストがかからず、うれしいだけで苦痛を感じません。持てば持つほど巨大な自由を手にできるなら、具体的な使途はなくても、たくさんお金をもっていたい。それが「資産選好」です。
 なるほど、よりお金を増やしたい人は、それを金融商品などの振り分けますから、経済停滞下でも株価や不動産の価額が上昇することも、理解が出来ます。

 本書では、この「消費選好」「資産選好」を基軸に「左辺を貯蓄の便益、右辺を貯蓄のコスト(消費の便益)」で記した「基本方程式」を用い、資本主義経済の変遷や特徴を解説しており、基本方程式のアレンジのみで、様々な事象を読み解こうとする試みは、興味深いものでした。

 個人的に興味深かったのは、消費税や所得税が変動した場合の影響や、ばらまき政策の是非、最近話題になるMMT理論などについての検証。
 消費税について日本はOECD諸国の中で、最低水準に近いのにも関わらず経済成長率は2番目であり、消費税と経済成長に相関関係はないと論破。また所得税については、極端な大増税が行われなければ、増税は景気引き上げ効果があるなどの説明が記されており、非常に納得感の高いものでした。
 
 端的に言えば、先進諸国における最大の課題は「需要不足」。「消費選好」をいかに呼び起こすかが鍵と言えそうです。

 著者は、いまだ成長経済下時代の施策をいくら繰り返したところで効果はなく、政府は民間に資金供給するだけでなく、自らが需要の創出を図ること。勤勉、質素倹約を是とする価値観に縛られない教育の展開を提唱。また格差是正には、再分配は避けられないとし、創造的な消費の出来ない富裕層への課税強化の提言などを挙げています。

 新書と手ごろな価格でコンパクトな体裁ながら、内容ある1冊。やや難解な部分はありますが、一読の価値ありです。日本経済の成長には、我々が自らの価値観を見直し、新たな需要を喚起する好ましい「消費」を志向し、実践すること。それが経済を活性化するという意識をもつことこそ、我々に一番必要なことかもしれないですね。

                            中央公論新社  2022年1月25日発行

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