名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2022年06月

2022- 6-26  Vol.4717AA4BCBA-B30D-41FB-8CFB-8F34273A2232

【概要】

 折からの少子高齢化による生産人口、需要の減少。コロナ禍によるインバウンド消費の消滅。加えて最近の円安傾向による容赦なき諸物価の高騰。
 失われた30年どころから、更なる景気低迷を免れそうもない、これからの日本。今の日本に必要なものは、大胆な発想や戦略の転換。
 本書は、未来予測の専門家でもあり、戦略コンサルタントでもある鈴木貴博氏が、そんな日本の対し掲げる10の提言を記した1冊。

 氏が提言するのは、一見、危険な禁じ手に見えるけれど、前提条件を大きく変えることができる政策。
はそれを「日本の魔改造」と称しています。
 ちなみに「魔改造」とは、対象を非常に大きく作り替えること、元の意味や用途と大きく逸脱した形に改造することを意味する俗語だそうです。

【構成】

 全10章で構成された本書。10の提言それぞれに1章ずつを充てています。

【所感】

「この30年間日本経済がひたすら地盤沈下を続けてきたのは本当にやるべきことをせずに、決めやすいことしか決めてこなかったから」

 では本当にやるべきことは何だったのか。そこで鈴木氏が掲げるのは10の提言。移民受け入れにより、2040年の日本の総人口を1億4千万人にする。リニア新幹線は、四国を経由し博多まで延伸させ2030年代前半には開通させる。原発を再稼働させ、かつその数を倍増させる。400兆円の永久債を発行する。ベーシックインカム導入で毎月10万円を全国民に配る。などが並びます。

 政府や官僚があえて触れなかった論点。世論が二分してしまうかもしれず踏み込めない。しかしそこに踏み込んでみれば、大きく未来が変わるかもしれない。そんなテーマを選択したそうです。

 個々の提言は一見荒唐無稽にも思えますが、その前提を読むに、確かにハードルは高いけれど一考の余地はあるように感じます。実は外国人の雇用増や、原発再稼働準備など、鈴木氏の提言のいくつかは目立たないだけで、小規模ながら進展しているものも少なくないそうです。

 問題は、そのスピードと規模。着眼点は良いのに、遅々として意思決定が出来ないばかりに、機会損失を繰り返してしまう。そこで10の提言の最後に挙げているのが「頭のいかれたリーダーを選べ」というもの。「頭のいかれた」とは「常識人の発想を超えた未来を描けることができる資質」のことであり、大胆な発想で人を動かせる人を、あらゆる組織で登用する必要性を説いています。
 
 また個々の日本人は、ユニクロやドンキ、コンビニや百均があるから生活には困らない。スマホがあるから退屈しない。だから今のままでいい。という意識を捨てるべきとも記しています。このままでは、もはやそんな未来すら約束されない可能性は高いのだからと。
 我々一人に問われているのは、健全な野心を抱き、未来は変えられるという意識をもち行動を起こすこと。本書がそんなきっかけになれば望外の喜びと、著者は結んでいます。
  

                        PHP研究所 2022年6月29日 第1版第1刷発行
 

2022- 6-19  Vol.4706FDAAFAF-9C12-467C-8EAA-B5A5B6162228

【概要】

 サイクロン掃除機、羽のない扇風機など、独創的な家電で知られるダイソン社。革新的な技術、ユニークなデザインも相まって、世界中で高い評価を受けており、日本国内でもCMや家電量販店、通販などで、同社の製品をご存知の方も多いのではないでしょうか。

 本書は、同社の創業者にして、いまだ現役のチーフデザイナーであるジェームズ・ダイソン氏が、自身の半生と自らが生み出した様々な技術や製品について語った一冊。

 75歳となった今も、モノづくりへの情熱さめやらないダイソン氏が、自身の思いの丈を余すところなく記した1冊となっています。  

【構成】

 全12章で構成された本書。前半では、第1章の少年期から始まり、同社の名を一躍有名にしたサイクロン掃除機の製造販売に成功する頃までが記され、後半の第7章からは、サイクロン掃除機以降、同社が生み出した様々な製品について記している他、電気自動車、農業、教育といった同社の新たな展開も紹介されています。

【所感】

 400ページを超えるボリューム。章立てのみで節がないので、余白もなく、みっちりと内容が詰まった印象を受けます。
 根っからのエンジニアなんでしょうね。自身の発明や製品について、用いている技術などを仔細に記す他、
写真以外も図面やコンセプト画も多数掲載しており、自身が生み出した製品への熱い思いを感じます。

「サイクロン掃除機」といえば同社の代名詞とも言える製品ですが、十分な開発力がありながら名だたる著名な家電メーカーが手掛けなかったのは、技術的な難しさもさることながら、当時(現在も)主流であった(ゴミフィルター)紙パック式掃除機の存在。
 家電メーカー自らが、紙パックという消耗品を通じ、製品販売後も収益のあがるビジネスモデルを手放すことはなく、そこに勝機を見出したダイソン氏の挑戦が、本書における最大の読みどころと言えるかもしれません。

 ダイソンという企業が設立され、同社の製品が世に出るのは、1993年ですが、サイクロン掃除機の技術自体は1980年代には誕生しており、当初はライセンス供与による収益化を目していたこと。
 当時、日本のエイペックスという商社が、日本国内でライセンス生産し販売。25万円という高価格ながら、人気を博したこと。また自身がモノづくり起業家であることから、本田宗一郎氏や、井深大氏へのリスペクトを記した箇所もあり、ダイソン氏と日本との少なからぬ縁を感じます。
 
 個人的に、他に印象深かったのは、製造業を軽視するイギリスという国へのダイソン氏の憤りでしょうか。画期的な製品を生み出してきたダイソン社ですが、それでも日の目を見るまでに、資金調達では相当苦労を重ねており、投資家や銀行の製造業に対する理解や期待度の低さを嘆く場面もあります。
 かつて産業革命を起こし、世界を大きく変えたイギリスで、製造業が衰退し、創造的な製品が生み出せれなくなっていく様子を憂いてもいます。

 それが後に、自ら大学を構え、創造性に富んだ起業家の育成へと、活動の幅を広げていくことになります。「製造業こそが、その国を支える。」そんなダイソン氏の信念を見る思いでした。
 とはいえ、その思いはそう悲壮感漂うものではありません。モノづくりは、とても楽しくエキサイティングなもの。その楽しさを多くの人に知ってほしい。
 自身の経験を踏まえ、彼が一番伝えたかったのは、そのあたりにあるように思います。彼が失敗を重ねながらも、喜々として発明に取り組み様子が、目に浮かぶような、そんな1冊でした。


                             日経BP 2022年5月24日 1版1刷
  

2022- 6-12  Vol.469DCAEE709-70D5-44FA-B558-82ED6785DAAB

【概要】

 少子高齢化進展が著しい日本。人口減少に歯止めをかけ、東京など都市部への過度な人口集中を是正。各地域が、それぞれの魅力を活かし、自律的で持続可能な社会を創生することを目した政策である「地方創生」。
 平成26年に
「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定されたことに端を発しています。

 各地域で、様々なビジョンや施策が掲げられていますが、そのプランは外部のコンサルティング会社などに委託して作られたものが少なくありません。
 コンサルティング会社が請け負うのは、プラン作成までであり実行をするのは各地方。しかしながら元々人口減少で、労働力含め余力の乏しい地域が大半なため、途中で頓挫しているケースも少なくないそうです。

 本書の舞台は、山梨県北都留郡小菅村 http://www.vill.kosuge.yamanashi.jp/
人口わずか700人。多摩川源流にある小さな村ですが「地方創生」プラン倒れになることなく、着々と成果をあげつつあります。そんな同村の取り組みを紹介したのが本書。

 著者は、同村の支援を行っているコンサルティング会社「さとゆめ」の代表である嶋田氏。
創生プラン作成に終始する既存のコンサルティング会社のありかたに疑問を感じ、ハンズオン(並走支援)型のコンサルティング会社を立ち上げ。同社が初めて支援に関わったのが小菅村です。

【構成】

 全7章で構成された本書。第1章から第5章では、自身の半生も踏まえ「ふるさと」を仕事にしようと思った経緯。小菅村での取り組みを紹介。第6章では自社の経営ビジョンに触れ、最終章の第7章では、新たな施策として、JR東日本と共に「沿線再生」に取り組む様子を紹介して結んでいます。

【所感】
  
 自身のコンサルティング会社を立ち上げてほどなく、
小菅村の計画立案をした嶋田氏。
「道の駅こすげ」の開業。地元の特産品を生かした魅力ある「食」のプロデュースなど、同村のプロジェクトは、多くのメディアに取り上げられたこともあり、上々のスタートを切ります。
 今後の運営体制なども整備し、プロジェクト終了となるところ、同村の村長から継続して支援をしてほしいとの依頼を受けます。

 最盛期には2200人を超える村民がいた小菅村ですが、この40年間で人口は700人にまで減少。これ以上、人口が減ってしまうと、村そのものの存続が出来なくなってしまう。村長の痛切な思いを受け、これを承諾します。
 人口維持(増加)のためには、移住者を増やさなければなりませんが、移住者を求めるのは、どの地域も同じ、支援金であったり、住居の安価な提供であったり、各地域が様々な施策を行っていますが、嶋田氏たちは、一つの場所に完全に移住することは、移住者側にとってもリスクが大きい。まずは小菅村に来てもらうリピーター観光客を増やし、魅力を知ってもらうことで、「三分の一村民」、「二分の一村民」となり、最終的に「一分の一村民」になってもらおうとの構想を立てます。

 更なる施策、積極的な情報発信もあり、成果も見え始めますが、そもそも宿泊施設が少ないことに限界を感じ始めます。

 そこで考えられたのは、多額の設備投資をして宿泊施設を建設するのではなく、村にある古民家を再生し宿泊施設とすること。村に点在する地域の特徴ある家屋を活かし、あたかも村全体を一つの宿泊施設の様にして運営をすることで、投資額を抑えつつ、宿泊拠点を増やしていく。それが本書タイトルでもある「700人の村がひとつのホテルに」という施策につながっていきます。

 本書の第5章では、再生された家屋の内外装やロケーションのカラー写真が掲複数載されていますが、非常に魅力的で、つい足を運んでみたくなる雰囲気に溢れています。

 本書を読んで感じるのは、「地方創生」に一番必要なのは、やはり当事者意識ということでしょうか。行政、支援する団体は元より、そこに暮らす方を巻き込み、一枚岩で運営しなければ難しいということ。
 また施策は、経済活動として自立しなければならないということでしょうか。「地方創生」には補助金など大きくお金も動きますが、その資金が尽きた途端、関係者が雲散霧消してしまう例も少なくないようです。資金が限られる中、地域住民のボランティア支援なども不可欠な要素かもしれませんが、外部の機関や団体の力を借りなければ、継続できない施策もあるのであれば、無償では難しいでしょう。
「金の切れ目が縁の切れ目」とならないためにも、経済的に持続可能なプランであり、実行する覚悟がなければ、とても「地域創生」などおぼつかないのではないでしょうか。

 ならば持続可能な、地に足のついた「地方創生」はどうすれば出来るのでしょうか。本書の様な成功事例を読んでも、施策の考え方や運営のあり方など、難題は山積みの様に思えます。

 それでも著者たちの様なハンズオン型の支援を志向するコンサルティング会社が生まれたことは、一つの光明であり、今後小菅村の様な事例が多く積み上がることで新しい局面が見えてくるかもしれません。
 人口減少は日本中、どこの地域でも不可避の問題。今自分の住む地域で、自分なら何が出来るのだろうか。そんなことも考え合わせ、読んだ1冊でした。

                            文藝春秋 2022年6月10日 第1刷発行

2022- 6- 5  Vol.468351AECC2-5491-45BD-B0DB-F49D2F3B5208

【概要】

 ビールの「一番搾り」や「ハートランド」。発泡酒の「端麗」や缶チューハイの「氷結」 etc。
 お酒を嗜む方なら、誰でも知っているキリンビールの錚々たる商品群。実はこれらの商品群誕生には、一人の同社マーケティング部員が関わっていた・・・・・。

 メディアにはほぼ登場せず、自身の功績を喧伝することもなかったため、世間的にはあまり知られていませんが、飲料業界では「マーケティングの天才」とまで称された前田仁氏、
 本書はそんな前田氏が深く関わった商品の開発ストーリーを軸に描かれた評伝です。

【構成】

 終章を含め全9章で構成された本書。第1章で紹介されるのは、80年代に誕生した異端のビール「ハートランド」。以降第2章からは、前田氏の幼少期にはじまり、ほぼ時系列で展開されています。

【所感】

 かつてビールのシェア6割を押さえ、圧倒的な強さを誇っていたキリンビール。しかしアサヒビールの「スーパードライ」誕生や、折からの消費者のアルコール離れや飲料志向の変化もあり、徐々にシェアは低下。
 本書では、単なる個々の商品開発ストーリーに留まらず、バブル崩壊あたりから、凋落の始まったキリンビール社内の様子も丹念に追っています。

「一番搾り」「端麗」「氷結」 どの商品も、キリンビールが先鞭を切ったわけではなく、スーパードライに始まり、他社から生まれた商品への対抗で誕生したものばかり。

 一方、第1章で記される「ハートランド」は、他社との競合でなく、「ラガー」という圧倒的に強い商品をもつがゆえ、驕りが目立ち初めていた同社社風への危惧から生まれた商品だったそうです。
 潜在的に抱える自社の危機を察知し、新たな商品開発ができるだけの力量をもちながらも、その後の凋落を避けられなかった同社を象徴的に表す商品として「ハートランド」
だけを、時系列でなくあえて第1章で取り上げることで、よりその対比を鮮明に読者に与えています。

 そしてその「ハートランド」開発の立役者こそが、本書で取り上げる前田仁氏でした。
マーケッターとして圧倒的な商品開発力をもち、部下の人望も厚かった前田氏。それでも二度の左遷を受け、最後はグループ会社、キリンビバレッジの社長にはなったものの、本流であるキリンビールに席を用意されることもなく静かに同社を去ります。そして70歳という若さで他界。

「社内ではなく、絶えずお客様を見ろ」と部下を叱責。時に高価な材料を使ってまでも、妥協なき商品開発を推進。
 理に関わないことに対しては、例え経営陣であっても厳しく意見をしたその姿勢は、多くの賛同者を生みながらも、快く思わない層からは、いつしか疎まれる存在になっていた前田氏。
 こう記してしまうと、華々しい活躍をしながらも、結局、報われなかったビジネスマンの悲哀の物語かと感じてしまいそうですが、本書で記される前田氏の様子は、そんなネガティブさは微塵も感じさせないもの。書籍を通じてでも、その人物像は魅力にあふれ、一度お会いしてみたかったと誰でも感じるのではないでしょうか。

 本書は、キリンビールの知られざるマーケッター、前田氏の評伝の体裁をとっていますが、著者は本書を通じ、これと同じような物語は、この30年来、多くの日本企業で起こってきたものではないかと、我々に問いかけているかのようです。
 新市場を開発することもなく、
失敗を恐れ前例の踏襲がはびこる。社内政治に翻弄され、異端児は排除、組織の活力低下は止まらず。
 時代は移り変われど、どの社にだって、前田氏の様な人物は必ずいる筈。経営陣は、そういった人物を絶対に埋もれさせる事なかれ。そんな著者の思いが強く伝わってくる1冊でした。


                         プレジデント社 2022年5月30日 第1刷発行

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