名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2022年07月

2022- 7-31  Vol.476IMG_5533

【概要】
 
 多国籍コングロマリット企業であるGE(ゼネラル・エレクトリック)。創業は1892年。創業の端緒には、かのトーマス・エジソンも関わったとされる米国を代表する企業です。
 その事業範囲は、 航空機エンジン、発電・送電用設備、医療機器、鉄道機器の製造の他、金融事業など多岐に渡ります。
 
 特に、同社への着目が特に高まったのは、1981年~2001年まで同社のCEOを務めたジャック・ウェルチ氏の時代。
 同氏は「世界で1位か2位になれない事業からは撤退する」など、同社の事業再編と国際化を大胆に進め、同社の利益率を大幅に引き上げることに成功します。

 しかしジャック・ウェルチ氏退任から20年。現在の同社業績は大きく低迷し、2018年には、業績不遜による時価総額減少を理由に、100年以上続いた米国ダウ平均株価の構成銘柄から除外をされてしまいます。
 堅調な業績、高い格付け、高配当ないし自社株買いによる安定した株価。その全ては損なわれ、いまや同社は解体の危機にあるとまで囁かれています。
 かつて隆盛を誇った超優良企業に何が起こっていたのか。丹念な主題でその真相に迫ったのが本書。
著者は、米国ウォール・ストリート・ジャーナルの記者であるトーマス・グリタ氏とテッド・マン氏です。

【構成】

 全59章(cchapter)で構成されて本書。第1章を除けば概ね時系列で記されています。2001年にジャック・ウェルチ氏の後継者となったジェフ・イメルト氏のCEO時代を中心に、2020年頃までの同社の様子が明かされています。
 写真や図表の類は皆無なため、登場する同社のグループ会社の位置づけや、組織構成などは分かりづらい点はあるものの、個々の
章(cchapter)は端的に記されており、500ページに近いボリュームながら読みやすくまとまった1冊となっています。
 また単なる事象のみを記すのではなく、登場人物一人一人のパーソナリティにもきちんとフォーカスを当てており、臨場感豊かに、まとめ上げられています。

【所感】

 同社の凋落原因はどこにあったのか。
ジェフ・イメルト氏時代における事業の取捨選択誤りというのが通説ですが、ジャック・ウェルチ氏時代に、既にその萌芽はあったということが本書では明らかにされています。
 ジャック・ウェルチ氏時代に、大きく金融業へシフト。一時はグループ全体の40%の利益を稼ぎ出すほどだったと言います。
 高い格付により、資金調達コストは低く、事業買収資金や、配当、自社株買いの資金には事欠かなかった同社。また幹部にとって業績の目標達成は当たり前。よって各事業期間末には、業績達成のためグループ会社を使った不正会計すれすれの取引が横行。

 しかし2000年代に入り、
ジェフ・イメルト氏がCEOになって以降、9.11世界同時テロ、エンロン事件、リーマンショックと立て続けに大きな事件が起こります。
 エンロン事件により米国の会計基準が厳しくなり、かつての様な利益操作は困難となります。結果、さらに金融事業にへ依存せざるを得ない状況に陥る中で起こったリーマンショック。
 同社の金融事業も政府保証を受けざるを得なくなり、金融事業の中核であるGEキャピタルは、FRBの監視下に置かれます。

 金融事業の大幅縮小を決断し、実業へ注力するためフランスの電力会社買収や、ガス・石油採掘業へと乗り出していきますが、結論から言えばこれらの投資はことごとく失敗・・・・・。同社の解体論がまことしやかに囁かれるようになるあたりで本書は終わります。
 
 仔細はぜひ本書をご覧いただきたいと思いますが、株主至上主義により企業業績への関心とプレッシャーがかつてないほど高まる中、激化するグローバル経済下で、有望な事業を育て成果をあげることは
極めて困難を伴います。
 業績作りのため短期間で、企業や事業売買を繰り返した同社の姿は、まさにそれであり、いつしか何が自身のコア事業かすら見失ってしまったかのように感じます。
 増える業績連動型報酬や、従業員持株会、退職年金基金での自社株組込みなど、株価や配当金額を引き下げれないという経営陣へのプレッシャーは相当のものなのでしょうね。そして同社ほどの企業であっても、この呪縛からは逃れられず、いつしか自社も蝕まれてしまっていた・・・・・。
 
 本書は、名門企業没落という一企業の物語ではなく、全てのグローバル企業ないし上場企業で起こりうる物語。企業の健全な発展のために行き過ぎた株主至上主義をどう是正すればよいのか。これからの企業経営はどうあるべきなのか。
 本書を通じ、著者たちは、私たちにそんな大きなテーマを語りかけているように感じました。 

                         ダイヤモンド社 2022年7月12日 第1刷発行

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【概要】
 
 日本ゴルフツアー機構公認によるゴルフトーナメントの一つである「三井住友VISA太平洋マスターズ」
 毎年11月に開催される、このトーナメントの舞台となるのが、太平洋クラブ御殿場コースです。同ゴルフ場を保有するのが、㈱太平洋クラブ。今はなき平和相互銀行の創業者である小宮山英蔵氏が、全国に27のゴルフ場を展開することを目して
1971年に設立しています。

 しかし金融債務負担の大きさに加え、法人客数の減少、客単価低下に耐え兼ね破綻。2012年11月に民事再生法の適用申請を行っています。しかし一般会員の反発もあり頓挫。改めて会社更生法の申請を行うこととなります。

 そこでスポンサーとなったのが、パチンコホール最大手企業である㈱マルハン。
「パチンコ屋ごときに、名門ゴルフ場の経営が出来るのか」揶揄する声も少なくない中、同社は再生を果たします。
 御殿場コース含め、18コースを有する同社。2013年㈱マルハン買収時は、年間来場者は約67万3000人。売上は約88億3000万円。2021年には、コース数は同じなまま、
年間来場者は約83万2000人。売上は約123億6000万円。2014年以降増収を続けています。

 本書は、そんな㈱太平洋クラブ再生の物語。
 「ゴルフに関する書籍は、名門ゴルフ場の紹介か、技術書でなければ売れない。」という通説がある中、あえて誰も書くことのなかった「ゴルフ場再生」にノンフィクションライター野地秩嘉氏がチャレンジした1冊です。
 
【構成】

 全8章で構成された本書。第1章で太平洋クラブの沿革と、㈱マルハンによる買収の経緯を記した以降は概ね時系列で、具体的な改革の内容が明かされています。
 コースの管理や運営、レストラン、ショップの改革、人材育成などに触れる他、現場のスタッフの声も多数掲載され臨場感あふれる内容となっています。

【所感】

 ㈱マルハンが太平洋クラブのスポンサーになるのに要した金額は287億円。
本業であるパチンコホールに投資をした方が、はるかに利益率は高いのに、なぜ同社は買収に踏み切ったのか。再生の先頭に立ったのは㈱マルハン創業者の2代目である韓俊氏。 
 本書でも、いくつか買収を決意した理由を記されていますが、彼には勝算がありました。
まずは資金を惜しまず、古い設備類の更新を行い、整理整頓清掃活動を徹底させていきます。従業員の待遇を改善するとともに、教育研修にも力を注ぎます。
 ㈱マルハンでも導入済であった「イズム」を制定。「イズム」とは、経営理念、ビジョン、社訓などから構成された、社員の行動規範となるものです。

 教育研修でも特に重視をしたのはキャディ。プレイヤーともっとも長い時間を過ごす彼女(彼)たちの技術や接客サービス向上を目し、優秀なキャディには転勤を命じます。それは特定のコースのみならず、全コースのキャディのレベル向上を図るため。キャディの転勤など、一般のゴルフ場運営では考えらないことだそうです。

 一方で、太平洋クラブ全体の価値上昇のため、年会費制を導入。余計なコストを嫌い、離反した会員も少なくありませんが、韓氏は意に介しません。
 まずはきちんと収支を合わせ、経営を安定化させる。その上でクラブ全体のブランド価値を高めていくことが、会員の満足に寄与すると確信。プロトーナメントツアーを誘致する他、海外のコースと提携や相互利用を図りステイタスを高めていきます。
 
 思えば、韓氏の考えは非常にシンプルなのかもしれません。太平洋クラブは高級クラブを目す。客単価をあげるも、回転率は抑え、設備や人材に過度の負荷をかけない。結果余計なコストは下がり、その原資で、更に顧客サービスの向上を図る。ステイタスが上がれば、優良顧客を呼び込み、それが更なる好循環を生み出していく・・・・・。

 本書で紹介される再生の物語は、あらゆる企業再生の場にも通じるのではないでしょうか。
破綻企業であれば、ブランド価値は失墜し、社員も自信を喪失しています。大半の企業は資金繰りに窮していますから、再生したいと思ったところで原資もありません。
 そこに大胆に資金を投入できるか。これは相当胆力がいりますし、ボランティア活動ではありませんから、再生後の勝算が見えなくてはなりません。そしてその要となるのは人材。惜しみない人材投資を行い、薄利多売なビジネスモデルからは決別をする。それこそが企業再生の要諦ではないか。そんな印象を抱きました。

 コースや施設のカラー写真に加え、ゴルフ場やゴルフプレーに関する細かな雑学も多数記された本書。カテゴリーはビジネス書ですが、ゴルファーの方には、より楽しめる内容となっているのではないでしょうか。


                         プレジデント社 2022年7月16日 第1刷発行

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【概要】
 
 米国主導による中国大手通信企業、華為技術(ハーウェイ)製品の締め出し。
 その発端は、2013年、当時のCIA長官マイケル・ヘイデン氏が米議会で同社を「スパイ企業」と名指し断じたことにあります。
 諜報活動は、通信の傍受に始まります。廉価なため世界中の通信機器で採用されてきたのが、
華為技術(ハーウェイ)の製品群。

 同社は、1987年、中央軍事委員会主席だった鄧小平が人民解放軍の軍事技術関係者に設立させた企業。日本ではあまり知られれていませんが、国家予算を通じ同社が世界中で諜報活動を行っているのは、周知の事実だと、著者は記します。

 本社著者である深田萌絵氏。早稲田大学時代に株アイドルとして鳴らし、その後は外資系証券会社のアナリストを経て独立。本書肩書は、ITビジネスアナリストとありますが、自らIT系企業も経営。
 華為技術(ハーウェイ)問題を皮切りに、世界的な半導体不足の背景。日本の半導体産業の凋落原因などに言及した1冊。 

 ネット上でも、しばしばその発言が物議を醸しだす方なので、嫌悪感を抱かれる方も多いかもしれません。また本書も、一般のニュースではあまり報じられない内容も多く、正直真偽のほどは分かりかねますが、なかなか興味深いので、今回取り上げさせていただくこととしました。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章から第2章で記されるのは、IT業界は戦場であり、その事実に対し日本のメディアや政府はあまりも無知であることへの警鐘。第3章~第5章では半導体産業を取り巻く現状と日本が凋落した背景に触れ、第6章では日本を守るための「経済安全保障」につき提言をし結んでいます。

【所感】

 本書を手に取る方が一番関心を覚えるのは、昨今の半導体不足の要因ではないでしょうか。
著者は端的に言って、その要因はTSMC(台湾積体電路製造)と台湾半導体工場としています。
 世界の半導体ファウンドリランキングは、1位TSMC、2位サムスン、3位UMC、4位グローバルファウンドリ、5位はSMIC。(2021年第一四半期時点)
 間接的な支配も含め、台湾系のファウンドリが世界の半導体製造の7割を担うようになっています。そして台湾の半導体事業を牛耳る半導体シンジゲート「青幇」の存在。

「半導体不足」と言われつつも、実は全ての半導体が不足しているわけでなく「選択的」に半導体不足が生じていると著者は指摘します。つまり特定の産業を狙って意図的に行われており、その代表格は「自動車」。中国本土には数多くの自動車メーカーが生まれていますが、日欧に比せばそのレベルは、まだまだ見劣りします。「半導体」供給をコントロールし間接的に諸外国の「自動車」を調整させている。台中間緊張が喧伝されつつも、前述した
「青幇」は中国との結びつきは強い・・・・・。何をかいわんやですね。

 かつて80年代、世界を席巻していた日本の半導体や家電メーカー。日米貿易摩擦など当時の政情もありますが、せっせと海外へ技術移転されてしまった日本の半導体開発や製造技術。
 気づけば凋落著しく、シャープの様に買収されてしまった家電メーカーや、存続する家電メーカーすら、集中と選択を理由に一部事業を中国・台湾系企業へ売却。日本に残る有望な技術も漏洩し放題。

 無策な政治家と官僚によって、日本はどれだけ国益を損なってきたのか。と著者は嘆きます。
そこで終章の第6章では、日本でも「スパイ防止法」の制定など、日本なりの「経済安全保障」の確立を提言しています。
 
 なかなか刺激的な内容で、個人的には興味深く読んだ1冊でした。
一番印象に残ったのは、著者が巻末で記している「バナナ共和国(産業が乏しく、観光やバナナ・果物などの一時産業の輸出に頼る国)」でもあるまいし、日本を「観光立国」化するなど、馬鹿な国策は改めるべきとの主張。
 人口減少が不可避の日本が、より付加価値の高いものづくりを目さなかったら、今後どう生きていくのか。はっと気づかされる指摘でした。

                             清談社 2022年7月4日 第1刷発行

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【概要】

 
 スマートフォン、スマートカー、スマートハウス、スマートシティ etc。
「スマート」には本来「賢い」「気が利く」といった意味がありますが、昨今はそこから派生し「コンピューター化された」「情報化された」として使われることが多くなっています。
 
「スマート」と製品名に付くだけで、従来の製品よりも高性能で効率がよく、エネルギーの無駄も無くす。そんな印象を持たれる方も多いかもしれませんね。
 
 高度に情報化された社会、いわゆるデジタル社会は、社会全体の効率を高め、エネルギーや資源の消費を減らすのか。近年声高々に喧伝されるSDGs(持続可能な開発目標)に合致するのか。
 世界各地を巡り、デジタル社会への進展が引き起こしている様々な影響を紹介しているのが本書。
資源地政学を専門とするジャーナリスト、ギヨーム・ピトロン氏が記しています。

【構成】

 全10章で構成された本書。世界を巡り、スマートシティ、レアメタル鉱山、半導体工場、クラウドセンター、海底光ケーブルなどを切り口に1章ずつを充て解説をしています。

【所感】

 本書帯にある「いいね!」が直面する不都合とは、SNSなどを通じて、我々が何の気なしに行っている行為が、実は莫大なエネルギーと資源消費を起こしているという事態への警鐘。

 本書は、その警鐘の根拠を解き明かす形で展開されていきます。

 絶えず新製品が投入される情報端末。その主要部品である半導体製造で消費される莫大な希少金属、その過酷な採掘現場。
 膨大な情報量をさばくため、世界中の海底に張り巡らされる光ケーブル。
 データ蓄積のために増殖を繰り返すサーバー機器。同機器の発する熱対策に生じるコスト軽減を目し、北欧など低温地帯に設置されるクラウドセンター。
 増え続ける消費電力。環境負荷のもっとも低いと言われる水力発電すら、近隣の生態系への影響含め、実は多大な環境破壊を生んでいる事実。

 世界中の現場を巡ってきた著者が記す本書から、我々は嫌というほど、その真実を突き付けられます。
 デジタル化により、印刷物など紙媒体のほか、各種媒体(CDやDVD)を通さず情報の伝達が可能になることで物流にかかる資材の消費や燃料消費は減りつつあるのかもしれません。
 SNSを通じ、簡単に世界の人とつながることが出来るようになり、検索エンジンは、世界中にちらばる莫大な情報へのアクセスを可能にしました。かつ我々は、そのサービスをほぼ無償で享受しています。
 SNSで押してしまう「いいね!」ボタン。何気なく検索エンジンに入れたキーワードや、ついアクセスを許可してしまう位置情報。そうです。その全ては記録され、一つの情報として蓄積され、クラウドセンターの容量を消費します。この行為の繰り返しが何を起こすか。想像には難くないですよね。

 そう「今や我々の行動は全て情報として複製されている。」のです。
本書を読んで、一番印象に残ったのはこの部分でした。それ自体は物理的な複製ではないものの、結果として物理的な場所を要することになってしまう矛盾。何をかいわんやですよね。

 本書において、著者は我々に、なんらかの処方箋を示している訳ではありません。淡々とデジタル社会のもたらす負の側面を解き明かしているのみです。
 利便性の裏で何が起こっているのか、その事実に思いを馳せる想像力を持て。
個人的にはそんなメッセージと受け止めましたが、みなさまはどうお感じになりますでしょうか。

                              原書房 2022年6月27日 第1刷

2022- 7- 3  Vol.472
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【概要】

 
 今週は異色の1冊をご紹介させていただきます。一応ビジネス書のカテゴリーに属するのですが、少々毛色が違います。

 出版不況と言われて久しい昨今。書籍は元より、販売額の減少が著しいと言われるのが雑誌。月刊誌、週刊誌ともに1997年をピークに年々減少。コミックスは比較的堅調も、休刊が創刊を上回る状態が続いており、その販売金額は800億円台とピーク時の5分の1程度まで減少しています。
 
 そんな中にあって、創刊から40年以上続き、本年7月号で500号の大台(月刊誌)に到達したのが、雑誌「ムー」。
 本書表紙にあるロゴのついた雑誌を、書店で見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。ジャンル(といっても類する雑誌はないそうですが)はオカルト。
その内容は、UFOや異星人、超能力、怪奇現象、超古代文明などを扱った非常にマニアックなものとなっています。

 なぜこのように特異な雑誌が生まれ、40年以上にわたり読者から支持されてきたのか。
同誌で30年以上にわたり編集長を務める三上丈晴氏が、そんな同誌の沿革を振り返りつつ記した雑記とも言えるのが本書です。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章から第4章では、出版元である㈱学習研究社(当時)への入社から「ムー」編集部への配属に始まり、同誌誕生の経緯や、企画、編集の様子を明かしています。
第5章、第6章では、三上氏の出会ってきた特異な人物や事象について記しています。

【所感】

 小学生向けの「科学」と「学習」。中高生向けの「中学コース」や「高校コース」など、学習誌出版の印象の強かった㈱学習研究社。雑誌「ムー」の誕生は、「高校コース」などの特集記事で人気を博していたオカルトものの記事を独立させたものでした。
 隔月刊誌として誕生した同誌ですが、創刊当初はまったく売れず、あわや1年で休刊の危機に。
その危機を救ったのは、大幅な内容の刷新。出自が学習誌ゆえ、内容にどこか甘さ、中途半端さのあった誌面を改めます。判型はA5からB5へ。ビジュアル中心の一般紙ではなく専門誌の体裁を意識します。
 意図的に文字数を増やしタイトルは渋めに。かつ毎号「総力特集」など、より内容を深堀りした特集記事を設けたことで、徐々に人気雑誌に。ほどなく月刊誌となり現在に至ります。

 オカルト関連という、マニアックな内容ゆえ、よく毎号ネタがつきないものとの疑問が生じますが、ネタはとっくに尽きていると三上氏は語ります。そこで問われるのは企画力。既に広く周知されているものであっても、いかに新たな切り口を見出すかが肝であると語ります。

 本誌は学術誌ではなく、あくまでエンターテインメント雑誌であり、しかも扱う領域は、噓か真か判断のつかないジャンル。こういっては失礼かもしれませんが、いかに大胆で斬新な仮説を立て、紙面を組み立てることが出来るか。かつマニアックな読者を飽きさせずに、どうやって引き付けることが出来るか。毎号がその戦いなのかもしれません。

 またマニアックな読者がいるゆえ、時に編集者たち以上に深い知識や造詣をもつ人も少なくありません。そこでどんな特集を組んでも、結論は決めつけないことが重要であるとも説きます。
 読者の興味を惹き付けるも、結論は断言せず、それは読者に委ねる。そんな姿勢が「ムー民」とも呼ばれるコアな読者層を構成し、長らく支持を得てきた秘訣なのではないでしょうか。

 本誌自体を、あたかも一つの小規模事業者と仮定してみると、ニッチな世界を扱いつつ、コアなファンを作り、長きにわたり刊行を継続してきた様は、意外と通常のビジネスの場でも、ヒントになる点が多いのではないかと考え、今回本書を取り上げた次第です。

 個人的には、面白かったのは、心霊写真、パワースポット、UMAとトリック、ミステリーサークルなど、オカルトに詳しくない方でも、見聞きしたことのあるであろう事件やニュースの背景に迫った第6章でしょうか。明らかにトリックと判別されたものもあれば、今だ真実は不明なものも数知れず。どれだけ科学が発達しようとも、人に想像力がある限り、この類の話は消えることはないのでしょうね。

 
                          学研プラス 2022年6月14日 第1刷発行


 

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