名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2022年09月

2022- 9-25  Vol.4847E38075C-776E-4641-A993-DE14EF900DD3 

【概要】

 円安・ドル高が止まりません。
 9月22日には、1ドル145円90銭まで円安が進み、政府・日銀は24年3ケ月ぶりに、市場介入に踏み切りました。

 結果、同日夕方には、140円31銭まで円高の方向に動きましたが、その後143円34銭まで戻しており、介入の効果は限定的だったのかもしれません。

 円安は輸出型企業や、海外で事業展開を行う企業にとっては、利益押上げのメリットがありますが、反面、原材料輸入のコストがあがるなどのデメリットもあります。

 8月には、貿易収支は2兆8173億円と過去最大の赤字を記録、諸物価高騰で、我々の生活も大きな影響を受けつつあることを考えますと、現時点では円安のデメリットの方が、はるかに大きいことは、否めません。
 
 今後、為替相場はどうなっていくのか、円安は解消されていくのか、さらに進行していってしまうのか。多くの方が関心を抱いているのではないでしょうか。

 本書著者は、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストである唐鎌大輔氏。
 為替市場の変動に関する分析は、直ちに陳腐化するリスクがあり、その公表は週刊誌であっても不向きだとしています。ましてや書籍で記すことは、なおさら馴染まないとする著者ですが、今の為替相場は一時的な現象ではなく、そもそも日本の構造変化が引き起こしているのではないか。そしてその構造変化について考察を記すことであれば、しばしの間、議論に耐え得る可能性があるとし、本書を記すことにしたそうです。

【構成】

 全6章で構成されています。第1章で、ここ10年の円相場を総括した後、円安功罪論、安くなった日本の行方、日銀の財務健全性との関連、といった内容で展開し、終章で世界の為替市場の動向に触れています。

【構成】

 失われた30年とも揶揄されながらも、着実に対外純資産を積み上げてきた日本。

 1950年代に提唱された国際収支の発展段階説によれば、国際収支は①未成熟な債務国、②成熟した債務国、③債務返済国、④未成熟な債権国、⑤成熟した債権国、⑥債権取り崩し国と変遷をするとのことで、経常収支、貿易・サービス収支、第一時所得収支、対外純資産、金融収支の5項目について、黒字、赤字の組み合わせで分類を行います。

 同説によれば現在の日本は、貿易・サービス収支、金融収支が赤字、他の項目は黒字である⑤の成熟した債権国。
 これが経常収支も赤字、金融収支が黒字に転ずると、債権取り崩し国へ転じていきます。いまや日本はそのとば口にいるのではないかと、著者は指摘をしています。それが本書帯に記された「成熟した債権国の夕暮れ」というコピー。

 貿易収支は徐々に減少も、所得収支で稼ぐというのが、経済発展を遂げた国の行く末だそうですが、今や日本の貿易収支は赤字に転じており、それを所得収支で補うことが出来なくなるとき、債権取り崩し国へ転じていきます。

 実は世界最大の対外純資産国というのは、決して誇れることではなく、自国への投資が乏しいため、海外投資や金融資産の移転が生じていた状態。事実それが貿易収支の縮小を招いてきたというのは、異論のないところでしょう。そもそも自国の産業で稼ぐ力を失いつつある国が、海外投資からのリターンすら稼げなくなるのであれば、その国の通貨価値が下がることは、もはや避けられないことなのかもしれません。

 さらに著者が恐れるのは、これまでは主として海外投資や資産移転は、企業が主体であったのに対し今後、国内の預金などに留まっている家計資産が、海外へと移転をしてしまうこと。
「貯得から投資」へが叫ばれて久しいですが、家計資産が日本国内の株式や債券投資に向かう保証はなく、家計資産の海外移転が加速するような事態が起こった場合、更なる円安にシフトしていくことも考えられるのではないかと記しています。

 思えば、どの国でも自国を通貨高へ誘導するのが常識の中、ひたすら円安を指向してきた日本。しかし今や国そのものの構造が変わりつつあり、メリットよりもデメリットを感じる局面が強くなっています。
 果たして現在の為替相場が、日本の実態を反映した妥当なものなのか。行き過ぎた一時の状態なのか。現時点でその判断は困難かと思いますが、本書が明かしている日本の状況は揺るぎない事実であり、今後我々は「安くなる日本」を前提に、その中でどう豊かさを実現するのか、考えてゆかなければならないと著者は指摘しています。

 その上で円高に振れるのであっても、今回著しい円安を経験した我々は、以前の様に過度に円高を忌避することなく、円安、円高の両面から建設的な議論を交わせるようになったのではないかとし、本書を結んでいます。

                                日経BP 2022年9月8日 1刷

2022- 9-18  Vol.483 B1D0FAA9-32FB-44D9-A81B-75BF2E6EC9F9

【概要】

 ニトリHD(ホームファニシング)、ツルハHD(ドラッグストア)、アークス(スーパーマーケット)、イオン北海道(総合スーパー)、DCMHD(ホームセンター)、コープさっぽろ(生協)、アインHD(調剤薬局)。
 2020年度国内小売業売上高100位以内に入った北海道発小売チェーンは7社にものぼります。
 ファーストリテイリングやヤマダHDなど、地方発の全国チェーンは珍しくありませんが、これだけの数が並列する地域は全国に類を見ません。

 またこれらのチェーンストアに加え、セブンイレブンすら勝てないと言われるコンビニエンスストア「セイコーマート」を展開するセコマという企業も道内にはあります。

 北海道の総面積は83424平方キロ、人口は522万4614人(2020年国勢調査)、九州と比較した場合、面積は約1.8倍ですが、人口は約4割に留まります。都市間の距離は離れ、間には人の住まない地域も多いため、店舗展開、物流こはコストや手間がかかります。また雇用者報酬も相対的に低いため、消費者の購買力も決して高いものではありませんでした。
 
 そんな決して経営環境には恵まれているとはいえない、この地で、なぜこれほどの小売チェーンが誕生し、発展してきたのか。
 その理由を明かそうというのが本書の目的。長らく北海道新聞の経済記者を務めた著者が記しています。

【構成】

 全6章で構成された本書。1997年北海道拓殖銀行破綻。地域経済への多大な影響が懸念される中、それに反するかのように「北海道現象」と呼ばれた北海道発小売チェーンの台頭が始まります。
 第1章でこの「北海道現象」に触れた後、以降の章では、概ね2社程度を順に取り上げながら、その発展の様子を記しています。最終章では、北海道小売業の未来に触れ総括しています。

【所感】

 新書ながら350ページを超えるボリュームですが、豊富なエピソードに飽きることがありません。
 1997年、北海道拓殖銀行の破綻。2001年、北海道開発庁の廃止。長らく北海道経済を支えた2つのパトロンが消滅し、北海道経済はどうなってしまうのか懸念したという著者。

 拓銀や公共事業への依存度が高かった老舗企業が破綻する一方で、ニトリ、ツルハ、ラルズ(現アークス)、マイカル北海道(イオン北海道)、ホーマック(現DCMHD)といった企業の台頭が始まります。

 共通するのは、経営コンサルタント渥美俊一の提唱した「チェーンストア理論」の徹底した実践。
 商品の販売回転日数と仕入先への支払勘定支払回転日数差を利用した「回転差資金」の活用により銀行融資に頼らない資金調達を図る。多店舗展開による販売ボリューム増により、メーカーへの交渉力を高める。主事業への集中と徹底した商品管理を図る。

 基本原則を守り通す一方で、北海道固有の現象が起こっている点も興味深いところでした。
 本州からの距離。また道内の広大さもあり、多くの協力業者を傘下に抱えることが難しいため、物流や商品開発など、自ずと自社グループ内に抱える事業が多いこと。
 結果として、自社開発製品を道外へ販売していくことで、事業を拡大していく企業がある一方。スーパーマーケットなど道内に基盤を置かざるを得ない業態では、寡占化が進み主要3社で、市場の8割を占めているそうです。
 これら総じた特徴に加え、個社ごとの戦略が合いまって「北海道モデル」とでもいうべき事業モデルが構築されています。
 
 これは北海道という地域ゆえの成功事例。そう読まれる方も多いかもしれませんが、果たしてそうでしょうか。少子高齢化と過疎化は、日本全国で進展し、「買物難民」などという言葉も生まれています。
 広大な面積に比し、各地域人口の少ない北海道では、以前からこの問題に直面しており、本書で紹介されている企業も、過疎地でも成り立つ出店形態や、独自の物流網を使った宅配の仕組みなどを構築しています。
 特に昨今のコロナウィルス感染症による外出自粛下では、結果、宅配モデルの有益性を知らしめることとなっており、先行する北海道企業から、学ぶ点は多いのかもしれませんね.

  ニトリHDやセコマなどは、経済誌や経済ニュースなどで目にし、その出自が北海道にあることは、よく知られるところと思いますが、あまり知られることのない、それ以外の「北海道企業」や、そもそもの「北海道経済」につき、広く教示してくれる本書。新書価格ということもありますが、満足度の高い1冊でした。

                             講談社 2022年8月17日 第1刷発行

2022- 9-11  Vol.482 ACF815B8-545F-48F3-B234-1773081DECDD

【概要】

 我々が日常的に耳にする「決済」という言葉。実のところ「決済」とは、どういうことなのでしょうか。

 法律上の定義は「負債を免除する方法」となるそうですが、端的に言えば、「当事者から当事者へとお金が移動する行為」。
 我々が日常的に行う、物やサービスの提供を受けた対価として、金銭などを支払う行為が「決済」ということになります。

 一般的な「決済」手段と言えば、現金ということになりますが、それ以外にも、小切手やクレジットカード、プリペイドカード、電子マネーなど、現在では多種多様な方法が存在しています。

 それゆえ、今や「決済」は水や電気・エネルギーと同じくくらい重要なものとなっており、「決済」が円滑に機能しなければ、金融市場も商取引も雇用も、全てが危ういものになってしまうことは、想像に難くありません。

 ありふれた日常行為でありながら、極めて重要な「決済」。分かっているようで、実はあまり分かっていない「決済」についての見識を深めようというのが、本書の目的です。
 著者は、ロシア・ウクライナ戦争で、経済制裁の一環として注目を浴びたクロスボーダー決済ネットワーク、SWIFTの元CEOと、元コーポレート・アフェアーズ責任者の両名。幅広い観点から「決済」についての知見を公開しています。

【構成】

 全7部で30章で構成されています。「決済」の定義について記した後に、歴史、地理、経済、テクノロジー、政治と規制といった章立てで展開されています。

【所感】

 今や世の中には、様々な「決済」の形態がありますが、どんな形態の「決済」であっても、「リスク」「流動性」「慣習」の3つの課題にうまく対処出来なければならないとしています。

 長らく決済の主役は現金と銀行でしたが、その後はカード会社やクレジット会社が台頭。そして現在、ペイパルやアップルペイなどのモバイルウォレットが、徐々にその存在感を高めています。
 そんな変遷を辿りつつ、今や「決済」には、先ほど挙げた3つの課題に加え、テクノロジーとネットワークへの対処が不可欠なものになっていることが説かれています。

 元々「決済」の主役は長らく銀行であったところへ、様々な企業が参入し、今なお、それは引きを切りません。今や「決済」は、単にお金の移動に留まらず、そこに付随した様々な「情報」が新たな価値を生み出し、ビジネスの機会を広げていること。
テクノロジーの進化によって、投資コストなど参入障壁が低くなっていることも新規参入を引き付けてやまないのかもしれません。
 
 さて本書では、現金に始まる「決済」の歴史から、それを支える技術の変遷。「決済」が収益を生む仕組みを解説する一方で、最近の犯罪事情についても明かしています。また経済のグローバル化に伴い「決済」もグローバル化けする中で生じる新たな課題と、それに対する規則や政府の規制の実態などが記されています。

 なるほど表題に「教養」と銘打つだけあって、「決済」に関する実に幅広い範囲の内容を扱っており、興味が尽きることはありません。

 
現金に限らない多様な決済方法の登場で、利便性を享受している我々ですが、自身の「決済」情報など個人情報は、果たしてどこまで補足されているのか、またどう保護されているのか。また何らかの事情で、この決済システムから我々が締め出されてしまった場合、被るであろう甚大な影響など、本書を通じ様々な思いがよぎります。

 万が一のことを考えると、利便性では、はるかに他の「決済」手段より劣る現金ですが、実はその最大の価値は「匿名性」にあるのかもしれません。とはいえ「決済」とは相手があって成立する関係であり、所詮われわれの様な個人が、どのような選択はしようとも、大きく変遷する「決済」の流れに抗うことは出来ないのかもしれません。

 著者たちも今後我々の「決済」がどうなっていくのか、その行方は実のところ誰にも、分からないと記していますが、それでも、これまでの様に相反する二つの力が衝突しながら、新たな局面を迎えていくことは想像に難くないとしています。
 たとえどのような未来を迎えようとも、我々が「決済」から解放されることはありません。ゆえに本書で扱うような「決済」への見識をもち対峙するか否か、その差は大きいのではないでしょうか。


                             東洋経済新報社 2022年9月8日発行

2022- 9- 4  Vol.4814CEC7D20-D57E-45D3-9830-B20E4A702076
 
【概要】

 少子高齢化により生産年齢人口が減少する中、高年齢者の労働参加に対する社会的期待は年々高まっています。

 事実、総務省の「国勢調査」によれば、2020年における70歳男性の就業率は45.7%に達しており、女性の就業率もこの10年で大きく上昇しているそうです。

 60歳を定年としている日本企業が大半かと思いますが、年金受給年齢の引き上げもあり、定年後も働き続けることは、もはや「当たり前」となりつつあります。
 その一方で、なかなか見えてこないのが、「定年後の働き方のリアル」。

 はたして世の中の定年後の就労者たちは、どのような仕事をして、どのような働き方をしているのか、そんな実態を明らかにしようというのが本書の目的です。
 著者は、リクルートワークス研究所で研究員・アナリストを務める坂本貴志氏。主として政府統計(概ね2019年)の引用を中心に構成されています。

【構成】

 全3部で構成されています。第1部では諸データを紐解き、定年後の仕事の実態を「15の真実」として整理しています。第2部では、高年齢者7名(仮名)に対し行ったインタビューを掲載し、第3部では、1部2部を総括し、個人が社会が、定年後の働き方にどう向かい合っていけばよいのか、いくつか提言を行い本書を総括しています。

【所感】
 
 国税庁の「民間給与実態統計調査」や総務省の「家計調査」の分析などから見えてくる「定年後のリアル」。
「年収は平均300万円以下」「生活費は月30万円弱まで低下」「純貯蓄の中央値は1500万円」「多数を占める非正規とフリーランス」「デスクワークから現場仕事へ」など、15の分析結果が並びます。

 データ解析のみならず、インタビューも興味深く、
異なるバックグラウンドをもつ、男性6名女性1名(64歳~78歳、現在の年収120万円~400万円)が語る、現在の働き方に辿り着いた経緯や心情が、より分析結果のリアルさを増しているように感じました。
 統計も、概ね6割の方が定年後の働き方、生き方に満足しているとの結果が出ていますが、7名の回答も概ね同様でした。
 もっともこういった類のインタビューは、そういった方しか回答をしないケースが多いので割り引いて考える必要がありますが、それでも定年後の働き方や生き方に漠然とした不安を覚えている方には、ホッとする内容ではないかと感じています。

 本書を通じ、個人的に強く印象に残ったことが2点あります。

 1つは、50代で人の就労観は一変するとの指摘。現役世代の仕事への価値観は、やはり収入や栄誉が圧倒的に高いものの、年々それは低下し続けます。そして自身の収入や出世が頭打ちとなる50歳代が、ほぼ底となります。そこで問われるのは「なぜ働くのか」との自問。

 多かれ少なかれ、競争とは無縁ではいられない状況から解放された後、どこに何に価値観を見出せばよいのか、今後どういう働き方をしていけばよいのか。その課題に真摯に向き合ことが肝要と説きます。

 もう1つは「小さな仕事」が社会を救うとの指摘。
 働く価値観の変更を迫られ、多くの方は地域や他者への貢献へと、その意識を変えることが多いそうです。決して高い収入は得られないかもしれませんが、世の中には、人々に必要とされる、実に様々な仕事があり、定年後、そういった仕事への就労者が増えることは、社会的にも大変意義があることだと、著者は指摘をしています。
 事実、生産年齢人口が減少しつつある日本では、すでにその流れは無視できないものになりつつあるそうです。

 定年後には、現役世代ほどの働き方は出来ないかもしれませんが、決して過去の労働経験に囚われることなく、可能な範囲で就労し、経済活動を支えていくこと。願わくばその状況に本人も納得し、やりがいを見出し就労をすること。また行政はそのような状況を勘案した制度設計を行い、効果的な支援を行うことが求められているように感じました。

 新書で手軽ながら、示唆に満ちた本書。定年世代のみならず、現役世代にも是非手に取ってほしい1冊でした。

                            講談社 2022年8月20日 第一刷発行 

このページのトップヘ