名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2023年01月

2023- 1-29  Vol.502638D7456-5ED2-4130-9CFB-9DAA166CBCB4

【概要】

 「スケール」とは本来
「規模」「目盛り」「尺度」という意味ですが、近年は「スケールする」と動詞化され、物事やプロジェクトの規模を拡大するという意味で使われることが多いようですね。 
 
 元
々はベンチャー企業やスタートアップ企業界隈で使われていたものが、一般的な用語として認知されはじめているようです。

 本書で著者は「スケール」とは、単に
ベンチャー企業やスタートアップ企業が、成長するプロセスを指すことではなく、学校や社会生活の場などで生じた優れたアイデアが、生徒や市民などの少人数のグループ内で埋もれることなく、大規模なグループに拡大し、望ましい成果を上げることも指すのだと説きます。
 しかし大半の「アイデア」は大きく成長することなく、失敗に終わります。成功するアイデアと失敗するアイデアの違いは、どこにあるのでしょうか。どうすれば、その成功確率を高めることが出来るのでしょうか。
 行動経済学を紐解きつつ「スケールする」ことを科学的に明かそうとするのが本書。シカゴ大学経済学部教授、ジョン・A・リスト氏の手によります。

【構成】

 全2部、9章から構成されています。第1部では、そもそもその「アイデア」が「スケール化」するに相応しいかを確認するチェックリストを5章に渡り紹介。
 第2部では、選択した「アイデア」の成功確率を高める施策を4章に渡り紹介する構成となっています。

【所感】

 成功確率を高めるには、その「アイデア」が
「スケールすべき」筋のいいものかどうかを見極めなければなりません。そこで著者は「スケール」可否の定義づけが大切とし、5つのバイタル・サイン(重要な兆候)を紹介しています。
 それは
 ①偽陽性(思い込み) ②過大評価 ③状況認識 ④スピルオーバー(漏出)⑤コスト の5点。
 世の中には、
次から次へと我々の関心を惹く「アイデア」が生まれてきますが、自身にとって都合の良い情報だけを鵜呑みにすることなく、5つの視点から、その「アイデア」を吟味することを提唱しています。

 そして見極めた筋のいい「アイデア」を育て、成功確率を高める方法として4つの施策を紹介しています。それは ①インセンティブ ②限界認識 ③撤退時期 ④スケーリング文化の醸成 の4点。
本書内では、具体的な事例を交えつつ、各施策の内容が解説されています。

「スケール(アップ)」出来ない「アイデア」は、それぞれ異なる理由があるが、出来る理由は、驚くほど似通っているとし、
本書で掲げた原理や法則を学習することで、誰でも「スケール(アップ)」は可能なのだと説きます。

 そして企業や組織を成長させるためには、必ずしもスティーブ・ジョブズやイーロン・マスク、ジェフ・ベゾスの様なカリスマ経営者は必要ないとしています。
 なぜなら「誰がやるのか」ではなく「何をやるのか」が大切であり、いかに優れたトップであろうと、筋の悪い「アイデア」では成功は難しく、そこにトップの人格的要素が及ぼす影響はあまりないとの指摘から。
 
 また著者は「スケール」に関する理解は、企業や組織の代表者のみならず、全ての人が、適切な意思決定をする上で有効とも主張をしています。自身が「スケール(アップ)」を先導する機会は少なくとも、他者の「アイデア」に巻き込まれたり、影響を受けることは少なくありません。その関わり方を判断する際の一助となるのがその理由の様ですね。

 さて今回紹介の本書。実は本文内に全く図表類がありません。また原注はあるものの用語解説や監訳者等の解説もないため、正直非常に読みづらさを覚えました。原著の影響が大きいのでしょうが、もう少し系統だった整理や構成が欲しかった1冊でした。

 
                            東洋経済新報社  2023年2月2日発行

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【概要】

 19世紀の社会学者、カール・マルクスの主著として知られる「資本論」 書籍の名称は知っていても、原著は難解であり、実際に読んだという経験をお持ちの方は、決して多くはないことと思います。

 実は
ここ数年、この「資本論」が、再注目されています。

 コロナウィルス感染症で露わになった社会格差の深刻さ。賃金の上がらぬ状況下で、高騰する一方の諸物価。21世紀もはや四半世紀を過ぎながら、我々の生活は豊かになるどころか、逆に苦しくなっているようにすら感じます。

 我々に、自由と豊かさを与えてくれるはずだった「資本主義」。どうもその雲行きが怪しくなるなか、かつてその矛盾を指摘した「資本論」やカール・マルクスを好意的に受け止める、若い世代が世界的に増えていることが、その背景にはあるようです。

 ソ連や東欧諸国など社会主義国の崩壊もあり、カール・マルクスの思想は、もはや時代遅れとの印象もありますが、彼が描いた社会ビジョンから学べることは、現代にあっても決して少なくないと著者は説きます。とはいえ全3巻から構成される「資本論」を読み解くのは非常に困難。そこで前知識がなくても読める入門書を目し記されたのが本書。「資本論」の解釈に新たな視点を持ち込んだとされる経済思想家、斎藤の手によります。

【構成】

 全6章で構成されています。
第1章から第4章は、「商品」「労働力」といった「資本論」の基礎部分を分かり易く解説。第5章から第6章では、コミュニズム(共産主義)へと深く踏み込み、
カール・マルクスが思い描いた未来社会について考察しています。

【所感】

 本書には底本があります。それは2021年1月にNHKで放送された「100分 de 名著 カール。マルクス『資本論』」同書に5章以降を加筆したのが本書です。

 かつては誰もがアクセスできるコモン(共有財産)であった「富(自然資源など)」が資本によって独占され、貨幣を介した交換の対象、すなわち「商品」になってしまう。
 例えば地域の人が利用していた水飲み場が、突然立ち入り禁止となり、我々がスーパーなどで、ペットボトルの水を買わざるを得ない状況となるのが「商品化」、お金があるなら何でも買えるが、お金がなければ何も買えない。なぜ資本主義は、人にそんな不合理を強いるのか?
 第1章冒頭では「商品」をこのようにかみ砕いて解説をしており、十分な掴みとなっています。
また第2章の「労働」では、「労働」と「労働力」の違いを紐解きつつ、長時間労働が蔓延する仕組みに言及。

 個人的に一番印象に残ったのは、イノベーションについて触れた第3章でした。
人の労働のプロセスは「構想」と「実行」の2つの要素から構成されるそうです。
「構想」とは、ある課題を解決するために知恵を絞っている状態であり、「実行」とはその課題解決のために実際に行動を起こしている状態。マルクスは「構想」を「精神的労働」。「実行」を「に期待的労働」とし、人間の労働はこの両者が統一されたものと定義をしています。

 しかし生産性向上のため、資本家は、分業を進め「構想」と「実行」を分割しようとします。
個々の労働者から「構想」を排し、単純労働へ特化させることで、作業の無駄を無くし管理も容易くなります。しかし「構想」を奪われた労働者は限りなく「無力化」していきます。

 なるほど、人が働くモチベーションを失うメカニズムは、こういうことかと大いに納得した次第です。全編通じ、このような著者の巧みな解説で、非常に腹落ちをした本書。
  入門書ですので、かなり簡略化、意訳されている点も多いことかと思いますが、「資本論」につき本書程度の基礎知識を皆がもつことは、我々がこれからの社会を考える上で極めて有益ではないか。そんな思いを抱いた1冊でした。
 
                            NHK出版 2023年1月10日 第1刷発行

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 10年前に始まった当ブログも、節目の500冊を迎えることが出来ました。これも公開していただける場があること、読んでいただける皆さまがあってのこと。心より感謝いたします。さて節目の今回ご紹介させていただくのは、こんな1冊です。

【概要】

 著者は、ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授。職場の活性化をテーマにコンサルティング活動なども行っています。
 著者の前作「Think CIVILIT「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である」は礼儀正しさこそが、その人の評価を向上させ、職場の雰囲気を改善するとし、無礼な態度はコストも高くつくなどと指摘をした1冊でした。
 
 今回、本書で扱うのは「コミュニティ」や「帰属意識」の重要性。
 著者たちが2万人以上の人々に、仕事の生活の質について行ったアンケートでは、65%の人が職場でコミュニティも感覚を得ていない。他の調査では76%の人が職場のチームメイトとつながりを持つことが困難と答え、40%以上が職場で身体的、精神的な孤立を感じているそうです。

 孤独は仕事のパフォーマンスを下げ、創造性は減退していきますが、逆に職場でコミュニティ意識をもつことが出来ると、人々の仕事への取り組み姿勢は向上し、定着率は向上、また健康増進への寄与も大きいそうです。
 著者は「コミュニティ」とは、互いの幸福に配慮しあう個人の集まりと定義し、
これまでの経験を踏まえ、繫栄する「コミュニティ」を作る6つの方法として、①情報の共有 ②人の解放 ③尊重しあう環境 ④率直さの実践 ⑤意義を与える ⑥メンバーの幸福度を高める を挙げ、順に解説をしながら展開しています。

【構成】

 全2部10章で構成されています。前半の第1部では、前述した6つの方法を個々の章で紹介。後半第2部では、コミュニティに依存するのではなく、自らがコミュニティのリーダーとなるべく、心構えや考え方についての提言をし、行動を促しています。

【所感】

 シカゴ・ブルズ、クリープランド・クリニック、シスコ・システムズ、グーグルX、サウスウェスト航空を始め、数多くの事例が紹介されており、興味深く拝読しました。
 どの事例にも共通するのは、コミュニティの構成員同士(社員)がお互いに、優しさ、思いやり、尊敬の念を抱くこと。多様性を認めること。「ウェルビーイング」の重視。

 非常に幅広い意味で使われることの多い「ウェルビーイング」ですが、ここでは、社員が心身ともに健康で働ける職場環境を整えることと捉えるのがよさそうです。
 これは第1部、第2部、それぞれで独立した章としても取り上げられており、組織としての
「ウェルビーイング」個人としての「ウェルビーイング」双方からアプローチをしており、特に重視している点が印象に残りました。
 
 読み手が、個人レベルで本書の内容を実践するなら、個人向けに記された後半第二部が参考になりそうです。「ウェルビーイング」に加え、自己認識、(身体の)リカバリー、マインドセットが紹介されています。
 他者に優しさや思いやりをもって接したいと思うなら、まずは客観的に自分の感情や思考に気付いてなければならないとのことで、まずは自己認識の重要性を説き、ネガティビティな感情や人に左右されないマインドセットの在り方を説いています。
 より具体的な行動についても、言及されていますが、個人的にあまりテクニック的なことを考えることなく、まずは他者と積極的なコミュニケーションを取る勇気を持つことが肝要ではないかと考えます。そしてそのきっかけは、ほんの小さな挨拶程度のことで十分かと。さりげなく声をかける。何かしてもらえれば、お礼を伝える。難しく考えず、まずはそんなことから始めてみませんか。


                               2023年1月10日 第1版第1刷発行

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【概要】

 辛口評論家として知られる佐高信氏が、主として上場企業や、その経営者について論じた1冊。

 たとえどんなに表層を繕ったとしても、その企業のもつ体質(DNA)は、そう簡単に変わるものではなく、時にその異質さや異常さが、顔を覗かせることがあります。

 その企業と何らかの関わりを持とうとする場合、特にその企業へ入社
を希望するような就活生であれば、十分そういった点を理解し判断をしなければなりません。とはいえ、なかなかそういった情報を拾うことは難しく、またその真偽のほども定かではありません。
 
 ならばその一助となろうというのが本書。佐高氏自身のインタビューや講演経験。過去の報道記事などを引き合いにしながら、80社ほどの企業について論じています。

【構成】

 全8章で構成されています。製造業、インフラ系企業、金融系企業など7業種に章立てされており、製造業のみ、リーダーの資質、会社の品格と2章に分けて掲載されています。掲載企業1社につき2ページ~3ページのボリュームとなっており、読みやすい体裁となっています。

【所感】

 佐高氏が本書冒頭で「会社を選ぶのに必要なのは、負の情報」と綴っているだけに、全般的な論調は企業や経営者への叱責。特に過去に社会問題とも言える事件を起こした企業については、それを風化させてはならじと、より厳しい筆致で記されているように感じます。

 ただ批判ばかりでなく、高い評価をつけている企業もいくつか挙げられていますが、あくまで本書で取り上げた経営者が率いていた時代の話であり、過去はこういった素晴らしい風土をもっていたが、現在もそれは引き継がれているのか? と疑問を呈されている企業も散見します。

 佐高氏が、評価する企業に通じるのは、「企業は公器」と考え一本筋の通った経営を断行した経営者の存在と、その姿勢が企業の体質(DNA)として確実に継承されているか否かという点。
 本書内では、特に明かされていませんが、本書出版元の「日刊現代」のWebサイトでは、佐高氏が特に評価する企業として「城南信用金庫」「久遠チョコレート」「大川原化工機」の3社が挙げられていました。

「あの企業でこんなことがあったんだ。こんな経営者がいたんだ」と就活生のみならず、興味を惹く内容かと思いますが、惜しむらくは、引き合いに出されている企業や事例がやや古いことでしょうか。
 また登場する経営者の在任期間や、過去に起こった事件性のあるものについても、時期の記載は、ほぼありません。ネット記事からの加筆訂正による編集のため、内容の分類整理など、正直書籍としてまとまった感はなく、ゴシップ記事の寄せ集め的な印象の強い読後感が残った点は残念でした。

                       日刊現代/講談社 2022年11月25日 第1刷発行

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 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。2023年はこんな一冊からスタートです。

【概要】

 本書タイトルにある「流山」とは千葉県流山市。県北西部に位置し、茨城県や埼玉県に近い同市は、道路や鉄道整備が遅れ、かつては「千葉のチベット」と呼ばれた地域。

 2005年、つくばエキスプレス(TX)が開業し、同市内に複数の駅が設置されたことが同市の転機となります。TX開業時、約15万人程度だった人口は、2021年には20万人を超え、22年には20万人6000人を突破。2016年に総務省が発表した人口同動態調査で、人口増加率が全国の市でトップに躍り出た後、以降6年間に渡りトップの座を守ります。

 少子高齢化が進展し、大半の市町村で人口減少が続く中、人口流入が続く流山市。都心へのアクセスの良さもありますが、何より着目を浴びたのは、「母になるなら流山市。父になるなら流山市。」とのキャッチコピーに代表される「子育て中の共働き世代」への支援策でした。
 本書は、そんな支援策を含め、近年大いに注目を集めた同市の魅力や秘密に迫った一冊。著者は同市に30年在住する経済ジャーナリスト、大西康之氏です。
 
【構成】

 全10章で構成されています。第1章で、同市施策の代名詞とでもいうべき「送迎保育ステーション」について記した後、第2章では、現市長である井崎義治氏にスポットを当てるなど、全10章のうち、半分以上の章で、個人名が章のタイトルに付されており、人にスポットを当てた編集となっています。

【所感】

 所定の時間までに駅前にある送迎保育ステーションに子供を送り届ければ、市内のどの保育所でも送迎をしてくれ、流山市民なら利用料は1日100円。1ケ月の上限は2000円。17時までに送迎保育ステーションに戻ってきた園児たちを、親たちは18時までに迎えに行けばよく、難しければ20時までの延長も可。そんな送迎保育ステーションのある駅から、東京は秋葉原まで、快速で20分程度。それなら都心で働く、子育て世代の方なら、みな関心を持ちますよね。
 そんな同市の概要は、同市のサイトに詳しいので、そちらをご覧いただきたいと思いますが ttps://www.city.nagareyama.chiba.jp/appeal/1003866.html  
 前述した子育て支援以外にも「都心から一番近い森のまち」を標榜する他、市民の積極的な行政への関与を歓迎するなど、独自の取り組みがよく分かります。

 同市を大きく変えるきっかけとなったのが、現市長である
井崎義治氏の存在。米国で都市計画コンサルタントとして働くも、奥様の希望で帰国。流山市でマンションを購入したことをきっかけに移住。同市に乞われ、同市開発へ助言をするなか、いつしか自身が市長へ。市内のマンション住まいゆえ「仮市民」と揶揄され、現職の厚い壁に阻まれるも、3度目の挑戦をした2003年に当選。

 早速、流山市をSWOT分析を行い、まずは同市の知名度向上を上げることに専念。2004年には「マーケティング課」を設立。民間の方を課長に迎えるなど、市民参画の先鞭をつけます。民間出身で、海外での居住経験もある
井崎氏ゆえ、先入観に囚われない市政が功を奏してきたように思います。

 著者は本書を通じ、流山市の施策そのものよりも、意図的に施策に関わった人にスポットを当てようとしているように感じます。それは流山市の成功は「元々都心に近く、鉄道整備があったから」というインフラ整備のみにあるのではなく、あくまで施策に関わった多くの人がいたからと考えているからではないでしょうか。
 同市の施策の一部は、実はどんな市町村でも取り組めるものであり、要は「やるかやらないか」だけの違い。流山市を変えたのは「やりたい人」たちが集まったこと。やりたいことを許容する状況が整えられていったから。
 市政は面白いと感じ、関わってみたいと思う人や地域が増えることで、流山市の様な事例はもっと増え、社会はよりよくなる筈。そんな著者の思いを感じた一冊でした。

 
                               新潮社 2022年12月20日 発行


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